工賃向上計画支援事業とは?

発達障害

はじめに
 工賃向上計画支援事業とは? 地域社会で自立した生活していくには、経済的な基盤が必要です。だからこそ人は働く面があるのは事実ですし、これは障害の有無に関わらないことです。では、障害のある方の経済的基盤、つまり、就労状況・就労条件は盤石なものなのでしょうか?

 ここでは、私たちが目指そうとしている地域のあり方を踏まえた上で、障害のある方の就労状況とそこで得られる収入の状況及びその課題、そして、その課題解決のための施策としての工賃向上計画支援事業について、その期待効果も確認しながらまとめています。



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1. 目指す社会の姿

今、社会として目指す姿とされているものは、「共生社会」と呼ばれています。共生社会と呼ばれています。

「共生」とは、高齢者とそうでない人とが共に生きる社会、あるいは、いわゆる健常者と障害のある方が共に生きる社会というような文脈で使われることが多い言葉であり、考え方です。

私たちが生きる社会にまったく同じ人は誰一人いません。共生社会とは、このようなさまざまな違いがある人々がそれぞれ自立し、相互に支え合い、主体的に暮らしていける社会であり、すべての人々が社会から阻害されることなく基本的人権が尊重され、それぞれに必要な支援体制が整備されている社会のことです。

人は必ず老いますし、病気や事故に遭うなどしてその後障害が残る場合もあります。つまり、共生社会を実現するということは、すべての人々にとって、将来に不安を抱かないで生きていける社会であり安心して暮らせる社会でもある、と言い換えられるのです。

また誤解を招く可能性があることを承知で敢えて表現するなら、障害のある方や、高齢の方々など、隠そうとしても、また、仮に隠せたとしても、その存在がなくなることありません。

であれば、「一人ひとりの方が、それぞれ持てる能力を発揮していける社会であった方が余程合理的だ」という、経済合理性の視点からも、共生社会の実現は、超少子高齢社会である日本の喫緊の課題ともなっているわけです。

参考:
厚労省
「地域共生社会」の実現に向けて
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184346.html

2. 共生社会の実現に向けた課題 ~障害のある方の就労状況とその課題

 その動機はともかくとして、障害のある方が自立して地域で暮らしていける社会が良い社会であること、つまり、共生社会が、少なくともこれまでの社会と比較して良い社会であることは事実でしょう。ただし、そこには克服すべき大きな課題があるのです。

(1) 障害のある方の就労状況

2018年4月、障害者雇用促進法が改定されました。障害者雇用促進法は、一定規模以上の民間企業、国・地方公共団体・特殊法人、教育委員会といった組織の性質別に、その事業主に対し、別途算出・定められる障害者雇用率に相当する人数の障害のある方の雇用を義務づけている法律です。

2018年4月の法改正では、障害者雇用率の算出に精神障害が加わり、結果、それまで基本2.0%だった法定雇用率が2.2%に引き上げられました。つまり、障害のある方をより多く雇用することが、企業等の組織に義務づけられることになったということです。

このような改正もあり、2018年の障害のある方の民間企業等への就労数は53.5万人。10年前が32.6万人だったことから比較すると、大幅に増加したと言えます。

とはいえ、障害のある方は、身体障害で436万人、知的障害で108万人、精神障害で392万人いらっしゃいます。この数字には、子ども世代、高齢者世代も含まれるため、単純に言うことはできませんが、それでも、障害のある方の一般就労はそれほど簡単ではないことが推察できるのです。

このような中で利用されているのが、就労継続支援等の福祉型の就労です。

就労継続支援とは、障害者総合支援法のうち訓練給付に基づく福祉サービスで、一般企業等での就労が困難な方に働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービスになります。

就労継続支援には、就労継続支援A型と、就労継続支援B型の2つのサービスがあり、2018年3月時点でA型利用者は3.3万人、B型利用者は24.0万人となっています。

【関連記事】
就労継続支援とは?
https://jlsa-net.jp/syuurou/syuro-keizoku/

(2) 障害のある方の就労による収入状況とその課題

「図-障害のある方の就労による収入」
障害のある方の就労による収入

 このように、福祉サービスの形でも、障害のある方が活躍できる環境整備は進められていますが、課題もあります。それは、その賃金・工賃の低さです。

2018年度の月額賃金・工賃の全国平均は、就労継続支援A型で74,085円(時間単価818円)、就労継続支援B型では15,603円(同205円)。そして、これはあくまでも「平均」です。

たとえば東京都の就労継続支援B型の場合、2017年度の平均工賃は15,349円だったものの、1万円未満が3割以上ある状況。さらに、工賃5,000円未満の事業所も1割以上存在するのです。

参考:
厚労省
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vosj.pdf
障害者の就労支援対策の状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html

東京都福祉保健局
東京都工賃向上計画
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/toukyoutokouchinkoujoukeikaku.html

3. 工賃向上計画支援事業とは?

「図-工賃向上計画支援事業とは?」
工賃向上計画支援事業とは?

(1) 工賃向上計画支援事業とその目的

既に見たとおり、障害のある方々の福祉サービスを利用した就労の場合の収入、特に、就労継続支援B型の場合、非常に低くなっていることがわかります。その収入状況を実際に確認したとき、「これでは自立した生活はできない」と、多くの方が感じられるのではないでしょうか?

つまり、障害のある方が名実ともに社会で自立した生活がおくれるようになるには、あるいは、その状態に少しでも近づくためには、労働による収入を増やすことが必要なのです。

工賃向上計画支援事業はそのための政策であり、その目的を、厚労省は次のように表現しています。

「雇用契約を締結して就労することが困難な障害者が、地域において自立した生活を実現するためには、工賃の向上をはかり、障害年金とあわせて地域で生活できる水準まで工賃を引き上げることが必要。」

(2) 工賃向上計画支援事業とは? ~ 工賃向上計画支援事業の柱

 このように工賃向上計画支援事業は、「障害のある方に福祉的就労を提供する事業所の、経営・サービス力向上支援事業」と言い換えることができる施策で、その取り組みは2007年から始められています。当初この事業は、就労継続支援B型事業所などを対象に国主導で進められ、また、大きく以下の2つの事業で構成されていました。

① 基本事業

障害のある方に就労サービスを提供する各事業所に、経営コンサルタントなどの各分野の専門家や企業OBなどを派遣し、経営力の強化、技術の向上を図るほか、事業所職員の人材育成を図るための研修会を実施すること

② 特別事業

複数の障害のある方に就労サービスを提供する事業所が共同して受注や情報提供等を行う「共同受注窓口」について体制整備を図るほか、事業所経営者の経営意識の向上のための研修や好事例の説明会を開催すること

いずれの事業も、障害のある方に対して直接ではなく、障害のある方の「働く場」となっている「事業所」を対象にした支援事業であることがおわかりいただけるかと思います。

(3) 事業所がもうかれば、そこで就労する障害のある方の工賃も上げられるはず

 では、このしくみがナゼ、障害のある方の収入向上に有効と考えられているのでしょうか? これについては、少し解説が必要でしょう。

 いわゆる一般企業は、商品やサービスをつくり、その価値を顧客に提供することで、収益を上げています。そして、その事業における収益の一部を、その企業で働く従業員の給与として支給しているわけです。つまり、その企業の商品やサービスの価値が高まれば、収益が向上するのですから、従業員に支給する給与も増えることになるのです。

 同じことは、福祉的就労サービスを提供する就労継続支援事業所の他、入所・通所授産施設、小規模通所授産施設などにも当てはまります。

つまり、これらの事業所も、障害のある方が顧客に提供する商品やサービスが収益の一部になっているわけです。(実際には、障害のある方の事業所利用に対して、その利用分の社会保障費が、各事業所には分配されるしくみであり、商品・サービスの収益だけで運営されているわけではありません。)

ただその商品・サービスは、一般企業に比較すると相対的に価値が低いものになっているという現実があります。この結果、他商品・サービスに対する優位性、つまり勝負するポイントがどうしても価格になりやすいのです。価格が安いものだと、その事業所の収益は上がりにくくなります。

収益が低いということは、そこで働く方々、つまり、その事業所で働く障害のある方々に支払う工賃も低く抑えざるを得なくなっているのです。

一方で、できる限り価格競争にならないようになれば、その事業所の収益が上がりやすくなるのですから、その事業所で働く障害のある方々に支払う工賃も増やすことができるはず。

 つまり、工賃向上計画支援事業は、障害のある方に福祉的就労を提供する事業所の「商品・サービスの価値を高めること=経営力を強化すること」に注目した事業であり、その事業所が成長することで、「間接的に」障害のある方の収入を増やそうとする事業だと言うことができるのです。

4.工賃向上計画の例

「図-工賃向上計画の例」
工賃向上計画の例

 現在も工賃向上に向けた取り組みは継続していますが、その推進主体は国から地方に移管されています。その取り組みは2012年度からの3カ年を第1期、2015年度からの3カ年を第2期とし、現在3期目に入っていますが、期ごとに、各都道府県は、障害のある方の工賃向上に向けた「工賃向上計画」を策定しています。

たとえば東京都の場合、(1)経営意識の向上、(2)生産性の向上、(3)販路の拡大・品質の向上、の3つを大きな目標として、それぞれ以下のような事業所支援策を実施しています。

(1) の具体的支援策

・東京都工賃アップセミナー開催
・経営コンサルタント派遣等事業 ※障害者施策推進区市町村包括補助事業

(2) の具体的支援策

・東京都工賃アップセミナー開催
・受注促進・工賃向上設備整備費補助事業
・経営コンサルタント派遣等事業 ※障害者施策推進区市町村包括補助事業

(3) の具体的支援策

・福祉・トライアルショップ開設 ※都庁舎・区部エリア・多摩エリア
・作業所等経営ネットワーク支援事業推進 ※障害者施策推進区市町村包括補助事業
・区市町村ネットワークによる共同受注体制構築
・優先調達推進
・区市町村における取組への協力依頼

上記のような支援事業の一部、たとえばコンサルタントの派遣事業などは、事業所に対する補助金支給の対象にもなっています。つまり、「工賃向上に積極的な事業所には、補助金も支給します」ということです。
このような事情もあり、各事業所にも、工賃向上計画の策定が求められているのです。

参考:
厚労省
障害者の就労支援対策の状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html
工賃向上計画支援事業
https://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/koutin_j.pdf

東京都福祉保健局
東京都工賃向上計画
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/toukyoutokouchinkoujoukeikaku.html

5. 工賃向上計画支援事業の効果 ~ 「本当に、収入が増えるのか?」という疑問

では、この施策は本当に効果があるのでしょうか? 初期の国の事業について、その効果を確認すると、支援を受けた事業所は、5年間で平均22.8%、工賃が増加していることが確認されています。一方、支援を受けなかった事業所の工賃の伸びが5年間で平均8.6%となっていますので、やはり相応の効果が認められます。

とはいえ、それでもその工賃は、既に見た通り平均で15,603円。3万円以上の事業所は4.5%に過ぎないというのが現実です。

 
参考:
厚労省
障害者の就労支援対策の状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html
工賃向上計画支援事業
https://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/koutin_j.pdf

最後に

 日本という国にとって、共生社会の実現は喫緊の課題です。共生社会とは、「年齢、性別、国籍の他、障害の有無などにも拠らず、誰もが同じ地域で生活できる社会」であり、「一人ひとりの方が、それぞれ持てる能力を発揮していける社会」でもあります。

 しかし、その実現には、「経済的な基盤が整っていること」が非常に重要になります。一方で、障害のある方にとっての就労状況及びそこから得られる収入状況は、非常に厳しい状況にあると言えます。

特に、雇用契約を結ばず、工賃として支払われる就労継続支援B型サービスなどを利用される方々の場合、現状の平均工賃=就労による平均収入は、1万5千円程度。障害年金と合わせても、地域社会で自立して生活していくにはあまりに過酷な経済状況だと言えるでしょう。

 このような事情から、10年ほど前から取り組まれているのが、工賃向上計画支援事業です。この施策は、障害のある方に直接支援するような施策ではなく、障害のある方が就労する事業所を支援する施策です。

事業所の収益性が高まれば、利用されている障害のある方の工賃も増やせるという構造に着目した施策であるとも言い換えられます。実際、この支援事業は相応の効果を発揮していることも確認されています。ただ、それでも平均1万5千円という現実に、立ち向かっていく必要があるのです。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省
「地域共生社会」の実現に向けて
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184346.html
障害者雇用促進法の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/03.html
障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vosj.pdf
障害者の就労支援対策の状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html
工賃向上計画支援事業
https://www.mhlw.go.jp/jigyo_shiwake/dl/koutin_j.pdf

東京都福祉保健局
東京都工賃向上計画
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/toukyoutokouchinkoujoukeikaku.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構 代表理事として広報を担当する。現在、株式会社目標管理トレーニングの代表取締役としても活動を行っ...

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