特別支援学校の教育システム ~障害のある方の就学先としての選択肢

発達障害

はじめに
障害のある方の就学先としての選択肢の一つに、特別支援学校があります。特別支援学校は、学校教育法に定められている特別支援教育の下、整備されているものです。

ここでは、特別支援学校について、その位置づけや基本的な教育システム・指導の特徴、就学の対象となる方といったことをまとめています。



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1. 特別支援学校とは
(1) 特別支援学校とは?

特別支援学校とは、障害のある児童・生徒が通う学校で、学齢に応じて、幼稚部・小学部・中学部・高等部が設置されています。

幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準じた教育を行うことが基本ではありつつ、障害による学習上の、あるいは、生活上の困難を克服し、自立していくために必要な知識や技能を身につけられるようにするための指導を受けられる点が大きな特徴となっています。

(2) 特別支援学校の前提となる特別支援教育とは?

特別支援学校は、学校教育法に位置づけられた特別支援教育の下、設置されています。

特別支援教育とは、障害のある幼児・児童・生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点から、対象となる方々一人ひとりの教育的ニーズを把握し、お持ちの力を高め、生活や学習上の困難を改善したり、克服したりするために、適切な指導と必要な支援を行うとされています。

2007年から、法改正によりその充実がはかられることになりました。

(3) 特別支援学校の設置数

法改正に伴い、それ以前は「ろう学校」「盲学校」「養護学校」とされていたものがすべて「特別支援学校」へと一本化されました。

文部科学省の調査によれば、2015年時点での特別支援学校の数は、全国で1,114校、在籍している幼児・児童・生徒の数は137,894人となっています。幼児・児童・生徒全体に対する割合は0.9%です。

参考:
文科省ホームページ
学校教育法等の一部を改正する法律要綱
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/06072108/001.htm
特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm
特別支援教育資料(平成27年度)【第1部 集計編】
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/08/1358541_01.pdf

2. 特別支援学校における教育システム

「図-特別支援学校における教育システム概要」
特別支援学校における教育システム概要

(1) 学級編制

特別支援学校では、障害のある方一人ひとりの状況に応じたきめ細かな指導を行うことを目的に、少人数の学級編制となっています。たとえば小学部・中学部では、標準的な1学級の人数が6人とされていますが、実際には平均3人ほどで運営されています。

(2) 指導する教員

指導を行う教員は、幼稚園・小学校・中学校・高等学校の教員免許に加え、特別支援学校の教員の免許を原則お持ちです。つまり、さまざまな障害に対して基礎的な知識・理解をお持ちで、また特定の障害に関する専門性も持っているということです。

(3) 一人ひとりに合わせた教育

特別支援学校では、その方の障害や発達段階に合わせたきめ細やかな指導がされることになっています。

① 「個別の指導計画」・「個別の教育支援計画」の立案・実行

特別支援学校では、障害のある方一人ひとりの教育的ニーズに合わせて、指導目標や指導内容、指導方法が設計されることになります。

「個別の指導計画」として、どの学年・学期などで、どの単元を、どのように指導するかなどが学習指導要領を考慮しながら個別に計画され、実際に指導されることになります。

また、「個別の教育支援計画」によって、教育・福祉・医療・労働などの関係機関と連携しながら、乳幼児期から学校卒業後までの一貫した指導が行えるよう配慮されています。

② 自立活動

障害による学習上、あるいは、生活上の困難を改善したり、克服したりするための指導も、「個別の指導計画」に基づいて計画的に行われることになります。

たとえば身体の動きに課題や困難のある方に対しては、それを改善するための指導が、コミュニケーションに課題や困難のある方に対しては、それを支援するための指導が、それぞれ行われるといったように、一人ひとりの状況やニーズに合わせて学ぶことができるということです。

③ 教科書についての配慮

特別支援学校では、小学校・中学校・高等学校で一般的に使われると教科書のほか、障害の内容や状態などに合わせて作成された視覚障害者用の点字教科書、聴覚障害者用の言語指導用教科書、知的障害者用の国語・算数の教科書などが使われています。

また、デジタル教科書の積極活用なども推進されています。

(4) 障害・年齢に合わせた教育

障害の内容や発達段階などによって、教育内容に配慮があるのも、特別支援学校の特徴です。

① 視覚障害

1) 小・中学部
一般的な小・中学校と基本的には同じ教科などについて、視覚障害に配慮し指導が行われます。

目が見えない方に対しては、良く触ることで、物の形や大きさなどを理解する、音やにおいなどを手がかりに周囲の様子を把握するといったことのほか、点字の読み書きの習得といったことなども指導範囲です。

そのほか、白杖を使って歩く、コンピュータなどを利用して様々な情報を得るといった指導も行われます。

弱視の方には、見える程度などに合わせて対象を拡大させたり、白黒反転させたりした教材を使うなどの工夫がされた指導が行われています。

2) 高等部
高等部では、高等学校の普通科での教育を中心に、将来に向けた指導も行われます。筑波技術大学などへの進学指導のほか、たとえば、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、理学療法士といった国家資格の取得を目標にした職業教育なども行われます。

② 聴覚障害

1) 小・中学部
小・中学校に準じた教科学習指導が行われることに加え、書き言葉の習得や抽象的な言葉の理解を目指した指導が行われることになります。また、発達段階に応じて、指文字や手話を活用するなどの自立活動に向けた指導も行われます。

2) 高等部
高等部には、普通科のほかに産業工芸や機械、印刷、被服、情報デザインなど、多様な職業学科が設置されています。

筑波技術大学などへの進学指導のほか、理容師、歯科技工士、調理師などの資格の取得を目指すなど、将来の自立を目指した進路指導、学習指導なども行われています。

③ 知的障害

1) 小・中学部
一人ひとりの言語面・運動面・知識やスキル面での発達の状態や社会性などに配慮し、生活上役立つことについて実体験を重視した指導が行われるのが基本です。

このため、小学部では、基本的な生活習慣や日常生活に必要な言葉の指導などが、中学部では小学部での学びを発展させた集団生活や円滑な対人関係、社会生活における基本的なルールの指導などが行われます。

2) 高等部
一人ひとりの状況に応じた指導であることは、小・中学部と共通です。その上で、家庭生活・職業生活・社会生活に必要な知識や技能、必要になる態度などを中心に学ぶことになります。

また、将来の自立を目指し、木工、農園芸、食品加工、ビルクリーニングといった作業学習などを通じた職業教育も行われています。

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知的障害特別支援学校における教育 ~その特徴的な指導と魅力

④ 肢体不自由

障害のある方一人ひとりの障害の状態や、発達段階に配慮しつつ、一般的な小・中学校、高等学校に準じた学習指導が行われます。また、身体の動きの改善などを目指した訓練や指導が行われます。

病院で機能訓練を行う方や、たんの吸引などの医療的ケアを必要とする方も多いことから、医療機関とも連携しながら指導が行われます。

⑤ 病弱

基本的には、一般の小学校・中学校・高等学校と同じ教科学習指導が行われます。自立活動の時間では、身体面の健康維持だけでなく、病気への不安感や自信の喪失などに対するメンタル面での健康維持に対する指導も行われています。

治療などによって学習に空白がある場合、グループ学習や個別指導による授業が行われたり、病気との関係で長時間の学習が困難な方については、学習時間を短くしたりするなど、その病状により学習への配慮がされることになります。

(5) 交流及び共同学習の実施

小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の各学習指導要領などでは、交流及び共同学習を積極的に推進することとされています。

交流及び共同学習とは、障害の有無に関わらず、互いの理解を深め、尊重し合える社会をつくることを目指し、障害のある方々と、そうでない方々、地域社会で生活する方々とがふれ合い、共に活動することです。

特別支援学校における交流及び共同学習の例としては、以下のような取り組みがあります。

① 特別支援学校とその他の小・中学校との間での交流会
② 特別支援学校の生徒の、その他の小・中学校の音楽・図画工作・美術などの授業への参加・遠足などの学校行事への参加
③ 特別支援学校における文化祭などの学校行事への地域にお住いの方々の招待
④ 特別支援学校の生徒の、地域行事やボランティア活動への参加 など

(6) 医療的ケア

障害のある方には、医療的なケアが必要な方もいらっしゃるでしょう。

医療的ケアは看護師などが行うことが原則ですが、保護者の方の同意や医療関係者による適切な管理といった一定の条件が満たされている場合、特別支援学校において、その教員が、たんの吸引、胃ろうなどの経管栄養、自己導尿の補助を実施することができるようになりました。

医療的ケアの必要性から特別支援学校に通うことができなかった方の通学のハードルが低くなったと言えるでしょう。実際、特別支援学校には、多くの日常的に医療的ケアを必要としている方が在籍しています。

(7) 訪問教育

重い障害があったり、複数の障害があったりするなどで、特別支援学校に通学することが困難な方に対しては、特別支援学校の教員がご家庭や児童福祉施設、医療機関などに訪問するなどして、必要となる教育を行っています。

【関連記事】
精神障害のある方を支える教育のしくみ(全体像)
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-kyoiku/

知的障害のある方を支える教育のしくみ(全体像)
https://jlsa-net.jp/ti/chi-kyouikuzentai/

身体障害のある方を支える教育のしくみ(全体像)
https://jlsa-net.jp/sei/hinatai-kyouiku/

発達障害のある方を支える教育のしくみ(全体像)
https://jlsa-net.jp/hattatsu/hattatsu-kyouiku/

文科省ホームページ
特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm
交流及び共同学習ガイド
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/010/001.htm
特別支援学校学習指導要領解説
自立活動編
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/18/1278525.pdf

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
重点推進研究 / プロジェクト研究 / 特別研究報告書
http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub-c.html
自閉症のある子どもの指導・支援
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/11519/20160411-132035.pdf

3. 特別支援学校に就学できる対象

「図-特別支援学校に就学できる対象」
特別支援学校に就学できる対象

特別支援学校に就学可能な方は、学校教育法の中で就学基準として以下のように定められています。ただし、この基準に該当するからといって、必ず特別支援学校で学ばなければならないというわけではありません。

つまり、特別支援学校のほか、特別支援学級、通級指導教室、通常学級といった選択肢の中から、最適と思われる学習環境を選択できるということです。

(1) 視覚障害

両眼の視力がおおむね0.3未満の方、または視力以外の視機能障害が高度の方のうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度の方

(2) 聴覚障害

両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上の方のうち、補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが不可能、または著しく困難な程度の方

(3) 知的障害

① 知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通が困難で日常生活を営むのに頻繁に援助を必要とする程度の方
② 知的発達の遅滞の程度が、①に掲げる程度に達しない方のうち、社会生活への適応が著しく困難な方

【関連記事】
知的障害特別支援学校における実際の指導例とそのポイント
ttps://jlsa-net.jp/ti/ti-tkbsg-sp/

(4) 肢体不自由

① 肢体不自由の状態が、補装具の使用によっても歩行、筆記などの日常生活における基本的な動作が不可能または困難な程度の方
② 肢体不自由の状態が、①に掲げる程度に達しない方のうち、常時の医的観察指導を必要とする程度の方

(5) 病弱

① 慢性の呼吸器疾患、腎臓疾患および神経疾患、悪性新生物その他の疾患の状態が、継続して医療または生活規制を必要とする程度の方
② 身体虚弱の状態が、継続して生活規制を必要とする程度の方

参考:
文部科学省 障害のある児童生徒の就学先決定について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/siryo/__icsFiles/afieldfile/2010/08/18/1296501_03.pdf

4. 特別支援学校への就学の魅力と課題

これまで見てきた特別支援学校への就学について、その魅力と課題を整理すると以下のように表現できるのではないでしょうか。

「図-特別支援学校への就学の魅力と課題」
特別支援学校への就学の魅力と課題

(1) 魅力的な点

① 一人ひとりの障害の状況に合わせたカリキュラムが組まれ、障害や障害のある方に対する専門的な知識や理解を持った教員から、きめ細かい指導が受けられる
② 特別支援学校高等部では、障害に応じた職業教育や進路指導が受けられる

(2) 課題

① 同世代の仲間と触れ合う機会が少ない
② 地域差や学校差が大きい面がある
③ 転学・転校は可能だが、手続きが必要
④ 特別支援学校高等部を卒業しても、大学入学資格を得られるが、一般の高校卒業資格は得られない

【関連記事】
特別支援学校卒業後 知的障害の方の進路先と進路選択のポイント
https://jlsa-net.jp/syuurou/tokushi-shinro/

最後に

特別支援学校は、障害のある方の就学先としての選択肢の一つです。

「障害のある幼児・児童・生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点から、対象となる方々一人ひとりの教育的ニーズを把握し、お持ちの力を高め、生活や学習上の困難を改善したり、克服したりするために、適切な指導と必要な支援を行う」とされる特別支援教育の下で整備されており、全国に設置されています。

一人ひとりの障害の状況に合わせたきめ細かい教科指導や社会生活指導などが、専門性を持った教員から受けられるという魅力があります。就学基準を満たすようなら、その課題にも注意しながら、就学先として検討するとよいのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考
文科省ホームページ
特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm
交流及び共同学習ガイド
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/010/001.htm
(4)それぞれの障害に配慮した教
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004.htm
特別支援学校学習指導要領解説
自立活動編
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/18/1278525.pdf
学校教育法等の一部を改正する法律要綱
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/06072108/001.htm
障害のある児童生徒の就学先決定について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/siryo/__icsFiles/afieldfile/2010/08/18/1296501_03.pdf

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
(3)医療的なケアを必要とする子どもへの対応
http://www.nise.go.jp/cms/13、979、50、208.html
(4)訪問教育における指導
http://www.nise.go.jp/cms/13、980、50、208.html
(4)個別の指導計画と個別の教育支援計画
http://www.nise.go.jp/cms/13、3300、54、248.html
(5)教科書
http://www.nise.go.jp/cms/13、895、45、178.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構 代表理事として広報を担当する。現在、株式会社目標管理トレーニングの代表取締役としても活動を行っ...

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