ICF(国際生活機能分類)とは? ~ 障害のある方を支援する場で使われる共通の言葉・考え方

ICF
発達障害

はじめに
医療・介護・リハビリなど多くの場で、ICF(国際生活機能分類)という分類を用いて、障害のある方の支援が検討され、実際に行われていることをご存知でしょうか? 

元々は健康に関する分類でしたが、保険、社会保障、労働、教育、経済、社会政策、立法、環境整備など、様々な領域でも用いられるようになっています。

ここでは、ICFについて、そもそもICFとは何か? そして、そのポイントとなる「相互に影響を与える」ということなどについて、簡単な事例も踏まえながらまとめています。



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1. ICFとは? 
(1) ICFとは?

ICF(国際生活機能分類)は、正式名称を「生活機能・障害・健康の国際分類」と言い、2001年にWHOにより制定されたものです。

このことからわかるとおり、障害の有無を問わずに、また国や地域を問わずに適用できる、「人の健康状況や健康に関する状況、障害の状況などを記述すること」を目的とした分類です。

人が日常生活を送る上では、身体的なものだけでなく、社会も含めたさまざまな「機能」が必要になりますが、それらの機能は、複雑に絡み合って「相互に作用している」という考え方からICFは生まれています。

(2) ICFをモデルとして整理する

「図ーICFの生活機能モデル」
ICFの生活機能モデル

「相互に作用している」とはどういうことでしょう? ICFを利用して、その方の健康状態や障害の状態を示したものは、生活機能モデルとして上図のように示すことができます。ここで注目したいのは、「矢印が相互の要素に向いている点」です。

たとえば、「健康状態」と「心身機能・身体構造」とは、相互に矢印が向いています。つまり、健康状態は心身機能や身体構造に影響を与え、心身機能や身体構造は健康状態に影響を与えるということです。

(3) ナゼ「相互に影響を与える」という考え方が重要なのか?

「相互に影響を与える」という考え方は、障害のある方の具体的な支援を考えていく際、非常に重要になります。というのも、考え方の違いにより、具体的な支援の在り方やその内容が変わってくるからです。

① 「ICF」と、ICF以前の考え方である「ICIDH」との比較

「図-ICFとICIDHとの比較」
ICFとICIDHとの比較

ICFが提唱される前は、1980 年に提案されたICIDHという考え方がありました。ICFと比較するとわかるとおり、ICIDHでは、障害のある方の生活のしづらさ、生活の上での困難は、障害のあるご本人の障害が原因で発生するという一方向のものであったことがわかります。

② 「もし○○があれば、△△できる」と考えられるのが「相互に影響を与える」ということ

たとえば、脳性まひという疾病で下肢が使えず、車椅子を使われている方がエレベーターが設置されていない駅を利用できないとした場合、ICIDHでは、その原因は、脳性まひにあるという考え方になります。

ただこのように考えてしまうと、脳性まひが問題なのだから脳性まひを何とかしない限り何もできないということになってしまいかねません。

しかし、実際には、駅にエレベーターが設置されていればもちろんのこと、駅員の方が手を貸して下さるなどすれば、駅を利用することは可能なはずです。

つまり、「相互に影響を与える」という考え方をすれば、さまざまな視点から「もし○○があれば、△△できる」という支援策を考えていくことができます。これが、「相互に影響を与える」ということが非常に重要になるという理由なのです。

参考:
文科省ホームページ
ICFについて
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/032/siryo/06091306/002.htm

厚労省ホームページ
「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html

2. ICFの要素

ICFは、ICFのモデルを示した図からわかるとおり、「生活機能」の分類とそれに影響する「背景因子」との大きくは2つで構成されています。また、それぞれの下位に、心身機能・身体構造・活動・参加の4つの要素と環境因子・個人因子の2つの要素が位置づけられています。

これらの6つの要素を使って、個人個人の健康状態との関連を考えていけるモデルになっているということです。

(1) 生活機能

生活機能とは、人が生命を維持するための能力や働き、あるいは、人が日常生活を送るための能力や働きのことを言います。生活機能を構成する要素は、次のとおりです。

① 心身機能・身体構造

1) 心身機能
心身機能とは、栄養分の吸収や排泄、呼吸をするとった身体の生理的機能や脳が行う「考えること」「喜怒哀楽といった感情」「視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった感覚」「直感」などの心理的機能のことを指しています。

2) 身体構造
身体構造とは、身体を解剖学的な視点で見たものです。たとえば、骨格、筋肉、脳や呼吸器などの臓器や器官、皮膚など、人の体を構成するもののことです

3) 心理機能と身体構造の、ICFの中での扱い
心身機能と身体構造は、別の要素として定義され、分類されていますが、実際に扱うときは並列的に使うようになっています。

たとえば、心身機能に「視覚」のような心理的機能が示され、身体構造に「目とその関連部位の構造」が示されるといったように、その対応関係がわかるようになっているということです。

② 活動と参加

1) 活動
活動とは、日常生活を送る上での具体的な行動のことを指します。

2) 参加
参加とは、生活や人生で起きる様々な場面での、社会などへの関わりのことです。家庭への参加、学校の授業をしている学級への参加・部活動への参加、実社会への参加など、「参加」している多くの場面が考えられるでしょう。

3)活動と参加のICFの中での扱い
活動と参加は別の要素ですが、単一のリストとして提示されています。

それは、「注意して視ること」といった比較的単純なことから、「対人関係」や「雇用」といったような複雑な領域まで、すべての生活領域を扱っているためで、生活領域は「活動のみのもの」、「参加のみのもの」、「活動も参加もあるもの」の3種類に分類できるからです。

また、実際の状況と、能力の2つの視点で評価することができるようになっています。

(2) 背景因子

背景因子とは、ある健康状態にある方や、その方の健康に関する状況に影響を及ぼす可能性のあるもののことを言います。

① 環境因子

環境因子とは、道路や通路・階段や段差・建物の構造・交通機関・車いすなどの「物理的環境」、家族や友だち・先生・周辺で生活する方々といった「人的環境」、法律やしくみ・福祉サービスや医療サービスといった「制度的な環境」などのことを言います。

ICFでは、これを個人的な環境因子と社会的な環境因子に分類していきます。

② 個人因子

 個人因子は、一人ひとりの個性や人生での経験と言い換えるとわかりやすいかもしれません。性別、年齢、体力、習慣、性格、興味や関心のあること、過去や現在の生活の中や人生の中での経験、努力の仕方や考え方、価値観などのことです。

参考:
厚労省ホームページ
「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
6.1. 生活機能と障害の概念
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/12/dl/s1210-6a_0006.pdf

3. ICFの活用方法例 ~ 先に見た脳性まひの方が直面した問題のとらえ方

既に見た、「脳性まひという疾病で下肢が使えず、車椅子を使われている方が、エレベーターが設置されていない駅を利用できない」というケースについて(仮にAさんのケース、とします)、ICFの考え方にあてはめてみるとどのようになるかを示したのが次の図です。(あくまで考え方、なので、実際の表現方法とは異なる点にご留意ください。)

「図- 具体例:Aさんのケース」
ICFの活用方法例

このように、ICFのモデルを用いて分解して考えていくと、課題の解決方法にさまざまなアプローチがあることがわかります。また、ある要素の変更を検討し実際にそれが行われた場合、別の要素に対して影響を及ぼすことにもなります。

たとえば、駅にエレベーターが設置されていなくても、周囲の人が必ずAさんを助けるという環境が作れたら、Aさんは駅を利用することができるようになります。

ただそれだけでなく、それがAさんにとっての新たな経験となって、Aさんの個人の要因、ここでは助けを求められないということに働きかけることにもなりえるということです。

他にも、Aさんの「段差の上り下りに制限がある」という状況についても働きかけることにもなります。たとえば、これまでよりもリハビリなどを通じて大きな段差に対応できるようになるといったようなことです。

文科省ホームページ
ICFについて
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/032/siryo/06091306/002.htm

一般財団法人箕面市障害者事業団ホームページ
ICFの視点とは
http://www.minoh-loop.net/icf.html

4. ICFは、障害のある方だけに必要なものではない

ここまで見てきたように、ICFの考え方を用いると、さまざまな活用方法ができそうであることがわかります。たとえば、実際の現場では、以下のような使い方がなされています。

(1) 障害のある方の状況を多角的に把握し、目標設定や評価に生かす
(2) 障害のある方の状況を、学校で指導する先生方、保護者の方々、利用されている施設やサービス関係者の方々、医療関係者の方々との間で、共通の言葉・表現で語り、相互の理解を深める
(3) 障害のある方に対する、合理的配慮や特別な配慮といった社会の環境整備を進めることに役立てる

ICFは、障害のある方だけのものでは決してありません。その理由の一つは、健康状態は、誰もが変わりえるものだからというものです。

たとえば加齢に伴い、人は誰でも筋力やその柔軟性の低下、関節可動域の狭まり、反射速度などの運動機能の低下や、物忘れなどの脳機能の低下などが起こります。また、認知症を患う可能性もあるでしょう。

認知症の方は、2012年時点で450万人以上、65歳以上の方の7人に1人の割合で発症、2025年には700万人、65歳以上の方の5人に1人の割合になると見込まれています。

加齢に伴うものだけではありません。たとえばケガをする、事故にあってしまう、病気をするなどの場合でも生活に支障を来す場合もあるでしょう。

足を骨折してしまったというようなとき、ICFにあてはめて考えれば、リハビリの有用性を改めて検討することもできるでしょうし、松葉づえのあり方に関する検討を促す場合もあるかもしれません。

歩道のあり方、施設のあり方などが検討する視点にもなりますし、ご自身の考え方などにも影響を与えることもあるでしょう。

仮にいわゆる「健康な状態」であったとしても、ICFの考え方をあてはめて、日常生活をとらえなおしたり、どのように教育していくかを考えたりといったこともできるのではないでしょうか。

参考:
厚労省ホームページ
ICF(国際生活機能分類)-「生きることの全体像」についての「共通言語」-
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002kswh.pdf

最後に

ICFは、「人の健康状況や健康に関する状況、障害の状況などを記述すること」を目的にした表現方法・言語であり、そのとらえ方、分類の仕方、モデルでもあります。

構成する要素同士が「それぞれに影響を及ぼしている」と考えるモデルであるため、課題のとらえ方やその解消の仕方などについて、アプローチの幅を大きく広げられるモデルであると言えます。

障害のある方が直面する困難に対して、どのような具体策を用いてその困難を取り除くか、あるいは、軽減するかという、実際の現場で用いられているだけでなく、さらに幅広い領域で応用していくことができると考えられるでしょう。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
文科省ホームページ
ICFについて
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/032/siryo/06091306/002.htm

厚労省ホームページ
「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
6.1. 生活機能と障害の概念
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/12/dl/s1210-6a_0006.pdf
ICF(国際生活機能分類)-「生きることの全体像」についての「共通言語」-
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002kswh.pdf

一般財団法人箕面市障害者事業団ホームページ
ICFの視点とは
http://www.minoh-loop.net/icf.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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