75歳以上の高齢者の方が起こす交通事故と認知機能

成年後見制度

はじめに
 75歳以上の高齢者の方が起こす交通事故と認知機能について。平成31年3月下旬、「交通死亡事故の14%が75歳以上の高齢者」で「その比率が過去最高を更新した」と、新聞各社やTV局など報道機関各社が一斉に報じました。そして、事故を起こした方の半数に共通することがあることもまた、同様に報じています。それは、「認知機能低下の恐れ」。

ここでは、その事実を振り返りながら、そもそも認知機能とは何か? 事故の加害者となってしまうリスクへの備えなどについてまとめています。

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1. 75歳以上の方が起こす交通死亡事故の現状

「図-75歳以上の方が起こす交通事故」

2018年、交通事故による死亡者数は3532人と、過去最低を更新。実は交通死亡事故は、年々減少傾向にあります。加害者側に目を向けると、交通死亡事故を起こした方のうち、75歳以上の方は460人だったのですが、問題は、この方々が、認知機能上の問題を抱えていた可能性が高いという点にあります。

自動車の運転免許制度において、認知機能検査は、75歳以上の方の免許更新時や、特定の違反をしたときに受けることとされています。

その検査結果により、「認知症の恐れ」「認知機能低下の恐れ」「低下の恐れなし」に振り分けられるのですが、「認知症の恐れ」と判定された場合、医師の診断を受けることが義務づけられており、「認知症」と診断されると免許取り消し・停止となります。

ところが、交通死亡事故を起こす以前に認知機能検査を受けていた414人のうち、約半数にあたる方が「認知症の恐れ」あるいは、「認知機能低下の恐れ」との判定を受けていたことが判明しました。

それぞれの割合は、5%程度、44%程度になっていますが、いずれにしても、「認知機能低下」が原因で、交通死亡事故を起こしている可能性が示唆される結果となっているのです。実際、警察庁も同様の認識をしているとのことです。

参考:
警察庁
平成30年における交通死亡事故の特徴等について
https://www.npa.go.jp/news/release/2019/20190212001jikosibou.html

日本経済新聞
死亡事故の高齢運転者、半数が認知機能低下などの恐れ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42596990Y9A310C1CC1000/

2. 認知機能と交通事故
(1) 認知機能とは?

そもそも認知機能とは、理解、判断、論理といった、知的な機能のことを指します。より具体的に言えば、記憶、計算、学習、言語などの能力であり、それを利用して思考したり、物事を論理的に理解、判断したりする能力と言うことができます。

認知症の恐れ、あるいは、認知機能低下の恐れということは、これらの能力の活用に問題が発生しているということになります。

(2) 認知機能の衰え方

「図-認知機能の衰え方のイメージ」

 このような能力である認知機能は、加齢とともに衰えることがわかっていますが、その一方で、その衰え方は人それぞれであり、いつ衰えるか、どの程度衰えるかもまた人それぞれとされています。

 「衰える」と言うと、私たちはつい、「徐々に」「少しずつ」とイメージしがちかもしれません。しかし、実際の衰え方は、ある時急激にという場合もあると考えられます。つまり、上図のように、衰え方にはさまざまなパターンが考えられるということです。
 
(3) 認知機能の低下が交通事故を起こす可能性

 認知機能の低下が、「障害」と呼ばれるレベルにまでなると、軽度認知障害と診断されたり、認知症と診断されることになるわけですが、その衰え方が急激な場合、「診断はされていなくても、軽度認知障害であったり、認知症の状態であったりする可能性」はあります。

 そして、この認知機能の低下が、交通死亡事故につながっている可能性が高いと、2018年の統計からは示唆されるのです。

(4) 認知機能に問題がある方が、「知らぬ間に運転してしまう」という可能性

しくみ上は、免許返納制度や、認知症と診断された場合の免許取り消し・停止などがあるのですが、現実的な問題としては、認知症のある方が車を運転してしまう可能性はあります。

認知症の症状は、常に同じ状態というわけではないとされています。好不調の波があるとされているのです。ということは、「あるタイミングで、自分が運転していたことを思い出し、また、何らかの理由で車を運転したいと思い、そして、実際に行動してしまう」こともありえるということです。

そして、「運転し始めたは良いが、途中でわからなくなる」といったこともまた、起こりえるわけです。

参考:
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 e-ヘルスネット
認知機能
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-043.html

3. 交通事故を起こすと何が待っているのか?

では、万が一、交通事故を起こした場合、どんなことが待っているのでしょうか? ここでは、交通事故全般や事件なども含めてみてみます。

(1) 損害賠償は、ご本人だけでなくご家族にも求められる可能性がある

事件や事故の加害者になった場合、どのようなことが必要になるのでしょう?

一つには、罪に服すというもの。服役や罰金などのことで、刑事罰と呼ばれるものです。

もう一つは、損害賠償です。物を壊したなどの場合であれば、その物自体を補償することが必要ですし、人に何らかの危害を加えた場合には、その被害を受けられた方に対する損害賠償が必要になります。

認知症のある高齢者の方の場合、責任能力がないとされて刑事責任が問われなかったり、軽減されたりといったことがあることをご存知の方も多いでしょう。民事の不法行為についても、責任能力がないと判断されると、加害者となった方自身は損害賠償義務を負担することにはなりません。

ただ、ご家族の方など、その保護・介護をする方などの監督義務者が、加害者自身に代わって責任を問われる場合があることはあるのです。

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(2) 損害賠償には、交渉・手続きなどが必要になる

「自分やご家族の方が加害者となったのなら、被害に遭われた方への損害賠償をきちんと行いたい」と考える方がほとんどでしょう。しかし、考えただけで損害賠償ができるわけではありません。ここで問題になるのは、損害賠償をするための行動が取れるのかという点です。

損害賠償のための具体的な行動としては、対物であればその所有者や弁護士などの代理人と、対人であれば被害に遭われた方ご本人やその代理人と、必要な交渉・話し合いが必要になります。また、交渉・話し合いを行う上でも、交渉・話し合いを受けて実際の損害賠償を行う場合でも、それぞれに必要な手続きがあります。

交通事故であれば、事故証明書、事故発生状況報告書、被害に遭われた方の診断書などの書類が、補償の手続きを行う場合に最低限必要になります。他にも被害に遭われた方の状況、交渉の内容によっては、必要となる書類も手続きも変わる面もあります。このような交渉・手続きが、あらゆる事件・事故で必要になるということです。

このような「決して慣れてはいないこと」に、適切な対応が取れるのかは、非常に大きな課題と考えられるのです。

参考:
内閣府
特集 「高齢者に係る交通事故防止」I 高齢者を取りまく現状
http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h29kou_haku/gaiyo/features/feature01.html

国交省 自動車総合安全情報
交通事故にあったとき、どうすればいいのか?
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/correspondence.html

4. 万が一への備えの必要性

「図-万が一への備え」

(1) 日頃の行動面からの備え

 では、認知機能の衰えについて、具体的にどのような対策が考えられるでしょうか? まずは、日頃の行動面からの備えについて考えてみます。

① 観察の重要性

 まず何より重要なのは、「観察」ではないでしょうか。

 認知症では、その中核症状として、記憶障害、理解・判断力障害、実行機能障害、見当識障害が見られる他、行動・心理面での症状として、妄想、幻覚、せん妄、徘徊、抑うつ、人格変化、暴力行為、不潔行為などが見られるケースがあることがわかっています。

中でも「記憶障害」と、「食事や排泄、移動や整容、入浴などと言った、日常生活を送る上で最低限必要な基本的行動を指すADLにおける障害」が見られる場合、認知機能の低下が疑われるという報告があります。また、買い物や金銭管理の障害は最も軽度認知障害を予測するという報告もあるようです。

よって、このようなポイントで、何か課題を抱えていないか、一人でできないことはないかといった「観察」は、非常に大切な行動と考えられるのです。

② 認知機能の測定

 次に考えられるのは、認知機能の測定です。

認知機能の測定法として簡易的で、かつ、有名なものに長谷川式簡易知能評価スケールという質問表があります。この検査で20点以下の場合には、認知症専門医による鑑別診断(認知症の初期と他の精神神経疾患との鑑別、認知症の原因疾患の鑑別を行う)が必要とされています。

つまり、認知症の詳細の判定はできないまでも、認知機能の低下については気づくことができると考えられるわけです。

なお、長谷川式簡易知能評価スケールの質問項目とその評価方法は次のとおりですが、「やってみると意外に難しい」と感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

③ 運転免許の返納

「現実問題」としての課題はあるとはいえ、それでも運転免許の返納は、対策としてできることの一つでもあります。

運転免許の自主返納制度は、1998年からスタートしています。また、運転免許証を自主返納しやすい環境づくりのため、各自治体が、それぞれ「高齢者運転免許自主返納サポート制度」を行っています。

運転免許証を自主的に返納すると「運転経歴証明書」が交付され、これをこのサポート制度の加盟企業等に提示すると、さまざまな特典を受けられるしくみです。

なお、この特典は都道府県ごとに異なりますが、たとえば、タクシーの利用の補助、購入商品の割引や自宅までの無料配送、宿泊料金等施設利用料金の割引などがあるようです。

(2) 必要なサービスを検討する視点

これまで見てきたように、各自でやれることは複数あると考えられます。

とはいえ、「事件等の加害者になる可能性」を考慮し、必要となることを考えていくと、さまざまな手続きや交渉が必要になることもわかるでしょう。

さらに、既に見たように、実際に事故の加害者となった場合には、被害者に対する損害賠償はもちろん、その損害賠償を行うために必要となる手続きや交渉などを行う必要があります。ということは、損害賠償にかかる費用面と、その対応にかかる負担とを考慮した上で、必要なサービスを検討することが大切になってくるのです。

① 事故等の加害者になるリスクに備えて

費用面での対策という点で言えば、真っ先に思い浮かぶものに保険の利用があるでしょう。具体的には、被害に遭われた方やその所有者への賠償責任に対する保険、損害賠償に関わる弁護士費用に関する保険の利用があります。

たとえば自動車保険は、万が一事故を起こしてしまった場合に、対物・対人への損害を補償するものとしてなじみ深いものですが、認知症のある方が自動車保険に加入することは、原理的に不可能です。というのも、認知症と診断されたら、運転免許は取り消し・停止となるからです。

問題は、「それでも運転してしまい、事故を起こしたらどうなるのか?」ということです。この点を保障するような保険は極めて少ないと考えられますが、それでも、高齢の方、特に認知症のある方が加入できる「賠償責任に対応した保険」はあると考えられます。

運転における事故に範囲を限定せず、事件を起こしてしまう可能性なども検討の上、各保険会社やその代理店等にご相談してみるとよいのではないでしょうか。

② 成年後見人制度の利用

 成年後見制度とは、認知症などの理由で判断能力が不十分な方の保護・支援制度で、ご本人の意思を尊重し、かつ、心身の状態や生活状況に配慮しながら、福祉サービスを利用する際の契約や財産の管理などを行うしくみです。

この制度自体は、事件や事故の加害者となった場合の支援制度ではありません。ただ、特に法定後見人や市民後見人には、弁護士をはじめ、事件・事故の加害者になった場合の対応等に精通されている方も多く、また、組織化もされていることから、専門的な支援のための橋渡しを行ってもらえる可能性が高いと言えます。

特に認知症のある方を含む高齢者のご家族の方が、交渉・手続き・契約などに不慣れだという場合など、制度自体の利用を検討すると良いでしょう。

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参考:
国交省 自動車総合安全情報
自賠責保険について知ろう!
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/index.html
交通事故にあったとき、どうすればいいのか?
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/correspondence.html

法務省
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

神奈川県警察
神奈川県高齢者運転免許自主返納サポート
https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mesf0224.htm

一般社団法人日本老年医学会
認知機能の評価法と認知症の診断
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_02.html

最後に

2018年、交通事故による死亡者数は3532人と、過去最低を更新しましたが、その一方で、その事故の加害者となった75歳以上の方は460人で、その多くが認知機能上の問題を抱えていた可能性が高いことがわかりました。

もちろん、75歳以上の方のすべてが、認知機能が低下している状態というわけではありません。とはいえ、その傾向が強いのも事実ですし、それが急激に訪れる可能性もあります。日頃から認知機能上の問題がないかといった確認は必須でしょうし、早めの運転免許自主返納などを検討し、実際に行動に移すことも必要と考えられます。

ご自宅の地理上の問題など、運転免許を手放せない方もいらっしゃるでしょう。しかし、万が一のことを起こしてしまった時、それは、被害に遭われた方だけでなく、加害者となってしまったご本人、そして、ご家族の方の責任問題にも発展します。

そのリスクに備えること、そのリスクに敏感になることが、非常に大切だと言えるのではないでしょうか。その上で、保険や成年後見制度などを積極的に利用することを検討し、また、実際に利用していくことが必要だと考えられます。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 e-ヘルスネット
認知機能
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-043.html

国交省 自動車総合安全情報
自賠責保険について知ろう!
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/index.html
交通事故にあったとき、どうすればいいのか?
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/correspondence.html

法務省
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

警察庁
平成30年における交通死亡事故の特徴等について
https://www.npa.go.jp/news/release/2019/20190212001jikosibou.html

神奈川県警察
神奈川県高齢者運転免許自主返納サポート
https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mesf0224.htm

一般社団法人日本老年医学会
認知機能の評価法と認知症の診断
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_02.html

日本経済新聞
死亡事故の高齢運転者、半数が認知機能低下などの恐れ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42596990Y9A310C1CC1000/

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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