認知症のある方を含む高齢者が加害者となる事件・事故の可能性

成年後見制度

はじめに
 人が社会で活動をするということは、事件や事故と隣り合わせで生活しているということでもあります。それは残念ながら誰にとっても同じことであり、高齢の方にとっても例外ではありません。またそれは、一方的に被害者になるということではありません。誰もが事件や事故の加害者となる場合があり、その多くが「私は大丈夫」と思っていらした方なのです。「まさかあの方が」と、事件や事故の後になって言われることが多いことは、みなさんもご存知でしょう。
ここでは、日本における犯罪や事故の動向を押さえつつ、認知症のある方を含む高齢の方が事件や事故の加害者になる可能性、万が一の備えとしてどのようなことができるのかを中心にまとめています。

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1. 加齢に伴う問題と、生活の変化に伴う社会との接点の変化、そのリスク

「図-認知症のある方を含む高齢の方に関わるリスクのメカニズム」

(1) 加齢に伴う衰えと自覚 ~ ある日突然、と、徐々に衰えることとの違い

 人は誰もが加齢に伴い衰えます。ただ、その衰え方は人それぞれの面があり、「何歳だからこう」とは一概に言うことができません。

 たとえば、認知症。加齢に伴い患う確率が高まるのは事実ではありつつ、若年性認知症というものがあるように、 30代、40代でも発症する可能性があるものです。脳梗塞等の後遺症のように、疾患に伴いある日突然その時が訪れる場合もあれば、アルツハイマー型のように徐々に、その症状が進んでいくものもあります。つまり、認知症は自覚しにくい場合もあるということです。

認知症に限らず、体力や反射神経などの身体面、視野など認知機能を含む脳機能面など、加齢に伴う影響はさまざまな面で起きることは、否定することができません。

(2) 徐々に衰えることによる問題 ~ 社会で生活するために必要なこととの関係から

 ただ、徐々に衰えるということは、悩ましい問題をはらみます。たとえば、生活に自動車を利用していた場合です。

自分の衰えに気づかず、車の運転を続け、事故を起こし加害者となってしまうというケース、あるいは、電車やバスといった公共交通機関が代替えとしてあれば良いのですが、そういったものがまったくない、あるいは非常に少ない、限られている、利用しようとすると長い距離を歩く必要があるといった場合、自分の衰えに気がついてはいても、「近場しか使わないから」「もう少しだけ」と、車の運転を続け、事故を起こし加害者となってしまうというケースなど、加齢に伴う衰えが、事故を引き起こす可能性を高めている面もあります。

(3) 生活の変化

 また、特にそれまで企業等で働いてきた方は、退職等によっても生活環境やその範囲が大きく変わる場合があります。それまでは職場と自宅の往復が生活の中心であったのに、ご近所づきあいが増えたり、出かける場が増えたりなど、接点を持つ人やタイミング、場や物が変わったり、増えたりすることもある、ということです。

 初めての場に行こうとするとき、前日よく眠れなかったり、朝早くに目覚めたり、またご自宅に戻ると普段よりも疲れを感じていたりといったことは、誰もが経験したことがあるでしょう。このことからもわかるように、活動の場が広がったり、変化したりといったことは、想像以上に負荷がかかるものですし、さまざまなリスクを伴うものでもあるのです。
 
(4) 社会で生活する、ということのリスクを正しく認識する

年齢に関わらず、活動の場・活躍の場がある、広がる、ということは、素晴らしいことです。一方で、社会での活動の場・活躍の場が広がるということは、その分事件や事故のリスクも広がる、高まると言えます。他者との接点、物との接点など、さまざまな接点が拡大するからです。

もちろん、このような一つひとつの接点における事件や事故のリスクは、決して高いものではありません。とはいえ、社会での接点が増えれば増えるほど、その加害者なのか被害者なのかは別として、事件・事故に遭うリスクが高まることは否定ができませんし、特に認知症がある方にとっては、それが大きなリスクになる可能性すらあるということです。

参考:
厚労省ホームページ
介護・高齢者福祉
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html

内閣府ホームページ
特集 「高齢者に係る交通事故防止」I 高齢者を取りまく現状
http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/gaiyo/features/feature01.html

2. 高齢者が加害者として事件・事故

 ここまで、概念上の話として、高齢の方が加害者として事件・事故に遭う可能性を見てきました。次に、その実態について、確認してみましょう。

(1) 日本で起きている事件・事故の数

日本という社会の中では、日々数多くの事件や事故が起きています。法務省が公表している平成29年版犯罪白書によれば、日本で起きている犯罪件数は2016年の1年間で、刑法犯が99万件あまりで、その7割以上が窃盗、交通事故は49万件あまりとなっています。

では、高齢者が加害者となった事件や事故には、どのようなものがあり、どの程度発生しているのでしょうか?

(2) 高齢者が加害者となった事件・事故

① 増加する高齢運転者による交通事故

高齢者が加害者となる事件・事故で、まず注目すべきは交通事故でしょう。

内閣府が公表している「特集 「高齢者に係る交通事故防止」によれば、平成28年末時点で75歳以上の方の自動車運転免許保有者数は513万人。この数は年々増えており、今後も同様の傾向が見られると予想されています。また、このうち認知機能検査を受けた方は166万人で、5万人あまりに認知機能の低下が見られ、認知症の恐れがあることがわかっています。

死亡事故に占める高齢運転者の比率は13.5%となっており、その割合は年々増加しています。また、運転者人口10万人当たりで8.9人となっており、75歳未満が3.8人であることに比較し、非常に高くなっています。

このような高齢運転者による事故死の発生状況を見ても、「自分はその加害者にはなりえない」と考えることには非常に問題があると言えるのです。

② 初犯が5割という現実

次に確認したいのは、高齢の方による犯罪です。

平成20年版犯罪白書 第二部 特集「高齢犯罪者の実態と処遇」によれば、高齢者による犯罪は増加が著しいとされています。うち、高齢になってから初めて罪を犯したのは5割強。つまり、高齢になってから初めて犯罪加害者になってしまったというケースが相当数あることがわかっているのです。

③ 高齢者特有の問題

 高齢の方が加害者となった犯罪の65%が窃盗。次いで横領、暴行、傷害となっています。窃盗については、生活の困窮が原因となっているものが中心。とはいえ、中には認知症のある方が窃盗に及んだケースもあることが予想されます。

また、暴行や傷害においては、激情型・衝動型のものが多いという点も高齢者犯罪の特徴です。これは、「普段は温厚」あるいは「今まではやさしかった」といった方が、犯罪に至るケースがあるということ。高齢に伴う認知機能の低下などで、感情抑制力の低下が起きたことが原因となっているケースも想定できるということです。

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参考:
法務省ホームページ
平成29年版 犯罪白書
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html
平成29年版 犯罪白書の概要
http://www.moj.go.jp/content/001240287.pdf
平成28年版 犯罪白書 (高齢者・障害者犯罪)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/mokuji.html
平成20年版犯罪白書 第二部 特集「高齢犯罪者の実態と処遇」
http://www.moj.go.jp/content/000010212.pdf

内閣府ホームページ
特集 「高齢者に係る交通事故防止」I 高齢者を取りまく現状
http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/gaiyo/features/feature01.html

3. 事件・事故の加害者となってしまったときに必要になること

「図-事件・事故の加害者となってしまったら・・・」

(1) 対物ならその物への、対人ならその人への損害賠償

事件や事故の加害者になった場合、どのようなことが必要になるのでしょう? 
一つには、罪に服すというもの。服役や罰金などのことで、刑事罰と呼ばれるものです。

もう一つは、損害賠償です。物を壊したなどの場合であれば、その物自体を補償することが必要ですし、人に何らかの危害を加えた場合には、その被害を受けられた方に対する損害賠償が必要になります。

認知症のある高齢者の場合、責任能力がないとされて刑事責任が問われなかったり、軽減されたりといったことがあることをご存知の方も多いでしょう。

民事の不法行為についても、責任能力がないと判断されると、加害者となった方自身は損害賠償義務を負担することにはなりません。ただ、ご家族の方など、その保護・介護をする方などの監督義務者が、加害者自身に代わって責任を負う必要が出てくる場合があるということも十分理解が必要です。

(2) 損害賠償のために必要になること ~ 交渉・手続きなどの必要性

「自分が加害者となったのなら、損害賠償をきちんと行いたい」と考えている方がほとんどでしょう。しかし、考えただけで損害賠償ができるわけではありません。損害賠償をするための行動が必要になるということです。

損害賠償のための具体的な行動としては、対物であればその所有者や弁護士などその代理人と、対人であれば被害に遭われた方ご本人やその代理人と、必要な交渉・話し合いが必要になります。また、交渉・話し合いを行う上でも、交渉・話し合いを受けて実際の損害賠償を行う場合でも、それぞれに必要な手続きがあります。

たとえば交通事故であれば、事故証明書、事故発生状況報告書、被害に遭われた方の診断書などの書類が、補償の手続きを行う場合に最低限必要になります。他にも被害に遭われた方の状況、交渉の内容によっては、必要となる書類も手続きも変わってくると考えられます。このような交渉・手続きが、あらゆる事件・事故で必要になるということです。

認知症・高齢者の方に起きるトラブルを補償できる総合補償制度↓↓↓

参考:
公益社団法人 みやざき被害者支援センター
刑事手続きの流れ
http://www.miyazaki-shien.or.jp/victim/flow/

4. 万が一を考える ~ 事件・事故の加害者になるリスク

「図-万が一の備えとして検討したいこと」

社会で生きるということは、それだけ事件や事故の加害者になるリスクがあるという一面があることは否定できません。つまり、認知症のある方を含む高齢者にとっても、事件・事故の加害者になるリスクを考慮しつつ、社会と関わりながら生活することが重要になると言えるのではないでしょうか。

ではどのような点を考慮すればよいのでしょうか? その視点として、少なくとも以下の4つが考えられます。

(1) 「事件・事故の加害者になる」というリスクを管理する ~ 年齢には関係がない

まずは、「事件・事故の加害者になる可能性は、認知症のある方もない方も、高齢者にも若い方にも、どなたにでもある」ということを正しく理解することが、事件・事故の加害者になるリスク対策の第一歩と言えるでしょう。このことを事実として受け止められれば、認知症のある高齢者やそのご家族にとっても、万が一に備えた対策が必要であることを理解できるのではないでしょうか? 

「私は大丈夫、私には関係がない」と思いたいのはヤマヤマですし、人の人情というもの。これまで長く社会で生きてきた高齢の方々にとって、「今まで大丈夫だった」という経験値があるのは当然のこととも言えます。だからこそ、「誰でも事件・事故の加害者になる可能性があるのだ」という理解が必要なのだということです。

「何も対策をしない」こと自体が、「事件・事故の加害者になるかもしれないというリスクの理解不足」と考えるきっかけになると言えるかもしれません。

(2) 自分たちだけですべてできるのか? という問題

では、具体的にどのような対策が考えられるでしょうか? 一つ考えられるのは、本人だけ、本人たちだけで対策をするという方法です。

高齢者の方ご自身やそのご家族の方が自ら考えるということは、非常に重要なことです。特に、活動範囲などから「どのような事件や事故の加害者になりえるか」を考えることは、必要な対策を考える出発点でもあります。

ただ、その対策をすべて自分たちだけでできるかと言えば、それは不可能でしょう。交通事故の場合ですらさまざまな手続き・交渉などが必要ですし、それも画一的なものばかりではありません。これをあらゆるリスクにまで広げ、そのケースごとに対策を考えるということは非現実的なことでもあるのです。

(3) 福祉サービスの限界

 生活困窮や介護疲れなどが原因となって犯罪に至るケースがあることを考えたとき、福祉サービスの積極的な活用は、高齢の方の事件や事故を抑制する効果が一定程度期待できます。一方で、高齢者福祉サービスを利用しているから大丈夫、十分であるとは言えません。福祉サービスが提供しているのは基本的には日常の生活面でのサービスであり、事件や事故の加害者になった場合のサポートサービスではないからです。
 
(4) 必要なサービスを検討する

「事故や事件の加害者になる可能性」を考慮し、必要となるサービスを検討・利用するときに重要になることには、被害者に対する損害賠償はもちろん、その損害賠償を行うために必要となる手続きや交渉という視点が考えられます。

損害賠償をきちんと行いたくても、体力的、精神的、認知症の進行、手続き自体の難易度などの問題から、その手続きを行うこと自体が難しくなる場合を考える必要があるということです。

つまり、「利用するサービス」は、単にお金の問題だけでなく、「その領域の専門家による、手続き上の支援を受ける」という面からも、検討することが必要だということです。

① 事件・事故の加害者になるリスクに備えて ~ 保険の種類

とはいえ、事件や事故の加害者になるというリスクに対しては、まずは金銭面の対策が必要でしょう。そこで考えられる対策としては、被害に遭われた方やその所有者への賠償責任に対する保険、損害賠償に関わる弁護士費用に関する保険の利用があります。

たとえば自動車保険は、万が一事故を起こしてしまった場合に、対物・対人への損害を補償するものとしてなじみ深いものでしょう。同じような保険が自動車に限らずあるということです。とはいえ、高齢の方、特に認知症のある方が加入できる賠償責任に対応した保険は限られているという現実がある点には注意が必要です。

② 成年後見人制度の利用

 成年後見制度とは、認知症などの理由で判断能力が不十分な方の保護・支援制度で、ご本人の意思を尊重し、かつ、心身の状態や生活状況に配慮しながら、福祉サービスを利用する際の契約や財産の管理などを行うものです。

 この制度自体は、事件や事故の加害者となった場合の支援制度ではありません。ただ、特に法定後見人や市民後見人には、弁護士をはじめ、事件・事故の加害者になった場合の対応等に精通されている方も多く、また、組織化もされていることから、専門的な支援のための橋渡しを行ってもらえる可能性が高いと言えます。

特に認知症のある方を含む高齢者のご家族の方が、交渉・手続き・契約などに不慣れだという場合など、制度自体の利用を検討すると良いのではないでしょうか。 

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参考:
国交省 自動車総合安全情報ホームページ
自賠責保険について知ろう!
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/index.html
交通事故にあったとき、どうすればいいのか?
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/correspondence.html

厚労省ホームページ
介護・高齢者福祉
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html

法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

最後に

日本は、超・超高齢社会と言われるような社会です。社会の担い手として、あるいはご自身の生活の充実も含め、高齢の方が社会で活動・活躍する場は広がっていると言えます。これは、認知症のある方にとっても同様です。一方で、活動の場、活躍の場が広がれば広がるほど、事故や事件の加害者となるリスクを高めることにもなります。

事故や事件の加害者になってしまった場合、相応の損害賠償などが高齢であるか否かによらず求められることから、「万が一」に備えることは、やはり重要と言えるでしょう。

ただ、万が一の備えを自分や自分たちだけで行うのは非現実的です。かかる費用面などへの備えとしてだけでなく、専門家の視点や知識などの面から支援が受けられるという意味で、保険や成年後見人制度の利用などを検討することは、非常に重要なことと言えるのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
厚労省ホームページ
介護・高齢者福祉
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html

内閣府ホームページ
特集 「高齢者に係る交通事故防止」I 高齢者を取りまく現状
http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/gaiyo/features/feature01.html

法務省ホームページ
平成29年版 犯罪白書
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/mokuji.html
平成29年版 犯罪白書の概要
http://www.moj.go.jp/content/001240287.pdf
平成28年版 犯罪白書 (高齢者・障害者犯罪)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/63/nfm/mokuji.html
平成20年版犯罪白書 第二部 特集「高齢犯罪者の実態と処遇」
http://www.moj.go.jp/content/000010212.pdf
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

公益社団法人 みやざき被害者支援センター
刑事手続きの流れ
http://www.miyazaki-shien.or.jp/victim/flow/

国交省 自動車総合安全情報ホームページ
自賠責保険について知ろう!
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/index.html
交通事故にあったとき、どうすればいいのか?
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/correspondence.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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