認知症予防に口腔ケアを! 認知症と口腔ケアの関係

高齢者・認知症

はじめに
近年、「口腔環境」つまり「お口の中の状態」の問題が認知症の発症に大きな影響を与えているのではないか? とする研究成果が発表され、話題となっています。

そこでここでは、「口腔環境を整えること」である「口腔ケア」について、そもそも高齢の方の口腔環境の問題点やそれがナゼ認知症の発症と関係があるのか、また、口腔ケアとは何か、そのポイントは何かなどについてまとめています。

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1. 口腔ケアとは?
(1) 口の役割

歯や歯肉、舌などがある口は、「食べる」・「呼吸する」・「コミュニケーションをとる」といった生命の維持や人間らしい生活をすること、表情をつくる器官として大切な役割を担っています。

① 食べる

「食べる」という行為は、実は、適量を口まで運ぶ「摂取」、食べ物をかみくだく「咀嚼」、食べ物を飲みこむ「嚥下」から成り立っています。この役割を果たすのが「口」であり、その行為だけを見ても、複数の機能を持っていることがわかります。

② 呼吸する

人は主に鼻を通して空気を体内に取り入れていますが、鼻から空気が吸えないときは、無意識に口から空気を吸っています。また、同じように口から息を吐き出しています。つまり、口は呼吸機能を持っているということになります。

③ コミュニケーションをとる

人は、ことばを話すことや、表情などを通じて他者とのコミュニケーションを取っています。ことばを話すには声を出す必要がありますが、声を出すには食べるとき以上に、唇や舌、顎、頬の複雑な運動が必要です。また、歯並びなどが発する音の聞きとりやすさに影響を与えています。

また、笑ったり、怒ったり、悲しんだり、泣いたりという感情は、人の顔にはっきりとあらわれます。このような感情を含む表情は、顔を構成する表情筋と呼ばれる筋肉の動きで作り出すのですが、特に口のまわりの筋肉が大きな役割を果たしています。

(2) 口腔ケアとは?

「口腔ケア」とは、上記のような役割を果たす「広い範囲での口の中を清潔に保つこと」で、体全体の健康を保つケアのことを言います。

日本が超高齢社会を迎え、また、介護が必要な高齢者が増加する中で「口腔ケア」という用語は生まれました。口腔とは、狭い範囲で言えば「口の中」のことになりますが、広い意味では、口の中の歯茎や顎、口蓋、頬、口腔粘膜、唾液腺などを含めたものを言います。つまり、元々は、介護が必要な方の「広い意味での口腔の環境」を整え、体全体の健康を保てるようにしようという言葉であり、考え方だったのです。

今では保健・医療・福祉などの分野で、言葉として、また、考え方として利用されるようになっているだけでなく、広く人々が行う必要のある「口のケア」という意味で使用されるようにもなっています。

(3) 問題だらけ? 高齢の方の口腔の状況

 口腔は人目に触れるわけではないので、他者からも、そしてご本人も、その状況をあまり深く気にしない面があります。しかし、人は加齢に伴い、体のあらゆる機能が衰えることを避けられません。口腔についてそれは同様で、高齢の方の口腔は次のような課題を持っていると言われています。

① 口腔自体が持つ「清潔に保とうとする力」が低下している

口腔には「清潔に保とうとする力」があります。唾液の力で歯の表面や舌、粘膜に付いた汚れや細菌を洗い流すのです。しかし高齢になって身体機能が衰えると、唾液の分泌量が減ってしまい、「清潔に保とうとする力」が低下していきます。よって、意識して清潔さを保つ必要が出てきます。

② 虫歯や歯周病が多い

加齢によって歯茎が下がり歯の根元が露わになると、そこから虫歯になりやすくなります。また、口腔自体の「清潔に保とうとする力」が弱まるため、唾液で洗い流されるはずの細菌が増殖し、歯周病にもかかりやすい状態にあるのです。

③ 治療跡や入れ歯が多い

高齢の方は長く生きている分、虫歯や歯周病にかかった経験が多く、詰めものなどの治療跡が残っている方も少なくありません。詰め物をしている場合はその下で、虫歯が進行していることがあります。また入れ歯を使用している場合は、入れ歯と歯茎との間で細菌が繁殖しやすくなります。

④ 味覚が変化する

高齢になると舌や粘膜に変化があらわれ、味を感じにくくなったり、味覚が変化したりすることがあります。また偏った食生活による栄養不足も、味覚障害の原因の一つとなります。

⑤ 口腔が乾燥する(ドライマウス)

噛む力の低下や服用している薬の影響で唾液の量が減る面もあります。唾液は口腔を清潔に保つ役割があるので、ドライマウスは虫歯や歯周病の進行、また、雑菌の繁殖による口臭の原因にもなります。

参考:
厚労省 e-ヘルスネット
要介護高齢者の口腔ケア
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html

公益社団法人 日本歯科衛生士会
歯科衛生だより 2017 June vol.39
https://www.jdha.or.jp/pdf/hatookuchi_2017060101.pdf

一般財団法人 日本口腔保険協会
高齢者のお口の健康
http://www.jfohp.or.jp/okuchikenko_navi/senior/

2. 口腔ケアと認知症との関係
(1) 口腔に問題がある方は認知症になる?

「図-認知症のリスクが高くなる方」

近年、「歯の数や入れ歯の利用といった口腔の健康状態が、認知症と関わりがあるのではないか」という研究結果が発表されるようになっています。日本では、認知症の判定を受けていない健康な65歳以上の4,425人を対象とした4年間の追跡調査が有名です。

この調査の結果、認知症のリスクが高くなるのは、以下にあてはまる方であることがわかっています

<認知症のリスクが高くなる方>
① 歯がほとんどなく入れ歯を使用していない方
② あまり噛めない方
③ かかりつけ歯科医のいない方

特に、「歯がほとんどないのに入れ歯を利用していない方」と「自分の歯が20本以上ある方」とでは、「歯がほとんどないのに入れ歯を利用していない方」は、1.9倍も認知症になるリスクが高くなるとされています。

(2) 口腔の問題と認知症発症との関係

「図-口腔の問題と認知症発症との関係」

 では口腔の問題が、ナゼ認知症発症へと結びつくのでしょうか? それには3つの可能性が指摘されています。

① 咀嚼回数の低下

 まず「歯がないのに入れ歯を使用していないと認知症になりやすい」ということから、咀嚼回数の低下が認知症に影響しているのではないかという可能性が考えられます。咀嚼回数が低下すると脳の認知機能への刺激が少なくなり、その結果、認知機能の低下が起こり、認知症を発症しやすくなるのではないかということです。

② 食べられるものの偏り

 歯がないということは、食べられるものに偏りが出る可能性が考えられます。すると柔らかい菓子パンや麺類などばかりを食べ、野菜や肉類などの摂取が少なくなった結果、ビタミン類の摂取が不足してしまうという想定が成り立ちます。実はビタミン類の摂取不足は認知症を発症しやすくすると考えられていることから、これが原因となっている可能性があるわけです。

③ 歯周病

歯を失うということは、歯茎がむき出しになっている状態であるということ。これが歯周病、そして、慢性的な炎症を起こし、結果、血液を介して脳に悪影響を及ぼしているのではないかという可能性も、口腔と認知症との関係では指摘されています。

参考:
首相官邸ホームページ
社会保障制度改革国民会議 提出資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/dai7/sikaisi.pdf

公益社団法人 日本歯科衛生士会
歯科衛生だより 2017 June vol.39
https://www.jdha.or.jp/pdf/hatookuchi_2017060101.pdf
神奈川歯科大学 ホームページ
歯を失うと認知症のリスクが最大 1.9 倍に
http://square.umin.ac.jp/ages/press-releases/10-007.pdf

3. 口腔ケアの目的
(1) いつまでも口から食事を楽しめること ~ 食べる=人間の生活の質・QOLを左右する

 口腔ケアの目的は複数ありますが、何よりも重要なのは、食べるということが人間の生活の質(=QOL)を左右する最も基礎的な要素である点があげられます。

 栄養の体内への取り入れ方は、点滴であったり、胃ろうであったりといった方法も考えられます。つまり、ただ栄養を体内に取り込むのであれば、必ずしも口から食べ物を食べる必要はないのです。しかし、単に栄養を取り込むよりは、食べること自体を楽しみたいと多くの方が思われることでしょう。

やはり、口から食べること、そして、会話も含めてそれを楽しむことは、生活の質に影響を与えると言えるわけです。このことが、いつまでも口から食べられるだけの口腔環境づくりが非常に重要であることの一つの大きな目的であり、理由でもあるのです。

(2) 病気や疾患を予防すること

① 認知症を予防する

すでに見た通り、口腔環境が整っていると、認知症の予防につながるのではないかと考えられています。

② 感染症や発熱を予防する

口の中には、さまざまな細菌がいます。口腔にのみ影響を及ぼすわけではなく、たとえば、表皮感染症や食中毒を引き起こす細菌や、呼吸器感染症を引き起こす恐れのある細菌など、全身疾患の原因となる菌も存在します。口腔ケアをしっかり行わないと口腔内が菌の温床となり、感染症や発熱といったものに結びつきやすくなるのです。

誤嚥性肺炎を予防する

食べ物を飲み込む嚥下の機能が衰えると、食べ物や唾液が気管に入ってしまうことがあります。このとき、口腔内の細菌が肺に入って起こるのが「誤嚥性肺炎」です。よって口腔内の汚れや細菌を減らすことは、誤嚥性肺炎の予防につながるということになるわけです。

実際に口腔ケアを実施した方々は、口腔ケアを実施しなかった方々と比較すると、肺炎の発生率がおよそ40%減少するとの調査結果もあります。

誤嚥性肺炎は高齢者の命にかかわることもある病気です。しっかり予防することが重要です。

④ 口腔機能の低下を防ぐ

高齢の方は、「噛む」「飲み込む」「呼吸する」「話す」「表情を作る」といった口腔機能全般が低下しやすい傾向にあります。口腔機能が衰えると、十分な栄養が摂取できなくなり、免疫力の低下や摂食障害につながります。口腔ケアを通して口腔機能を向上・改善すれば、体全体の健康の回復が期待できると言えるでしょう。

参考:
厚労省 e-ヘルスネット
要介護高齢者の口腔ケア
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html

公益財団法人8020推進財団
歯とお口の健康小冊子
https://www.8020zaidan.or.jp/magazine/
ライフステージに沿った予防とケア
https://www.8020zaidan.or.jp/care/

一般社団法人 日本口腔衛生学会
認知症に対する口腔保健の予防的役割
https://researchmap.jp/?action=cv_download_main&upload_id=147972

一般財団法人 日本口腔保険協会
高齢者のお口の健康
http://www.jfohp.or.jp/okuchikenko_navi/senior/

4. 認知症を患う方を含む高齢の方の口腔ケアのポイント ~ 具体的な口腔ケアの方法と支援のポイント

「図-口腔ケアのポイント」

(1) 口腔ケアの視点

では、具体的には、どのように口腔ケアを行えばよいのでしょう? 口腔ケアの視点は大きく2つありますが、この2つの視点は、何も今現在介護を必要とされている方だけにあてはまるものではありません。よって、介護する側・される側が一緒に取り組むことも検討できることと言えます。

① 清掃を中心とするケア

まずは、清掃という視点からの口腔ケアです。口腔を清潔に保つことが目的ですが、特に支援をされる場合は、ご本人の負担をできるだけ軽減するために短時間で効率よく行うことがポイントです。そこで、歯磨き前の保湿と歯茎を痛めてしまわないような歯ブラシの利用が大切になります。

口腔内が乾いた状態のまま歯ブラシをしても汚れがこびりついてしまいがちですし、乾燥していると歯ブラシなどの刺激が痛みの原因となってしまいます。また、歯ブラシは好みが分かれる部分があるものの、先が細いもの、シンプルな形状のもの、柔らかめの毛質のものがオススメとされています。

② 機能訓練を中心とするケア

 もう1つは、機能訓練という視点からの口腔ケアです。この目的は、口腔機能を維持・向上すること。その具体的なトレーニング方法を「口腔機能訓練」と言い、食べるための筋肉を鍛えるトレーニングや、唾液の分泌を促す唾液腺マッサージ、食事のときに食べ物を上手に喉の奥まで運ぶための筋肉トレーニングなど、さまざまなものがあります。以下、いくつかの方法をご紹介します。

1) 唾液腺マッサージ
口の乾燥を防ぐためによく行われるのが唾液腺マッサージです。唾液腺には、耳下腺、顎下腺、舌下腺の3カ所がありますが、それぞれを優しく揉みほぐすのが唾液腺マッサージです。唾液腺をマッサージすると唾液が出やすくなるため、口腔内の環境が改善されます。

・耳下腺:
耳の前下部、上奥歯の辺りにある唾液腺です

・顎下腺:
下顎の内部、耳の下の顎骨の尖った部分の内側あたりの柔らかい部分にある唾液腺です

・舌下腺:
下あごの内部で、下あごの先端から左右に少しずらし、舌の両脇が接する顎骨の内側あたりの柔らかい部分にある唾液腺です

2) 嚥下体操
嚥下体操は、次の要領で順に行っていく体操です。

・深呼吸:
おなかに手をあてゆっくりと深呼吸をします。おなかがへこむくらいに、ゆっくりと息を吐きましょう。

・首の体操:
深呼吸をくり返しながら、左右に首をまわして後を見、左右に首を曲げ、ゆっくり首をまわします。

・肩の体操:
両肩をすぼめるようにしてから、すっと力を抜き、次に肩を中心に両手をゆっくりまわします

・頬の体操:
口を閉じたまま頬を膨らますことと、口笛を吹くようにすぼませることをくり返します

・舌の体操:
舌を「べー」と前に出すことと、口の奥に引っ込めることをくり返します

・舌の体操:
「パパパパ」「タタタタ」「カカカカ」とくり返しはっきり発音します

・深呼吸:
おなかに手をあて、再度ゆっくりと深呼吸をします。

③ 清掃を中心とするケア

 

(2) 自分でできることは自分でやる

 口腔ケアで介助が必要な場合、筋肉の衰えの予防やまひの改善のため、ご本人ができることは可能な限りご本人にやってもらうことが大切です。ご本人の能力を最大限発揮してもらう、発揮させることは、将来的に持てる力を維持する上で大切になると言えるからです。ただし、清潔に保つ意味でも、仕上げの部分の支援は大切でしょう。

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参考:
厚労省 e-ヘルスネット
要介護高齢者の口腔ケア
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html

公益財団法人8020推進財団
歯とお口の健康小冊子
https://www.8020zaidan.or.jp/magazine/
ライフステージに沿った予防とケア
https://www.8020zaidan.or.jp/care/

熊本県歯科医師会
嚥下体操について教えてください
http://www.kuma8020.com/column/040.html

最後に

 近年、口腔環境の善し悪しが認知症の発症に関わるとの研究結果が発表されるようになっています。特に高齢の方は口腔環境に課題を抱えていることが多いため、しっかりとしたケアが必要と言えます。

口腔ケアのポイントは口腔環境を清潔にすることと、口腔の機能を保てるようにすることの2点。今現在、問題がなくても、将来機能が衰えていくことも考えられます。支援をする側の方も一緒に取り組むなどすれば、認知症の予防につながることも期待できますので、検討してみてはいかがでしょうか。

 なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
首相官邸ホームページ
社会保障制度改革国民会議 提出資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/dai7/sikaisi.pdf

厚労省 e-ヘルスネット
要介護高齢者の口腔ケア
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html

公益社団法人 日本歯科衛生士会
歯科衛生だより 2017 June vol.39
https://www.jdha.or.jp/pdf/hatookuchi_2017060101.pdf

公益財団法人8020推進財団
歯とお口の健康小冊子
https://www.8020zaidan.or.jp/magazine/
ライフステージに沿った予防とケア
https://www.8020zaidan.or.jp/care/

一般財団法人 日本口腔保険協会
高齢者のお口の健康
http://www.jfohp.or.jp/okuchikenko_navi/senior/

神奈川歯科大学 ホームページ
歯を失うと認知症のリスクが最大 1.9 倍に
http://square.umin.ac.jp/ages/press-releases/10-007.pdf

一般社団法人 日本口腔衛生学会
認知症に対する口腔保健の予防的役割
https://researchmap.jp/?action=cv_download_main&upload_id=147972

熊本県歯科医師会
嚥下体操について教えてください
http://www.kuma8020.com/column/040.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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