将来の自立に向けた教育 高校進学~

精神障害

はじめに
精神障害のある方が、仮に何らかの支援を受ける必要があったとしても、強みを活かして生きていくことを考えることはとても重要なことと言えます。ここでは、「強みを伸ばす」という視点も踏まえながら、義務教育である中学校以降の教育について、その意味やしくみ、学校側で支援いただける内容やその実態などをまとめています。

1.中学校までの教育とそれ以降の教育
(1)義務教育と高校・大学教育

精神障害のある方にとっても、中学校までは義務教育の範囲です。義務教育とは、「保護者が子どもに普通教育を受けさせる義務を負うこと」で、憲法に規定されています。そして、その期間が9年であること、また、その間、国公立の学校については、授業料が無償であることが教育基本法で規定されています。

これに対して、高校教育や大学教育は、義務教育期間での学びを基礎にして、社会で自立した生活を送り、また、社会に貢献するために必要な専門性を身につける期間であり、そのために必要なことが学べるしくみです。高校以降の学びについては、個人の裁量、選択の自由の幅が広がるということなのですが、これは一方で、個人の責任(精神障害のある方ご自身とその保護者の方の責任)で、将来を見据えながらどうするかを決めよということでもあります。

資料:文部科学省 ホームページ  教育基本法資料室へようこそ!
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/004/a004_04.htm

(2)今を始点に見ることだけでなく、将来からの逆算でも見ることが必要

「図―義務教育以降の将来を考える視点」

このように見ると、2つの視点で物事をとらえることが必要になってくると言えるでしょう。1つめの視点は、その時点で、精神障害のある方が何に関心を持ち、何ができるか、という視点から、そのとき必要な教育を考えるというものです。2つめの視点は、将来、精神障害のある方が、どのように社会で生活していくかから、そのとき必要な教育を考えるという視点です。1つめの視点に大きな違和感はないでしょう。

義務教育期間における教育と大きくは変わらず、「一歩一歩着実に階段を上がる」というイメージです。課題になるのは、2つめの視点です。将来像からの「逆算」で、どう教育するのか? 何を学ぶのか? 
検討にあたっては、以下「学校教育法第50条(概略)」を理解し、考えることがヒントになりそうです。

① 国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと
② 社会において果たさなければならない使命の自覚に基づき、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な知識、技術及び技能を習得させること
③ 個性の確立に努めるとともに、社会について広く深い理解と健全な批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと

つまり、「個人として自立し、社会に対する使命感を持って、自分の個性を発揮できるようになり、社会に貢献できるようになる」ために、何をどう学ぶべきなのかを考えよう、ということです。ただこれは何も、不可能なことを可能にせよ、ということではありません。一人ひとりの可能性を広げ高める、一人ひとりができることはやる、そして、その努力をし続けることが大切だというメッセージとして受け取ることが大切なのではないでしょうか。つまり、決して、みんなが行くから(行かせるから)高校に進学する(させる)わけでも、学校という世界に閉じこもる(閉じこめる)ために高校に進学する(進学させる)わけでもない、ということです。
 
 資料:文部科学省 ホームページ 高等学校教育の現状
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1325908.htm

2.高校進学の実際
(1)義務教育後の進路

「図-義務教育後の進路」

精神障害のある方の中学校卒業後の進路は、進学、教育訓練機関等入学、就職、社会福祉施設への入所等の大きく4つがあります。文科省の調査によれば、精神障害のある方に限らず、特別支援学校中等部の卒業生は、9割以上が特別支援学校高等部などへ進学しています。また、中学校で特別支援学級を卒業した生徒も、9割以上が進学。そのうち6割程度が特別支援学校の高等部に進学しています。

この理由は様々だと思われますが、大きな理由の一つとして、高校おいては特別支援学級が設置されていないことが上げられます。義務教育でないこと、入学試験などを通じて選抜されることなど、義務教育と高校教育とで差もあるからと言えるでしょう。ただし通級における支援については、文科省が2018年度から運用を開始する準備を進めています。また、一般の高校とひとくくりに言っても、以下の①と②の組合せで、合計6つの課程の高校があり、いずれも選択肢として考えることができます。

「図-高校の教育課程」

① 課程

全日制、定時制、通信制の3つの課程があります。全日制は、修業年限を3年に設定している学校です。定時制・通信制は、修業年限が3年以上となっていて、その分緩やかな教育課程が組まれていると言えます。

② 学年制と単位制

学年制:1年間で何単位時間授業が行われるかというくくりが、学年ごとに決まっている制度です。
単位制:ある程度の枠組みの中で、学習する教科・学科を選択し、時間割も自分で組む制度です。

課程という見方以外にも、学科というくくりで高校を分類することもできます。

③ 学科

大きくは普通科と総合科、専門科(商業科、工業科、など)の3つがあります。

資料:
文部科学省 ホームページ 
高等学校教育の現状
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1325908.htm

特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

(2)目的を明確にした高校選択

特別支援学校高等部ほどでなくとも、一般の高校のうち定時制や通信制で、かつ、単位制の高校などは融通が効きやすい、状況に合わせた対応がしやすい高校と言うこともできるでしょう。また、普通科や総合科を選択し幅広い学びをするのか、職業に直結しやすく、強みを伸ばしやすい面もある専門科で学ぶのかなど、何を優先するのかを考える必要はあります。いずれにしても、精神障害のある方の状況や興味関心を見極めながらの進路選択となります。進学することで何を目指すのか? じっくりと検討することが大切と言えるでしょう。

3.大学等への進学の実際
(1)高校卒業後の進路

「図-高校卒業後の進路」

① 大学に進学する精神障害のある方の数

精神障害のある方全体で高校課程卒業後の進路をまとめたデータは残念ながらないため、一部のデータなどから推定で確認していくことにします。障害のある方全体で見た時、特別支援学校高等部を卒業された生徒の進学率は、3%に満たない状況です。日本学生支援機構の調査によれば、大学、短期大学及び高等専門学校において障害のある学生数は、1万4千人程度となっています。このうち、精神障害のある方は4割程度の5千人ほどです。

この数は、全学年の合計です。よって、障害のある方の1学年の人数は5千人を4で割ったものと推測できます。とすると、精神障害のある方のうち1400人程度が毎年大学等へ進学されているということになります。この人数は、「障害のある、と申告されていることが前提」で、かつ、上記のようにかなりアバウトな計算に基づく推定値です。学校側へ申告していない発達障害のある方などを含めると、相応数の方が大学等へ進学されていると考えることもできます。また、徐々に進学される方が増える傾向にあるようです。

② 精神障害のある方の大学での在籍状況

日本学生支援機構の同じ調査で、障害のある方が在籍する学校数もわかっています。大学のおよそ8割、短期大学の4割、高等専門学校の9割程度で、障害のある方が学ばれています。精神障害のある方が在籍する学校数について詳しく見ると、以下の表のようになります。
 

日本学生支援機構「平成26年度(2014年度)障害のある学生の修学支援に関する実態調査」

資料:
文部科学省 ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/013.htm

内閣府 ホームページ 障害者白書
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/zenbun/h2_03_01_04.html#column_06

日本学生支援機構 ホームページ 平成26年度(2014年度)障害のある学生の修学支援に関する実態調査
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/chosa/2014.html

(2)大学入学への道

①資格

精神障害のある方が大学へ進学するには、主に以下のいずれかの資格を持つ必要があります。ここからわかることは、精神障害のあるという理由で、大学入学への道が閉ざされるということではないということです。

1) 高校又は中等教育学校を卒業する
2) 特別支援学校の高等部又は高等専門学校の3年次を修了する
3) 高等学校卒業程度認定試験(旧大検)に合格する

資料:
文部科学省 ホームページ 大学入学資格について
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111314.htm

② 入試制度

近年大学の入試制度は多岐に渡っています。必ずしも学力試験だけによるものだけではありません。特にAO入試などでは、全般的な力よりも特別な才能に着目する大学も多くあります。

「図-大学入試制度」

1) 一般入試(個別大入試型):各大学が実施する試験です
2) 一般入試(センター型):大学入試センターが実施する、大学入試センター試験を利用した試験です
3) 推薦入試:大学側が出願を受け入れる学校を指定する「指定校推薦」と、大学の指定する条件を満たせば誰でも出願できる「公募制推薦」の大きく2つのしくみがあります。高校が推薦状を出すという意味で、推薦入試という言い方をします
4) AO入試:各大学の入学者の受け入れ方針に照らし合わせて、学力試験だけでは測れない能力を持つ方を受け入れる制度と言うこともできます。

③ 入試における配慮

実際の入試の実施においては、障害のある方やその保護者からの申し出により、どのような対応が可能かを大学ごとに検討されることになります。ただし、これは試験を実施する上での配慮であり、障害のある方用の特別な基準で合否を決定するというものではありません。
実際に配慮のあった事例として、以下のようなものがあります。ただ、これらは全大学で実施されているというわけではありません。

事例:
 別室での受験(安定した状態での受験、声を発することの許可、など)
 薬の服用と、それに必要になる水等の持ち込み
 付き添いの許可
 試験時間の延長 など
 

参考:
日本学生支援機構 ホームページ
障害のある学生への支援・配慮事例
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/jirei/index.html

(3)個々の大学等による学生生活を支援するしくみ

学業が大きな比率を持つ大学等においては、基本的には個々の大学等の支援担当者が精神障害のある方の支援を個別に行っているのが実情です。つまり、学校側への自己申告が前提となるしくみであるということです。また、精神障害のある方が在籍していても、学校側が特別な支援をしているのは半数程度という実態もあります。以下は、代表的な支援内容です。

① 就学まで

病識が乏しい学生へ医療機関への受診を勧めたり、受診の継続を促したりといった支援をしています。

② 就学にあたって

多くの大学で、自己申請受けて、個別の支援策を行っています。なお、支援の申請にあたっては、医療機関による診断書の提出を求めているようです。これは、主治医や専門医からの具体的な所見を参考に、どんな支援が必要かなどの環境整備に役立てられるからです。

③ 復学について

病状の悪化などでやむなく休学した後、復学を希望する場合は、カウンセラーや学校医を通じ、主治医や保護者と連携しながら復学後の環境整備・調整が行われます。

日本学生支援機構が、障害のある方の支援事例の共有など進めており、それと呼応するように学校側でも対応を拡大する動きもあるようです。具体的にどんな支援が得られるか、個々の大学等へもよく確認した上で選択することが大切ということになります。

参考:
日本学生支援機構 ホームページ
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/guide_kyouzai/guide/index.html

最後に

いかがでしたか? 精神障害のある方の大半は、高校教育課程への進学を選択しています。その一方で、大学等まで進学する方は非常に少ないこともわかります。このような実態を見る中できちんと押さえておきたいことは2つです。1つは、障害の程度がさまざまであることや、対応事例の不足・理解の不足等から、特に大学等においての支援は充実しているとは言えないということです。とはいえ高校はもちろん、その先の大学等にしても、ルートは閉ざされてはいないということ。その例は決して多くありません。

また、一人ひとり障害の程度も異なるため一概に誰でもとは言えません。それでも、初めから諦めるようなことでもないということです。何より大切になることは、精神障害のある方がご自身にとっての人生として、ご自身が選択できる条件を整えることではないでしょうか。そのためにも、まずは何ができて、何を強みにできるのか、何を強みにしていきたいのか、そして、どんな点では支援をしてもらう必要があるのかを見極め、整理することが必要です。そして、整理した内容をきちんと伝える、整理した内容を持って相談することが重要になると言えそうです。

特に大学等は、事例の共有などで支援を進めつつあるものの、相談された内容を踏まえて個別に検討するという状況。相談が前提のしくみであるということは、覚えておくとよいのではないでしょうか。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
文部科学省 ホームページ  
教育基本法資料室へようこそ!
http://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/004/a004_04.htm

高等学校教育の現状
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/attach/1325908.htm

特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

大学入学資格について
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111314.htm

内閣府 ホームページ 障害者白書
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/zenbun/h2_03_01_04.html#column_06

日本学生支援機構 ホームページ 
教職員のための障害学生修学支援ガイド
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/guide_kyouzai/guide/index.html

平成26年度(2014年度)障害のある学生の修学支援に関する実態調査
http://www.jasso.go.jp/gakusei/tokubetsu_shien/chosa_kenkyu/chosa/2014.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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