認知症や高齢の方への冬場の介護ケアの注意点

高齢者・認知症

はじめに
認知症を患う方など高齢の方々の介護をされる方々にとって、季節の移り変わりは意外に厄介なものではないでしょうか。

常に同じ気候であれば、介護のポイントも常に一定でよいとも考えられる一方で、季節があるということは、その特徴を考慮した介護が必要になるからです。

季節の中でも、冬場は死亡率の高い季節。冬場の特徴から、重大事故につながるリスクが高い季節とも言えます。そこでここでは、夏場とは異なる冬場の介護ケアのポイントについてまとめています。



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1. 認知症の症状と冬場の特徴の関係
(1) 冬場の特徴

日本には四季があります。その中で冬場の特徴と言えば、何よりも「寒い」ということが上げられるでしょう。また、日照時間が夏場と比較して短いことや、他にも太平洋側を中心とした乾燥、日本海側を中心とした雪などもあげられます。

認知症を患う方を含む高齢の方々の介護においては、これらの冬場の特徴を踏まえて行うことが大切と言えます。

(2) 認知症に見られる症状

認知症には次のような症状としての特徴が見られるとされています。

① 記憶障害

自分が体験した過去の出来事に関する記憶が抜け落ちてしまう障害のことです。認知症の場合、最近のことから忘れていくという特徴があります。

② 理解・判断力障害

日常生活の些細なことでも判断することができなくなる障害です。料理を作るときどの食材を使えばいいかといった、日常生活の些細なことでも判断できなくなるという特徴があります。

③ 実行機能障害

ある目標に向かって、計画を立てて順序よく物事をおこなうことができなくなる障害です。計画的に買い物ができなくなったり、家電製品の使い方がわからなくなったりするというような特徴があります。

④ 見当識障害

時間・場所・人物や周囲の状況を正しく認識できなくなる障害です。今日の日付や曜日、今自分がいる場所や、家族も含めた他者と自分との関係などがわからなくなるというような特徴があります。

【関連記事】
認知症とは? 認知症の種類や症状
https://jlsa-net.jp/kn/ninchi/

(3) 認知症に見られる症状と冬場の関係

実は冬場は、死亡率が高まる時期であることが統計上明らかになっているのですが、それは上記で見たような認知症の症状と、冬という季節の特徴と無縁とは言えないでしょう。たとえば、

「見当識障害により、冬場であるという認識が薄れ、寒さなどを認識しにくくなる」
「寒いと認識しても、理解・判断力障害により、適切な対応をするという判断が的確にできなくなる」
「実行機能障害により、寒いと感じ、それに対応しようとしているのに、暖房器具を的確に扱えない」といった可能性が考えられるということです。

参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/

鹿児島大学獣医学部
日本人の健康リスク: 生命表(5)
http://www.vet.kagoshima-u.ac.jp/kadai/V-PUB/okamaoto/vetpub/Dr_Okamoto/Moromoro/ST5.htm

2. 冬場の介護の注意点 ~寒さと乾燥というキーワードから押さえておきたい注意点

 このような冬の時期の介護は、「寒さ対策」と「乾燥がもたらす問題への対応」という2つの視点で考えていくと良いのではないでしょうか。

(1) 衣服の問題

「図-冬場の衣服面での介護ケアのポイント」
冬場の衣服面での介護ケアのポイント

① より暖かさを重視しつつ、体の動かしやすさにも注目する

人は加齢に伴い体温調節機能が低下すると言われています。つまり、寒さ対策としての衣服の選択が非常に大切になるということです。

しかし「寒いのだから厚着をすればよい」とは言えません。厚着をすると、その分の服の厚みで体をうまく動かせなくなり、転倒などを含む事故につながる可能性があるからです。

また認知症が進むなどしている場合、夏着と冬着の違いを認識する能力が十分発揮できない可能性も考えられますし、屋内にいるときと屋外に出るときとでは、当然同じ衣服でよいというわけにはいかないでしょう。

その方の身体の状況、室温や気温、動きやすさなどを考慮しつつ、また、その機能性にも着目した衣服選びとその支援が重要になるということです。

なお、今では誰もが利用するようになったとも言える機能性衣料などは、一定程度以上利用すると防寒効果が薄れる場合もあるとされていますので、何年も着ているようなものには注意が必要な面もあります。

② 一人でできる=脱ぎ着のしやすさ、着心地

介護にあたっては、その方の持てる能力を最大限発揮できるよう支援することが重要。これは着替えについてもあてはまることです。麻痺などの障害がない場合でも、高齢の方にとって衣服の脱ぎ着は大変な面があります。

そのひとつの理由に、体の柔軟性の低下などがあります。

よって、あらかじめ前開きの衣服など、脱ぎ着のしやすいものを利用する方がよいとは考えられますが、すべて前開きの衣服というわけにはいかない場合もあるでしょうし、ご本人のお気に入りが頭からかぶるタイプのものである場合もあるでしょう。

そのような場合には、タグの部分などに名前を書くなど、前後がわかりやすくする工夫も必要かもしれません。また前開きの衣服でも、小さなボタンなど、とめるのが難しい場合も。大きなボタンのものを選択したり、付け替えたりといった工夫も大切です。

また、ファスナーもうまく利用できないケースもあるので、マジックテープ等を利用することも検討したいポイントです。

機能性という視点で言えば、ご本人にとっての着心地も重要。いくら脱ぎ着がしやすいものでも、ご本人の着心地が悪い物でないことは、最低限押さえておきたいことと言えます。

③ 重ね着に見られる高齢の方の心配

認知症の方を含む高齢の方が何枚も重ね着し、注意を促しても脱がないというケースは比較的多く見られるものです。

一つの理由として、衣服の脱ぎ着の仕方がわからなくなっていたり、寒暖の判断がうまくできなかったりといったことが考えられますが、他にも「冷えて風邪をひくかもしれない」など、心配や用心深さが理由になっている場合もあります。

このように「言っても聞かない」というケースでは、注意を促す方への信用・信頼が必ずしも十分でないケースも考えられますので、日頃からご本人が安心するような関係づくりが重要になると言えるでしょう。

④ 同じ服ばかりを着ているようなら、衛生面への配慮を

同じ服ばかりを着て、着替えを促しても他の服を着ないケースも多いようです。一つには、「いつもと同じであること」が、認知症を患う方を含む高齢の方に安心感を与えている面もあると考えられます。

とはいえ、本当の意味で「いつもと同じ」では、衛生面に問題があります。

この場合、同じ服を複数枚用意するなどすれば、自ら着替えをされる場合もあるようです。同じ服ばかり着る理由としては、ご本人のお気に入り、という場合もあるでしょう。

逆に考えれば、「ご本人が気に入るようなものが複数あれば」、自ら着替えをされる可能性も高まるということ。

機能性の部分だけではなく、「ご本人にとって」という視点に立ち、ご本人の趣味にあったものを選ぶことが、着替えに関する問題を解決しやすくなるとも考えられるのです。

(2) ヒートショックへの対策

「図-ヒートショックと高齢の方」
ヒートショックと高齢の方

① ヒートショックとは?

「ヒートショック」とは、温度の急激な変化がもたらす身体への悪影響、健康被害ととらえることができます。急激な温度の変化があると、血管が急激に拡張したり収縮したりするため、血圧が大きく変動しやすくなります。

この結果、失神の他、心筋梗塞や脳梗塞などを起こすことがあるのです。

このような急激な温度の上下の変化によって起きる「ヒートショック」は、家庭では冬場の入浴時がそのリスクが最も高くなります。

気温が低くなる冬場は、どの家庭でも暖房を利用されているでしょう。しかし、暖房をつけているのは、長くそこにいるリビングや自室だけ、という場合が多いと考えられます。

一方で、暖房のついていない脱衣場や浴室は、室温が10度以下まで下がっている場合が少なくありません。

このような寒い脱衣場で衣服を脱ぐというのは、体の表面全体の温度が 10 度程度急激に下がることを意味しています。すると血管は縮小し、血圧が上がるのです。

さらにその後、熱いお湯で満たされた浴槽に入ると、今度は一気に血管が拡張するので、血圧が下がることになります。

このような温度の乱高下と、それに伴う血圧の変動に身体が耐えられず、先に見たような悪影響、健康被害が見られるようになるのです。このような悪影響は、加齢とともに身体の機能が衰えている方、つまり高齢の方ほどあらわれやすいものとなっています。

独立行政法人東京都健康長寿医療センターが実施した調査によれば、1年間に全国で約1万7千人もの方が入浴時の「ヒートショック」により亡くなられ、そのうち8割以上にある1万4千人が高齢者の方であるとされています。

② ヒートショック防止の入浴ケアのポイント

このような「ヒートショック」による悪影響や健康被害を防止するには、入浴にまつわる一連の動作をする環境で、「なるべく温度差をなくすこと」が重要になります。その対策としては次のようなことが考えられます。

1) 入浴前に脱衣場・浴室を暖める
まずは脱衣場に暖房器具を設置するなどして、入浴前に暖めておくことです。もちろん浴室も暖めておきたいのですが、安全上電源を引けない浴室もあるでしょう。

このような場合は、熱いお湯で浴槽を満たした後、蓋をせずに湯気で浴室内を暖めておく、という方法が考えられます。浴室の窓を閉めておくことも大切です。

2) 風呂の温度は41℃以下、お湯に浸かる時間は10分以内を目安に
お湯に浸かると血管が拡張しますので、その温度にも配慮が必要です。また、お湯に浸かり続けると、「ぼうっとする」といった症状に代表される意識障害が起こる可能性がある他、やがて体温はお湯の温度にまで上昇、熱中症になってしまうこともあります。

入浴と死亡事故との関係については、厚労省などの研究班が報告書を出しているのですが、ここで推奨されている「41℃以下、10分以内」を目安に入浴することが、「ヒートショック対策」として有効と考えられるでしょう。

3) 浴槽からは急に立ち上がらない
なかなか気づきにくいものですが、浴槽でお湯に浸かっているとき、体には水圧がかかっています。その状態から急に立ち上がると体にかかっていた水圧が無くなり、圧迫されていた血管は一気に拡張することになります。

するとこのとき、脳に行く血液が減り、脳が貧血状態となって一時的な意識障害を起こすことがあります。浴槽内で倒れる危険もありますので、急に立ち上がらないことは非常に重要と言えます。

③ 入浴タイミングに注意 ~食事の直後や飲酒状態での入浴は避ける

高齢の方に限ったことではありませんが、食事を摂った直後や飲酒した状態での入浴は、心臓への負担が大きなものになると考えられます。

高齢の方の場合、食事後急激に血圧が下がる方が一定数いらっしゃることがわかっていますが、入浴が及ぼす血圧の変動がさらに体に影響を与えることになってしまいます。よって、食事直後の入浴は避けるべきと言えるのです。

これは飲酒時も同様です。また、飲酒時は滑りやすい浴室で体のバランスを崩し転倒する、入浴中に眠ってしまうなどして浴槽内で溺れるといった危険も高まりますので、そのような視点からも避けることが大切と言えるでしょう。

④ 入浴後ケアも忘れずに

1) 脱水症状は夏だけのものではない
入浴は体を清潔に保つだけでなく、リラックス効果も高いとされていますが、反面汗をかくものでもあります。脱水などのリスクを減らすためにも、入浴前と後にコップ1杯分の水分を補給することが大切です。

成人男性は、体重の60%程度が水分とされていますが、高齢になると体内の水分量が体重の約50%にまで減少するとされています。

また、認知症の症状により、温度の変化やのどの渇きに気づきにくくなる場合もあるなど、高齢の方は脱水症状を起こしやすいとされています。「ヒートショック」と同様、冬の脱水症状にも十分な注意が必要なのです。

2) 皮膚などのケアも
冬の特徴としては、他にも乾燥が上げられますが、これが肌荒れなど皮膚にも影響します。入浴の際は、皮膚の状態を確認できるタイミング。あざや床ずれなどが起きていないことを確認することも重要でしょう。

場合によっては保湿クリームなどを利用するなどするとよいでしょう。

(3) 空気が乾燥した冬場は感染症にも要注意!

空気が乾燥した冬場は、インフルエンザやノロウイルスなど、さまざまな感染症が流行しやすいシーズンでもあります。実際介護をされる方がウイルスを保有していて、免疫力の低下した高齢の方が感染、発症というケースも少なくないと考えられます。

加湿器を利用して部屋の湿度を一定程度以上に保つことや、ドアノブなど多くの方が手を触れる場所のアルコール消毒、うがいと手洗いの徹底、マスクの着用など、できるかぎり予防に努めることが大切と言えます。

参考:
首相官邸
感染症対策特集~様々な感染症から身を守りましょう~
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/index.html

消費者庁
冬場に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/160120kouhyou_2.pdf

地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
冬場の住居内の温度管理と健康について
https://www.tmghig.jp/research/release/cms_upload/press_20131202.pdf

日本医師会
ヒートショックとは
http://www.kagoshima.med.or.jp/people/topic/2010/308.htm

3. 万が一の備えも重要

「図-冬場の「万が一」への備え」
冬場の「万が一」への備え

(1) 冬場の災害の可能性

冬場の介護ケアにおいては、災害の可能性を考慮しておくことも重要。災害により、停電などが起こる可能性も否定できません。実際、東日本大震災の時には、電力不足により「暖を取れないこと」が大きな問題にもなりました。

一度災害が起きてしまうと、誰もが「自分のことで精一杯」で、「介護を必要とされる方にまで気が向かない」といったケースも想定されます。

(2) 暖を取れる、そして、食べられる

防災グッズなどを用意されているご家庭も多いことと思いますが、特に認知症などによる介護を必要とされるご家族がいらっしゃる場合、「それに加えた準備=プラスアルファの準備」もしておくとより安心できると言えるのではないでしょうか。

冬場の「万が一の備え」の一つの視点は、「暖を取れること」でしょう。携帯カイロなどは、その一つの方法と言えます。

また、「食料」の視点も重要です。たとえば、防災食として利用されることの多い乾パンなど食料は、高齢の方は食べづらい場合も多く、「プラスアルファ」を検討しておきたいポイントでもあります。

介護食の他、温めなくてもそのまま食べられるパックご飯などが開発されるなどもしているようです。日頃からそのような情報を入手し、いざというときに備えることも、介護の一環として、とらえたい点と言えるのではないでしょうか。

参考:
首相官邸
災害に対するご家庭での備え~これだけは準備しておこう!~
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/bousai/sonae.html

政府広報オンライン
災害時に命を守る一人一人の防災対策
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201108/6.html

最後に

冬は死亡率の高い季節であることが、統計からも明らかになっています。これは、冬の特徴である寒さや乾燥も影響していると考えられます。そこで冬場の介護においては、服装、ヒートショック、脱水、ウイルスなど、「冬ならではの問題」に着目した対応が必要と言えるでしょう。

特にヒートショックは、実際にその健康被害にあわれる方の8割以上が高齢の方であることがわかってもいます。重大事故につながらないよう、ポイントを押さえた「あるべき対応」をしっかりと理解しておくことが重要と言えるでしょう。

また、冬場は災害など、万が一の事態が起きた時、大きな影響があることが否定できません。

介護を必要とされる方が、少なくとも「暖を取れる」、「食べられる」といったポイントは外さず、備えておくことも、介護の範囲として考えておきたいポイントと言えるのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
首相官邸
感染症対策特集~様々な感染症から身を守りましょう~
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/index.html

消費者庁
冬場に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!
http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/160120kouhyou_2.pdf

地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
冬場の住居内の温度管理と健康について
https://www.tmghig.jp/research/release/cms_upload/press_20131202.pdf

日本医師会
ヒートショックとは
http://www.kagoshima.med.or.jp/people/topic/2010/308.htm

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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