他人をついつい怒らせてしまう・・・その原因はアスペルガー症候群かもしれません

他人を怒らせる
発達障害

はじめに
そんなつもりはまったくないのに、他人を怒らせてしまうことが多いとしたら・・・、もしかするとその原因はアスペルガー症候群にあるかもしれません。

ここでは、アスペルガー症候群にまつわる問題行動の一つ、「他人をつい怒らせてしまうこと」について、なぜ、そんなことを起こしてしまうのか、また、その際の具体的な対応方法などについてまとめています。



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1. 悪気がないのに他人を怒らせてしまう・・・その原因はアスペルガー症候群かもしれません

「図-その困り事の原因はアスペルガー症候群かもしれません」
その困り事の原因はアスペルガー症候群かもしれません

(1) 他人を怒らせてしまう原因は、障害の可能性がある

「悪気がないのに他人を怒らせてしまうことが多い」

怒らせる原因がわかるのならば、何らかの対応のしようがあるものです。しかし、「ナゼ、その方が怒っているのかがわからない」ということでは対応のしようがないのも事実でしょう。

とはいえ、それがあまりに頻発するようであれば、怒らせてしまう方が何らかの問題を抱えている可能性があると考えた方がよいということでもあります。その原因として一つ考えられるのが、アスペルガー症候群という障害の可能性です。

たとえば、以下のようなことがあてはまるようなら、アスペルガー症候群の可能性を考える必要があると言えます。

① 目上の人に、言葉の使い方で不機嫌にさせてしまった
② 先生、目上の人、友だち、年下の人など、相手に合わせたことばづかいができないことで怒らせた
③ 電話での応対で、相手が不機嫌になった
④ 思ったことを口に出したら、相手が怒ってしまった
⑤ どこかに行くなどの誘いを特段の理由もなく断り、その後誘ってもらえなくなってしまった
⑥ 一緒に遊んでいたのに、他に興味が移って抜けだしてしまい、一緒に遊んでいた相手を怒らせた
⑦ 怠けているわけでもないのに、いつも怒られている
⑧ 気になる人の後をついて行ってしまい、「ついてくるな」と怒られた
⑨ 相手のニオイをかいで、そのニオイが我慢できずに「臭い」などと言ってしまい怒らせた

(2) 他にも次のようなことがあてはまるなら・・・

他にも次のようなことが複数あてはまるようなら、アスペルガー症候群であるがために問題を引き起こしている可能性が高くなります。

① 片づけがニガテ、いつも散らかっている
② 何度も同じ間違いをくり返す
③ 何かをやり始めても長続きしない
④ 学校であれば授業の内容、仕事であれば会議の内容などについていけない

【関連記事】
発達障害の1つ、アスペルガー症候群とは?
https://jlsa-net.jp/hattatsu/aspe/

参考:
厚労省
e-ヘルスネット ホームページ
アスペルガー症候群について
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-006.html

国立精神・神経医療研究センター ホームページ
http://www.ncnp.go.jp/

よくわかる大人のアスペルガー、梅永雄二監修、主婦の友社

2. アスペルガー症候群の代表的な特性

「図-アスペルガー症候群の代表的な特性」
アスペルガー症候群の代表的な特性
(1) アスペルガー症候群、その代表的な3つの特性

 アスペルガー症候群は、大きくは次の3つの特性が見られる障害です。つまり、アスペルガー症候群の特性が「他人を怒らせてしまう大元の原因となっている」可能性があるということなのです。

① 社会性(対人関係)の特性

社会で常識とされるようなことや暗黙のルールといったものに無頓着であるという特性です。この特性は、周囲に関係なく自由な発想ができる、孤立してもやり続けられる・やり遂げられる、周囲の感情に惑わされないといった、長所となることでもあります。

一方で、その場の空気や相手の様子などを読むことができない、周囲に配慮しながら行動することができない、あいさつや礼儀をわきまえない、間違っていても謝らないといった行動に結びつきがちです。

そのため、ご自身には全く悪気はないのに、非常識」「自己中心的」と見られやすくなり、他人の怒りをかってしまうことにつながることが多くなります。

ご本人としては、たとえば、「年上の人には敬語を使うこと」、「●時までに△をやる」などのように、「ルールや体的な基準が示されていないのだから自分は悪くない」、「そうは言われなかったのだから、基準を示さない方が悪いのにナゼ怒られるのか」といった感覚があるようです。

② コミュニケーションの特性

自分の興味のあることや頭に浮かぶことを次々話すといった特性です。この特性は、印象に残ったことを率直に話せる独特の言い回しなどが面白い、あることについてとことん話を続けられるといった長所となることです。

しかし、それは、相手に興味があるかないかに関わらず話し続ける、相手の話はまったく聞かず一方通行で話す、相手が話している途中で他のことを始めるといった行動に結びつきがちです。

仲間と一緒に何かをやるといった場面で他人の言うことはまったく聞かなかったり、休憩時間と勉強時間などの切り替えができずに話し続けたりといった問題を起こすことが多くなります。

ご本人は、たとえば、「いろいろと思い浮かぶことをがんばって伝えようとしているだけなのに、ナゼ怒るのか」、「興味がない話なのだから、そちらが伝えたいことがあるなら文字にしろ」といったように感じていることが多いようです。

③ こだわりの強さという特性(想像力の障害)

決められた手順や一度決めたルールなどに徹底してこだわるという特性です。物事に真剣に取り組む、単純作業などを嫌がらずに続けられる、規則正しく生活できる、記憶力が高いなどの長所となってあらわれる面があります。

その反面、突然のスケジュール変更や中止、ルールの変更などを極端に嫌がり、時にパニック状態になったりする場合もあります。これは、次に何が起こるか、どんなことが起きる可能性があるかといった想像力を働かせることがニガテであることが原因です。

また、例外を認めなかったり、他人の誤りを許さなかったりといったことも、同じ特性が原因で現れがちです。

ご本人にとっては、「決められたルールや決まったことをナゼ変更するのかわからない」「変更があったからできないだけなのに、自分が怒られるのは納得がいかない」といった感情に結びつくようです。

(2) アスペルガー症候群、その他の特性

アスペルガー症候群では、他にも手先が不器用、聴覚や触覚などいわゆる五感などの感覚が過敏または鈍感、といった特性が見られる方が少なくない、と言われています。

【関連記事】
ローナ・ウィングの3つ組 ~アスペルガー症候群に見られる代表的な特性と3つのタイプ
https://jlsa-net.jp/hattatsu/wing-aspe/

参考:
厚労省
e-ヘルスネット ホームページ
アスペルガー症候群について
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-006.html
みんなのメンタルヘルス ホームページ
発達障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html

東京都福祉保健局 ホームページ
発達障害
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/hattatsushougai.html

国立精神・神経医療研究センター ホームページ
http://www.ncnp.go.jp/

よくわかる大人のアスペルガー、梅永雄二監修、主婦の友社

3. 他人を怒らせないために・・・その基本的な対策

他人を怒らせることで、最も辛い想いをするのはご本人です。そしてその原因が障害である場合、適切な対応が必要となります。ご本人は努力していても、かえって問題をこじらせる可能性があったり、他の精神障害などを引き起こすことがあったりするからです。

「図-他者を怒らせないために・・・」
アスペルガー、他者を怒らせないために・・・

(1) アスペルガー症候群を根治することはできないから・・・

現代の医学ではアスペルガー症候群を根本的に治療することはできません。薬が処方される場合は、かんしゃくや多動・こだわりなど、個別の症状を軽減することが目的になります。

このため、「どのようにしたら困り事を回避できるか」という視点でのスキルの獲得が重要となります。

困らないための必要なスキルを身につけるには、なるべく幼い時から学ぶ方が望ましいと考えられています。このため、「もしかしたら・・・」ということがあれば、なるべく早く専門機関に相談することをおすすめします。主な専門機関は次のとおりです。

① 専門医:精神科、心療内科など
② 支援機関:発達障害者支援センターなど

(2) 他人を怒らせないための基本的なスキル

 他人を怒らせないための基本的なスキルは、大きく2つに分けることができます。

① 対人スキル

他人と良い関係を築く方法を学ぶという視点です。これには大きく2つの力があると考えられます。一つは人間関係に関する基本的な知識、相手の感情や思考を理解する力、人との関係の中ではさまざまな対立などが生じる可能性があると考えられる力です。

自分も相手も満足できる方法を見つける力と言い変えられるでしょう。

もう一つは、それを実際に行動できるようにする力です。この2つは、知識・基礎力と実践力というとらえ方もできるでしょう。

ただし、このスキルは、アスペルガー症候群をお持ちの方は理解がしにくいと考えられるようになってきています。抽象的、概念的な側面が強いため、具体的な基準を示しにくいからです。

② 生活スキル

もう一つは、対人スキルより実際的なスキルで、生活の中で起きる各場面について、この時はこうするといった決め事・ルールをつくり、そのルールを守る力をつけるという視点です。

たとえば、「誰かに手伝ってもらったらお礼を言う」というように、生活上の場面についてのルールづくりをし、それを実践するということです。「オアシス運動」というあいさつ推進運動も、対人関係における一種のルールととらえることができます。

オ:おはようございます
ア:ありがとうございます
シ:失礼します
ス:すみません

(3) 他人を怒らせる自分の行動やその傾向を理解する

「図-他者を怒らせてしまう、アスペルガー症候群の傾向」
他者を怒らせてしまう、アスペルガー症候群の傾向
他人を怒らせないためには、他人を怒らせてしまう行動を理解することが大切です。アスペルガー症候群をお持ちである場合、次のような傾向が見られます。

この傾向が相手を怒らせているということですので、その傾向に合わせて、ルールを決めたり、基準を決めたりといった具体的な対策をすればよいということになります。

① 言葉を文字通りに受け取る傾向

冗談や慣用句、決まり文句をそのまま受け取る傾向があります。
1) 冗談
例:「昨日は怒ってお家をまるごと壊した」というような誇張表現や比喩の意味がわからなかったり、本気にしてしまったりする

2) 慣用句
例:「あぐらをかくな」というような文字と別の意味を持つ言葉について、意味が分からず、「椅子に座っています」というような反応をして相手を怒らせてしまう

3) 決まり文句
例:「まっすぐ家に帰ってね」というような決まり文句に、「曲がらなきゃ帰れない」というような反応をして相手を怒らせてしまう

② 指示詞や形容詞・副詞、省略した言葉づかいが苦手な傾向

基準が明確でない言葉が理解しにくい傾向があります。
1) これ、それ、あれ、どれ、といった指示詞
例:「これ、やって」というような場合、「これ」が何を指すのか、また、何をすればよいのかわからず、まったく手をつけないために相手を怒らせる

2) すぐに、ちょっと、しっかり、後で、早く、いつもの、といったあいまいな表現
例「すぐにやって」というような場合、「すぐに」がどういうことなのかわからず、いつまでも取りかからず、相手を怒らせる

3) 正しい・きれい・はやい、正しく・きれいに・はやく、などの形容詞や副詞
例:「正しく書いてね」というような場合、「正しく」書くとはどういうことかがわからず、度を超すほど時間をかけて書くなどして、相手を怒らせてしまう

③ 相手の表情や雰囲気などを読み取れない傾向

人の感情や状況は、言葉だけで表されるものではありません。表情や身ぶり手ぶりといった動作なども感情や状況を表しています。

このような情報をキャッチしにくい傾向があります。また、式典や電車の中など、それぞれの場にあった行動や言動があるものですが、これを読み取ることが苦手な傾向があります。

このため、機嫌の悪い相手に自分の好きな話をしたり、場違いに大きな声を出したりなどして相手を怒らせてしまうことがあります。
 
④ 自分のルールにこだわり、そのルールを他人にも押しつける傾向

物事の手順へのこだわり、自分に良いことは他人に良いことというような考え方をする傾向があります。

このため、少しの予定の変更に腹を立て、逆に相手を怒らせてしまったり、自分のルールと合わない行動や態度をする人を一方的に非難して相手を怒らせたりといったことを起こしてしまいがちです。

(4) 相手を怒らせないための具体的な対策の視点

「図-他者を怒らせないための具体的な対策の視点 ~特性を利用する」
他者を怒らせないための具体的な対策の視点 ~特性を利用する
これまで見てきたような傾向や行動への具体的な対策のポイントは、対応のルールや基準を予め決めるということになるでしょう。このポイントを活かすと、たとえば、次のような具体的な対策を考えていくことができるということになります。

① 文字通り受け取るとおかしいと感じる場合は、それを口に出すことを我慢する
② 「申し訳ないのですが、何分以内にやれ、など、具体的に教えてもらえませんか?」など、あいまいだと感じる部分があったときに対応する方法を決める
③ 決まっている場面の行動について、どういった行動がふさわしいか、事前に確認し、対応方法を決めてからその場に臨む
④ 変更があったらどうするか、を事前に決めておく。たとえば、いつも家を出る時間に出られなかったらどうするか、といった対応方法を決めておく
⑤ 自分は自分、他人は他人として、他人がやっていることに口を挟まない、というルールを決める

(5) 周囲の理解を得ることも重要

アスペルガー症候群という障害があることは、その分、生活をする上でさまざまな工夫が必要だということです。一方で、これは、ご自身だけで解決していくような問題でもないでしょうし、それだけでは限界があるのも事実です。

「長所は生かされた短所、短所は生かされなかった長所」というとらえ方があるとおり、アスペルガー症候群であっても、むしろ、アスペルガー症候群であることで力を発揮することもできるのです。

そんな力を十分に発揮するためにも、周囲の理解と協力が得られるようにすることも重要でしょう。「こういうことは苦手」と予め伝える、あるいは、さらに踏み込んで障害があることを伝えるといった方法も一つの対策でもあります。

ただ、一方的に自分の状況だけを伝えるのではなく、その分、それを理解し、支援してくださる方々へ、感謝の気持ちを言葉で、あるいは、目に見える形で伝えることも重要と言えます。

参考:
厚労省
e-ヘルスネット ホームページ
アスペルガー症候群について
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-006.html

国立精神・神経医療研究センター ホームページ
http://www.ncnp.go.jp/

名古屋大学学術機関リポジトリ ホームページ
対人関係能力の向上への手立て、東京学芸大学 相川充 
http://ir.nul.nagoya-u.ac.jpspui/bitstream/2237/2860/1/KJ00000040699.pdf

よくわかる大人のアスペルガー、梅永雄二監修、主婦の友社

最後に

他人を怒らせてしまうことが多いという場合、その原因がアスペルガー症候群にある可能性があります。

アスペルガー症候群は、他人への配慮不足や礼儀をわきまえないといった対人関係の特性、自分の好きなことを一方的に話すというようなコミュニケーションの特性、自分のルールにこだわるなどのこだわりに対する特性などが特徴的な発達障害の一つです。

根本的に治療できるようなものではないため、他人を怒らせないためのスキルを身につけていくことが大切になります。

ルールにこだわるという特性を生かして、「こういうときはこうする」「これはこういう意味(例:「ちょっと」とは5分のこと)」など、対応するルールや基準を作ることなどはその一つの方法です。

ただ、ご自身やご家族の方だけでがんばるにも限界があります。

特性を生かした力を発揮するためにも、場合によっては、周囲の方に配慮を求めることも必要だと言えるでしょう。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省
e-ヘルスネット ホームページ
アスペルガー症候群について

アスペルガー症候群について


みんなのメンタルヘルス ホームページ
発達障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html

東京都福祉保健局 ホームページ
発達障害
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/hattatsushougai.html

国立精神・神経医療研究センター ホームページ
http://www.ncnp.go.jp/

名古屋大学学術機関リポジトリ ホームページ
対人関係能力の向上への手立て、東京学芸大学 相川充 
http://ir.nul.nagoya-u.ac.jpspui/bitstream/2237/2860/1/KJ00000040699.pdf

よくわかる大人のアスペルガー、梅永雄二監修、主婦の友社

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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