脳性麻痺とは?

知的障害

はじめに
脳性麻痺は、その基本的な障害以外にも、さまざまな障害を伴う可能性のあるものです。

ここでは、脳性麻痺について、その原因や症状のあらわれ方などの特徴、その治療の中心となるリハビリテーションの方法などについてまとめています。



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1. 脳性麻痺とは?

「図-脳性麻痺が発生するメカニズム」
脳性麻痺が発生するメカニズム

(1) 脳性麻痺とは?

脳性麻痺とは、妊娠後から生後4週間までの間に、何らかの原因による脳の損傷により発生する運動と姿勢に関わる障害で、将来に渡ってその症状が続くものです。

脳性麻痺という言葉自体が、「脳(性)+麻痺」という2つ単語で構成されていることからも予想されるとおり、「脳のいずれかの部位が傷つけられ」、「体のどこかに運動機能上の障害が発生する」ものです。

(2) 脳性麻痺の発生するメカニズム

脳に損傷があると信号を伝達する神経が損傷する場合があります。また、神経に損傷があると送るべき信号が筋肉に伝えられなくなってしまいます。

このため、手足などのさまざまな器官を思うように動かせなかったり、正しい姿勢を維持したりすることが難しくなるというのが、脳性麻痺が発生するメカニズムです。

脳の損傷は、損傷した部位やその範囲が一人ひとり異なると言えます。このため、成長段階でどの程度影響が出るのかも、どのような症状があらわれるのかも、一人ひとり異なるということになりますし、また、さまざまな合併症状が見られることも明らかになっています。

(3) 脳性麻痺の発生率(罹患率)

 脳性麻痺は、小児における肢体不自由の最大の原因となっています。その発生頻度は、1000件の出産のうち2.5人となっていますが、早産の場合では1000件のうち22人というデータがあります。女児よりも男児の方がよりも多く発生することもわかっています。

参考:
独立行政法人 科学技術振興機構
脳性麻痺
http://www.jst.go.jp/ips-trend/disease/cerebral_palsy/index.html

神奈川県立こども医療センター神経内科
脳性麻痺
http://kcmc.jp/sinkei/nouseimahi.html

2. 脳性麻痺の原因

脳性麻痺の原因はさまざまで、その時期によっても異なると考えられています。

(1) 妊娠中に発生するもの

妊娠中の脳性麻痺の原因としては、脳の中枢神経系の奇形、遺伝子や染色体の異常、感染症などが考えられます。

(2) 出産時に発生するもの

出産時の脳性麻痺の原因には、低酸素性虚血性脳症があります。低酸素性虚血性脳症とは、脳へ酸素が届かないことで脳が損傷されるというものです。いわゆる仮死状態で生まれてきた場合など新生児の呼吸障害や、けいれんでも引き起こされることがわかっています。

(3) 出産後に発生するもの

出産後の脳性麻痺の原因となる脳の損傷は、中枢神経感染症・頭蓋内出血・頭部外傷・呼吸障害・心停止・てんかんなどが引き起こす場合があることがわかっています。

具体的な症状・疾患としては、核黄疸・ビリルビン脳症といって、新生児にみられる黄疸を引き起こす物質であるビリルビンが脳にも損傷を与えるというもの、未熟児や早産が原因となって起きる脳室内出血や脳室周囲白質軟化症といったものもあります。

脳室内出血は新生児の脳内に出血が起きること、脳室周囲白質軟化症は脳の周囲を囲む白質と呼ばれる部分に血液が行き届かないというものです。

(4) 脳性麻痺の予防はできるのか?

上記で見た通り、脳性麻痺の原因はさまざまで、こうすれば必ず予防ができるというものはありません。たとえば遺伝に伴うようなものなど、どれだけ親ががんばったとしても、どうすることもできないでしょう。

とはいえ、感染症を予防したり、早産とならないよう妊娠中の生活習慣に気を配ったりといった取り組みは、その対策の有効な手段とは言えるでしょう。

ただし、感染症にかかってしまったら、あるいは早産になってしまったら、必ず脳性麻痺になるというものではないという点の理解も大切です。

参考:
公益財団法人 日本産婦人科医会
脳性麻痺の発生要因
http://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H10/981019.html

3. 脳性麻痺の診断と分類

脳性麻痺は、「脳(性)+麻痺」であり、またその症状が運動と姿勢にあらわれる、ということから、脳と麻痺の状況から診断・分類が行われると考えるとわかりやすいかもしれません。

なお分類の視点はさまざまありますが、代表的なものに、麻痺が身体のどこに起きているかと、筋の緊張状態との組み合わせによるものがあります。

(1) 検査

脳性麻痺を特定できる検査はありませんが、脳の障害がどのような原因であるかを明らかにするために、頭部CT検査やMRI検査といった画像検査や血液検査、尿検査などが行われる場合がある他、より精密な検査が行われる場合もあります。

脳のどの部位に障害が起きているかを把握することで、その後の症状の出方や特に注意して経過観察すべき点などを特定しておくことにもつながると考えられるでしょう。

(2) 麻痺の身体分布による分類

「図-麻痺の身体分布による分類」
麻痺の身体分布による分類
麻痺が体のどこにあらわれるか、という見方では、次のように分類することができます。なお、⑤~⑦のような麻痺が見られることは稀であるようです。

① 四肢麻痺:左右の上肢と左右の下肢に麻痺がみられる状態です
② 両麻痺:左右の上肢と左右の下肢に麻痺がみられる状態ですが、上肢より下肢の麻痺が重度です
③ 対麻痺:左右の下肢に麻痺がみられる状態です
④ 片麻痺:片側半身にだけ麻痺がみられますが、下肢より上肢の麻痺が重度です
⑤ 重複片麻痺:左右の上肢と左右の下肢に麻痺がみられますが、下肢より上肢の麻痺が重度です
⑥ 三肢麻痺:左右の下肢と上肢の左右いずれかに麻痺がみられます
⑦ 単麻痺:四肢のうち、いずれか一つにのみ麻痺が見られる状態です

(3) 筋の緊張状態の異常からの分類

脳性麻痺では、姿勢の維持が難しかったり、動きがぎこちないものになったりといったことがその症状として見られます。

これらの動作は、筋が緊張したり緩んだりということがスムーズに行われることによって可能なのですが、脳性麻痺の場合、これが行えなかったり、行えてもスムーズではなかったりといったことが起こっています。

このことから、筋の状態やその症状から分類するという方法が取られるということです。

この分類で多く見られるものには、大きく痙直型とアテトーゼ型があります。

① 痙直型とアテトーゼ型

1) 痙直型
痙直型は、筋の緊張が高い状態のことで、ぎこちない動作が特徴としてあらわれます。筋肉のこわばりや非常に強固な硬さが見られ、変形・股関節脱臼などになりやすいと考えられます。

2) アテトーゼ型
意識的に手足などを動かそうとすると、無意識のうちに顔が揺れてしまといった動きが同時に起こるのが特徴です。筋の緊張が安定しにくい状態にあるため、姿勢が保てなかったり、左右対称の姿勢が取りにくかったり、また、精神的な緊張などにより、筋の緊張が高くなりやすい、つまり、かたまって動かしにくくなりやすかったりといった症状が見られます。

3) 痙直型とアテトーゼ型の比較
痙直型とアテトーゼ型のそれぞれの特徴は、以下のように比較することができます。

痙直型とアテトーゼ型の比較
② その他の型

その他にも、全身の筋の緊張が高く関節の動きが非常に硬い強剛型、逆に全身の筋の緊張が低いために姿勢保持が非常に難しい低緊張型、姿勢保持や動作時に筋がバランスよく動かなかったり震えたりする失調型などがあります。

参考:
公益財団法人 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度
脳性麻痺とは
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/pregnant/about.html

信州大学学術情報オンラインシステムSOAR
脳性麻痺(2):脳性麻痺の部位別分類と類型分類
https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=17961&item_no=1&attribute_id=65&file_no=2&page_id=13&block_id=45

4. 脳性麻痺と合併症、二次障害
(1) 合併症

脳が損傷を受けたときに、運動に関係した部位だけが損傷するということは非常に稀と考えられています。

つまり、運動機能を司る脳の部位が傷つくということはほどんどなく、結果、聴力障害・視力障害・てんかん発作・知的障害や発達障害を含む精神障害を合併するケースが相当数見られます。

(2) 二次障害

脳性麻痺の二次障害は、痙直型を中心に、変形性頸椎症や股関節変形症等といった症状としてあらわれやすいことがわかっています。

ご本人の自覚症状としては、まず凝りを感じるようになり、続いて痺れ、痛みが順にあらわれ、最終的に無感覚になる、という段階を経ると言われています。

二次障害は発生する部位によっては、最終的に呼吸不全を引き起こすようなものもありますので、予防が重要。体位を定期的に変える、姿勢を整える、自分の体重を体全体でバランスよく受け止められるようにするなど、ご本人が心がけられるよう支援していくことも大切ということです。

参考:
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n235/n235_13-01.html

5. 脳性麻痺の治療と支援

脳性麻痺は、すでに生じてしまった脳の損傷が原因でさまざまな症状があらわれます。脳やその神経は一度傷つくと再生されることはないため、後遺症として障害を残すということです。

よって、残念ながら現時点の医療技術では脳の損傷そのものを治すことはできません。とはいえ、脳を傷つけた原因、つまり脳性麻痺を引き起こした原因自体は取り除かれている状態なので、それ以上症状が悪化することもありません。

そこで、あらわれている症状を緩和もしくは改善することや、運動機能を獲得するための治療が行われます。損傷を受けなかった脳の部分が、傷ついた部分が果たすはずだった機能の代わりを果たすよう、治療していくということです。

(1) リハビリテーションによる治療

「図-脳性麻痺のリハビリテーションによる治療」

脳性麻痺の治療は、リハビリテーションセンター病院や、リハビリ科のある病院が中心となって行われるのが一般的です。

リハビリテーションとして取り入れられているものには以下のようなものがありますが、脳性麻痺の症状や程度は個人で大きく異なりますので、リハビリテーション自体も一人ひとりに合わせて進められていくことになります。

① 理学療法

理学療法は運動療法と物理療法とを組み合わせて行われるのが一般的です。特に運動療法は、脳性麻痺における治療の中心とも言えるものです。「脳性麻痺」に伴う最も基本的な障害は、運動障害だからです。

運動療法では、運動機能を高めたり、姿勢を整えたりすることを目的にさまざまな種類の運動を行うことになりますが、「動かそうとしても動かない」という状態ですので、無理をさせない、 口だけで指示しない、 介助して誘導しつつそれを徐々に減らしていき、ご本人だけで行動することを待つといった原則を押さえて行うことが重視されます。

一方、物理療法は、電気刺激やマッサージ、温めたりすることで痛みを軽減することを目的に行うものになります。

② 作業療法

作業療法は、理学療法で改善された機能を使って、日常生活での活動に応用していけるようにするものです。たとえば、衣服の着脱や排便、入浴などは、日常生活で必要となる動作ですが、それが少しずつでも自立してできるように訓練していくことになります。

この訓練は、楽しみながら、理学療法による機能の改善度合いを見極めながら行うのが基本です。

③ 言語聴覚療法

脳性麻痺で話すことが難しいなどコミュニケーションに障害があったり、ものをうまく飲み込めなかったりする場合に行います。ここでは、食べ物を咀嚼する機能、それを飲み込む機能の改善から取り組んでいくのが基本です。

この訓練を通じて、言葉を発するために必要な唇・あご・舌の動きを身につけたり、呼吸との調整を学んだりすることになります。他に発声訓練なども行いながら、言葉の理解・獲得にもつなげていくことになります。

④ 補装具の利用

補装具には、関節を固定するようなもの、姿勢を保ちやすくする椅子や机、歩行練習のための歩行器や杖、車いすなど、幅広いものがあり、特に下肢用のものが多くあります。

これらは単に安定性を補うことが目的なのではなく、関節の変形の防止に役立てるものでもあります。

補装具も単にあてがえばよいというわけではなく、安全に、また、有効に使えるよう、補装具を使うこと自体を訓練する必要もあります。

(2) リハビリテーション以外による治療

リハビリテーション以外の治療としては、筋肉の緊張を和らげることを目的にその部位に注射をするボツリヌス療法や、脳性麻痺により変形してしまった体の部位などを手術するといった方法もあります。

参考:
公益社団法人日本リハビリテーション医学会
脳性麻痺リハビリテーションガイドライン
http://www.jarm.or.jp/wp-cntpnl/wp-content/uploads/2017/05/member_publication_isbn9784307750387.pdf

大阪発達総合療育センター
脳性麻痺について
http://osaka-drc.jp/cerebral.html

6. もしかしたら脳性麻痺? と思ったら

脳性麻痺については、「未熟児・新生児脳症などの成育歴があるか」「運動の発達指標の遅れ.とくに座る、立つ、歩くことの遅れがあるか」「筋肉に痙縮と呼ばれる硬さ、あるいは弛緩などの異常な筋緊張がないか」「左右両側のつり合いの取れない運動パターンの発達.たとえば、片方の手が極端に優位でないか」などの視点で、その発達状況を確認するのが一般的です。

脳性麻痺はおおむね2歳ぐらいまでに判明することが多いと言われていますが、発達には個人差が大きいのも事実。発達が目安とされるタイミングよりも遅れているからといって、必ずしも脳性麻痺であるとは限りません。

よって、1歳半まで3月健診・6ヶ月健診・1歳半健診などの検診のタイミングを利用して相談してみるのが最もハードルの低い方法かもしれません。

それでも、首のすわりや寝返り、お座り、ハイハイといった、運動に関する発達度合いが極端に遅いというような心配事があるようであれば、医療機関に相談すると良いでしょう。

参考:
公益財団法人 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度
脳性麻痺とは
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/pregnant/about.html

神奈川県立こども医療センター神経内科
脳性麻痺
http://kcmc.jp/sinkei/nouseimahi.html

最後に

脳性麻痺は、1000件の出産のうち2.5人と発生頻度が高いものです。脳のいずれかの部分が損傷することが原因となって運動機能・姿勢に影響が出ますが、損傷される部位によって脳が司る各器官や機能が異なるため、一人ひとり、さまざまな症状が起きます。

脳の損傷自体を治すことができないため、リハビリテーションが治療の中心です。

子どもの武器は、「成長・発達」。早い段階からリハビリテーションを実施すれば、脳の損傷されていない部分が、損傷を受けた部分の代用となるような働きをするようになるということも、十分理解しておく必要があるでしょう。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
独立行政法人 科学技術振興機構
脳性麻痺
http://www.jst.go.jp/ips-trend/disease/cerebral_palsy/index.html

公益財団法人 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度
脳性麻痺とは
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/pregnant/about.html

公益社団法人日本リハビリテーション医学会
脳性麻痺リハビリテーションガイドライン
http://www.jarm.or.jp/wp-cntpnl/wp-content/uploads/2017/05/member_publication_isbn9784307750387.pdf

公益財団法人 東京都医学総合研究所
脳発達障害
http://www.igakuken.or.jp/medical/medical02/02-3.html

大阪発達総合療育センター
脳性麻痺について
http://osaka-drc.jp/cerebral.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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