認知症と難聴との関係 耳が遠くなると認知症になりやすい?

高齢者・認知症

はじめに
認知症と難聴との関係 耳が遠くなると認知症になりやすい? 認知症は、さまざまなことが原因となって発症すると言われています。その最大の要因は「加齢」。つまり、年を取ることではあるのですが、中には、本人の努力で、一定程度、その発症を遅らせたり、進行を遅らせたりすることが可能と考えられる要因もあります。

その一つに上げられる「難聴」について取り上げます。実は、加齢に伴い、難聴になると、認知機能の衰えが進行しやすいとも言われています。そして、大きな仮説の1つに、難聴と認知症には共通の原因があるのではないか、とするものがあります。

ここでは、そもそも耳が聴こえるしくみ、難聴の原因などを見つつ、難聴予防あるいは難聴になってしまった場合の対応について、見ていきます。



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1. 耳が遠くなると認知症になりやすい?
(1) 認知症発症リスクを高める要因 「図-認知症発症リスクを高める主な要因」
認知症発症リスクを高める主な要因

2015年の全世界の認知症患者は4700万人で、2050年までにその数は約3倍に増えると予想されています。

日本においてもその傾向は同様で、2012年で 462 万人と推計されていた認知症患者数は、2025年には700万人、あるいは、730万人になるとも推計されている他、さらに2050年には、1000万人を超えるとの推計もあります。

仮に2050年の日本の認知症患者数が1000万人となった場合、2050年の日本の総人口は9515万人になると推計されていることから、国民の9.5人に1人が認知症患者ということになります。

その一方で、認知症を治す治療法は、現時点では見つかっていませんが、これまでの研究などにより、認知症の発症リスクを高める要因が明らかになりつつあります。

先ごろ厚労省が発表した「2020年からの新しい認知症施策大綱案」によれば、その主な要因として、加齢、遺伝性のもの、高血圧、糖尿病、喫煙、頭部外傷、難聴等が上げられています。

【関連記事】
認知症とは? 認知症の種類や症状
https://jlsa-net.jp/kn/ninchi/

(2) ご本人の努力で改善可能な要因

上記を見てお気づきの点がないでしょうか? それは、「認知症発症リスクを高める要因のうち、いくつかは、ご本人の努力で改善が可能なのではないか?」という点です。

実際、英国の医学雑誌「Lancet」の認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会は、認知症の発症リスクを高める様々な危険因子のうち、本人が意図すれば改善可能な危険因子をまとめ、同誌に発表しており、また、この発表内容は、厚労省が発表した「2020年からの新しい認知症施策大綱案」でも参考にされています。

この中で、認知症の発症リスク低減において重要とされているのは、次の9つの危険因子で、小児期・中年期・高年期に分けて、当てはめる人が、当てはまらない人と比較してどの程度認知症になりやすいかを示す「相対リスク」と、その危険因子を持つ人がいなくなったら認知症患者が何%減少するかを表す数字である「人口寄与割合」を提示しています。

<ご本人の努力で、改善が可能とされる認知症の9つの危険因子>
ご本人の努力で、改善が可能とされる認知症の9つの危険因子

※相対リスク:当てはめる人が、当てはまらない人と比較してどの程度認知症になりやすいかを示す
※人口寄与割合:その危険因子を持つ人がいなくなったら認知症患者が何%減少するかを示す

【関連記事】
認知症を予防する ~認知症予防に有効な生活習慣と呼吸の重要性
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(3) 難聴対策は、3大認知症対策の一つ

それぞれの危険因子の「人口寄与割合」を合計すると35%という数字になります。つまり、「9つの危険因子の全てを排除できたとしたら、認知症患者を最大で35%減らせる可能性がある」ということになります。

ここで、「最大が35%」と言っているのは、これらの危険因子に複数あてはまる方もいらっしゃるからなのですが、いずれにしても、これらの危険因子の抑制が、認知症対策としても大きな可能性があると考えられるわけです。

また、人口寄与割合の大きさに着目すると、特に改善に力を入れるべきなのは、「全ての人が11~12歳以上になっても教育を受けられるようにすること」、「高齢の方の禁煙」、そして、「中年期の聴力低下の防止」、つまり、「難聴対策」が3大認知症対策ととらえられます。

参考
首相官邸
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/index.html
認知症のリスク因子について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/yusikisha_dai2/siryou5.pdf

厚労省
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000064084.html

BBC
予防できる認知症、9つの要因=英論文
https://www.bbc.com/japanese/40664963

2. 加齢性難聴
(1) 耳のしくみと難聴の関係

そもそも音を聴く役割を持つ耳は、次の大きく3つの機能で成り立っています。

① 外耳:音を集めて鼓膜まで伝える
② 中耳:音を増幅する
③ 内耳:音の振動を電気信号に変換する

つまり、音という振動を集め、増幅し、電気信号に変え、神経を通じて脳に伝えることで、意味のある情報として大脳に届けることで、音は聞こえ、意味が伝わるのです。

よって、この3つの機能のうち、いずれかが機能しないとき、あるいは、その機能が弱まったとき、音が聞こえにくくなる、音が聞こえなくなるということになります。これが「難聴」です。

(2) 加齢性難聴とは?

加齢以外に特別な原因がないものを「加齢性難聴」と言います。加齢性難聴はひと言でいえば、老化による聴覚機能の低下。特に、音を感知したり、増幅したりする機能が、加齢により低下することで生じるものが主な要因と考えられています。

その他にも、耳から脳へと音を伝える神経経路に問題が生じている可能性、あるいは、脳の認知能力が低下することも影響している可能性があるとされています。つまり、さまざまな原因が複数組み合わされて発生するのが加齢性難聴だということになります。

(3) 加齢性難聴の方の割合

加齢性難聴の患者数は年々増加しているとされています。

国立長寿医療研究センターの調査によれば、WHOが定義する「難聴」にあたる聴力レベルの方は65歳以上から急激に増え始め、75~79歳では男性71.4%、女性67.3%、80歳以上になると男性84.3%、女性73.3%が難聴という結果だったとされています。

この調査結果から推計すると、65歳以上の方の難聴人口は1500万人に上ることになります。

参考
国立長寿医療研究センター
認知症予防のために ~NILS-LSAの研究成果より~
http://www.ncgg.go.jp/cgss/department/ep/riskfactor.html

名古屋学芸大
認知症の要因と予防
https://www.nuas.ac.jp/IHN/report/pdf/07/02.pdf

3. 難聴による影響と認知症

「図-難聴の影響」
難聴の影響

(1) 難聴における生活への影響

聴力が低下すると、相手の声、話の内容が聞きとりにくくなります。このため、ご本人にとって、コミュニケーションをとるのが苦手になりやすくなると考えられています。

実はこれは周囲の方にとっても影響が出てくること。くり返し話しかけたり、大きな声を出さなければいけなくなったりと、コミュニケーション上の工夫や努力が必要になるからです。つまり難聴は、ご本人だけでなく、周囲の方々にも負荷がかかることになるわけです。

このような状況であることは、やがてご本人も気づくところになります。つまり、周囲の方へ負担をかけている自分に気づくようになるわけです。それが、ご本人にとっての大きな苦痛となっていった場合、町内のお付き合いが億劫になったり、外出を控えるようになったり、それを続けるうちにコミュニケーションの意欲が低下したりといった可能性を高めていくと考えられるのです。

(2) 難聴と認知症 ① 難聴があると認知機能が低下しやすい難聴は、生活への直接的な影響があるだけではありません。難聴があると認知機能の衰えが進行しやすいともされているのです。

まず「知識力」は、年を重ねても維持されやすい知的な能力とされているのですが、難聴がある場合には低下する傾向があることがわかっています。

また、「情報処理のスピード」は、一般的に50歳中頃以降に低下を示すとされていますが、難聴がある場合はより急速に低下することがわかっているのです。

これが、難聴があると認知症になりやすいとされる裏づけにもなっています。

② 難聴になると認知機能が低下しやすいのはナゼか? では、ナゼ難聴になると、認知機能が低下しやすいのでしょうか? そこにはいくつかの仮説が考えられています。

(1) 使わないことによる衰え?

人の体の機能は、使わないでいると衰えが進むとされています。これはたとえば「歩くこと」や「走ること」を取り上げてみると想像しやすいでしょう。これと同様のことが、認知機能についてもあてはまると考えられるというのが一つの仮説です。

つまり、知的な能力を十分に使わずに過ごすがために、その能力が少しずつ衰えていくのではないかということです。

難聴になるということは、外から入ってくる情報が少なくなるということ。それが結果的に知的な能力を使う機会を減らすことになり、その能力が低下していく可能性が考えられるということです。

(2) 脳の一時記憶機能の「使いすぎ」による衰え?

一方で、脳の一時記憶機能の使いすぎによる認知機能の衰えの可能性も指摘されています。「難聴の人は、日常生活の中で、耳から入ってくる少ない情報から内容を理解しようとする。

すると無意識のうちに、より多くの脳の一時記憶機能を使ってしまっている。それは、脳の一時記憶機能の<使いすぎ>の状態であり、それが慢性化することで認知機能が衰える」という仮説です。

たとえば、館内放送などが聴き取りづらいといった場合、それを聴き取ろうと、他の作業の手を止めて、それを集中して聴き取ろうとするもの。このようなことがくり返されることで、認知機能が衰えていくのではないかとも考えられるということです。

(3) 難聴と認知症は原因が同じ?

もう一つ大きな仮説は、難聴と認知症には共通の原因があるのではないか? とするものです。つまり、何らかのひとつの原因が、音を聴き取る感覚神経と、認知機能を司る中枢神経とに、同時に影響が及んだ結果、聴力の低下と認知機能の低下が同時に起こるとする仮説です。

脳にはたくさんの神経細胞が集まっているため、「いずれかの神経が影響を受けると、他の神経も影響を受ける」との考えに基づく仮説ととらえると、わかりやすいかもしれません。

参考
首相官邸
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/index.html
認知症のリスク因子について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/yusikisha_dai2/siryou5.pdf

国立長寿医療研究センター
認知症予防のために ~NILS-LSAの研究成果より~
http://www.ncgg.go.jp/cgss/department/ep/riskfactor.html

名古屋学芸大
認知症の要因と予防
https://www.nuas.ac.jp/IHN/report/pdf/07/02.pdf

4. 認知症予防・進行防止のための難聴予防と症状悪化対策

「図-難聴予防と症状悪化対策」
難聴予防と症状悪化対策

難聴と認知症との間に密接な関係がある、とした場合、どのような対策が効果的と考えられるのでしょう?

(1) 難聴を予防する

難聴は、「それを引き起こすすべてのメカニズムは解明されておらず、また、治療をしても元の聴力に戻すことはできない」とされています。つまり、難聴防止対策の中心は「予防」ということになるわけです。

一方で、難聴の危険因子として、特に大きな原因と考えられているのは「騒音」とされています。若いころに大きな音を長期間に渡って聴いていると、年を取ってから難聴になるリスクは高くなるとされているのです。

大音量から耳を守るためには、「できるだけ大音量に耳をさらさないこと」。音楽を聴くときなどには適度な音量で聴くことが、まずは予防のポイントと言えるわけです。しかし、仕事上、騒音にさらされる方もいらっしゃるでしょう。

その場合には、耳栓を利用するなどして、過剰な音量にさらされない工夫をすることも大切になると考えられます。

(2) 補聴器を使う

耳が聴こえづらい、あるいは、周囲の方からみて「耳が聴こえていないようだ」と感じるようであれば、まずは耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることが大切でしょう。

高齢の方の場合、難聴の原因が、実は「耳垢」という場合もあるとのこと。自浄作用が低下して、耳の奥に耳垢がたまってしまうことがあるのです。その意味でも、耳鼻咽喉科を定期的に受診することも必要なのかもしれません。

その上で、「やはり聴力が低下している」ということであれば、補聴器の利用を考えたいところです。先にみた難聴と認知機能の低下との関係から、補聴器を使うことが認知症予防にも役立つのではないかと期待されているからです。

聞こえにくい状態が続いていると、その状態に脳も慣れているとのこと。そのため、補聴器を利用し始めると、ちょっとした生活音ですら不快に感じるようですが、多くの場合は、3カ月程度で慣れるとされています。その後の認知機能の低下リスクを考えると、早めの対策が必要と言えるでしょう。

参考
首相官邸
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/index.html
認知症のリスク因子について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/yusikisha_dai2/siryou5.pdf

国立長寿医療研究センター
認知症予防のために ~NILS-LSAの研究成果より~
http://www.ncgg.go.jp/cgss/department/ep/riskfactor.html

名古屋学芸大
認知症の要因と予防
https://www.nuas.ac.jp/IHN/report/pdf/07/02.pdf

最後に

認知症の発症リスクを高める要因のうち、ご本人の努力で、一定程度、その発症を遅らせたり、進行を遅らせたりすることが可能と考えられる因子が9つあると言われています。

そのうちの一つが「難聴」です。つまり、難聴になることを防止することが、認知症の発症予防に効果があると考えられているということです。

難聴が認知症の要因となる理由としては、いくつかの仮説が考えられています。そのひとつは、生活の中で、耳が聴こえないがために外部からの情報が少なくなり、結果、知的な能力を利用する機会が減ることで、認知能力が低下していくというもの。

もうひとつは、逆に聴こえないがために、耳から入ってくる少ない情報で内容を理解しようとするために、脳の一時記憶機能の使いすぎの状態に陥り、それがくり返されることで認知機能が低下するというもの。

もうひとつは、難聴と認知症とは、同じ脳神経の機能の低下が原因ではないかというものです。

いずれの原因であったとしても、難聴対策は、より質の高い生活をしていくという意味でも、非常に大切だと考えられるのです。

難聴から耳を守る方法は、「できるだけ大音量に耳をさらさないこと」。日頃から大音量や騒音にさらされないよう心がけることは有効な対策と考えられます。また仮に難聴になってしまった場合は、補聴器の使用を検討することが大切とも言われています。

とはいえ、自分の聴力が低下しているかは、なかなか気づきにくいもの。周囲の方がその状況に気づいたら、耳鼻咽喉科の受診をすすめることも大切でしょうし、また、定期的な聴力検査なども必要な対策と言えます。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考
首相官邸
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/index.html
認知症のリスク因子について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/yusikisha_dai2/siryou5.pdf

厚労省
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000064084.html

国立長寿医療研究センター
認知症予防のために ~NILS-LSAの研究成果より~
http://www.ncgg.go.jp/cgss/department/ep/riskfactor.html

名古屋学芸大
認知症の要因と予防
https://www.nuas.ac.jp/IHN/report/pdf/07/02.pdf

BBC
予防できる認知症、9つの要因=英論文
https://www.bbc.com/japanese/40664963

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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