自然災害への備え 高齢者の方の被害を最小限にするために支援者ができること

社会的課題

はじめに
 2018年7月、西日本で大雨により多くの方が被災されました。「100年に一度の災害」と言われていますが、よくよく見ていくと「100年に一度」と呼ばれるような災害が、毎年のように起きているように思われないでしょうか? 

 このような環境で、被害に遭われる方は増える一方。その度に災害対策が叫ばれるものの、それでも多くの被害が出ているという現実があります。そして、命にかかわるような被害に遭われるのは、認知症を患う方を含む高齢の方であることもわかっています。どうしたら、その命を救うことができるのでしょう?

 ここでは、近年の自然災害の傾向や、認知症を患う方を含む高齢の方々がナゼ生命に関わるような被害を受けてしまうのか、その原因を考えつつ、支援する立場のご家族の方や後見人の方々がぜひ押さえておきたい防災支援のポイントなどについてまとめています。

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1. 自然災害の多い日本という国と被害者の関係 ~ 死亡者の多くは高齢の方という事実

「図-日本における災害と災害死亡者との関係」

(1) 頻発する大規模自然災害と新たな災害

2018年夏、岡山・広島など、西日本を中心に大雨と、それに伴う河川の氾濫や土砂災害などが発生、多くの方が被害に遭われました。このような大きな被害を伴う自然災害は、近年頻発しています。

この10年だけでも2011年の東日本大震災は言うに及ばす、2008年の岩手・宮城内陸地震、2014年の御嶽山噴火、2016年の熊本地震、2017年の九州北部豪雨といった大規模災害が発生しています。他にも、近年はゲリラ豪雨・ゲリラ雷雨、竜巻など、極々狭い地域のみが見舞われる災害が頻発しています。

(2) 自然災害の多い日本

 日本は、その位置、地形、地質、気象などの自然的条件から、台風、豪雨、豪雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山の噴火などによる災害が発生しやすくなっています。

日本の国土面積は、世界全体の0.28%に過ぎませんが、活火山はその7.0%が日本にあります。このことは、火山の噴火の多さだけでなく、地震の多さにも影響しています。全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の2割以上が日本で起こっているのです。

また、日本には四季があります。その変わり目には梅雨の長雨や台風に見舞われやすくなっていますし、冬にはシベリアからの寒気が日本海上で水蒸気を補給し、これが日本海側での豪雪をもたらしています。さらに日本の地形は急峻のため河川も急勾配。このため大雨に見舞われると河川の流量が増加し、洪水が発生しやすい環境にあります。これは地質との関係も含め、土砂災害を引き起こしやすいという面も持つわけです。

このように、日本という国は世界的に見ても自然災害の起こりやすい環境にあると言えるのです。

(3) 東日本大震災で被害に遭われた方

復興庁が調査した結果によれば、東日本大震災によりお亡くなりになった方は、2012年3月末時点で1632人に達していますが、このうち9割が66歳以上の高齢の方でした。

さらに、このうちの1263人を対象に行った調査から、災害が発生してから1カ月以内で亡くなられた方が5割、3カ月以内で8割となっており、死因として、避難所等での生活の肉体的・精神的疲労が3割、避難所等への移動中の肉体的・精神的疲労が2割、病院の機能停止による治療の遅れが2割となっていることがわかっています。

(4) 災害弱者という存在

災害時に、「災害から身を守るため、安全な場所に避難するなどの一連の防災行動をとる際に、支援を必要とする方々」が存在します。この方々を災害弱者、あるいは、災害時要援護者と言います。具体的には、障害をお持ちの方、認知症を患う方や体力的に衰えのある高齢の方、理解力や判断力の乏しい乳幼児、日本語の理解が十分でない外国人、妊産婦や傷病を抱える方々などです。

このような方々は、災害時に一般の人々と同じような危険回避行動や避難行動を行うことができないだけでなく、避難生活、生活の再建、復旧活動においても、他者による支援が必要とされており、国の防災対策でも明確に位置づけられています。しかし、それでも、この災害弱者にあたる「高齢の方」が実際に多く亡くなられているのです。

参考:
内閣府 防災情報ページ
平成18年版 防災白書 1 災害を受けやすい日本の国土
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h18/bousai2006/html/honmon/hm01010101.htm

復興庁ホームページ
東日本大震災における震災関連死に関する報告
http://www.reconstruction.go.jp/topics/20120821_shinsaikanrenshihoukoku.pdf

一般財団法人 国土技術研究センターホームページ
国土を知る / 意外と知らない日本の国土
http://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary09

日本赤十字社ホームページ
災害時要援護者対策 ガイドライン
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/saigaikyugo-3.pdf

2. ナゼ、防災に気をつけている高齢の方の被害が多いのか?

「図-高齢の方に被害が多いのはナゼか?」

(1) ある高齢の方の防災対策

 ここで、ある地方に住む高齢の方の実際の防災対策について見てみます。

この方は、テレビの天気予報の時間を覚えていて、複数の放送局のものを毎日必ずご覧になっています。気象予報士の方の言われることは信じておらず、ご自身で雨雲レーダーを分析されており、それがかなりの確率で当たるのだそう。ただ、台風・大雨などは、かなり前から心配されており、ご近所の方とも情報交換されているものの、実際にそのときが来る頃には心身ともにかなり疲れているとのこと。

先日も大雨の際、風雨が強まる前に、雨戸を閉める、鉢植えや物干しをかたづける、食料を備蓄する、リュックに避難グッズをつめて玄関に置くなど準備を怠っていませんでした。

ところが当日、突如停電が発生。テレビ・ラジオが使えなくなり、情報がまるで入らなくなったそうです。そして、防災無線のアナウンスは、そもそもの音割れ、風雨の音、雨戸を閉めていることなどで、ほとんど聞き取れず、また、夜、暗くなって「避難しろ」と言われても、暗い時間に避難場所まで一人で歩いていく方が怖いと感じ、そのまま家に留まったそうです。

結局、このときの大雨でご自宅が災害に遭うことはありませんでした。しかし、その後電気が復旧しているにも関わらず、エアコンがついていないことにしばらく気づかず、熱中症になりかけたそうです。

(2) 実際に災害が近づいたときの問題

 「ある高齢の方の事例」を見ていただいてもわかるとおり、実は高齢の方は、防災に敏感であるという面があるのではないでしょうか。それでも、実際にお亡くなりになる方の多くが高齢の方であるという現実。このことは、高齢の方に見られるいくつかの特徴が大きな原因となっている可能性があります。

① 情報弱者という問題

 まずは情報の受け取り、発信に支障があるという点です。テレビ等でも避難勧告などが表示されます。携帯端末を持っていればその通報もされます。防災無線など、市区町村でもアナウンスがされます。しかし、テレビは停電すればみることができません。

携帯端末も持っていなければ、その情報は届きません。市区町村の防災無線も、その時の風雨の音、周囲の雑音などにかき消されてしまいがち。高齢の方は、圧倒的に情報弱者と言えるのです。これは、視覚や聴覚などを中心に、障害のある方も同様と言えるでしょうし、日本語のわからない外国人の方も同様と言えるでしょう。

② 過去の経験という問題

 また、高齢の方の場合、過去の経験が邪魔をするという面もあります。特にこれまで被災経験がない方にとって、「これまでに一度も問題が起きたことがなかった」という事実は、積極的な避難を妨げる一つの情報として機能してしまう面があります。

③ 積極的な避難を妨げる加齢にともなう身体の問題

 加齢に伴う身体の変化、衰えも、積極的な避難を妨げる原因と言えます。ご自宅の倒・半壊などによる負傷はもちろん、避難所までの移動に心身両面で非常に高い負荷がかかるだろうことは、容易に想像できることでしょう。避難所までの距離が遠いというような場合はなおさらのことです。また、「少し風雨が弱くなったときを見計らって」など、そのような環境下でもより適切なタイミングで避難したいという心理も働くはずです。

また、避難所での生活を不安に感じる方も多いと考えられます。薬や医療器具・医療用具などの入手のしにくさはもちろん、トイレの問題は、非常に大きな問題と考えられています。実際、避難所生活では熱中症や脱水症状などを起こす方が多いのですが、その大きな原因に「トイレを利用する回数を減らしたい」という心理が働いていると言われています。

 他にも、認知症を患う方やそのご家族の方などは、避難所の環境への適応能力に不安を感じ、「できるなら避難したくない」という心理が働くと考えられるのです。

(3) 対策はしているのに、行動に移せない、行動できない

 このように見てくると、一つの大きな仮説が成り立つのではないでしょうか。それは、「高齢の方は、防災に対する意識が高く、その準備も実はしている。それでも死に至るような被害に遭ってしまうのは、いざそのときに、ご自身やご家族の心身の状況を考えたときに、行動を起こす判断、決断ができないからだ」というものです。

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参考:
政府広報オンライン
災害時に命を守る一人一人の防災対策
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201108/6.html

総務省消防庁
災害時要援護者の避難対策事例集
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h22/2203/220330_15houdou/02_zenbun.pdf

日本赤十字社ホームページ
災害時要援護者対策 ガイドライン
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/saigaikyugo-3.pdf

3. 支援者の方にできること ~ 高齢の方の現実から考える、そのときへの備え

「図-災害に備え、支援者にできること ~その視点」

上記のような仮説は、概ね高齢の方の状況を正しくとらえている部分があると言えるのではないでしょうか。だとしたとき、支援をされるご家族の方や後見人の方にできることは何でしょうか?

1) 高齢の方の命を守ることが最優先

 具体的な対応策を考えていくにあたってまず重要なことは、「命を守ること」でしょう。「高齢の方は、たとえ情報があったとしても、的確な判断ができない可能性がある」と考えれば、「判断の手助けをすること」が、まず優先されるべき支援と言えるのではないでしょうか。

 その具体的な方法としては、たとえば、避難勧告などが出された場合、その「通知」自体を支援される方が受け取り、受け取った「通知」に基づいて、ご本人に直接、あるいは電話などを利用して避難するよう連絡する、あるいは、ご近所の方に声がけいただく、というような「一律のルール」を決めることが考えられます。

 内閣府が実施した市町村に対する全国防災・危機管理トップセミナーの資料では、冒頭で、①疑わしきときは行動せよ、②最悪の事態を想定して行動せよ、③空振りは許されるが見逃しは許されない、との「防災対策の3原則」を提示しています。

これと同じ考え方が、高齢の方を支援するにあたっては重要になるはずです。つまり、空振りに終わったとしても、あるいは、避難所への移動などで負担をかけることになったとしても、最悪の事態を想定して、疑わしいときには行動してもらうようにするということです。

 そのためにも、「一律のルール」をご本人とよく話し合い、「ルールだから行動する」という共通の認識を持ち、また、それを徹底しておくことが重要になると言えるでしょう。

(2) 被災時の生活を考える

 「高齢の方の防災に対する意識は、実は高い可能性がある」と示しました。しかし、その対策は、「ある高齢の方の防災対策の具体例」をふりかえると、大きな課題があることがわかります。それは、被災時、避難所までの行動、そして、避難所での生活を想定できていない点です。

実際に防災グッズの用意などもしており、災害が起きることに対して、何とか情報を得ようとすることもしているのですが、実際にそれが現実となったときの行動のルールや、避難所での生活を想定した準備はされていないのです。

避難グッズなどを準備することは非常に重要です。特に、薬などは、替えがきかない可能性もあります。しかし、そのような準備は、すればするほど物が増えるという問題が出てきます。物が増えれば、いざというとき、「重いから止めよう」というようなことにもなりかねないわけです。

また、避難所の環境を考えた場合、体調管理の面での対策が不足している面もあります。避難所では、消毒などを通じた感染症予防、水分補給や適度な運動などを通じた脱水症予防などを含めた体調管理など、日常とは異なる生活サイクルづくりが必要です。

水と塩分があれば、相応程度人は生きていけることがわかっていますが、それも「病気になっていないこと」が前提での話。最悪の事態を想定した「避難所での生活サイクルとその生活ルールづくり」は、いざというときに「病気にならないための重要な備え」と言えるでしょう。

避難行動のルールと同様、ご本人とよく話し合った上で、最低限のルールを決めておくことが大切になると言えるでしょう。

(3) 被災後の生活再建で援助を受けるために必要なこと

 生活再建の過程では、仮設住宅などが用意される場合もありますし、受けた被害の状況などによって支援金などが受け取れる場合もあります。ただそのような用意がされても、実際に利用するには、各種の手続きが必要になるという現実があります。

 たとえば、災害による被害を受けていることを証明する罹災証明を受けるには、被害の状況を説明できる資料が必要になります。しかし、防災対策として、このような手続きにまつわる準備をされている方は、非常に少ないのではないでしょうか? 実際に手続きができない限り、どんなに大規模な被害を受けていたとしても、なかなか支援してはもらえない、というのが現実です。それは、多くの方が被災されている場合であれば、なおさらのことでしょう。

(4) ご家族や後見人の方などができる支援

 このように見てくると、認知症を患う方を含む高齢の方の支援の在り方の一端が見えてきます。少なくとも、「命を守るためのルールづくりとその具体的な役割分担」「避難所生活を想定した生活ルールづくりとそこで最低限必要となるものの準備」「生活再建で援助を受けるための手続きに必要となるものと、実際の手続き時に必要となる情報取得のための準備」は、支援者の方がご本人ともよくよく確認しておくべきことと言えます。

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参考:
政府広報オンライン
災害時に命を守る一人一人の防災対策
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201108/6.html

総務省消防庁
災害時要援護者の避難対策事例集
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h22/2203/220330_15houdou/02_zenbun.pdf

日本赤十字社ホームページ
災害時要援護者対策 ガイドライン
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/saigaikyugo-3.pdf

内閣府 防災情報ページ
≪全国防災・危機管理トップセミナー≫市町村における防災対策について
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/bousai_specialist2/01/pdf/shiryo5.pdf

最後に

 近年数多くの自然災害に日本は見舞われていますが、そもそも日本は世界的に見ても自然災害の多い国です。その災害は、台風、豪雨、豪雪、洪水、土砂災害、地震、津波、火山の噴火など、多岐に渡ります。このとき大きな被害を受けやすいのは高齢の方です。このことは、東日本大震災の関連死者の9割が高齢の方であることからも明らかでしょう。

 高齢の方が大きな被害に遭いやすい原因として、情報弱者であること、過去の経験がかえって邪魔になる場合があること、ご自身の心身の衰えなどにより、「避難などの実際の行動に移すことをためらうこと」が想定されます。そう考えると、「ある一定のルールの下に行動する」という基準をつくることが、高齢の方の命を守る一つの方法になることがわかります。

また、高齢の方の防災対策は、予防や情報収集の面が中心で、実際に起きたときにどうするかといった視点が抜け落ちがちでもあります。「実際に避難所生活を強いられたら」、「ご自宅などが被災したら」といったことを考慮し、「いざそのときに必要となる行動や手続き」といったものを、きちんと把握、ルール化するなどした上で共有しておくことが必要でしょう。そのような支援が、ご家族の方や後見人の方に求められている、とも言えるのではないでしょうか。

参考:
政府広報オンライン
災害時に命を守る一人一人の防災対策
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201108/6.html

内閣府 防災情報ページ
平成18年版 防災白書 1 災害を受けやすい日本の国土
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/hakusho/h18/bousai2006/html/honmon/hm01010101.htm
≪全国防災・危機管理トップセミナー≫市町村における防災対策について
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kentokai/bousai_specialist2/01/pdf/shiryo5.pdf

総務省消防庁
災害時要援護者の避難対策事例集
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h22/2203/220330_15houdou/02_zenbun.pdf

復興庁ホームページ
東日本大震災における震災関連死に関する報告
http://www.reconstruction.go.jp/topics/20120821_shinsaikanrenshihoukoku.pdf

一般財団法人 国土技術研究センターホームページ
国土を知る / 意外と知らない日本の国土
http://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary09

日本赤十字社ホームページ
災害時要援護者対策 ガイドライン
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/saigaikyugo-3.pdf

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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