拒食症(神経性無食欲症・神経性食思不振症・思春期やせ症)とは?

摂食障害

はじめに
人は誰でも、食べ過ぎや食欲不振などの経験をするものです。たとえば対人関係や物事がうまくいかないときなどに、食欲がなくなったり、ストレス解消とばかりに食べ過ぎたりといったことを経験したことがある方は多いのではないでしょうか? 

このような食行動の異常が過度になり、慢性的な状況になったものを摂食障害と言い、その一つに、極端に体重が減少し、命の危険すらあるにも関わらず食べることを拒むといった症状があらわれる拒食症があります。

ここではそのような拒食症について、症状や原因、治療方法などを中心にまとめています。



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1. 拒食症とは?
(1) 拒食症とは

「図-拒食症とは」
拒食症とは

① 拒食症とは?

1) 拒食症の特徴
拒食症は、神経性無食欲症、神経性食思不振症、思春期やせ症などに分類されますが、いずれも体重が増加することや体型に強いこだわりが認められ、体重が増加することを防ぐための食事量の制限、嘔吐や下剤の乱用といった行動がみられる摂食障害の一つです。

摂食障害という病名からもわかるとおり、体重や食行動に関する症状が目立ちます。そのため食行動異常の疾患と思われがちですが、その背後に表面上は見えない心理的な問題が隠されていると考えられています。

2) 生命の危険すらある
拒食症は、単なる食欲不振やダイエットの失敗というようなものではありません。放置すると低栄養状態の進行に伴う腎不全や低血糖、電解質異常に伴う不整脈、結核といった感染症など、重度の合併症を起こしやすくなり、命の危険すらある非常に深刻な疾患です。

また、アルコールや薬物依存、抑うつなどの気分障害、人格障害など、他の精神疾患も合併しやすく、自傷行為などの衝動的な行動が多くなることがわかっています。実際、拒食症のある方の死亡率は6~20%にのぼるとされ、その率は他の精神疾患よりも高いものとなっています。

② 小学生にも見られる拒食症

最近では小学生にもダイエットが一般的になっており、母親と一緒に、あるいは友だちと競ってダイエットしているケースも少なくないようです。このため、拒食症にまで至っているにも関わらず、それに気づかないという場合も多いようです。

拒食症を含む摂食障害は、ご本人が自ら体調不良を訴えることはほとんどないと言われているため、極端に食べなくなったり、明らかにやせてきたりというような場合、周囲が拒食症を疑うことも非常に重要と言えます。

③ 標準体重の80%以下なら拒食症の可能性

拒食症の診断においては、標準体重がその目安として用いられます。日本の場合、標準体重の算出方法は、国際的に用いられるBMI法、主に学童期の子どもに用いられるローレル指数による方法など、複数の方法があります。厚労省が推奨している日本人の体型を考慮した平田法では、標準体重は以下の表のように求められます。

平田法 標準体重

標準体重の75%以下の場合、成長期には成長障害が生じ、成人では骨粗しょう症が悪化することが示されています。

また、標準体重の55%以下では意識障害や運動障害の発生頻度が40%に、標準体重の50%未満にまでなると意識障害は60%にまで高まり生命に危険が及ぶ可能性が出てくるために入院治療が検討されるほどになります。

いずれにしても、標準体重の80%未満の場合、拒食症の可能性があるという点は覚えておくとよいのではないでしょうか。

(2) 拒食症の原因

「図-拒食症の原因」
拒食症の原因

拒食症を含む摂食障害の原因は、明らかにはなっていません。ただ、以下のような複数の要因が複雑に関与していると考えられています。

① 脳・遺伝などを含む生物学的な要因

はじめに考えられるのは、脳や遺伝などを含む生物学的な要因です。

たとえば同一の家族内に摂食障害への感受性が高い遺伝子を持った方がいらっしゃる場合、その遺伝子により摂食障害を引き起こす可能性があると考えられています。ただし、その遺伝子を持つ方がみな摂食障害になるわけではないことも明らかになっている点は注意が必要です。

なお、遺伝的要因についての研究からは、拒食症と過食症とはそれぞれの独立した異なる遺伝子が影響していると考えられているものの、まったく異なった病気ではないとも考えられています。つまり、過食症遺伝子により拒食症を引き起こす(またはその逆)可能性があるということが示唆されています。

【関連記事】
過食症(神経性過食症・神経性大食症、過食性障害)とは?
https://jlsa-net.jp/ssk-sgs/kasyokusyo/

生物学的な要因としては遺伝的なもののほかにも、食欲や抑うつ、不安や衝動性に関係があるセロトニン系と呼ばれる脳の機能異常など、脳機能の要因もあるのではないかと考えられています。いずれにしても、脳・遺伝などの生物学的な要因は拒食症の一つの要因にしかならないという点は正しく理解しておくことが重要でしょう。

② 心理的要因

これまでは、否定的あるいは低い自己評価と、秩序やルールに強いこだわりを見せる強迫性パーソナリティ傾向、完璧主義的傾向が拒食症の要因として考えられてきていました。一方で、拒食症を含む摂食障害を発症した結果として、そのような傾向が見られるようになることを示唆する研究報告もあります。

つまり、どちらが鶏で卵なのか、因果関係が明確ではない面があることもわかりつつあるということです。

とはいえ、拒食症に見られる異常行動があらわれるには、背景に「太りたくない、痩せたい」という体重・体型への極端なこだわりや、「自分は太っている、だから自分には価値がない」というような思い込みといった心理的な背景が影響していることは間違いないと考えられています。

③ 社会・文化要因

心理的要因で示したような体重・体型への極端なこだわりの背景には、痩せていることを褒め、肥満を蔑視するような風潮の影響も考えられます。ダイエットに関わるような広告は巷にあふれていますし、モデルとなっている方々もやせ型の方が多いという事実は否定できません。

このようなものが拒食症を誘発している部分があると考えられるということです。

④ 家族関係の要因

保護者の方の不和、接触頻度低さ、高い期待などのほか、家族の方のダイエット、家族を含む周囲の方からの食事や体重・体型に関する否定的な言葉も、拒食症の発症に影響を与えている可能性があると考えられています。これらが、心理的要因で示したような「自分は太っているから価値がない」という思い込みと結びついてしまっている可能性があるのです。

(3) 患者数

1998年に実施された医療施設を対象にした調査によれば、拒食症の患者数は12,500人と推定されています。つまり、1万人あたり1人が拒食症だと推定されるということです。

1990年代の後半5年間だけで4倍に急増していること、医療機関で受診されていない方がいらっしゃることなどを含めて考えると、さらに多くの方が拒食症である可能性があります。この調査からは、年齢層別では、10代の方が多いこと、また、男女比は1:20となっています。

ただし欧米の研究では、女性で0.9~2.2%、男性で0.2~0.3%であることもわかっていること、また、若いころに発症し治らないまま中高年になってしまう場合も少なくないと考えられるため、決して女性だけに見られるものでもなく、若い世代だけにあらわれるものでもないと言えるでしょう。

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルスホームページ
摂食障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_eat.html
摂食障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_eat.html

京都府精神保健福祉総合センター 心の健康のためのサービスガイド
〈摂食障害〉 摂食障害とはどんな病気?
http://www.pref.kyoto.jp/health/health/health05_b.html

慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
摂食障害
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000583.html

脳科学辞典
摂食障害
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/摂食障害

2. こんな症状が見られたら
(1) 拒食症の主な症状

拒食症に見られる主な症状は、次のように整理することができます。
拒食症の主な症状

(2) 拒食症のサイン

上記で見たような症状が見られることから、拒食症を含む摂食障害は、さまざまな兆候、つまりサインが見られます。特に典型的なサインには次の4つの視点があり、周囲から観察できるものも多くあります。

① 体重

1) 急激な体重の減少
2) 体重が減少しているにも関わらず、「太っている」といった言動が見られる
3) 体型を隠すために、サイズの合わない大きな服を着る
4) 1日の内に体重を何度も測る など

② 食事

1) 食べる量が減る、食べ残しをする、食べない
2) カロリーの低い野菜や海藻などを中心に食べる一方で、ごはん・揚げ物・肉類などを食べない
3) 買い物時にカロリーなどの成分表示を気にする など

③ 排出行動

1) 食事の直後にトイレに行く、トイレに行く頻度が多い
2) 頬やあごの周辺が腫れている(嘔吐をくり返すことによる唾液腺の腫れ)
3) 虫歯、歯に変形や変色が見られる など

④ 過活動

1) 動き続ける
2) 悪天候や体調不良などでも厳密な運動メニューを組み、それに取り組む

そのほかにも、いつもイライラしているような様子、気分の浮き沈みの激しさ、集中していないような状況が続く、生理不順や生理が止まるなどが観察できると言えます。

(3) 診断基準

次の状況を満たし、またその状態が3カ月以上続いている、拒食症と診断されます。

① 必要量と比べてカロリー摂取を制限し、標準体重を下回る体重であること
② 標準体重を下回っているのに、体重増加や肥満に対する強い恐怖感があるか、体重を増やすことを避けようとする持続的な自己誘発型の嘔吐・下剤利用などの行動があること
③ 体重や体型に対する悪影響や、その深刻さに対して認識ができないこと

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルスホームページ
摂食障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_eat.html
摂食障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_eat.html
慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
摂食障害
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000583.html

精神保健等国庫補助金「摂食障害治療支援センター設置運営事業」
摂食障害情報ポータルサイト
http://www.edportal.jp/

3. 拒食症と診断されたら
(1) 拒食症の治療で目指すこと

「図-拒食症の治療で目指すこと」
拒食症の治療で目指すこと

拒食症の治療で目指すのは、基本的には「規則的な食事」と「正常な空腹感・満腹感を得ること」です。ただ、拒食症を含む摂食障害を患うと、治療によって体重が増えることを極端に恐れるため、治療に納得されないケースも多いことがわかっています。

また、すでに見ているように、その背後に「体重が増えることへの自己否定」といった心理的な要因もあることが考えられます。そのため、ご本人やご家族の方と医療スタッフとの間で「一緒に治していく、一緒に治していこう」という信頼関係づくりが非常に重要になると言えます。

(2) 拒食症の治療方法

① 特効薬はない

急性期の精神症状に抗精神病薬が使用される場合があるなど、状況により薬物が利用される場合はあるものの、拒食症を根本的に改善する薬物療法は少なくとも現在の医学では開発されていません。

② 基本は外来治療、入院治療は緊急措置的、強引な治療による逆効果にも注意が必要

薬物による治療方法が確立されていないため、治療は外来治療、入院治療が取られることになります。ただ、いずれの場合でも強引に栄養摂取を進めると逆効果が出てくることも多いとされています。

拒食症のある方は、食事にまつわる強力な不安をお持ちであると考えられますので、その不安に共感しながら、体重増加による利点を自覚できるよう支援することが重要と言えます。

1) 外来治療
拒食症治療の基本は外来治療です。拒食症の場合、低体重の状態にあると考えられますので、朝・昼・晩の3食を規則的な時間に摂ることが最初の目標となります。少量から少しずつ段階的に増量していく方法がここでの治療の原則になります。

特に規則的な食事が始まると、その量がわずかでも急に水分が体内に貯まる状態になるため、体重がkg単位で増加することが珍しくないようです。

そのまま規則的な食事を続けると水分も抜け、体重は少し下がり、再度緩やかな体重の増加が見られるようになることもわかっているので、この初期段階で食べることをやめないよう、ご家族の方の支援が欠かせないと言えます。

また、正常な空腹感・満腹感を感じられるようになるために、1回の食事の時間を30分以内に終わらせる習慣を身につけていくことも重要とされています。長い時間かけて食べる方法は、この空腹感や満腹感を得られにくいだけでなく、食事全体の量が増えていかないからです。

なお治療においては、食事摂取という栄養療法と併せて、認知行動療法が行われることが一般的です。認知行動療法とは、食事摂取に関する不安の原因となっていることに対する「認知の歪み」と言われる「もののとらえ方・見方」を、変えていくことを目的に行われる治療方法です。

2) 入院治療
入院治療は、著しい、あるいは急激な体重減少がある場合、外来治療でも体重が増加しない場合、嘔吐や下剤の乱用といった不適切行動が続いている場合、他の身体・精神の疾患を合併している場合などに、緊急措置的に実施されるのが一般的です。

(3) 経過(予後・治りやすさ)

拒食症の場合、軽度で一過性のものもあれば、非常に重く長期間に渡っているものもあることがわかっています。初診後4~10年を経過した方では、半数が全快、1割が部分的に回復する一方で、4割弱が慢性化し、7%が死に至っているとの調査結果があります。

つまり、全快できる病気でありつつ、死に至る可能性もある病気であるということです。よって、拒食症が疑われる場合は、なるべく早期に専門医の診察を受けることが重要になると言えるでしょう。

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルスホームページ
摂食障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_eat.html
摂食障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_eat.html

慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
摂食障害
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000583.html

最後に

拒食症は、適切な対処ができれば全快することがわかっています。一方で、身体活動に必要な栄養分を摂取していないこともあり、重いものになると死に至ることもあります。その死亡率は7%にも及んでいるという点が、この疾患の非常に危険な部分であるという点を、まずは正しく理解することが必要でしょう。

「もしかしたら」と疑われるようなことがあれば、なるべく早く専門医の診察を受けることが重要です。というのも、拒食症を含む摂食障害は、食に関する行動異常であると同時に、その背後に「体重・体型に対する大きな心理的不安」を引き起こす何らかの要因が潜んでいると考えられるからです。

それらは、食事・身体に関すること、考え方や気持ち・感情に関すること、対人関係の大きくは3つに分類できます。栄養を摂れるようになることはもちろん、このような背後に潜む要因にも着目しながら、拒食症のある方の支援を行うことが重要になるということです。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。なお、

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルスホームページ
摂食障害
www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_eat.html
摂食障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_eat.html

京都府精神保健福祉総合センター 心の健康のためのサービスガイド
〈摂食障害〉 摂食障害とはどんな病気?
http://www.pref.kyoto.jp/health/health/health05_b.html

慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト
摂食障害
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000583.html

脳科学辞典
摂食障害
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/摂食障害

精神保健等国庫補助金「摂食障害治療支援センター設置運営事業」
摂食障害情報ポータルサイト
www.edportal.jp/

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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