「おひとりさま」高齢者の在宅生活を支える民間サービス(日常生活)

高齢者・認知症

はじめに
ひとり暮らし高齢者は、年々増加傾向にあります。家族関係や親戚づきあいの変化などで、老後も子どもや親族に頼らずに暮らす人も増えています。

また、濃密な近所付き合いを避ける傾向や、日本流個人主義の広がりなどによって、地域共同体内での支え合いの機能も弱体化しています。人と人との繋がりが希薄な人たちは、援助が必要な状況にあっても、それが顕在化しない恐れがあり、結果的に社会的孤立にも繋がりかねません。

そこで今回は、頼れる人がいない高齢者が、市場サービスを購入(言うなれば自助)することで、自立した生活を続けることができるか考えてみたいと思います。

高齢者の生活を「日常生活」「トラブル時」「身元保証」「死後事務」の4つに分け、それぞれの場面で有用な『高齢者向け生活支援サービス』を紹介します。今回は「日常生活」です。

市場規模が大きくサービスの種類や事業者が充実している都市部を想定した内容になります。特定の人に限定したものや地域固有のものも存在しますが、ここでは一般的なサービスを紹介します。



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1.ひとり暮らしの高齢者

高齢社会白書(令和2年版)によると、65歳以上のひとり暮らしの者は2015年には593万人でしたが、2025年には751万人、2035年には842万人となる予測をしています。65歳以上人口に占めるひとり暮らしの者の割合は、2015年には男性13.3%、女性21.1%でしたが、2035年には男性19.7%、女性24.3%に増加する見込みです。
65歳以上のひとり暮らしの数

2.頼れる人がいない高齢者

高齢者の経済生活に関する意識調査(*1)では、「病気のときや、一人ではできない日常生活に必要な作業の手伝いなどについて頼れる人の存在の有無」を尋ねています。60 歳以上の回答では、「同居の家族・親族」が77.2%と最も高く、次いで、「別居の家族・親族」38.5%、「近所の人」が12.4%、「友人」が10.5%と続いています。

一方、頼れる人が「いない」と回答した者は60 歳以上全体で2.4%とわずかでしたが、単身世帯は12.3%にのぼっています。
頼れる人の存在の有無

(参考)
*1 内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査結果」(平成23年度)
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h23/sougou/zentai/pdf/2-7.pdf

3.高齢者向け生活支援サービス
(1)家事援助


生活習慣病の発症や加齢などによって体力や気力の衰えが進行し、日常の簡単な家事でも不自由を感じるようになります。また、配偶者と死別するなどで、一度も家事をしてこなかった人が慣れない作業にストレスを感じたり、1人分の食事を作るのが億劫なので簡単に済ませるようになったりします。

生活環境や栄養状態が悪化しているが、それを改善しようという気力を失い、周囲に助けを求めなかったことで「ゴミ屋敷」や「孤立死」にまで至るケースもあります。

家事援助の代表的なサービスは、『家政婦』と『家事代行』です。どちらも掃除、洗濯、料理、買い物、諸手続きの代行など、一般的な家事を専門のスタッフが代わって行うサービスです。両者の大きな違いは、利用者が家政婦(個人)と契約するか、家事代行事業者(法人)と契約するかという点です。
家事代行、家政婦
家政婦を雇うには家政婦紹介所から派遣してもらうケースがほとんどですが、知人などからの紹介で家政婦に直接お願いするパターンもあります。毎回同じ人が来てくれるため、家族のような安心感が得られます。

対応できるサービスの内容や質においては個人差があり、トラブルが生じた場合は個人間で解決することが基本となります。1日中家にいてほしい場合や家事全般を任せたいなら、家政婦が適しています。

家事代行は、一般的な家事経験を持つスタッフが、利用者宅にある道具を借りて掃除や料理を代行するものです。家事代行を専門とする事業者以外にも、清掃会社、警備会社、訪問介護の事業者などが参入しています。

数多くある事業者の中から選ぶことができ、1度だけ(単発)でも利用できる事業者もあります。毎回同じスタッフが担当するわけではなく、また、1度にいくつもの家事を頼むこともできません。頼みたい家事や予算が限られている場合には、家事代行が適しています。

(2)外出同行


高齢になると、病気やケガをしなくても、長時間の歩行や階段の上り下りが辛く感じることや、ちょっとした段差に躓くことが増えてきます。また、運転免許証の返納、トイレの心配、友人知人との交流が減少するなどの様々な要因が重なることで外出頻度が減り、家の中に閉じこもりがちになります。

生活の活動空間が狭小化することで活動性が低下し、落ち込んだ気分(うつ傾向)になる恐れや、筋力が低下することも考えられます。

一般的な外出同行サービスは、買い物や通院などの日常の外出や、映画鑑賞や観劇などの趣味の外出、葬儀や結婚式への参列、墓参りや日帰り旅行などのちょっとした遠出にも付き添います。
外出同行
『家事代行事業者』の多くがこのサービスを提供しており、家事代行サービスを利用していなくても利用できる場合もあります。移動に伴い発生した交通費は、一般的には同行者の分も含めて利用者が負担します。

『介護タクシー』なら、移動と付き添いがセットになっています。介護の資格を有する運転手が、車椅子などのまま乗車できる車両を使用して、外出の準備の手伝い、移動、外出先での介助までを行います。

通院同行の際に診察室に入って、検査や診察、病状説明や服薬指導に立ち会う事業者はありますが、同行者が必ずしも医療知識を有している訳ではありません。病気やケガなどの不安が大きい方には、医療機関などに属していない看護師が通院同行や受診支援などを行う『看護サービス事業者』があります。

「要介護状態だけど旅行に行きたい」といった要望に応える事業者もあります。旅行の企画から宿・交通機関の手配、旅行中の介助のすべてを引き受ける『旅行業の登録を受けている事業者』もあれば、『外出同行事業者』の一部は、宿泊を伴う旅行にも対応しています。

いずれのケースでも、介護や看護の資格を有するスタッフが、旅行中の入浴や排泄などの介助を行います。なお、本人が旅行に行きたいという意思があっても、家族や親族の許可を得るだけでなく、主治医やケアマネジャーなどの許可を得ることも利用者に求めています。

(3)雑事


体力や気力の衰えにより、庭の草むしりや電球交換、家具の移動、ペットの散歩といった日常の雑事や、大掃除、衣替え、冷暖房器具の入替などの季節の雑事までもが面倒に感じるようになってきます。
高齢者のための電球交換
これらは生命の危険に直接的には結び付かないものの、日常の生活に変化や潤いを与える大切なことです。また、専門職に頼みにくい用事でもあります。

本来は自分でする雑事を代わりに引き受けてくれるのが『便利屋』です。時間単価制を採用している事業者が多いので、訪問時間内に様々な業務をまとめて依頼することができます。個人経営者が多いので、急な用事(駆けつけ)や価格交渉など、ムリを聞いてくれる場合もあります。

中には、リフォームやルームクリーニングといった専門的な作業を本業としているところもあります。それぞれに得意不得意はあるので、1度利用してみて良かったら、他にどんな作業ができるかなどを聞いておき、何度か利用してなじみの客になるのが、上手に付き合うコツです。

(4)金銭管理


判断能力の衰えた高齢者にまつわる金銭トラブルは、「金銭管理が正しくできなくなる」「悪徳商法や特殊詐欺に遭う」「お金を盗られたと思い込んでしまう」「特定の人が金銭を管理することで親族などと争いが起きる」などがあげられます。

本人のために適正にお金が使われていたとしても、勘違いや意見の相違などでトラブルが起こることもあります。

預金の払い戻し・解約・預け入れの手続といった日常の生活費の管理は、都道府県・指定都市社会福祉協議会が実施主体(窓口業務等は市町村の社会福祉協議会等)の『日常生活自立支援事業』があります。

通常、口座名義人以外の者がその口座の預貯金を払い戻すことは困難ですが、社協が本事業を行うにあたっては、専門員や生活支援員が、代行または代理で利用者名義の口座から預貯金を払い戻すことが可能です。
専門員による金銭管理
対象者は契約の意思があり、支援内容が理解できる方で、判断能力が十分でない方に絞られています。専門員の体制不足などもあり、利用がすすんでいません。(*2)

判断能力はあっても病気等で身体を自由に動かせない場合や金銭管理に不安がある方には、『任意代理契約(財産管理委任契約)』を結ぶ方法があります。当事者間の合意のみで効力が生じ、代理人を誰にするか、代理権の範囲をどうするかなど、自分で自由に決められます。

弁護士、司法書士、行政書士などの専門職の一部や、身元保証会社などが引き受けています。意思の弱い高齢者などは、一方的な内容の契約を締結させられる恐れがあります。代理権の範囲は、年金などの金銭管理、医療費などの支払いといった日常の財産管理と、身上監護に限定するのが望ましいと思います。
弁護士等による金銭管理
ただし、代理契約を結んでいても、本人の預貯金の代理人として扱ってくれるかどうかは、金融機関によって異なります。

多くの金融機関では、代理人が日常的な普通預金のATM取引を行うことができる『代理人カード』を発行しています。また、認知・判断機能の低下に備えて、将来の金融取引における代理人を指定できる『予約型代理人』サービス(*3)を、大手銀行が開始しました。

ただし、両者とも、代理人の範囲は家族や親族などに限定されています。

預かり金方式により、日常の生活費のお届け、金銭の支払い代行、物品購入などを行う『NPO法人』や『生活支援サービス事業者』などはありますが、極めて少数です。金銭管理の仕組みの維持や現金を取り扱う手間などがかかるため、いずれのサービスも、小回りが利かない上に相応の利用料が発生します。

(参考)
*2 大和総研「認知症を支える日常的な金銭管理のニーズ」(令和2 年 2 月)
https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/human-society/20200225_021339.pdf

*3 株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ「予約代理人サービス導入について」(令和3年3月8日)
https://www.mufg.jp/dam/pressrelease/2021/pdf/news-20210308-001_ja.pdf

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(5)手続きの支援


高齢になっても福祉サービスの利用や入院手続き、賃貸住宅の契約や更新、その他日常生活上のさまざまな場面で契約を結びます。また、高額療養費や高額介護サービス費等の支給に関する申請など、窓口での手続きや郵送による申請が必要な場合もあります。

判断能力が十分にあっても「契約内容が難しい」「文字が小さくて読みにくい」「説明が聞き取りにくい」「手続きが煩雑だ」といったことも感じるでしょう。暮らしやお金にまつわる事柄が多いため、内容を理解しないまま手続きをすすめると、「金銭トラブル」や「住まいを失う」ことにもなり兼ねません。

『日常生活自立支援事業』は、日常の生活費の管理以外にも、福祉サービスの利用やその他日常生活上のさまざまな契約をするときに自分ひとりで判断するには不安がある方を支援するものでもあります。しかしながら、前項で紹介した通り、利用がすすんでいません。

簡単な手続きであれば、『家事援助』や『外出同行』の一環としてお願いすれば、柔軟に対応してくれます。例えば、役所から書類が郵送されてきた場合、家事援助で自宅に来たスタッフに書類の内容や必要な手続きを教えてもらったり、申請書類の作成を手伝ってもらえるでしょう。
簡単な申請代行

お墓を探す場合には、墓地(霊園)の見学から墓地使用申込までを同じスタッフに付き添ってもらうことで、契約手続きも支援してくれるでしょう。

本人の代理で窓口を訪問する場合は、『便利屋』に依頼する方法があります。行列待機や手続きに長時間を要するといった負担が大きいケースには適任です。ただし、金融機関や保険代理店、携帯電話ショップなどでは、親族以外の代理人が取り扱える手続きを限定しているので、訪問する前に確認する必要があります。

まとめ

保険制度にとらわれない市場サービスは、高齢者の幅広いニーズに対応することができ、QOL(生活の質)を向上・維持し、豊かな生活の実現に寄与します。

拡大し続ける高齢者市場に向けて、様々な事業者が数多くのサービスを提供しています。その中から、自分に相応しいものを選ぶことは、高齢者に限らず難しいことかも知れません。

日常生活に関わるサービスは、自分たちの目が届く範囲で活動しており小回りが利く『地域の事業者』を選ぶとよいでしょう。

介護保険サービスを利用している場合は、『ケアチームのメンバーと連携できる事業者』を選ぶことで、支援体制が重層的になり、介護保険サービス自体の効果も高めます。

冷静な判断がしにくい状況での契約は、後々トラブルになる可能性が高いので、ADL(日常生活動作)の著しい低下やトラブルが起きる前から契約し、徐々に利用を増やしていくとよいでしょう。

「金銭管理」と「手続きの支援」の領域においては、判断能力が不十分な人には成年後見制度がありますが、それ以外の人たちが利用できるサービスが十分にあるとは言い難い状況です。そのしわ寄せは、ケアマネジャー、地域包括支援センターの職員、民生委員などにいっているようです。

「キャッシュレス決済」「オンライン申請」が早期普及することを切望します。

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村上功

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社会福祉士。横浜市青葉区で暮らす高齢者に、生活支援サービスから身元保証、死後事務まで総合提供する一般社団法人 ビサイドあおば を設立し代表理事に就任。

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