障害者雇用で早期退職を防ぐ職場マッチング

障害者就労

はじめに

職場で障害者雇用を始めたが、なかなかうまくいかず、職場に定着しないで早期退職をしてしまう。そんなケースでお悩みの場合、その原因は様々な要素が考えられます。そんな中、早期退職を防ぐ方法の一つとして「職場マッチング」があります。

年々、障害者雇用において職場マッチングの重要性は高まっています。それは、職場マッチングがうまくいくと継続就労の確率が上がるからです。今回は障害のある方が職場で長く働き続けるための準備として必要な職場マッチングの具体的な方法についてまとめてみました。

*あくまでも自社の職場マッチングの方法について記載しております。

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1、障害のある方が早期退職をする5つの要因
(1) 障害のある方の早期退職について

障害のある方が職場に馴染むことができないと、早期退職に繋がってしまうケースが多くなります。いくつかの調査結果からも、障害のある方の離職率は高いと言われています。

障がい者総合研究所「転職・退職に関するアンケート調査」では、20~60代の就業経験者を対象にアンケート調査を実施しました。アンケート期間は2015/1/28~2015/2/3まで、有効回答者数は752名でした。このアンケート調査でわかったポイントをまとめると以下のとおりです。

障がい者総合研究所ホームページ「転職・退職理由に関するアンケート調査

・入社してから1年以内に3割の方が退職している
・1年以内に退職した方のうち、46%は精神の方であった
・転職・退職に至る理由の1位は「障害の発生・状態変化、体調不良」、2位は「職場の人間関係」
・転職・退職を決断する際に上司等に相談した方は46%、相談しなかった方は58%
・転職・退職を決断する前に欲しかったフォローや対応の1位は「障害への理解・配慮」

アンケート調査でわかったポイントに対して、考察をしていきます。

1年以内に職場を退職した障害のある方のほぼ5割が精神の方でした。精神障害者の方の場合(発達障害を含む)、見た目にはわかりづらい障害のため、職場の担当者や周囲の社員が障害を理解しきれなかったのかもしれません。

応募書類や情報提供の資料を見て障害に対して理解していたつもりでも、実際に対応してみると理解しきれない部分があったのではないでしょうか。障害者雇用をする際に雇用側が障害に理解のある者(担当者)を配置できない場合に起こるケースだと思います。

または、人事側は障害の理解をしていたが、現場側は理解していなかったケース、またその逆も考えられます。あるいは、就労の際に障害のある方の自己認識が足りておらず、自分自身のことや障害についてうまく説明できなかったのかもしれません。

その他、就労支援員がサポートしていたのにもかかわらず、職場に共有する障害のある方の情報が曖昧だったというケースも考えられます。

(2) 障害のある方の早期退職を考察する

アンケート調査をまとめると障害のある方の早期退職は、関係者(当事者、企業側(人事・現場)、支援側)が障害に対する理解のピントが合っていなかった時に起きると考えられます。

ただし、早期退職の理由が「関係者の理解のピントが合っていなかった」だけであるとは考えにくいです。その他、障害のある方の早期退職の理由を考えると、以下のことも推察することができます。

①関係者の障害に対するピントが合っていなかった

 -障害のある方、企業の人事・現場の方、支援員の間で障害理解とその配慮の認識に齟齬(そご)がある

②雇用側の受け入れ体制が整っていなかった

 -採用はしたものの、仕事の内容が曖昧、担当者が決まっていない、管理方法が中途半端であった

③支援員が実施する定着支援が機能していなかった

 -定着支援をしない、あるいは、会社に訪問しない、問題を解決しようとしない、中立で入れない

④障害のある方の自身の働く準備が整っていなかった

-自己理解が曖昧、働く体力がない、マイルールで仕事を進めてしまう、感情コントロールができないなど

⑤職場マッチングがうまくいかなかった

 -障害のある方のニーズ・スキルと職場のニーズ・仕事がマッチしていなかった

このように様々な要因があり、障害のある方の早期退職になることが考えられますが、今回は、コラムの本題である5の「職場マッチング」について深掘りしていきたいと思います。

2、職場マッチングについて
(1)職場マッチングとは

職場マッチングの「マッチング」の意味は、ここでは「組み合わせが調和していること」とします。組み合わせは、人と職場を指しています。これが調和していると長く働きやすくなります。基本的にその組み合わせの確認は面接だけで行うのではなく、職場実習を通して実施されます。

障害のある方が長く働き続けるためには、職場マッチングが重要になります。就労移行に通うと障害のある方が就労のための訓練や支援を受けることができます。就労移行につきましては以下の記事を参考にしてください。

「2019年決定版」就労移行支援事業所 選択のポイント 総まとめ

就労移行では、就労支援員と障害のある方が相談をしながら就職先を探していきます。

就労支援員は、事業所の他のスタッフと連携しながら障害のある方の日々の様子(最大2年)の確認、障害のある方が関わっている機関への情報収集、職場体験実習(企業実習)を通してアセスメント(障害のある方を多面的に分析、評価し、問題解決の実現性や結果予測)の実施をします。その情報と障害のある方の希望を基に適した職場を探していきます。

同時に就労支援員は採用側のニーズや企業情報を把握しながら、仕事と障害のある方を引き合わせていきます。これが職場マッチングをする際に就労支援員が行なっている入口作業です。

(2)早期退職のデメリットと職場マッチングのメリット

職場マッチングの確認方法は面接だけではなく、職場実習を通して行われます。なぜならば、面接だけで採用を決めてしまうと後々双方の理解不足から不安や不満がでる確率が出やすくなるからです。そして、お互いの理解のなさが早期退職にも繋がってしまいます。

実習の期間は、相互理解を深めていく期間と捉えるといいでしょう。

職場マッチングのメリット

【障害のある方】
職場マッチングのメリットを考える前にマッチングがうまくいかなかった場合のケースを早期退職のデメリットとして考えたいと思います。当然ながら早期退職をした場合は再度就職先を探さなければなりません。その際には、なぜ短期間で辞めてしまったのか、再就職先の企業の採用担当者に説明する必要があります。

早期退職を繰り返していれば、長く働くことは難しい、と採用側が感じることがあるかもしれません。同様に早期退職を繰り返していると、長く働き続けることは難しいと本人が感じ自信を失う可能性もあります。

逆に職場マッチングがうまくいくと自分にあった環境で働いているので長く働きやすくなります。そして、その選んだ環境では自分の力を発揮しやすくなります。

【採用側】
企業側も障害のある方が早期退職してしまうとデメリットが発生します。再び採用のためのコストがかかり、計画的に採用をしていたのにも関わらず、社内の雇用率(2.2%)が低下してしまいます。再び雇用率達成のために採用をしなければなりません。

当然、採用のコストがかかります。特に障害者雇用を始めたばかりの企業は早期退職が続いてしまうと障害者雇用に対して消極的になってしまいます。これは、人事側というより現場サイドが対応に苦慮した経験により、障害者雇用自体にいいイメージを持ちづらくなってしまうからです。

採用ばかりに気が取られてしまうと、障害のある方の成長や自社のキャリアの積み方について、おざなりになってしまうケースも考えられます。

逆に職場マッチングがうまくいった場合は、雇用率が達成され、採用のためのコストが抑えられ、障害のある方の成長、自立、キャリアについて考えるフェーズに移行できるため、安定した障害者雇用のマネジメントに力をいれやすくなります。

その中で社内で障害のある方への理解も徐々に進み、ダイバーシティやインクルージブな経営を進めやすくなります。

(3)職場マッチングの流れ

職場マッチングの流れ

就労活動を開始した際には、障害のある方が応募書類を作成する中で自分の情報の整理をしていきます。一方、就労支援員側も障害のある方の情報を整理し、企業に提出する為の書類を作成します。

具体的には、障害のある方、支援機関、医療機関、ご家族からの情報提供や聞き取りを通して情報の整理をしていきます。加えて、訓練の様子や個別支援計画、職場体験実習の様子や振り返りを基に情報の整理をして支援シートにまとめていきます。

情報がまとまり次第、就労支援員は応募先の企業を探していきます。障害のある方の状態・スキル・ニーズと企業側の求める人材像を把握してマッチングするかを考えていきます。ここで企業の提示する条件と障がいのある方の希望がマッチするか確認を取り、問題がなければ会社見学をします。

会社見学・面談を通して双方に問題がなければ、雇用を前提とした実習を行います。実習期間は企業によりまちまちですが3日〜10日のところが多いです。実習の最終日に振り返りをして、障害のある方と企業側の所感を聞き、今後、応募をして面接をするのか否か、調整をします。

そこで問題がなければ面接をして採用が決まります。不採用の場合は、再度マッチングしそうな会社を探して行きます。

【職場定着率が常に95%超】都心にある就労移行支援事業所

(4)職場マッチングの観点

実習中の職場マッチングの観点

職場マッチングの判断材料を大きく4つに分けました。その観点は、仕事内容、障害者雇用の進め方、担当者、職場環境です。求人票の書面上では見えてこない部分について実習を通して確認をします。

【仕事内容】
仕事内容はスキルの部分です。障害のある方の「できること」が会社の求めていることにマッチしているか、という観点です。障害のある方は、「何がどのぐらいできて」「何かどのぐらいできない」のかを理解して、どうしれば会社に貢献できるのかを明確にしておく必要があります。

会社によって、仕事のクオリティー(正確性、スピードなど)は変わってきます。できないことがあったとしても、本人の積極性や考え方で、それを改善できるのかが重要になります。なぜならば、実習の際に成長する土台や伸び代の部分を見ている企業が多いからです。

障害者雇用を初めてする企業であれば、クオリティーをどこまで求めるかは相談しながら進められると思います。逆にある程度、障害者雇用が進み成熟している企業であれば、すでに障害者雇用で働いているメンバーとの兼ね合いもあるので、求めるクオリティーに一定の基準が存在すると考えられます。

【担当者】
実習を何日間か行うことで職場の障害者雇用の担当者(先輩 or 上司)と長いスパンで働いていけるのかをイメージすることができます。

留意点は実習の中で障害のある方が担当者との相性がいいと感じても、その担当者自体が異動や昇進、退職をして、担当から外れることが十分にあることを想定することです。企業の中で人材は流動的であることを障害のある方は理解しないといけません。

【障害者雇用の進め方】
企業によって障害者雇用の進め方は違います。例えば、特例子会社で働くのか、障害のある方が小規模のチームを組み働くのか、健常の方が働く部署の中に一人で入るのか、サテライトオフィスで働くのか、その働き方は様々あります。どんな働き方があっているのを考える必要があります。

これらは、体験実習をする中で相性を判断できると、雇用前提実習の時に活かすことができます。特例子会社とサテライトオフィスにつきましては以下の記事を参考にしてください。

りたりこ仕事ナビ 「特例子会社ってどんな会社?職種や給料、雇用形態、働くメリットなどを解説します」
ボクシルマガジン「サテライトオフィスとは?3つの種類・メリット・デメリットと日立グループなどの事例を紹介」

【職場環境】
ここで言う職場環境とは物理的なものを指しています。職場環境が合っているかは、身体の方であれば、わかりやすところでバリアフリーが整っているのか、という判断基準があると思います。感覚過敏の方であれば、静かな環境やパーテンションのある職場が働きやすいと思います。

ワンフロアで働いている人数や職場の広さ、デスクの広さ、電話の鳴る頻度など、持っている障害によって確認する環境は変わってきます。場合によっては、環境が合わない、という判断があると思いますが、パーテンションのなどは企業側に申し出をすれば設置してくれるところもあるので、相談をしてみるといいでしょう。

(5)職場マッチングのその先

あくまでも法律内の話ですが、障害者雇用促進法の基本理念の中には以下のことが記されております。

「障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるものとする。 障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない。」引用:e-Govホームページ「障害者の雇用の促進等に関する法律」

働く障害のある方は一人の労働者であることを意識して、積極的に仕事に取り組み、自立していくように努めなければならない、と記されています。理念の中には、障害のある方を雇う側の責務についても言及されています。

・障害のある方が自立に向けて努力をするときに協力する責務
・障害のある方の能力を正当に評価して雇用の場の提供
・適切な雇用管理をして雇用の安定の実現

障害のある方が成長意欲や自立、自己研磨の意識を持ち仕事をして、そのサポートを企業がしていく、ということが記されています。職場マッチングがうまくいき、障害のある方が入社をした場合は、上記の自立の観点やそのサポートを意識しながら、合理的配慮とのバランスを調整していくことが必要になります。

最後に

障害のある方が長く働き続けるためには職場マッチングが重要となります。今回のコラムでは「仕事内容」「担当者」「障害者雇用の進め方」「職場環境」の4点について記載しました。雇用前提実習をする際にはこれらの観点を意識して実施するといいかもしれません。

雇用前提の実習をする際には、採用すること、採用されることを前提に実習をするのではなく、両者が断ることも前提に話を進めていくスタンスや客観性も必要になります。企業によっては雇用率の問題上、どうしても採用ありきで話を進めてしまうこともあるでしょう。

その場合は、職場にマッチしていない方を採用してしまうケースも考えられます。

障害のある方も企業側から採用の打診があると、自分が職場に合っていないと感じていても喜びから入社を承諾してしまうこともあるはずです。双方の判断のクオリティーを上げていくためには、第三者の支援機関に相談できるといいでしょう。

【関連記事】
障害者の方の職場定着支援と就労定着支援事業について
https://jlsa-net.jp/syuurou/teityakushien/

田中 佑樹

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社会福祉士、就労支援員、障害者雇用促進のサポート。一般社団法人障害者就労支援協会(就労移行支援事業所・定着支援事業所)で勤務。事業所では全ての障害の方を対象...

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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