軽度認知障害(MCI)とは? 初期症状と診断後の悪化を防ぐために

MCIイメージ
高齢者・認知症

はじめに
軽度認知障害(MCI)とは、認知症の前段階とも言われています。適切な対応が取られない場合、認知症になる確率が非常に高い状態と言うことができるようです。

ここでは、そのような軽度認知障害について、その初期症状や認知症との関係、診断された後の対応について、まとめています。



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1.軽度認知障害とは?

軽度認知障害は、物忘れという主症状が見られるものの、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態のことを言います。その後の経過との関係から正常と認知症の中間、あるいは、認知症の前段階と考えられています。

(1) 軽度認知障害の定義

以下の状態がすべて当てはまるとき、軽度認知障害とされます。

① 年齢や教育レベルの影響だけからは説明できない記憶障害がある
② 物忘れ、がご本人またはご家族の方から訴えられている
③ 理解・判断・論理などの全般的な認知機能は正常範囲である
④ 日常生活動作は自立している
⑤ 認知症ではない

(2) 軽度認知障害のある方の数

厚労省が発表した2012年の調査結果によれば、全国の65歳以上の方のうち、軽度認知障害のある方は約400万人と推計されています。なお、同じ時点で認知症を患う方の数は462万人と推計されています。

つまり、2012年の時点で既に860万人以上の方が認知症または認知症予備軍とも呼べる軽度認知障害を患っていることになるのです。

これは、65歳以上の方の4人に1人という非常に高い割合です。

参考:
厚労省
eヘルスネット ホームページ
軽度認知障害(けいどにんちしょうがい)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-033.html

国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf

2.軽度認知障害の4つのタイプ

「図-軽度認知障害の4つのタイプ」
軽度認知障害の4つのタイプ

上記のとおり、軽度認知障害は、そもそもは記憶障害があることが前提になっていました。一方、軽度認知障害を認知症の前段階という視点から見ると必ずしも記憶障害を伴わないケースがあることがわかっています。

このようなことから、最近では記憶障害の有無と記憶障害以外の認知機能障害の有無、障害の数、の3つの視点から、4つのタイプ分類されることが多くなっています。

認知障害のタイプ

なお、認知機能障害とは、判断・計算・理解・学習・思考・言語などを含む脳の高次の機能に見られる障害のことを指します。

参考:
厚労省
eヘルスネット ホームページ
軽度認知障害(けいどにんちしょうがい)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-033.html

国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf

3.軽度認知障害の予後 ~3つのシナリオと認知症にまで進行する可能性とその後

「図-軽度認知障害の発症とその後」
軽度認知障害の発症とその後

人の認知機能は、年をとっていくに従い誰しもが衰えていきます。これは、身体機能に置き換え考えるとわかりやすいかもしれません。

筋力の衰え・柔軟性の衰え・関節可動域の狭まりなどの体の外部機能の衰えだけでなく、心臓や消化器官などの体の内部機能の衰えなど、加齢による衰えは誰にでも見られることです。

ただこの衰え方には、正常範囲のものとそうでないものとがあると考えられます。

知症は基本的には治ることがないと言われるように認知機能が衰えた場合、基本的には治ることはないと考えられます。一方で、軽度認知障害となっている状態とは、その症状が見られた時点の年齢に比較して、認知機能が正常の範囲を外れた状態。

つまりその後、将来に渡ってどうなるかは、3つのシナリオが描けるということでもあります。

(1) 正常に近い状態を維持する(回復)

認知機能が、その年齢の方々と比較しても同程度、あるいは、大きな差がない状態と言えます。

つまり、一生の間のある段階で軽度認知障害になったとしても、その後認知機能を衰えさせず維持できれば、ある年齢にまで達する段階では、正常な範囲で認知機能が衰えた方と同程度になる可能性があるということです。

(2) 症状の進行を抑える(遅延)

認知機能が、その年齢の方々と比較すると劣ってはいるものの、認知症と呼ばれる状態までは進行していない状態と言えます。つまり、ある段階で軽度認知障害になったものの、その後の進行は正常な範囲で認知機能が衰える方と同程度の速さにできる可能性があるということです。

(3) 症状が進行する(認知症の発症)

もっとも問題になるのは、軽度認知障害となった以降、認知機能の衰えが正常な範囲にある方よりも速いスピードで進行することです。軽度認知障害となった時点で、認知機能は既に正常の方よりも衰えている上、その後も衰えていくのが速いという状況。

この状態となった場合、認知症を発症することにつながると考えられるということです。

(4) 症状が進行する割合

軽度認知障害から認知症に症状が進行する方は、年平均で10%程度だという研究結果があります。つまり5年後には、軽度認知障害と診断された方のほぼ半数の方が認知症を発症することになるということです。

もちろん、軽度認知障害の発見・発覚率の地域による差などもありますが、それでも相当数の方が、軽度認知障害から認知症発症への道をたどると言えるのです。

【関連記事】
認知症とは? 認知症の種類や症状
https://jlsa-net.jp/kn/ninchi/

参考:
国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf

4.もしかしたら? と思ったら・・・

同じことを何度も言う、同じことを何度も尋ねる、以前興味があったことへの関心をなくす、物忘れが激しい、家に帰れなくなる・・・

これらの症状は、認知症の症状でもありますが、そこまで進行していなくても、正常な状態からは外れている状態、つまり、軽度認知障害である可能性があります。一部の場合を除き、認知症が完治することはないことと同様、軽度認知障害も完治することはないと考えられます。

一方で、適切な治療などの対応を行えば回復したり、認知症の発症を遅延させたりできる可能性が高まります。

ただし、これらの物忘れにあたる症状は、年を重ねれば誰にでも見られる症状のため、加齢に伴う正常範囲のものか、そうでないのか見分けにくい面もあります。「もしかしたら」と思うようなことがあったら、早めに専門医に相談することをおすすめします。

なお、以下に、加齢による物忘れと認知症による物忘れとの症状の違いを示します。軽度認知障害を疑う場合の参考まで確認ください。

加齢による物忘れと認知症による物忘れとの症状の違い

5.軽度認知障害と診断されたら
(1) 症状の悪化を防ぐ

「図-軽度認知障害 ~症状の悪化を防ぐためのポイント」
軽度認知障害 ~症状の悪化を防ぐためのポイント

軽度認知障害の症状の進行を防ぐには、認知症の予防において有効性が実証されているものが参考にできるでしょう。

① 食事

魚を多く摂ると、アルツハイマー型認知症の予防になるという研究結果があります。これは、魚に含まれる不飽和脂肪酸という脂質が体の健康にも認知機能にも良い効果があるからです。不飽和脂肪酸は、血栓予防・抗炎症作用・降圧作用など多くの効果があることがわかっています。

また、ビタミンE・ビタミンC、βカロチンなどの抗酸化物質は、体が酸化することを抑制する効果が高いと言われています。

ただ、個々の栄養素だけに着目し、それだけを重点的に摂れば良いかと言われると必ずしもそうではないでしょう。ひとつの理由に、認知症の対策だけをすれば良いというわけではないということがあります。

また、対認知症という視点でも、「食べ物の種類や数を多くし、それらをバランスよく食べる。その際、特に外食等が増えると不足しがちな魚や野菜類を積極的に食べるようにすべき」とする意見も多く見られます。

② 運動

「体を動かさないことが、認知症、特にアルツハイマー型認知症になる確率が高まる」

このような研究結果が多く報告されています。たとえば、中年期に体をよく動かすとアルツハイマー型認知症に防御的に働き、結果、アルツハイマー型認知症になることを予防するというもの。他にも、体を動かさないことが、アルツハイマー型認知症の危険因子になるというものもあります。

認知症に限らず、身体を活発に動かすと、より元気に長生きできるということは、一般的にも言われていること。このことが認知症にも当てはまるということです。運動がアルツハイマー型認知症の予防効果をもつ理由としては、脳の血流が増加するという直接的な作用が考えられています。

他にも、神経成長因子への刺激作用、免疫機能に関わる作用も想定されています。

③ 呼吸

脳の状態を良好に保つことは、認知症の予防につながると考えられています。さらに、脳に良いこととは、心臓に良いことと言われています。心臓に良いこととして、真っ先に頭に浮かぶものに「呼吸」があげられるでしょう。

体の各臓器が正常に活動するには酸素が必要だからであり、中でも脳は他の臓器の10倍もの酸素を消費すると言われています。

つまり、しっかりとした呼吸により、脳に十分な酸素を送り込むことが、症状の悪化を防ぐことにもつながると考えられるのです。

「呼吸」というと、体内に酸素を取り入れるという意味で吸うことに意識がいきがちですが、重要なのは「息を吐くこと」です。というのも、息を吐き切ると自然に息は吸えるからです。このことは、水泳の息継ぎを考えるとわかりやすいのではないでしょうか? 

水中で十分に息を吐き切れば、息継ぎのときには、自然に、瞬間的に、そして、大量に息を吸えるのです。

同様のことは、歌をうたうときにも見られます。つまり、十分に、ゆっくりと息を「吐くこと」を中心に呼吸をすれば、酸素を十分に、また、少ない負担で体内に取り入れられると考えられるのです。

(2) 万が一に備えた準備の検討

軽度認知障害が判明した場合、その約半数が、5年以内に認知症まで進行することが明らかになっています。もちろん誰しもが「私は大丈夫」と思うものですが、万が一を考えた場合、症状が軽度の段階で将来に向けた準備をしていくことも必要かもしれません。

その場合、将来も含めたご自身の生活に関することは当然として、ご家族の生活のことやお金のこと、ご自身が犯罪などに巻き込まれるリスクに対応するものなど幅広く検討しておく必要があると言えます。後見人制度を利用することなども検討が必要な視点でしょう。

いずれにしても、「しくみを知っておくこと」で必要になったとき、必要な対応をすぐに取れるようにしておくことは大切だということです。

参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
認知症施策の現状について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000065682.pdf
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/

日本脳神経学会 ホームページ
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html

日本認知症学会 ホームページ
http://dementia.umin.jp/index.html

公益財団法人 日本看護協会 ホームページ
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html

国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf

最後に

軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階とのとらえ方があります。軽度認知障害を放置すると認知症にまで進行していく可能性が高まる一方、適切な治療や対応をとれば、回復や症状の進行を遅らせる確率が高まります。

このため、「もしかしたら」と思うようなことがあったら、なるべく早く専門医に相談することが大切です。

また、進行を遅らせる意味でも、あるいは、認知症の予防という側面からも習慣を見直すことも大切な視点になります。魚中心の食事、適度な運動、吐くことを中心にした深い呼吸などは、効果の高いものと考えられていますので、積極的に取り入れると良いのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
認知症施策の現状について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000065682.pdf
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
eヘルスネット ホームページ
軽度認知障害(けいどにんちしょうがい)

軽度認知障害

日本脳神経学会 ホームページ
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html

日本認知症学会 ホームページ
http://dementia.umin.jp/index.html

公益財団法人 日本看護協会 ホームページ
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html

国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE
軽度認知障害(MCI)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/3+4/11_3+4_252/_pdf

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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