障害者の方にとってのeスポーツの価値

eスポーツ
発達障害

はじめに
eスポーツをご存知でしょうか? あまりよくはわからないという方もいらっしゃるでしょうし、もしかしたら、「ただゲームをやっているだけだろ!」と、思われている方もいらっしゃるかもしれません。また、「ゲームなんだから、のめり込んでしまったら、大変だ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

障害者の方にとってのeスポーツの価値を考えてみると、ゲームには、個人対個人、チーム対抗戦もあり、そこで得られる知識・スキル(コミュニケーションなど)を通じ、その活用力、応用力へと広がりを見せています。また、障害者と健常者を結び付ける共生社会の実現にも役立っている面もあり、昨今ではリハビリテーションやADHDの治療用ゲームなどへと領域を広げています。

物事にには、表と裏、つまりマイナスに見える面があれば、プラスに見える面があるものです。

では、障害のある方にとってeスポーツには、どのようなプラスの側面があるのでしょう? ここでは、eスポーツとは何かを含め、eスポーツのプラスの側面を中心に見ていきます 。



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1. eスポーツとは?
(1) eスポーツとは?

① eスポーツとは?

セガやコナミ、カプコンなどといった日本の大手ゲームメーカーも加盟している「一般社団法人日本eスポーツ連合」は、eスポーツを次のように定義しています。

「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。
(一般社団法人日本eスポーツ連合より https://jesu.or.jp/contents/about_esports/)

この定義の「広義」という言葉がどこまでかかっているのかなど、読み取りが難しい面があるのですが、あえて要約すると、「個人の楽しみとして広く行われているビデオゲームやコンピューターゲームを、勝敗を決められる対戦としてルール化し、競技として実施できるレベルに引き上げたもの」ととらえることができそうです。

このことは、身体を動かす一般的なスポーツと照らし合わせて考えると、理解しやすい面があるのかもしれません。
一般的なスポーツとeスポーツの共通点

たとえばサッカーというスポーツについて、競技レベルで取り組まれている方もいらっしゃいますが、趣味、娯楽、健康づくり目的で取り組まれている方もいらっしゃるはずです。

すると、サッカーと照らし合わせたとき、前者をeスポーツと呼び、後者はゲームが趣味という表現になるのだろうと考えられます。

一方でサッカーというスポーツの場合、趣味、娯楽、健康づくりの目的でも「(サッカーという)スポーツをしている」と、一般的にはとらえられるのですから、「ビデオゲームやコンピューターゲームをしている」ということについても、「eスポーツをしている」と言えばよいのではないかと、とらえられるのかもしれません。

② eスポーツは、観戦できるもの

eスポーツについてもう1点、忘れてはならないのは、観戦できるという点です。eスポーツは、定義の上からもゲームを利用した対戦です。つまり、対戦が可能なゲームはすべてeスポーツの対象となりえます。

そして、どのような形であれ対戦、試合ですから、サッカーなど一般的なスポーツ観戦とまったく同様のスタイルで、ゲームの試合、つまりeスポーツを観戦するというスタイルが成り立つことになります。

(2) eスポーツの価値

① 米国では奨学金も! 急拡大する世界のeスポーツ市場

日本のeスポーツの市場規模は、「eスポーツ元年」とも呼ばれた2018年に48.3億円、19年には前年比127%の61.2億円となっており、2023年には153億円に到達するとの予想がされています。

また、日本国内のeスポーツファン、つまり、会場で試合を観戦したり、インターネットでの動画配信を視聴したりする人の数は、2018年が383万人、2019年は483万人で、2023年に1,200万人を超えるとのこと。その市場は、急速に拡大していると言えます。

とはいえ世界では、その市場規模は2019年時点で前年比23.3%増の9.57億ドル、日本円にしておよそ1000億円に到達していて、2023年には15.9億ドル、同じく日本円にして1600億円を超える規模になると予想されてます。このように見ると、日本はeスポーツ市場では出遅れているととらえられる面もあります。

実際、韓国の場合、世界初のeスポーツのプロリーグが2000年ごろには立ち上がっており、以降コンテンツ産業の一つとして成長してきています。

中国では2003年にeスポーツが99番目の正式体育種目に指定されており、2022年に開催される予定のアジア競技大会から、正式なメダル種目となることに貢献したと言われています。

アメリカ・ペンシルベニア州ロバート・モリス大学は、同国ではじめてeスポーツのプログラムを提供した大学で、eスポーツの学生アスリートは、授業料の半額免除や学術活動に関する費用のサポートを受けているとのこと。

つまり、アメリカでは、プロのeスポーツ・プレイヤーの育成に、高等教育機関がeスポーツの奨学金を提供し、学生としてeスポーツのアスリートを受け入れている、ということになります。

参考:
厚労省
「地域共生社会」の実現に向けて
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184346.html

一般社団法人日本eスポーツ連合
https://jesu.or.jp/contents/about_esports/

KADOKAWA Game Linkage
世界eスポーツ市場の調査レポート“グローバルeスポーツマーケットレポート2020”が7月31日に発売。
https://www.famitsu.com/news/amp/202007/30203095.php

2019年の日本国内eスポーツ市場規模は60億円超え、今後も大幅に成長。KADOKAWA Game Linkageが国内eスポーツ市場動向を発表
https://www.famitsu.com/news/amp/202002/13192542.php

ダイヤモンドオンライン
「ゲーム大国」日本が世界のeSports市場で遅れをとっているのはなぜか
https://diamond.jp/articles/-/202373?page=3

笹川スポーツ財団
米大学のeスポーツプログラム:ロバート・モリス大学の事例
https://www.ssf.or.jp/ssf_eyes/international/usa/20180605.html


2. 障害者の方にとってのeスポーツの意義
(1) ゲームというものの見方



① 「遊び」は、人間の本質?

「ゲームは遊びだ」との意見に代表されるように、ゲームには批判的な見方も多く、結果としてeスポーツも同様に見られる面があるようです。ただ、「遊び」というものは、「人間の本質」とも言える面があります。

人間の本質については、多くの哲学者がさまざまな論考をしています。たとえば、アダム・スミスは労働に、サルトルは自由に、ラカンは欲望に、カントは倫理に、それぞれ人間の本質を見出そうとしています。

そんな数ある論考の中で、ホイジンガは、著書「ホモ・ルーデンス」の中で、人間の本質を「遊び」に見出そうとしているのです。

このような人間の本質とも言える可能性のある「遊び」の中で、今、最も注目を集めているものの1つが、市場の拡大スピードや、その規模の面からとらえても「ゲーム」であり「eスポーツ」だ、ということになります。

「eスポーツは、多くの方にとっての、非常に大きな楽しみとなっている。」

② 誰にとっても当たり前に「楽しめる」という価値
eスポーツが多くの方にとっての非常に大きな楽しみとなっているという事実を、「共生社会」という文脈においてとらえると、その大きな可能性を見出すことができます。

共生社会とは、高齢者とそうでない人とが共に生きる社会、あるいは、健常者と障害のある方が共に生きる社会、また、外国籍の方と日本国籍の方とが共に生きる社会というような文脈で使われることが多い言葉であり、考え方です。

このような文脈でとらえると、「誰にとっても楽しめるもの」として、eスポーツには、多くの可能性があると考えられるわけです。

【関連記事】
共生社会で高齢の方やその支援をされている方にとって必要なこと ~他者の尊重・他者への配慮
https://jlsa-net.jp/s-sol/norma-ko/

(2) 「さまざまなジャンルがある!」という価値 ~eスポーツのジャンルと持てる能力の発揮



eスポーツには、大きく7つのジャンルがあるとされています。また、チームで戦うもの、個人で戦うものがあるほか、「シンプルなルールで勝ち負けが決まる」「思考の読み合いや駆け引きを楽しめる」など、ジャンルごとに異なる特徴があります。
eスポーツのジャンル

以下、具体的なジャンルを見ていくとわかるのですが、「プレイするゲームの範囲が幅広い」という特徴があることに気づきます。

「必ずしも瞬時の操作スキルが求められるものばかりではない、駆け引きや戦略的なアプローチで楽しむジャンルがある」といったように。これは、自分の好き嫌いや得意・不得意だけでなく、できること・できないことに合わせて選択できる側面があるということを表してもいます。

つまり、「一人ひとりが持てる能力を発揮できる可能性のあるジャンル」があり、また、それを伸ばしていくことができるという点がeスポーツの特徴であり、その大きな可能性と言える面があるということです。

① MOBA(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・エリア)

1人が1キャラクターを操り、他のプレイヤーと協力して敵陣を攻略するタイプのゲームです。戦略を立てておこなう集団戦や、キャラクター同士でいつ戦いをしかけるかといった駆け引きなどが楽しめるジャンルです。

② RTS(リアル・タイム・ストラテジー)

プレイヤーが指揮官となって命令を出しながら、敵と戦うというタイプのゲームです。キャラクターの戦力や特性などを考慮しながら戦略を組み立てる「頭脳戦」が好きな人に人気があるジャンルです。

③ スポーツ

野球やサッカー、ゴルフなど、身体を動かすスポーツを題材としたタイプのゲームです。勝敗がわかりやすく、観戦も楽しめるといった特徴があると言われています。

④ シューター

銃で撃ち合うシューティングゲームです。

⑤ 対戦型格闘

「体力ゲージが無くなる、またはタイムアップで勝敗が決まる」という、シンプルなルールのゲームです。1対1の対戦のほか、1対大人数での試合が行われることもあります。

⑥ OCG(オンライン・カード・ゲーム)

専用のゲームコントローラーではなく、スマホ・タブレットなどからでもプレイできるタイプのゲームです。

⑦ パズル

操作の正確さや頭の回転の速さが求められるタイプのゲームです。ルールが単純明快で暴力的な表現などもないことから、多くの方が楽しみやすい面があると言われています。

(3) 作業能力の維持・向上としてのeスポーツの効果~「リハビリテーション」としての価値



国立病院機構八雲病院は、筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症といった小児期に発症する神経筋疾患の専門病院でした。老朽化により、その機能を同じく国立病院機構の北海道医療センター等に引き継いでいますが、そこでは、リハビリテーションに「eスポーツ」が取り入れられています。

神経筋疾患系の病気は、時の経過とともに筋力が徐々に落ちていくという特徴があります。その状況に合わせ、ゲームのコントローラーを改造しつつ、ゲームを楽しむ。まさに、持てる力を発揮しながら楽しむことで、結果、リハビリテーションにつなげている取り組みと言えます。

(4) 「観て楽しめる」という価値



 また、既に見たように、eスポーツは競技です。実際、既に多くの大会が開かれており、それは今後さらに拡大すると予想されています。その対戦の様子は、競技会場のみならず、オンラインによる配信などでも観戦することができます。

障害の有無に関わらず、やって楽しめるだけではなく、観て楽しめるのがeスポーツであり、「どこにいても観戦できる、楽しめる」のが、大きな価値の1つとなっています。

(5) 何よりも大切ではないか、と考えられる価値



やって楽しめ、観て楽しめる。そして、リハビリテーションなどにも利用できる。このようなゲームの価値は、デジタルヘルスの世界で活用されつつあります。

たとえば、塩野義製薬が日本と台湾での開発・販売契約を結んだのは、ADHDの治療用ゲーム型アプリです。ゲームが治療法として利用されるようになりつつあるのです。

ただ、これまで見てきた価値以上に大切ではないか、と考えられるのは、言葉の違い・年齢・性別・体格あるいは、障害の有無やその程度に関係なく競い合えること、そして、その特徴から、新たな出会いが生まれる場になることではないかと考えられます。

そこにある世界観は、本来的な意味での「共生社会」の世界観であり、ゲームを通じて、人々がそれぞれ自立し、相互に支え合い、主体的に暮らしていける世界と、とらえられるからです。
eスポーツの価値

もちろん障害の程度によって改造されるコントローラーなどはあるものの、基本的には誰もが対等な立場で競技ができるのがeスポーツというもの。また、その特徴から、必ずしもその場で行われなければならないものばかりではないという側面もあります。

さらに、個人対個人だけでなく、チーム対抗戦もあるわけですから、そこで得られる知識・スキル、その活用力、応用力、といったものは、ゲームそのものに対するものだけに止まるわけではありません。

例えば、主体性、他者への配慮、課題の発見、計画立案、規律やルールを守る態度など、経済産業省が定義する社会人基礎力の育成とその発揮場面という点でも、多くの学びの場にできるとも考えられるのです。

参考:
一般社団法人日本作業療法士協会
eスポーツで、障害者に新しい「参加」のきっかけを
https://www.jaot.or.jp/ot_job/to_live/detail/1/

国際福祉機器展
eスポーツがもたらす共生社会の実現に向けて
https://www.hcr.or.jp/web2020/report/e-sports

ホイジンガ
ホモ・ルーデンス
中公文庫

エレコム株式会社
eスポーツの基礎知識
https://www.elecom.co.jp/pickup/column/esports_column/00001/

塩野義製薬
デジタル治療用アプリ AKL-T01、AKL-T02 の導入に関するAkili 社とのライセンス契約締結について
https://www.shionogi.co.jp/company/news/2019/qdv9fu000001fvp2-att/190307.pdf


最後に

冒頭でも触れたように、「ゲーム」と言うと、マイナスの側面に注目が集まりがちな面があるのかもしれません。ここではeスポーツについて、その特徴をプラスの側面を中心に確認してきましたが、このように見てくると、「ゲームというものの価値」に、改めて気づける部分もあると思います。

また、今回は触れませんでしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の長期化で、外出ができないことによるストレス過多が、大きな社会問題になっています。裏を返せばそれは、「外出ができないなど、人との関りに障害のある方が置かれている状況を、世界中の人々が実感できた機会だ」と、とらえることもできるのではないかと考えられます。それは非常に過酷なものだということです。

そして、その過度なストレスの解消の一役を担っているのがeスポーツだという側面もあります。このようなゲームの、そして、eスポーツのプラスの側面に焦点を当てることが、本当の意味での共生社会の実現には有効と言えるのかもしれません。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
ゲーム依存、WHOが疾患として定義
https://jlsa-net.jp/sei/gaming-disorder/

厚労省
「地域共生社会」の実現に向けて
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184346.html

一般社団法人日本eスポーツ連合
https://jesu.or.jp/contents/about_esports/

一般社団法人日本作業療法士協会
eスポーツで、障害者に新しい「参加」のきっかけを
https://www.jaot.or.jp/ot_job/to_live/detail/1/

国際福祉機器展
eスポーツがもたらす共生社会の実現に向けて https://www.hcr.or.jp/web2020/report/e-sports

笹川スポーツ財団
米大学のeスポーツプログラム:ロバート・モリス大学の事例
https://www.ssf.or.jp/ssf_eyes/international/usa/20180605.html

KADOKAWA Game Linkage
世界eスポーツ市場の調査レポート“グローバルeスポーツマーケットレポート2020”が7月31日に発売。
https://www.famitsu.com/news/amp/202007/30203095.php

2019年の日本国内eスポーツ市場規模は60億円超え、今後も大幅に成長。KADOKAWA Game Linkageが国内eスポーツ市場動向を発表
https://www.famitsu.com/news/amp/202002/13192542.php

ダイヤモンドオンライン
「ゲーム大国」日本が世界のeSports市場で遅れをとっているのはなぜか
https://diamond.jp/articles/-/202373?page=3

ホイジンガ
ホモ・ルーデンス
中公文庫

エレコム株式会社
eスポーツの基礎知識
https://www.elecom.co.jp/pickup/column/esports_column/00001/

塩野義製薬
デジタル治療用アプリ AKL-T01、AKL-T02 の導入に関するAkili 社とのライセンス契約締結について
https://www.shionogi.co.jp/company/news/2019/qdv9fu000001fvp2-att/190307.pdf

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構 代表理事として広報を担当する。現在、株式会社目標管理トレーニングの代表取締役としても活動を行っ...

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