障害のある方の生きづらさを理解するための一つの視点 ~障害という言葉の問題を考える

発達障害

はじめに
 障害のある方は、生活をおくる上で多くの生きづらさを感じていらっしゃいます。その一つの原因に、「障害者」という表現があるようです。ここでは、障害という言葉の意味を改めて見直しながら、なぜそれが生きづらさにつながるのか、そして、どのような解決方法が考えられるのか、一つのアイデアを見ていきます。

1. 日本における「障害者」

日本における「障害者」とは、知的障害・精神障害・身体障害・発達障害などの障害のある方と言えます。しかしこの「障害者」という「言葉」は、ある種の偏ったイメージを抱かせるという側面を持っていることは、否定できません。

2. グローバル化、多様化・多様性が時代のキーワードになる中で

「グローバル化」「多様化・多様性」といった「言葉」が、時代を表す言葉になっています。これらの「言葉」に対する意味は複数あるはずですが、競争市場の拡大とその中で様々な価値観が混じり合うということとを意味している場合が多いようです。

それぞれを辞書で調べると、実際には次のように定義されています。

(1) グローバル化

これまで存在した国家、地域などタテ割りの境界を超え、地球が1つの単位になる変動の趨勢(すうせい)や過程。

(2) 多様化・多様性

様式・傾向が、さまざまに分かれること。いろいろな種類や傾向のものがあること。変化に富むこと。

2つを合わせて言うなら、「人類という大きな視点」から、「環境」「戦争」「貧困」などの地球的規模の問題の解決に向けた取り組みを考え、実行することが求められる時代だということ。そして、その方法には、いろいろな種類や傾向のものがあり、変化に富んでいるということでしょう。そのような解決したい地球規模の問題の1つ大きなものとして「差別」があります。「障害者」に対する差別も、解決したい地球規模の課題ではないでしょうか。

参考:
コトバンク ホームページ
グローバル化
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB%E5%8C%96-181351
多様性
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%9A%E6%A7%98%E6%80%A7-5665

3. 「障害」という言葉の意味とイメージ

「図-「障害」という言葉のイメージ」

(1) 「障害」という言葉の定義

「障害」という言葉を辞書で調べると、以下のように、その意味が示されています。

障害とは?
① さまたげること。また、あることをするのにさまたげとなるものや状況。
② さまざまな原因で、一部機能が十分働かず、活動に制限があること。

(2) 「障害」という言葉のイメージ

① 使われる場面とその頻度が言葉のイメージを強くする

既に見たように、「障害」という言葉には、大きくは2つの意味があるのですが、それでも「妨げる」という意味を非常に強く示す言葉であることも事実でしょう。たとえば「障害物」という言葉、あるいは、子どもの世界でも通用する「障害物競争」というようなものです。「電波障害」やITシステム開発における不具合を表す「障害」など、「妨げること」という意味を持った言葉として使われる場面が多く、そのイメージを強めている部分もあります。

② 障害のある方に聞く「障害」「障害者」

実際に障害のある方に、障害という言葉のイメージをうかがいました。その方々も、「障害」という言葉に同じようなイメージを持たれていました。それを敢えて表現するなら、

「『障害』とは、妨げるもののこと。だから、『障害者』とは、妨げる人のことのように感じる。『障害物』の『人』版というような感じがする。」

ということです。

「いやいや、『障害』という言葉には、『さまざまな原因で、一部機能が十分働かず、活動に制限があること』という意味もある。だから、障害者という言葉を気にするのは、障害のあるである方の受け取り方の問題に過ぎない」という方もいらっしゃるかもしれません。確かに論理的にはそうなのでしょう。

しかし、仮にみなさんが、「あなたは、いつも他人の『障壁』にばかりなる人だ」と言い続けられたとしたら、どんな感情を抱くでしょう? 実は『障壁』という言葉には、ある種のプラスのイメージもあります。「あなたは私にとって大きな『障壁』だ。その『障壁』を乗り越えられれば、自分は大きく成長できる。だから、あなたには、いつも自分の『障壁』であってほしい」というような形で使うケースです。

直接、そして実を伴って、そう言われればわかります。そうではあっても、「あなたは、いつも他人の『障壁』にばかりなる人だ」という単純な表現から、そのような意味を抜き出すことができるでしょうか? 受け取ることができるでしょうか? 「障害」あるいは「障害者」という言葉が、「障害のある方が生きづらさを感じられている原因になっている」と言うことは、決して言い過ぎではないのはないでしょうか?

参考:
コトバンク ホームページ
障害
https://kotobank.jp/word/%E9%9A%9C%E5%AE%B3-172263

4. 欧米における「障害」の表現

では、欧米で「障害」や「障害者」はどのように表現されているのでしょう? 結論を言うとディスオーダー(Disorder)、ディスアビリティ(Disability)のように表現されています。ここで共通している「ディス(dis)」とは、「不●●」「非●●」「無●●」という意味です。つまり、要求(オーダー)に対して受けられない、能力や力(アビリティ)がないといった意味になります。

また、学習障害を表す言葉、ディスレクシア(読字障害/Dyslexia)、ディスグラフィア(書字障害/dysgraphia)、ディスカリキュア(算数障害/Dyscalculia)に共通する「ディス(dys)」は、「困難」「異常」「悪化」「不良」を示しています。

英語ネイティブの方が、これらの言葉にどのようなイメージを持たれているのかは、わかりません。とは言え、このように、言葉を構成するものに意味がある「文章に近い単語であり、表現である」という点で、日本語の「障害」よりは、障害のあるであることを正確に伝えられる意味に広がりが持たれる表現と言うことができるかもしれません。

参考:
文科省 ホームページ
特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/008/001.htm

東京都教育委員会 ホームページ
発達障害のある児童に対する ICT 機器等の導入ガイド
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/shidou/tokubetsushien/tokushi-sck_shidou/ict03.pdf

5. 障害? 障碍? 障がい? 「しょうがい」という言葉の課題に対する解決のためのアプローチ

日本においても、「しょうがい」という表現について工夫しようという動きがありますし、過去にもありました。ディスレクシア、ディスグラフィア、ディスカリキュアのように表現しようとするのも、その一つの理由かもしれません。それでもこのような日本語でのカタカナ表記にするような方法では、その瞬間、元の意味が薄れる、文脈にならない一つの言葉になってしまうという欠点があります。

また、「ディス」という響きだけが意味を持ちかねないという部分もあります。

過去の表現の工夫、変更という点では、障害を「障碍」あるいは「障がい」と表現しようというものがありました。出発点は、「害」という字に、「公害」「害悪」「害虫」に代表されるマイナスのイメージがあるとの説があります。しかし、国の有識者や各業界の意見、一般からの意見を合わせた検討の結果、平成22年に、「何か新しい言葉に変更するなどの判断ができる状態にない」「少なくとも当面は、法令等では『障害』と表現する」との判断がされています。

一方、この検討内容をよく見ると、単に表記を変えるというアプローチに終始した感が否めません。

参考:
内閣府ホームページ
「障害」の表記に関する検討結果について
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_26/pdf/s2.pdf

6. いかに障害のある方の生きづらさを解決するか
(1) 「障害理解」というアプローチ ~障害理解教育

「障害」という表記に対する改善のアプローチとは別に、障害のあるであることに対する社会的な理解を深めようとしているものに「障害理解」があります。たとえば、障害のある方とない方とが「通級指導教室」というような形で交流する場を作り、相互の理解を深めようとするような学校教育における実践的なアプローチにあたるものなどがあります。

一方でこのアプローチにも課題があると指摘されています。ご自身が20代前半までを弱視者として過ごし、その後ほぼ全盲に近い障害のある東京大学特任講師の倉本智明氏は、以下のように指摘しています。

「障害の理解」は大きくは2つの意味で使われている(つまり、混乱が見られるということ)。ひとつは障害を個人の上に起こった不幸な出来事とみなし、その克服をサポートするという立場であり、「障害の理解」もそのための手段として位置づけられるもの。

もうひとつは障害を特定の身体的特徴をもった者の上に集中する不利益とみなし、そのような不利益をもたらす社会制度や文化の組み替えを目指すという立場のもの。」

「「障害の理解」とは、つまりは社会的不利益の所在を理解することであり、社会的障壁の理解なのであると考えられないと、「障害理解を深める」という目的を達成できない」

(2) 二元論の問題~なぜ「共生」という言葉なのか?

「図-「共生」のイメージと目指したい社会の在り方」

さらに、「健常者と障害者が『共生』できる社会の実現」という法令・制度上の目標についても、ある種の違和感があります。各法令・制度では、その理念として、「障害の有無などに関わらず、誰もが日本国憲法で示される権利が保障される一方で、社会を構成する一人としてその義務を持つ」といったように表現されています。ここから単純に読み取れば、「誰もが権利と義務を持つ。とはいえ、現状、権利が行使できないような、あるいは義務を果たせる環境にないような方々がいる。

それは、ご本人の問題なのではなく、社会環境の整備が不足しているからだ。この必要な整備は、徐々にではあっても進める必要がある」となります。これはその通りでしょう。

一方で、いわゆる見出し語などに使われるのは、「健常者」と「障害者」とが「共生」できる社会というような表現です。つまり、元の理念では、「健常者」と「障害者」といった区別が存在していないのに、見出し語や、より個別の具体策になったときには「共生」などという言葉を作りだし、表現してしまうという二元論的な発想がされているのです。

このような二元論的な発想では、障害の幅広さ、個別性は語られません。さらに、「障害者が健常者の世界に住むことができるようにするのだ」というような、ある種の傲慢さが垣間見られてなりません。

(3) たとえば、「障害保持者」という表現の可能性

「図-「障害保持者」という表現のイメージ」

では、どのような解決の方法があるでしょう? 一つには、「障害者」という言葉ではなく、「障害保持者」のような表現を生み出すことでしょう。「保持」という言葉には、障害の本質である「生活を送る上で何らかの困難を伴う症状があり」、「その症状が固定されている」という2つの面を表します。

また、障害のある方が害なのではなく、そのような害となるものがあるということだということが表現されています。また、「障害理解」とは、あくまで障害というものの本質を理解することであり、それがあるとはどういうことなのか、ということを「障害保持の理解」として区別することも可能でしょう。

もちろん、「障害保持者」という言葉が本当に良いのかどうかはわかりません。ただ、このような具体的な案を解決したい課題を明確にして考えていくこと、は、非常に大切なことと言えるのではないでしょうか。

障害保健福祉研究情報システム
障害を理解するとはどういうことか
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n319/n319002.html
共生を阻む生活上の問題点
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/barrier/z00015/z0001504.html

日本障害理解学会
http://bfree.no.coocan.jp/jsrikai/index.html

文科省 ホームページ
共生社会を目指した障害者理解の推進 (特別支援教育研究協力校)中間報告書
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/006/001/1234642.htm

最後に

障害のある方は、その障害による生きづらさだけではなく、言葉などが持つイメージも含めた表現により生きづらさを感じていらっしゃる場合があります。特に「障害」という言葉は、障害のある方にとって、決してポジティブにとらえられる表現とは言えず、そのことが生きづらさの原因になっている可能性もありそうです。

単に表記の問題としてとらえるのではなく、どのように表現すれば「障害を持つことの理解につながるのか」を考えていくことが重要だということでしょう。なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
障害保健福祉研究情報システム
障害を理解するとはどういうことか
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n319/n319002.html
共生を阻む生活上の問題点
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/barrier/z00015/z0001504.html

日本障害理解学会
http://bfree.no.coocan.jp/jsrikai/index.html

文科省 ホームページ
共生社会を目指した障害者理解の推進 (特別支援教育研究協力校)中間報告書
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/006/001/1234642.htm
特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/008/001.htm

東京都教育委員会 ホームページ
発達障害のある児童に対する ICT 機器等の導入ガイド
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/buka/shidou/tokubetsushien/tokushi-sck_shidou/ict03.pdf

内閣府ホームページ
「障害」の表記に関する検討結果について
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_26/pdf/s2.pdf

コトバンク ホームページ
グローバル化
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AB%E5%8C%96-181351
多様性
https://kotobank.jp/word/%E5%A4%9A%E6%A7%98%E6%80%A7-5665
障害
https://kotobank.jp/word/%E9%9A%9C%E5%AE%B3-172263

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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