知的障害特別支援学校における実際の指導例とそのポイント

知的障害

はじめに
 知的障害特別支援学校では、具体的にはどのような指導が行われているのでしょうか?
ここでは特別支援教育を専攻した筆者が、授業見学を通じて特に印象に残った「先生方と子どもたちとの関わりやエピソード」、筆者が実際に行った指導などを元に、知的障害特別支援学校での指導の様子をご紹介しつつ、そのポイントとなることなどについてまとめています。

1. 遊びの指導を通して学ぶ

「図-遊びの指導の具体例から学ぶ、指導のポイント例」

特別支援教育では、遊びの時間が正式なカリキュラムとなっています。遊びを通じて学べることが非常に多くあるからです。また、遊びの時間は自由度が高く、子どもが動機づけられている場合が多いこともあり、子どもの能力を伸ばす絶好の機会でもあります。特に低学年の子どもの指導にあたるとき、先生方はこの機会を使って、子どもの能力を伸ばしていくためのさまざまな工夫をされています。

(1) 関わりの中でコミュニケーションを伸ばす

知的障害特別支援学校の小学部ではブランコ遊びを楽しんでいる子どもたちをよく見かけます。子どもたちだけでのブランコ遊びももちろん楽しそうなのですが、先生方に後ろからブランコを押してもらえると、より一層楽しんでいるようです。自分で漕ぐ時よりも高いところまでブランコを漕ぐことができるからです。先生方はこのような場面を「要求行動の指導の機会」として活用しています。

たとえば、A先生がBくんのブランコを押してあげている場面を考えてみましょう。先生が意図的にブランコを押す手を少し緩めると、子どもはブランコ押しを先生に続けて欲しいので、先生にブランコ押しを頼もうとするでしょう。しかし、Bくんがどうやって頼めばよいのかわからないという場合、固まってしまったり、言葉がうまく見つけられず口ごもってしまったりする場合があると考えられます。

そのような場面でA先生が「なんて頼むの?」などと尋ねたり、正しい見本を見せたりすれば、「ブランコを押してください」という依頼の言葉を学べる機会になります。つまり、自然な場面でコミュニケーション行動を教える機会にできるのです。これはA先生がブランコ遊びを通じて実際に取り入れていた指導方法ですが、他の遊びの場面でも応用することができると考えられます。

(2) 遊びを豊かなものにする・子ども同士の関わりを広げる

遊びの時間を利用して、子どもの遊びを広げたり、子ども同士の関わりを広げたりする方法には、どのようなものがあるのでしょう?

Aくんは休み時間、自分から友だちに関わって行くことはなかなかありませんでした。一方、三輪車遊びが好きなCくんは、休み時間にはいつも一人で三輪車に乗って遊んでいました。他の子どもたちも三輪車で遊んでいましたが、Cくんから関わりを持とうとすることはほとんどなく、他の子どもたちが三輪車で競争をしているときでも、それを見ていることはあっても、その競争自体に参加することはありませんでした。

そんな中、D先生はAくんらを誘って、大きめのブロックを中庭の中心に持ってきて即席のガソリンスタンドに見立てました。そして、Cくんを含め、三輪車に乗っている子どもたちに対して「いらっしゃいませ〜、ガソリンいかがですか〜!」とガソリンスタンドごっこを始めました。D先生は、Aくんと一緒に、ガソリンを入れる店員さんの役をしています。

他の子どもたちがガソリンスタンドでガソリンを補給してもらっている姿を、最初はじっと見ているだけだったCくん。次第に面白そうだと感じるようになったのか、ガソリンスタンドに三輪車で乗っていき、「ガソリン入れてください〜」と頼み、そして、ガソリンを入れてもらった後には、ガソリンを入れる役をしていたAくんに「ありがとう」とお礼を言っていました。

D先生のちょっとした場面の設定によって、子どもの遊びが広がり、子ども同士の関わりが生まれた瞬間でした。そしてその瞬間は、先生方の子どもとの関わり方・遊びの広げ方に対する先生方の工夫について、筆者が秀逸だなあと感じた瞬間でもありました。

2. 課題解決の力を育む生活単元学習

「図-生活単元指導の具体例から学ぶ、指導のポイント例」

生活単元学習では、日々の生活で起こりうるさまざまなことを学習しています。たとえば、特別支援学校の畑で育てたさつまいもを使って、さつまいもホットケーキを作ることを題材にした授業を行うとします。

このとき子どもたちは、「ホットケーキを作るには何が必要か」を考え計画し、子どもたちで買い出しに行き、実際にホットケーキを作り、そして、実際にみんなで食べたり、誰かを招待してホットケーキを味わったりするという、いくつかの段階を踏むということを、実際にさつまいもホットケーキをつくることそのものに加えて学んでいきます。

(1) 日常生活には、さまざまな課題解決の場面がある

知的障害特別支援学校の授業を観察していると、授業の中でたくさんの課題解決の機会が設定されていることに気づきます。たとえば、「ホットケーキの材料って何?」、「作るときにはどんな道具が必要?」「牛乳が売り場に見当たらないけれど、どこにあるんだろう?」「100gって書いてあるけど、どうやってはかるんだろう?」「○◯先生を招待したいけど、どうやって伝えたら良いかな?」といったことです。

先生方はこのような課題解決の場面で、子どもたちに考えさせるような発問や、「家ではどんな道具を使って量をはかっている?」といった自分の生活と関連づけて考えさせるような補助質問を多くされます。このようにして、子どもたちが自ら積極的に課題を解決していくことができるよう工夫して、授業を展開しているということです。

(2) 子どもたちの主体的な課題解決を促すことの難しさ

そのように授業を展開していくときに問われるのが先生方の力量です。それを強く感じたのが、筆者が生活単元学習の授業の一部を担当したときのことでした。

筆者は、学習発表会の招待状を作るという授業を担当したのですが、その時、「招待状の見本があった方がつくりやすいだろう」、「この子はこの点でつまずくだろうから、事前にこういう支援を行っておこう」など、いろいろな子どもの姿を想定して指導案をつくりました。

しかし、後からその授業の様子をビデオで見てみると、子どもたちは招待状の見本を見ながら、その見本に沿って、言われた通り忠実に招待状を作るという、いわば「作業をしているだけ」のようだったのです。

「子どもがスムーズに学習に取り組めるように」と考え、準備した授業でしたが、本来その授業で行いたかった「この人に来て欲しいから招待状を書く」という意識づけが薄れてしまったのではないかと反省したことをよく覚えています。つまり課題解決においては、子どもたちが主体的に考えられるような場にする力が、先生方には求められているということです。

3. 日常生活の指導から学ぶ

「図-日常生活指導の具体例から学ぶ、指導のポイント例」

日常生活の指導では、日常生活でくり返される着替えやトイレなど、生活に必要な動作に直接関わるスキルや、他者へのあいさつなど、日常に必要なコミュニケーションに関するスキルの指導を行います。指導の時間を特別に用意して行うのではなく、その行動が起こる自然な場面で指導を行っていくことになります。

(1) 日々繰り返し取り組むことで、着実な技能の習得を目指す

子どもたちは、朝登校する時と下校する時、それぞれ靴を履き替えます。このような履き替えの場面でも、子どもの実態に応じてさまざまな支援が行われています。

たとえば、左右の靴の感覚が十分に育っていない子どもに対しては、左右を目で見てわかるようにすることをポイントにします。ここでは、左右の靴が正しく配置された時に絵が完成するような目印をつけるという方法が考えられます。子どもが左右の靴を弁別できるようにするところから始めるということです。

また、着替えの場面で服を畳むことを練習中の子どもには、服を畳むために必要となる一つひとつのステップを写真に撮影し、更衣室の壁に掲示しておくという方法が考えられます。自分でやり方を参照しながら取り組むことができるよう支援するのです。

(2) 環境設定をして取り組みやすい場を作る

日常生活の指導は自然場面で行われることもあり、子どもの置かれるその環境自体にさまざまな刺激が加わることがあります。たとえば、着替えをする場所から外で遊んでいる子どもたちが見えて、声をかけて話し込み、着替えが滞ってしまったり、遊び時間に早く入りたいといった気持ちから、手洗い・うがいをスキップしてしまったりといったことです。

そのような可能性を考慮しながら、先生方はさまざまな工夫をし、子どもの意識を子どもの課題に向けられるような環境整備を進めます。たとえば、つい立てを用意しておき、求められている課題に注意を向けやすくする、スケジュールをすぐに参照できるように子どもの手元に置いておき、見通しを持てるようにするといった方法です。

4. 作業学習〜「はたらく」ことに向けて〜

「図-作業学習指導の具体例から学ぶ、指導のポイント例」

作業学習では、職業に関連したスキルを学びます。ここでは、筆者が知的障害特別支援学校高等部で担当した作業学習の授業を確認しながら、作業学習におけるポイントについて見ていきます。

(1) 作業学習指導の実際 ~食品加工の授業を例に

その時はちょうど冬で、特別支援学校の畑では子どもたちが一生懸命育ててきた大根を収穫することができました。筆者が担当した授業は、収穫した大根を切干大根に加工することを、子どもたちと一緒に行うというものでした。一本の大根を3等分くらいに切ったものをピーラーで削っていき、削った大根を網に並べ、日の当たる場所に干すというものです。

これは一見シンプルな工程ではあるのですが、細かく見ていくとさまざまなスキルが必要なことがわかります。たとえば、作業を始める前の工程では、食品を触る前には手を洗い、キャップとエプロンを着用する必要があります。また、大根を削る際にも、大根を回転させながら削らなければ、一枚一枚の切干大根の幅が均一になりません。

このため大根を回転させながら、できるだけ均一の力加減で削っていく必要があります。また、削った大根を並べる時も、効率よくたくさんの切干大根を作るためには、隙間なく並べることが必要です。

(2) 作業工程で見えてくる子どもの実態とその支援

子どもたちの様子をよく観察してみると、「この子は回転させて削ることに意識が十分に向いていないな」「この子は最初はいいペースで作業ができるけれど、途中は作業が大雑把になることがあるな」「この子は削った大根を並べるときに隙間が開きがちになるな」など、一人ひとりの子どもの実態が、次第に見えてくるようになります。

このような実態が見えてきたところで、どのような支援をしたらよいのかを考えることになります。

たとえば、回転させて削るということが定着していない生徒の場合には、「回して、削る、回して、削る」という「言語教示」を声に出しながら行うことによって、行動が定着するように促すという方法が考えられます。また、声に出してできるようになったら、少しずつ教示の声を小さくしたり、回数を減少させたりしていくことも検討できます。

大根を削ったものを並べるときに隙間が空いている場合には、一枚一枚並べる場所に印をつけておき、どれくらいの間隔で並べていけば良いのかを視覚的に示すことが考えられます。これに関しても、段階的に印を薄くするなどして、だんだんと目印なしでもできるようにしていきます。

このように作業学習における指導では、まずは実際の作業の様子をよく観察、子どもの実態・実情を把握し、効果が見込める方法を検討、実際にその子どもにできる方法を見つけ、さらにそれができるようになったら少しハードルを上げるという、段階を踏んだ指導を行うことがポイントになると言えます。

(3) ふりかえることを大切にする

また、筆者がこの授業を担当した学校では、作業学習の目標や反省を書き込むノートがありました。毎回学習が終わった後に、自分の目標がどれだけ達成できたかを3段階程度で評価し、必要に応じて先生方がフィードバックを行うためです。また、次の回の冒頭で、前回の作業学習の反省を確認し、その日の目標を立てるということを行っていました。

つまり、日々自分の成果をふりかえることを大切にすることも、指導上の大きなポイントになると考えられるということです。

最後に

 ここでは、特別支援学校で実際に行われている支援について、具体的な学びの場面のエピソードを交えて見てきました。特別支援学校では、遊びの指導、生活単元学習、日常生活の指導、作業学習といったカリキュラムの中で、障害のある方がその能力を磨く指導が積極的に、また、さまざまな工夫がされながら行われています。そのような工夫は、障害の有無に関わらず、子どもの成長を支援するときに利用できるものとして、とらえることもできるかもしれません。

takaya

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特別支援教育専攻・某大学院生

プロフィール

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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