精神・発達障害しごとサポーターとは?
はじめに
精神・発達障害しごとサポーターをご存知でしょうか?精神・発達障害しごとサポーターは、発達障害を含む精神障害のある方が働く職場で、障害に関する正しい知識と理解を持って、発達障害を含む精神障害のある方を温かく見守り、支援する応援者のことで、国がその養成を推進しています。
ここでは、精神・発達障害しごとサポーターについて、求められる役割や、養成が進められる背景などを中心にまとめています。
1. 精神・発達障害しごとサポーターとは?
2. 精神障害・発達障害のある方の雇用の拡大 ~ 精神・発達障害しごとサポーターの養成の背景
3. 発達障害を含む精神障害のある方が職場定着するための支援の視点
最後に
1. 精神・発達障害しごとサポーターとは?
精神・発達障害者しごとサポーターとは、発達障害を含む精神障害のある方が働く職場で、障害に関する正しい知識と理解を持って、発達障害を含む精神障害のある方を温かく見守り、支援する応援者のことを言います。
障害があっても、その特性を踏まえ、希望や能力、適性に応じて活躍できることが普通の社会、障害者と共に働くことが当たり前の社会、つまり、共生社会の実現を、国は方針として掲げています。その一方で、発達障害を含む精神障害のある方の職場への定着は、必ずしも順調ではないと言われています。
もちろんその原因はさまざまではありますが、「職場で共に働く方が支援者となることで、職場への定着にまつわる一部の課題が解決できるのではないか」という考え方の下、2017年秋から、その養成講座が開設されました。
精神・発達障害しごとサポーターの役割は、「職場で、発達障害を含む精神障害のある方の見守りや、声かけを通じ、問題が起きることを事前に防ぐこと」です。
発達障害を含む精神障害は目には見えない障害。職場で共に働く方が必ずしも正しい知識を持っていないケースもあり、的確な接し方ができない場合も多いと考えられます。そこで精神・発達障害しごとサポーターの方に期待されるのは、「その中心となって、発達障害を含む精神障害のある方への必要な配慮ができるようになっていくこと」になるわけです。
その役割を考えた場合、精神・発達障害者しごとサポーターには、経営者や管理職、人事関連部署の担当者のみがなればよいというものではありません。むしろ一般の従業員の方が広くサポーターになっていくことが期待されていると言い換えることができるでしょう。
「図-精神・発達障害しごとサポーター養成講座の概要」
実際に精神・発達障害しごとサポーターになるには、精神・発達障害しごとサポーター養成講座を受講する必要があります。が、この講座は企業に雇用されている方であれば誰でも受講することが可能です。
精神・発達障害しごとサポーター養成講座は90分~120分の単日講座で、発達障害を含む精神障害に関する基礎知識や、共に働くために必要な配慮などを学びます。全国のハローワークに勤務する精神保健福祉士や保健師などを講師となっており、以下のような点を学ぶことができます。
1) 発達障害を含む精神疾患の種類
2) 発達障害を含む精神障害の主な特性
3) 共に働く上でのコミュニケーション方法やそのポイント など
なおこの講座の受講をすると、職場内で「自分は精神・発達障害に関して一定の知識、理解がある」ということを意思表示できる意思表示グッズが渡されます。
発達障害を含む精神障害のある方の雇用を安定させるポイントの1つは、その職場において、同僚となる方や上司となる方が、障害特性について理解し、共に働く上での配慮することが重要になります。しかし、企業で働く一般の従業員の方々が、障害等に関する基礎的な知識や情報を得る機会は限られているのが現実です。
そのため、一般の企業の従業員を対象として、精神障害、発達障害に関して正しく理解し、職場における応援者となるための講座が開設されることになったのです。
厚生労働省は、平成29年度に精神・発達障害しごとサポーターの養成費用として4,300万円の予算を計上しています。この名目での予算は前年まで無かったものですので、発達障害を含む精神障害のある方の雇用増加が見込まれる近年の状況を考慮し、職場への定着サポートの強化に、国が力を入れている事がわかります。
なおこの予算は、平成30年度には5,600万円に増額されています。ここからも、精神・発達障害しごとサポーターの養成に関する国の本気度がうかがい知れるのではないでしょうか。
精神・発達障害しごとサポーター養成講座は全国で実施されています。各都道府県の労働局・ハローワークが中心となって実施するものの他、事業所への出張講座を開催することも可能です。また、発達障害のある方を含む精神障害のある方の雇用でお困りのことがあれば、精神保健福祉士や臨床心理士の有資格者などに相談することもできるとのこと。
精神・発達障害しごとサポーター養成講座の開催に関して、くわしくは以下からご確認ください。
厚労省ホームページ
精神・発達障害しごとサポーター
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shigotosupporter/index.html
参考:
厚労省
精神・発達障害しごとサポーター
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shigotosupporter/index.html
国立障害者リハビリテーションセンター
精神・発達障害者しごとサポーター養成講座
http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/webnews/201803/news_201803_2.html
厚生労働省 発達障害者支援施策 平成30年度予算について
http://www.rehab.go.jp/ddis/日本の取り組み・世界の動き/日本の取り組み/発達障害に関連する施策/?action=common_download_main&upload_id=3461
2. 精神障害・発達障害のある方の雇用の拡大 ~ 精神・発達障害しごとサポーターの養成の背景
「図-精神・発達障害しごとサポーターの養成の背景にあるもの」
精神・発達障害しごとサポーターの養成の背景には、今後発達障害を含む精神障害のある方の雇用が拡大することが予想されていることがあると言えます。
障害のある方の雇用に関しては、障害者雇用促進法でその推進がはかられています。この法律では、一定規模以上の民間企業等の組織の事業主に対し、別途算出・定められる法定雇用率に相当する人数の障害のある方の雇用を義務づけています。
2018年4月の改正により、法定雇用率は民間企業の場合2.2%となり、また、2021年4月までに2.3%となることが決まっています。この法定雇用率を元に計算すると、現在、組織規模が45.5人以上の民間企業には、障害のある方を雇用する義務が発生していることになります。
【関連記事】
障害者雇用促進法の改正と障害のある方の一般企業への就労への道
https://jlsa-net.jp/syuurou/koyousokushinhou2018/
これまで障害のある方を雇用する義務のある民間企業等は、身体障害、あるいは知的障害のある方を中心に雇用してきた状況にあります。これまで障害者雇用促進法が、身体障害のある方、知的障害のある方の雇用を義務づけてきたという経緯があるからです。この結果、身体障害または知的障害のある方のうち、就労可能な方の多くはすでに雇用されている状況にあると言われています。
このような事情から、これから新たに障害のある方を雇用しようとする場合、発達障害を含む精神障害のある方を中心に雇用していく必要があることが予想されているのです。
参考:
厚労省ホームページ
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vosj.pdf
3. 発達障害を含む精神障害のある方が職場定着するための支援の視点
一方で、発達障害を含む精神障害のある方の職場への定着率は、必ずしも高いものではありません。平成25年度の厚労省の調査によれば、障害のある方の平均勤続年数は、身体障害が10年、知的障害が7年9ヶ月であるのに対し、精神障害の場合は4年3ヶ月でした。
退職の理由はさまざまですが、個人的理由が56.5%と最も多く、その詳細は、「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金、労働条件に不満」、「疲れやすく体力、意欲が続かなかった」、「仕事内容が合わない(自分に向かない)」などとなっています。
また、関西福祉科学大学等の研究によれば、2001年~2011年までの10年間の動向分析によれば、1年間で44%の精神障害のある方が離職しているとされています。離職理由としては、仕事への適応力、精神症状の程度、仕事に対する満足度など、厚労省の調査と同様多岐に渡るとされていますが、数字のみから単純化すれば、わずか2年半で、働いている全ての精神障害のある方が入れ替わる計算になります。
このように発達障害を含む精神障害のある方の職場定着は非常に大きな課題であり、雇用する側の企業等に、発達障害を含む精神障害のある方を雇用することを不安にさせているとも言えるのです。
「図-職場定着に向けた環境整備の主な視点」
退職理由は、雇用された方自身に課題や問題がある場合もあるかもしれません。一方で、特に人間関係や仕事への適応という面では、雇用する職場の側が環境面でサポートできる部分もあると考えられます。環境整備においては、主に以下のような点が重要になると言われていますが、まさに精神・発達障害しごとサポーターの方に担っていただきたい役割と言えるでしょう。
【関連記事】
障害者の方の職場定着支援と就労定着支援事業について
https://jlsa-net.jp/syuurou/teityakushien/
障害者雇用で早期退職を防ぐ職場マッチング
https://jlsa-net.jp/syuurou/syokuba-matching/
中心となる支援者とは、職場でご本人を支えたり、仕事で困った時に相談に乗ったりする役割を担う方です。日常的に声をかけることだけでなく、朝礼や面談、業務日誌なども活用しながら、日々の状態や体調確認をしていくことになります。形式的なものではなく、実質的な支援者であることが重要です。
特に、発達障害を含む精神障害は目に見えにくい障害であるため、その場で共に働く人方がご本人の状態についてなんとなくは気づいていても、明確なサインを汲み取れていなかったり、面談などをしても十分状況を把握できなかったりすることがあります。よって、業務日誌や振り返りシートを活用するなどの工夫が重要になるでしょう。
言葉だけでなく目に見える形にすることで、ご本人が状況をチェックすることができますし、支援者となる方はそれをもとに面談をスムーズに行うこともできるでしょう。
発達障害を含む精神障害のある方の中には、忙しそうな人に声をかけるのをためらってしまう方や、声をかけるタイミングを見つけることが苦手な方がいらっしゃいます。「いつでも声をかけてね」というある意味での優しさが、大きなストレスになるケースがあるということです。声をかけるタイミングを自分で考えることが大きな負担なのです。
よって特に仕事や職場の雰囲気に慣れるまでは、相談する時間や休憩時間などは、あらかじめ決めておくか、あるいはご本人と「あらかじめ時間が決まっているのと、相談事が出てきたときに自分から声をかけるのと、どちらよいか?」といった形で決めておくのも良いかもしれません。
発達障害を含む精神障害のある方が働きやすい職場環境を作るには、中心となるサポーターの方だけががんばれば良いというものではありません。障害のある方を受け入れる部門はもちろん、社内の全体で、発達障害を含む精神障害の理解を深めていくことが重要になるでしょう。
ただ、ご本人に「障害があるか」を職場でオープンにするかは、非常に難しい問題です。少なくともご本人の意思を尊重することが大切になるでしょう。その際には、「職場で情報をオープンにすることで、通院、服薬、業務上のフォロー、体調管理等において、周囲の理解が得られやすくなる」といったメリットを共有することが重要と考えられます。
障害の有無に関わらず、お互いを配慮できるようなコミュニケーションが取れるようになることが理想ではありますが、これは一足飛びには解決しない課題かもしれません。
支援機関と連携を取ることは、発達障害を含む精神障害のある方の職場定着に役立つことが多くあります。主な相談先としては、以下のようなものがありますが、雇用する側にとって、何かあったときの連絡・相談先ですので、積極的に利用するとよいのではないでしょうか。
障害者就業・生活支援センター、障害者職業センター、ハローワークなど
【関連記事】
障害者就業・生活支援センターとは?
https://jlsa-net.jp/syuurou/syugyoseikatsu-center/
参考:
厚労省
精神・発達障害しごとサポーター
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shigotosupporter/index.html
平成25年度障害者雇用実態調査結果
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/gaiyou.pdf
国立障害者リハビリテーションセンター
精神・発達障害者しごとサポーター養成講座
http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/webnews/201803/news_201803_2.html
保健医療学学会
精神障がい者の離職率に関する研究―最近 10 年間の分析-
http://www.s-ahs.org/jahs/JAHS%20Vol5%281%29%20002.pdf
最後に
精神・発達障害しごとサポーターは、発達障害を含む精神障害のある方が働く職場で、障害に関する正しい知識と理解を持って、発達障害を含む精神障害のある方を温かく見守り、支援する応援者のことで、国がその養成を推進しています。
2018年4月の障害者雇用促進法の改正に伴い、発達障害を含む精神障害のある方の雇用拡大が予想されています。一方で、発達障害を含む精神障害のある方の職場定着には、これまで大きな課題がありました。もちろんその原因は、雇用される方自身に課題がある場合もありますが、職場側の環境整備面での課題もあったと考えられています。
とはいえ、職場側の環境整備は、何もものすごく特別なことが必要というものばかりではありません。精神・発達障害しごとサポーター養成講座で学べる疾患の種類や主な特性、コミュニケーション方法やそのポイントなどを知るだけでも、その環境は大きく前に前進すると考えられています。
国が積極的に推進しようとしている施策でもありますので、ぜひ時間を作って、養成講座を受講してみてはいかがでしょうか。なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。
参考:
厚労省
精神・発達障害しごとサポーター
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shigotosupporter/index.html
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vosj.pdf
平成25年度障害者雇用実態調査結果
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/gaiyou.pdf
国立障害者リハビリテーションセンター
精神・発達障害者しごとサポーター養成講座
http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/webnews/201803/news_201803_2.html
厚生労働省 発達障害者支援施策 平成30年度予算について
http://www.rehab.go.jp/ddis/日本の取り組み・世界の動き/日本の取り組み/発達障害に関連する施策/?action=common_download_main&upload_id=3461
保健医療学学会
精神障がい者の離職率に関する研究―最近 10 年間の分析-
http://www.s-ahs.org/jahs/JAHS%20Vol5%281%29%20002.pdf
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