認知症を予防する ~認知症予防に有効な生活習慣と呼吸の重要性

高齢者・認知症

はじめに
 認知症は、加齢とともに発症する可能性が高まる病気で、誰もが患う可能性があります。そのような認知症を予防する方法はあるのでしょうか? ここでは、認知症予防につながる方法について、これまで明らかになっている研究成果もふまえ、まとめています。

1. 認知症とは
(1) そもそも認知症とは

認知症とは、年齢を重ねることに伴う「病気」の一つです。生まれた後、いったん正常に発達した脳の細胞や神経機能が、さまざまな原因により、死んでしまったり、働きが悪くなったりすることで、「記憶・判断力の障害などが起こることで、社会生活や対人関係に支障が出ている状態(およそ6か月以上継続)」を言います。

つまり、後天的な原因により生じる知能の障害であり、先天的な原因で起きる知的障害(精神遅滞)とは異なるものとして区別されています。年齢を重ねることに伴い、誰もが思い出したいことがすぐに思い出せなかったり、新しいことを覚えるのが難しくなったりしますが、「認知症」はこのような「加齢によるもの忘れ」とは違い、「病気である」という点でも異なります。

ただ、加齢に伴い発症する可能性が高まるという意味では、誰もが発症する可能性がある病気であると言うこともできます。

(2) 認知症における問題 ~治らない病気である、ということ

「治る」とされるものも一部ありますが、認知症の多くを占める、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などの認知症は、その症状が徐々に、不可逆的に進行していくとされています。つまり、認知症は、現在の医療技術では基本的に治らない病気ということです。

現時点での認知症の治療薬は、アルツハイマー型認知症に対するもので、病気の進行を緩やかにする作用を持つ薬が中心です。認知症を完全に治せる薬物療法がないため、非薬物療法と組み合わせて治療効果を高めようとするアプローチが一般的です。

参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html

2. 認知症にならない方法はあるのか?

「図-認知症予防につながる、と考えられること」

直接的に、また、絶対に認知症にならない方法があると言うことはできません。しかし、認知症は脳の血管の障害、たとえば脳梗塞や脳出血などでも場合によっては生じることが知られています。よって、脳の状態を良好に保つことは、認知症の予防につながると考えられます。

認知症の予防に関連して、以下のような言葉があります。

「Remember、 what’s good for your heart is good for your head.」
「忘れるな! 心臓に良いことは脳に良い」

つまり、認知症になりにくい状態にすることは可能。それは脳に良いことをするということで、それは心臓に良いことだということです。

参考:
the Alzheimer’s Association ホームページ
https://www.alz.org/we_can_help_be_heart_smart.asp

3. 呼吸で認知症になりにくい心身をつくる ~呼吸の重要性

「脳の状態を良好に保つためには、心臓に良いことをすれば良い」としたとき、真っ先に頭に浮かぶものに「呼吸」があげられるのではないでしょうか? 体の各臓器が正常に活動するには酸素が必要です。しかし、今の社会は、仕事の分業化・高度化や対人関係の高度化などにより非常にストレスが多く、また、座ったままでの作業が多いということも重なり、呼吸が浅くなりやすく、体内の酸素が不足しがちだと言われています。

このことが、自律神経系のバランスを崩す原因となり、認知症を含む精神障害の発症にもつながりやすくなっているとする考え方があります。つまり、「呼吸の仕方」を改善すれば、認知症を含む精神障害発症の予防につながるのではないかということです

(1) 息を「吐くこと」を意識した呼吸

「図-脳に良い「呼吸」のポイント」

呼吸は、基本的には無意識に行われる動作ですが、自律神経系の働きを自分の意思でコントロール出来る唯一の身体行動だとも言われています。「呼吸」というと、体内に酸素を取り入れるという意味で吸うことに意識がいきがちですが、重要なのは「息を吐くこと」を中心にとらえることです。というのも、息を吐き切ると自然に息は吸えるからです。

このことは、水泳の息継ぎを考えるとわかりやすいのではないでしょうか? 水中で十分に息を吐き切れば、息継ぎのときには、自然に、瞬間的に、そして、大量に息を吸えるのです。同様のことは、歌をうたうときにも見られます。つまり、「吐くこと」を中心に呼吸をすれば、酸素を十分に、また、少ない負担で体内に取り入れられると考えられるのです。

(2) 息を「吐くこと」を意識した呼吸 ~腹式呼吸の効果

「図-「吐くこと」を意識した呼吸、その具体的な方法」

息を吐くことを中心にした呼吸の代表は「腹式呼吸」です。「腹式呼吸」では、血圧の低下、脳内でα波が発生することにより落ち着くといった効果が認められています。また、腹式呼吸は、自律神経系の副交感神経を優位にする働きがあります。ストレスがかかっているとき、交感神経が優位になっていますが、特に吐く息を長くする「腹式呼吸」は、心拍のバラツキを発生させるとともに、副交感神経のはたらきを活発化させるのです。

「福田-安保理論」という研究結果によれば、多くの病気は自律神経系のバランス不調が原因であり、副交感神経が優位になると、精神障害のみならず、アトピーやガンにも有効とされています。

(3) 腹式呼吸とは?

腹式呼吸は、横隔膜を大きく上下させて行う、「吐く」息を重視した呼吸法です。その手順は次のようになります。

① 腹式呼吸の手順

1) まずは、全身の力を抜く
2) 両手を下腹部に当て、スカイフック感覚、つまり、上からつり下げられているような感覚を意識しながら背筋を伸ばし、口からゆっくりと息を吐く
3) 次に鼻から息を吸い、お腹を膨らませる
4) お腹を凹ませながらゆっくりと口から息を吐く

腹式呼吸を行うとき、胸はほとんど動きません。気持が落ち着いているとき、リラックスしているときなど、ただ横になって寝転んでいるだけでも自然と腹式呼吸になることもあるようです。ただ、腹式呼吸を意識的に行うのはなかなか難しいとも言われています。特に女性の場合はバストがある分、呼吸が浅いものになりやすいということも理由の一つです。

うまくできないというような場合は、息を吐くのに合わせてゆっくりと体を丸めたり、床に仰向けになって寝ころび、両膝を立てて行ったりすると、腹式呼吸に特有の下腹部が上下する動きをより感じやすくなります。

② 腹式呼吸をすると効果的なタイミング

腹式呼吸は深い呼吸となるため、体内に酸素を多く取り込むことができ、このことでリラックス効果が得られます。就寝前や、リラックスしたいときに行うとより効果的と考えられます。

(4) 日常生活の中で無意識に行う、「あくび」「ため息」

① あくびが出るのは?

あくびが出るのは、体が酸欠状態になったり、体温調節が必要だったり、気圧の変化の調整が必要だったりするからです。特に脳が血行不良などで働きが鈍くなったときに、酸素を取り込もうとして起こります。具体的には、眠いとき、退屈なとき、緊張しているとき、脳が疲れているときなどで、酸素が必要だということでもあります。

また、呼吸をコントロールしている脳幹がうまく機能しないと、一度に吸う空気の量が少なくなるため、あくびが出るということもあります。特に脳は、他の臓器と比べて10倍もの酸素を消費します。体内に十分な酸素を送り込めば、脳の機能が活性化すると考えられることが結果的に認知症予防にも効果があると考えられるということなのです。

② ため息も、実は体の酸欠状態が原因である可能性も

「あ~あ」というようなため息は、体の中心から、深い息を吐くことですが、これは無意識のうちに深呼吸や腹式呼吸をしていると捉えることもできます。ため息をつくことで、体内の血流量が増加し、全身に多くの酸素を取り込むことが出来るのです。実際にため息をついてみると、これが腹式呼吸の方法と同じことだということを、よりはっきりと確認することができるでしょう。

忙しい状態や緊張した状態が続くと、呼吸が浅くなりがちです。また、ストレスや悩み事があるときは下を向いていることが多く、姿勢も悪くなるため、同じく呼吸が浅くなってしまいます。呼吸が浅いと身体が酸欠状態に陥ってしまうのです。この状態を改善しようとするとき、実はため息が役に立っていると言うこともできるかもしれません。「ため息を一つすると幸せが一つ逃げる」とも言われますが、意外にもため息をついた方が健康で豊かな生活という幸せに繋がるとも言えるかもしれません。

(5) 話すことの効果

話すことが認知症予防につながると考えられていますが、これは、呼吸の面からも理にかなっていると言えるでしょう。人は話をするときに、「吐く息」で声帯を振動させ、身体の内側で響かせて音に替え、相手に伝えています。つまり、話し言葉のベースは息なのです。吐く息の量が少なかったり、吐くスピードが速すぎると、言葉が早くなったり、途中で息が不足し、一気に話すことができなくなってしまいます。

腹式呼吸の仕方を応用して話すと、吐く息の力が強くなるので、大きく通る声を出すことが出来ます。このため大勢の聴衆の前で行う演劇や歌、アナウンスなどを学ぶ人にとっては、腹式呼吸での発声練習は欠かすことの出来ない基本のトレーニングです。逆の言い方をすると、腹式呼吸が出来ていると落ち着いた声でゆったりと話せるようになり、はっきりと話すこともできるということです。また、このような話し方が、落ち着かせ、緊張感を取り除き、集中力を高めるという精神的な効果もあると考えられています。

参考:
呼吸の極意、永田 晟、講談社ブルーバックス

実践呼吸の奥義「吐く息」が奇跡を生む、永田 晟、講談社プラスアルファ文庫

非常識の医学書、安保 徹/石原 結實/福田 稔、実業之日本社

その神経じゃ調子わるくもなりますよ、小林弘幸、青春新書プレイブックス

4. 認知症を予防する生活習慣

呼吸の他にも、認知症予防に効果があることを示す研究の結果が少しずつ増えてきています。

(1) 研究の成果

① 睡眠時間の確保

脳が活動したときに生まれる老廃物であるアミロイドβの蓄積が、アルツハイマー病発症のきっかけになり、また、それが蓄積されてしまうのは、脳のアミロイドβの排出力が低下するからだと考えられるようになってきました。そして、脳からのアミロイドβの排出能力を高めるには、睡眠が有効ということがわかってきています。つまり、睡眠時間を十分にとることが脳にとって大事だということです。

② アルツハイマー型認知症を予防する食事

アメリカのラッシュ大学医療センター(アメリカ・シカゴ)が、1000人規模の高齢者を対象に、食事とアルツハイマー病との関係を追跡した研究があります。その結果をまとめたものとして、アルツハイマー病を予防する食事法が公表されました。これは、積極的に取るとよい食材を10項目、なるべく控えた方がよい食材を5項目に分けたもので、また、どの程度の頻度で摂取すべきか合わせて提示されています。

1) 積極的に摂取するとよい食材 -( )内は頻度
・緑黄色野菜(週6日以上) ・その他の野菜(1日1回以上) ・ナッツ類(週5回以上) 
・ベリー類(週2回以上) ・豆類(週3回以上) ・全粒穀物(1日に3回以上) 
・魚(なるべく多く) ・鶏肉(週2回以上) ・オリーブオイル(優先して使う) 
・ワイン(1日グラス1杯まで)

2) 控えた方がよい食材 -( )内は頻度
・赤身の肉(週4回以下) ・バター(なるべく少なく) ・チーズ(週1回以下) 
・お菓子(週5回以下) ・ファストフード(週1回以下)

なお、この研究では、全15項目のうち9項目以上を達成できていた方は、5項目以下だった方に比べアルツハイマー病の発症が53%低いという結果が出ています。

ただし、これが日本人にどれだけ効果があるのかは、明らかになっていません。
一方で、日本人の食生活は塩分摂取量が多めと言われており、このため「減塩」が大切だと考えられています。アミロイドβを排出する際、また、神経細胞に栄養を届ける際に脳の血管を経由しますが、塩分の取り過ぎは脳の血管を傷つけることにつながると考えられているからです。

(2) 認知症予防に効果的と考えられる生活習慣をまとめると・・・

「図-認知症予防に効果的な生活習慣」

上記の研究成果を含めた、「認知症になりにくい生活習慣」をまとめると、以下のようになります。

認知症・高齢者の方に起きるトラブルを補償できる総合補償制度↓↓↓

参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html

日本脳神経学会 ホームページ
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html

日本認知症学会 ホームページ
http://dementia.umin.jp/index.html

公益財団法人 日本看護協会 ホームページ
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html

最後に

 認知症は、誰もが患う可能性のある病気です。認知症を完全に防ぐ方法は残念ながらありませんが、予防効果が高いと考えられるものは見つかりつつあります。その一つに呼吸が考えられる他、食習慣や十分な睡眠なども有効であることがわかってきています。このような対策は、一度やれば良いというようなものではなく、習慣化することが重要と言えます。

少しずつでも見直しながら、自分の習慣になるよう取り組むことが認知症予防には重要と言えるでしょう。なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省 ホームページ
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/
若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要及び厚生労働省の若年性認知症対策について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html

日本脳神経学会 ホームページ
ガイドライン
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html

日本認知症学会 ホームページ
http://dementia.umin.jp/index.html

公益財団法人 日本看護協会 ホームページ
認知症ケアガイドブック
http://www.nurse.or.jp/nursing/practice/ninchisyo/index.html

the Alzheimer’s Association ホームページ
https://www.alz.org/we_can_help_be_heart_smart.asp

金森 保智

95,442 views

全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

102,053 views

電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。