ANAが実施した障害のある方への体験搭乗プログラム

知的障害

はじめに
 障害があるがために、旅に出ることをあきらめている・・・。そんな方もいらっしゃるのではないでしょうか? その一つに、飛行機など乗り物に乗るのが不安であるというものがあると言われています。そのような声に対応するプログラムとして、ANAが障害のある方の体験搭乗プログラムを実施しました。

 ここでは、障害のある方が旅に出るということについて、そのハードルとなっているものと、対応の方法の一つとしてANAが実施した体験搭乗プログラムの内容をご紹介しながら、今後求められる環境整備の在り方などについてまとめています。

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1. 障害のある方にとっての「旅をする」というハードル

「図-障害のある方にとって、旅をするということのハードルとその対策」

 知的障害・精神障害・発達障害といった障害のある方にとって、「旅をする」ということ、特に公共の乗り物を利用した旅は、ハードルの高いものであると言います。その大きな理由として、以下のようなものが考えられます。

(1) 旅という機会そのものが、普段の生活と異なる

 「旅に出る」という機会は、誰にとっても普段の生活とは異なる機会です。新しい発見、新たな出会いなど、その期待で少なからず興奮しているのでしょう。「旅行に出る前夜、寝つけなかった」という経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

このような普段の生活と異なる「旅に出る」ということが、障害のある方にとっては期待以上に大きな不安を抱かせる面もあるとのこと。また、不安な気持ちばかりでなく、期待の大きさにより、激しい興奮状態に陥り、障害による症状が悪化することもあるようです。

(2) 乗り物の中という環境が、普段の生活と異なる

 普段の生活と異なるという点では、車やバス、列車・電車、飛行機等の乗り物についても同様のこと。このことは、よくよく考えてみればわかるものではあります。

たとえば、飛行機に乗ろうとする場合で言えば、まずは空港に行くまでが普段の生活とは異なる行動であり、異なる時間に活動するもの。また、空港に行くまでに利用する交通機関が異なるでしょうし、空港に着いてからは、空港という場も、普段とはまったく異なる空間であると言えます。

そして、実際に飛行機に搭乗するまでに、チェックインし、荷物を預け、セキュリティチェックを受け、搭乗口まで移動し、待ち、そして、チケットを搭乗口で提示して飛行機に乗る。

さらに、飛行機という環境も、相当独特な環境です。各自に決められた座席があり、乗客全員が同じ方向を向いて座り、シートベルトを締める必要があります。また、シートベルト着用ランプが消えるまで、立ち上がったり、トイレを利用したりすることもできません。電子機器類も、一定の時間は使用することもできません。

離陸と着陸の際は、その加速と減速により体に重力がかかりますし、耳がキーンとすることもあります。機内の空気や匂い、音なども含め、見ること、やることといった刺激だけでなく、乗り物の特性が与える刺激というものもあり、また、その場で守る必要があるルールも、普段とは異なる刺激と言えるでしょう。

(3) 刺激の多さが障害のある方を旅から遠ざけている可能性

このように見てくると「旅に出る」ということは、普段とは異なる場面・刺激の連続と言えます。まして、それが初めてのことであった場合は、新たな経験・新たな刺激の連続であると言い換えることもできます。

このような刺激の多さは、障害のある方を旅行から遠ざける要因になっているとも考えられます。確かにすべてが新しい刺激ばかりの環境では、人は休むこともできないでしょうし、興奮状態に陥ってしまうのも無理からぬことではないでしょうか。

(4) 「初めて」を少しずつ経験しておけば・・・

 いきなり乗り物を利用した旅に出るということが、普段とは異なる新しい刺激ばかりで難しいという場合、乗り物を利用した旅はあきらめなければならないのでしょうか? 

「そうではない」ということは、たとえば、進学するというケースを考えてみても、明らかではないでしょうか。進学する場合、学校という新しい環境で生活することになります。普段の生活の場となっている環境であっても、初めてのときは新しい刺激であったはずなのです。

つまり、初めての体験・刺激を「少しずつ」経験しておけば、一気に新しい刺激を受けるよりも格段に対応しやすくなると考えられるということです。

飛行機を利用した旅で言えば、たとえば、以下のように段階を踏むという方法が考えられるでしょう。

① 自家用車など、比較的自由のきく交通手段で旅行を経験する
② 空港まで行くという経験をする
③ 実際に旅に出るのと同じ時間に空港まで行くという経験をする
④ 空港という場を経験する

その他に、距離や時間の長さを変えた経験をしておくというのも、初めての刺激を少なくしたり、弱めたりすることに役立つ方法と言えるでしょう。

参考:
厚労省ホームページ
発達障害の理解のために
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html
e-ヘルスネット 知的障害(精神遅滞)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
みんなのメンタルヘルス 病名から知る
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease.html

2. ANAが実施した体験搭乗プログラム

「図-ANAが実施した体験搭乗プログラム概要」

 ここまでに見てきたように、「旅に出る」ハードルを下げるために、ご自身やそのご家族の方が工夫できることはあるでしょう。つまり、旅をする経験を少しずつ区切り、事前に予行演習のような形で体験をしておくということです。

その一方で、ご自身やご家族の工夫ではいかんともし難いものもあります。それは、「実際に飛行機などの乗り物を利用して、移動はしないまでも、空港でのチェックインから、ボディチェックを受け、チェックイン後の搭乗口までの空港内を利用し、飛行機に乗るという経験」です。

(1) 海外では先行している体験搭乗プログラム

 このような予行演習にあたる体験搭乗プログラムは、海外では以前から行われているプログラムだとのこと。たとえば、アリージアント航空は、過去3年間に渡って毎年、全米10か所の空港で行っています。「障害のある方が飛行機に乗るときのストレスを軽減させよう」というのがそもそもの目的となっています。 

一方で、同プログラムの参加者にとっては、「どのようなことに困るのかがわかることで、実際に利用するときに向けた準備と対策ができる」、ということで、非常に人気があるそうです。

(2) ANAと成田国際空港が日本初の体験搭乗プログラムを実施

「図-ANAが実施した体験搭乗プログラムの概要」

 日本ではANAグループが、成田国際空港株式会社と共同で、2018年1月に日本で初めて、実際の空港と旅客機を利用した体験搭乗プログラムを実施したとのこと。当日の体験搭乗プログラムは、以下のような飛行機と空港を利用する1時間半ほどのプログラムです。

① 空港での搭乗手続き
② 保安検査
③ シートベルトの着脱練習
④ 飛行機内への搭乗・着席
⑤ 地上で止まっている航空機をけん引するトーイング・カーを利用した地上走行
⑥ ドリンクサービスの体験
⑦ 降機後バスでの空港施設への移動 など

搭乗口前には、成田国際空港株式会社が、人目やさまざまな音を遮り、落ち着くことができるような場であるクールダウン・カームダウンスペースとそのツールを用意、機内で機長と客室乗務員から、握ることで気分が落ち着く効果のあるオリジナルおもちゃが配布されたほか、体験搭乗プログラム終了後には空港見学会も開催されたそうです。

参考:
ANAホームページ
日本初!発達障がいのあるお子様向けの体験搭乗プログラムを開催しました!
https://www.ana.co.jp/ana_news/2018/02/08/20180208-2.html

GoUpstate.com
Children ‘take flight’ during Wings for Autism
http://www.goupstate.com/news/20180213/children-take-flight-during-wings-for-autism

3. 体験搭乗プログラムに合わせて作成された「そらぱすブック」

この体験搭乗プログラム実施に合わせて、ANAは、障害のある方が飛行機に乗ることを事前に学習する冊子「そらぱすブック」を作成しています。この「そらぱすブック」は、体験ツアーから見えた課題と参加者の方々からのアンケート結果に基づき、さらに改定が加えられているとのことで、「こども編」と、その内容をより詳細化したという「おとな編」とがあります。

また、冊子の内容を、12分の映像にした「そらぱすビデオ」も公開されています。「そらぱすビデオ」は、空港での手続き、保安検査場、搭乗口、機内、到着の5つのパートに分割されているので、少しずつポイントをつかんでいくことにも役立つと言えるでしょう。

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参考:
ANAホームページ
知的障がい・発達障がいのあるお客様
https://www.ana.co.jp/ja/jp/serviceinfo/share/assist/support/disorders.html

4. ANAの取り組みの背景にあるもの ~ 航空会社に限らず日本がインフラとして整備すべきもの

「図-日本がインフラとして整備すべきと言えること」

(1) 航空会社としての義務

① 航空会社に寄せられる批判

ANAのこのような取り組みの背景にあるのは、障害のある方の社会参加が広がり、旅行や会議などの目的で、飛行機を利用する方が増えているということにあります。

一方で、非常時の対応力を理由に障害のある方の搭乗人数制限があったり、障害のある方自身で食事やトイレの利用、客室乗務員など係員とのコミュニケーションが難しいといった場合、付き添いの同伴が必須となっていたりと、障害のある方が、いわゆる健常者と呼ばれる方と同じレベルで利用できるわけではないといった現状があります。

予約時、空港チェックイン時、搭乗ゲート、機内で、大変な思いを強いられているといった批判があるのです。ANAの体験搭乗プログラムは、このような批判に対する対応の一つとも言えるでしょう。

② 訪日客の増加という視点

 障害のある方が利用しやすい環境づくりは、訪日客の増加という点からも重要視されている面があります。2017年の訪日客は2869万人まで増加。10年前の2008年の835万人の実に3.4倍となっています。

2020年に東京オリンピック、パラリンピックの開催が予定されていることから、日本の表玄関としての成田、羽田の両空港の運営会社とともに、訪日客の中で障害のある方にとっても利用しやすい環境を整備することは、非常に重要なものでもあると考えられるわけです。

ただ、これらの対応は、航空会社や空港だけに求められるものでないことは、言うまでもありませんし、批判があるから対応しなければならないというものでもありません。共生社会を目指すのであれば、当然すべきことと言えるわけです。

(2) 障害のある方が旅に出る際の課題

障害のある方が旅に出る際の課題は、他にも多くあると考えられます。主な視点としては、次のようなものがあると指摘されています。日本がインフラとして整備していくべきものと言えるのではないでしょうか。

① 旅行情報の不足

障害のある方にとって必要になる情報は、一般的に必要となる情報よりも多いという課題です。たとえば交通機関の設備状況、宿泊先の設備状況、観光先の設備状況といった各種の設備状況に関する情報は最低限必要な情報ですが、それらの情報すら必ずしも十分とは言えない状況にあると言えます。

② 交通手段・観光地における設備の整備の不足という問題

障害のある方によれば、比較的利用者の多い航空機や新幹線といったものは、それでも利用しやすい環境が整備されているとのこと。その他の交通機関などは、さらに問題が多いということです。一方で、障害のあることによる困りごとは、障害のない方がいくら想像をしても想像しきれるものではないのも事実。やはり当事者である障害のある方々が意見を出すことが大切になると言えるでしょう。

③ 介助者という問題

介助される方がいない、仮に見つかっても費用がかかるという問題が、障害のある方が旅をすることを難しくしている面もあるとされています。これも人材バンクのような形で、対応サービスの整備が求められるでしょう。

④ 旅行会社の受け入れ体制の問題

特に海外への渡航については、障害のある方にとってもパッケージツアーを利用するのが一般的となっています。ただ、パッケージツアーにはさまざまな制約があるのも事実。障害のある方がパッケージツアーに参加する際の条件が、十分に整備されているとは言えないという事実があると同時に、整備されていたとしても、障害のある方の実態にそぐわない面もあると言われています。

また一方で、パッケージツアーという性質上、障害のある方自身が、「ご自身がどこまでできるのか」ということをきちんと伝えるとともに、できると言ったことはご自身ですることも必要でしょう。信頼関係に基づくルールづくり、しくみ作りも欠かせないということです。

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参考:
日本政府観光局 ホームページ
訪日外客統計の集計・発表
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/
年別 訪日外客数、 出国日本人数の推移
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/marketingdata_outbound.pdf

公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター 障害保健福祉研究情報システム
障害者の航空機利用の現状と課題
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n250/n250_01-09.html

立命館大学生存学研究センター 
第12章 障害者と旅行
http://www.arsvi.com/1990/94051712.htm

最後に

 障害があることが原因で、旅行に行くことをためらわれている方がいらっしゃるでしょう。障害のある方の社会参加広がる中で、飛行機をはじめとした交通機関のほか、さまざまな施設等についても、障害のある方が利用しやすい環境を整備することが求められています。

 そのような社会の要求に対応するような形で、ANAが飛行機の体験搭乗プログラムを日本で初めて実施しました。このような取り組みは、航空会社だけでなく、その他の交通機関に、また、宿泊先や渡航先、さらにはそれをコーディネートする立場にある旅行会社などにも求められるものだということです。

 そして、このような機会は、障害のある方ご自身やそのご家族の方にも積極的に利用いただきたいもの。まだまだの面があるとはいえ、相応の準備をするために役立てられると考えられるからです。そのような準備もしつつ、ぜひ旅に出て、世界を広げていただきたいと思います。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省ホームページ
発達障害の理解のために
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html
e-ヘルスネット 知的障害(精神遅滞)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
みんなのメンタルヘルス 病名から知る
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease.html

日本政府観光局 ホームページ
訪日外客統計の集計・発表
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/
年別 訪日外客数、 出国日本人数の推移
https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/marketingdata_outbound.pdf

公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター 障害保健福祉研究情報システム
障害者の航空機利用の現状と課題
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n250/n250_01-09.html

立命館大学生存学研究センター 
第12章 障害者と旅行
http://www.arsvi.com/1990/94051712.htm

ANAホームページ
日本初!発達障がいのあるお子様向けの体験搭乗プログラムを開催しました!
https://www.ana.co.jp/ana_news/2018/02/08/20180208-2.html
知的障がい・発達障がいのあるお客様
https://www.ana.co.jp/ja/jp/serviceinfo/share/assist/support/disorders.html

GoUpstate.com
Children ‘take flight’ during Wings for Autism
http://www.goupstate.com/news/20180213/children-take-flight-during-wings-for-autism

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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