若年性アルツハイマー病の初期症状と早期発見・早期治療の重要性
はじめに
若年性アルツハイマー病の初期症状と早期発見・早期治療の重要性について。若年性アルツハイマー病は、ドラマの題材にもなるなど、最近、社会問題化している疾患です。ここでは、若年性アルツハイマー病とは何かについて触れながら、「若年性アルツハイマー病」が、ドラマで取り上げられる理由、その問題などについて考えていきます。
1. 若年性アルツハイマー病とは?
「図-若年性アルツハイマー病と認知症との関係」
2018年秋、「大恋愛」というドラマでは、戸田恵梨香さんが演じる主人公は34歳で、本気で一人の男に恋をする女医。そして、ムロツヨシさん演じるその恋人は、引越し業のアルバイトしていました。
主人公と出会い、自分が過去に書いた小説の一部を暗唱できるほど好きだと言う彼女からアタックされるうち、次第に彼女を愛するようになり、また、自分の忘れていた小説への思いを呼び起こされていくというストーリーです。
そして、この主人公の女医が患うのが、若年性アルツハイマーという病、つまり疾患です。
若年性アルツハイマー病とは、65歳未満で発症するアルツハイマー病のこと。つまり「アルツハイマー病を若くして発症する」ということから、若年性アルツハイマー病という言い方をするということです。
アルツハイマー病は記憶、思考、行動に問題を起こす脳の病気で、2025年にはその数が700万人にもなると予想される認知症の原因の半数以上を占める疾患です。思考、計画、記憶に関与する大脳皮質の中でも、海馬と呼ばれる領域で特に激しく破損が起こり、皮質が萎縮していきます。
結果、新しい記憶をつくり、それを貯めることができなくなるのです。このようにアルツハイマー病により脳細胞が破損していくことは研究により明らかになっているものの、それがナゼ起きるのか、は、解明されていません。
アルツハイマー病が原因となって起きる認知症を「アルツハイマー型認知症」と言います。
つまり、アルツハイマー病と認知症は、アルツハイマー病が「原因」で、認知症が「結果」という関係になっているのです。認知症とは、あくまで疾患、つまり病気の結果あらわれる症状なのですが、「アルツハイマー型認知症」と呼ばれることが、この関係がわかりにくくしている面もあるかもしれません。
既に見たように、認知症とは、あくまでアルツハイマー病といった疾患などを原因に、結果としてあらわれる症状。その症状としては、次のようなものが見られることになります。
1) 中核症状
・記憶障害
自分が体験した過去の出来事に関する記憶が抜け落ちてしまう障害のことです。認知症の場合、最近のことから忘れていくという特徴があります。
・理解・判断力障害
日常生活の些細なことでも判断することができなくなる障害です。たとえば料理をする際、調味料をどれくらい入れたら良いかや、どんな食材を使うかなどの判断ができないといったものです。さらに症状が進行すると、手順がわからなくなって料理すること自体ができなくなります。
・実行機能障害
ある目標に向かって、計画を立てて順序よく物事をおこなうことができなくなる障害です。具体的には計画的に買い物ができなくなったり、家電製品の使い方がわからなくなったりするというような特徴があります。
・見当識障害
時間・場所・人物や周囲の状況を正しく認識できなくなる障害です。たとえば、今日の日付がわからなくなる、時計が読めなくなるといったものです。
2) 行動・心理症状
中核症状以外に、妄想・幻覚・せん妄・徘徊・抑うつ・人格変化・暴力行為・不潔行為といった行動面・心理面での見られる場合があります。
【関連記事】
若年性認知症とは?
https://jlsa-net.jp/kn/zyakunen-ninchi/
参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス
認知症
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html
Alzheimer’s Association
アルツハイマー病とは
https://www.alz.org/asian/about/what_is_alzheimers.asp?nL=JA&dL=JA
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
アルツハイマー病
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/alzheimer.html
TBS
大恋愛~僕を忘れる君と
https://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
2. 若年性アルツハイマーの症状
既に見た通り、若年性アルツハイマー病とアルツハイマー病との間には、発症年齢の差異があるのみで、医学的な診断基準の差はありません。つまり、既に見た「認知症に見られる症状」は、「年齢に関係なく共通している」ということです。
また、このような症状が見られる頃には、実はアルツハイマー病としての病状はかなり進行していると考えられています。アルツハイマー病は進行性であるということが大きな問題でもあるのです。
「図-若年性アルツハイマー病に見られる症状」
では、アルツハイマー病の初期には、どのような症状が見られるのでしょうか?
若年性アルツハイマー病とアルツハイマー病とでは、診断基準は同じでも、生活スタイルの違いなどから、「アルツハイマー病が『疑われるに至る』初期症状」には異なる面もあるとも言われています。
アルツハイマー病に伴う症状の典型は「物忘れのような症状」と言われていますが、そのような症状が見られても、ご本人も周囲の方も、アルツハイマー病やそれに伴う認知症の可能性を疑わない場合も多いと考えられるからです。
その背景に、「認知症は高齢者がなるもの」という印象が強いということがあるでしょう。
つまり、たとえば失敗が続いてもストレスなどのせいにしがちであると考えられるのです。
このため、実際にはアルツハイマー病に伴う認知機能の衰えからくる失敗であるのに、失敗に対するご本人のネガティブな反応などを見て、うつといった他の精神疾患と診断されるケースもあると言われています。
実際、若年性アルツハイマー病や、その症状である認知障害に関しては、ご本人のもの忘れなど自覚よりは、仕事上や生活上の失敗などがあらわれることで、ご家族や職場の同僚の方など周囲の方が気づくことが多いとも言われています。
周囲の方が気づくきっかけ、つまり「アルツハイマー病が『疑われるに至る』初期症状」となるようなものとしては、たとえば次のような症状が考えられます。
① 会話中に所用で一旦席を外した後、話題に戻ろうとしても、その話題に戻れない、忘れてしまう。
② 同じ話を何度もくり返したり、同じ質問を何度もしたりする。同じ相手に同じ用件で何度も連絡をする。
③ 予定を忘れる。約束の時間に遅れたり、日にちを間違えたりする。
④ すでに買いためている食品をくりかえし買う。
⑤ たとえば、買い物から帰ってきて、荷物をそのまま放置してしまうなど、物を置き忘れたり、しまい忘れたりする。
⑥ 料理のレパートリーが減り、限られたメニューしか作らない。
⑦ くわえたタバコに火をつけられないなど、意味のある一連の行動ができない。
⑧ 何度も行ったことがある場所なのにその場所にたどり着けない、トイレに行った後に元いた場所に戻れない。
⑨ 「あれ」や「それ」などの代名詞を使って会話をすることが増える。
⑩ 以前は好きだった趣味などに関心がなくなる、好きで始めた習い事などに行こうとしなくなる。
物忘れにあたる症状は、年を重ねれば誰にでも見られる症状です。このため、その症状が加齢に伴う正常範囲のものなのか、そうでないのか、見分けにくい面もあります。
加齢による物忘れと、アルツハイマー病に伴う物忘れとの症状の違いを示すと以下のようになりますが、この段階まで行くと、症状がかなり進行した状況と言えます。
参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス
認知症
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html
ほどがや脳神経外科クリニック
https://hodogaya-nouge.com/pdf/doctor_article02.pdf
3. アルツハイマー病は、早期発見・早期治療が重要
「図-アルツハイマー病の対策」
これまでアルツハイマー病は、その症状の進行を遅らせることはできても、「治すことはできない」とされてきました。
アメリカの例で言えば、本当にアルツハイマー病の新薬と言える治療薬は2003年以来承認されておらず、現在承認されている治療薬については、物忘れや混乱症状は軽減が期待できるものの、その効果は期間限定的とされているとのこと。
「治すことはできない」とされるのも無理からぬことかもしれません。
一方で、アルツハイマー病は治せるという最新の研究成果があります。この研究によれば、アルツハイマー病の原因には、少なくとも36の要因があるとのこと。
その要因の中から、「適切な範囲にないもの」を詳細な検査で特定し、そのすべてに対し統合的なアプローチで働きかければ、アルツハイマー病に伴う症状は改善するというのです。
とはいえ、いずれにしても「早期発見・早期治療」が非常に重要、とされていることに変わりはありません。生活の改善により、少なくとも症状の悪化を防ぐ、あるいは遅らせることは可能だと考えられるからです。
【関連記事】
若年性アルツハイマー病の早期発見のためのチェック方法
https://jlsa-net.jp/kn/zknalzheimer-check/
アルツハイマー病に伴う症状の進行を防ぐには、認知症の予防においてその有効性が実証されているものが参考にできると考えられています。具体的には以下のようなものがあります。
魚を多く摂ると、アルツハイマー型認知症の予防になるという研究結果があります。これは、魚に含まれる不飽和脂肪酸という脂質が、体の健康にも認知機能にも良い効果があるからです。
不飽和脂肪酸は、血栓予防・抗炎症作用・降圧作用など多くの効果があることがわかっています。
また、ビタミンE・ビタミンC、βカロチンなどの抗酸化物質は、体が酸化することを抑制する効果が高いと言われています。
他にも、パンや白米、うどんといったグルテンの多い食品は少なめにすることが重要とする説もあります。ただ、個々の栄養素だけに着目し、それだけを重点的に摂れば良いかと言われると、必ずしもそうではないでしょう。
そのひとつの理由に、アルツハイマー病への対策だけをすれば良いというわけではないということがあります。また、対アルツハイマー病へという視点でも、「食べ物の種類や数を多くし、それらをバランスよく食べる。
その際、特に外食等が増えると不足しがちな魚や野菜類を積極的に食べるようにすべき」とする意見も多く見られます。
「体を動かさないことで、認知症、特にアルツハイマー型認知症になる確率が高まる」
このような研究結果が多く報告されています。
たとえば、「中年期に体をよく動かすとアルツハイマー病に防御的に働き、結果、アルツハイマー型認知症になることを予防する」というもの。他にも、「体を動かさないことが、アルツハイマー型認知症の危険因子になる」という研究もあります。
身体を活発に動かすと、より元気に長生きできるということは、一般的にも言われていること。このことがアルツハイマー病対策にも当てはまるということです。
なお運動がアルツハイマー病の予防効果をもつ理由としては、脳の血流が増加するという直接的な作用が考えられますが、他にも、神経成長因子への刺激作用、免疫機能に関わる作用も想定されています。
脳の状態を良好に保つことが、アルツハイマー病を含む脳の疾患の予防につながると考えられています。また「脳に良いこととは、心臓に良いこと」とも言われています。心臓に良いこととして真っ先に頭に浮かぶものに「呼吸」があげられるでしょう。
体の各臓器が正常に活動するには酸素が必要だからであり、中でも脳は、他の臓器の10倍もの酸素を消費すると言われています。
つまり、しっかりとした呼吸により脳に十分な酸素を送り込むことが、アルツハイマー病に伴う症状の悪化を防ぐことにもつながる、と考えられるのです。
「呼吸」というと、体内に酸素を取り入れるという意味で「吸うこと」に意識がいきがちですが、重要なのは「息を吐くこと」です。息を吐き切れば自然に息は吸えるからです。このことは水泳の息継ぎを考えるとわかりやすいでしょう。
水中で十分に息を吐き切れば、息継ぎのときには自然に、瞬間的に、そして、大量に息を吸えるのです。同様のことは、歌をうたうときにも見られます。
つまり十分に、ゆっくりと息を「吐くこと」を中心に呼吸をすれば、酸素を十分に、また、少ない負担で体内に取り入れられると考えられるのです。
症状が進行した場合を考え、症状が軽度の段階で、将来に向けた準備をしておくことも必要かもしれません。
ご自身の生活に関することは当然として、ご家族の生活のことや、お金のこと、ご自身が犯罪などに巻き込まれるリスクに対応するものなど、幅広く検討しておく必要があると言えます。
万が一のときに利用できる社会保障のしくみとして、障害者総合支援法に基づくサービス、障害年金、障害者手帳、成年後見人制度といった公的なしくみの他、アルツハイマー病を含む認知症に対する民間の損害保険なども、数は少ないながらも出てきています。
いずれにしても、「しくみを知っておくこと」で、必要になったとき、必要な対応をすぐに取れるようにしておくことは大切だ、ということです。そして何よりも、アルツハイマー病や認知症というものへの正しい理解が大切だ、と言えるでしょう。
参考:
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
認知症施策の現状について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000065682.pdf
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
日本脳神経学会 ホームページ
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html
日本認知症学会 ホームページ
http://dementia.umin.jp/index.html
公益財団法人 日本看護協会 ホームページ
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html
国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf
最後に
アルツハイマー病は、ドラマでも取り上げられるほど、大きな社会問題になっている疾患です。
アルツハイマー病が認知症の半数以上の原因になっていることからも、その病気の問題を理解することができるでしょう。また、若くしてアルツハイマー病を患うケース、つまり若年性アルツハイマー病も増え、今後も増加するのではないかと予想されています。
若年性アルツハイマー病は、アルツハイマー病や認知症に関する正しい理解が不足しているがために問題が大きくなる面があることを否定できません。
「認知症は高齢の方がなるもの」という考えが働いてしまいがちで、発見が遅れ、結果適切な治療が受けられないケースがあると考えられるからです。
これまでアルツハイマー病は、治すことができないと言われてきました。その一方で、早期に発見できれば、また、早期の段階から適切な治療ができれば、少なくともその進行を遅らせることもできるとされています。
よって、何よりも、アルツハイマー病や認知症に関する正しい知識を持ち、「もしかしたら」ということがあれば、できるだけ早く診断を受けることが重要になると言えるでしょう。
なおこの記事に関連するサイト及び資料は下記の通りです。ご参考までにご確認ください。
参考:
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
認知症施策の現状について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000065682.pdf
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
認知症
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html
国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf
日本脳神経学会 ホームページ
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html
日本認知症学会 ホームページ
http://dementia.umin.jp/index.html
公益財団法人 日本看護協会 ホームページ
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html
公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
アルツハイマー病
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/alzheimer.html
Alzheimer’s Association
アルツハイマー病とは
https://www.alz.org/asian/about/what_is_alzheimers.asp?nL=JA&dL=JA
TBS
大恋愛~僕を忘れる君と
https://www.tbs.co.jp/dairenai_tbs/
ほどがや脳神経外科クリニック
https://hodogaya-nouge.com/pdf/doctor_article02.pdf
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