インクルーシブ教育 多様性を包括できる教育に向けて

発達障害

はじめに
近年、障害者差別解消法が制定されるなど、障害のある方々の経験する差別を解消していこうとする動きが広まっています。一方、私たちの中には無意識にも、障害のある方々を異質と見てしまうような「心の過程=意識」もあるように感じています。そのような「意識」を乗り越え、障害の有無にかかわらず、多様な他者を受け入れ、共生していくための環境を整備していくことが必要であると思います。

現在、特別支援教育という言葉の他に、「インクルーシブ教育」という言葉も聞くことが多くなりました。インクルーシブとは「包み込む」という意味を持ちます。つまり、障害の有無や能力にかかわらず、すべての子どもが教育の場において「包み込まれ」、「個々に必要な支援が受けられることが保証された上で、教育を受けられること」を意味しています。

筆者は、多様な子どもたちが共に教育を受けたり、また、共に生活したりすることが、共生社会を形成していく上で重要な役割を果たすのではないかと考えています。

そこでここでは、障害のある方々との関わりを通して、筆者自身が経験した障害のある方々に対する感じ方の変化や、そこから感じた多様性を受け入れる集団づくりの大切さについてまとめています。

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1. 講義の感想に見る、今時の大学生の障害のある方々のとらえ方・感じ方

「図-今時の学生の障害のある方々のとらえ方・感じ方」

最近いろいろなご縁が重なって、ある大学で特別支援教育について話をする機会をいただきました。話を聞いた学生の皆さんに感想を書いてもらったのですが、中には「障害のある人は怖いと思う」「どう接したらよいかわからない」というようなコメントをくれる方がいらっしゃいました。

筆者は大学で特別支援教育を専攻し、障害のある多くの子どもたちと接してきたこともあり、そういったコメントを読むと、「そのように感じるのか」とドキッとさせられるというか、心がキュッと締めつけられるような、何とも言えない感覚を覚えます。

また今まで障害のある方々と関わったことがなく、どう接してよいのかわからないというような学生もいらっしゃいました。確かに、筆者が小学生だった頃、障害のある子どもたちは「なかよし学級」と呼ばれるような、当時で言う特殊学級で主に勉強しており、そこで学ぶ子どもたちと触れ合う機会というのはほとんどなかったように思います。

これと同じように、障害のある同級生がいるということはなんとなくは知っていても、実際に関わる経験はあまりなかったという学生もいらっしゃるのかもしれないと思いました。他にも、「小学生の頃に障害のある同級生に●●をされた」など、障害のある方に関わる過去のネガティブな経験が、障害のある方たちとの関わりや態度に影響を与えているという学生もいました。

これまでの障害のある方との触れ合いにおける経験が、その方にとってネガティブなものであった場合、その印象がずっと続いているのかもしれないとも思いました。

2. 筆者自身の体験

これらのコメントを読むと、筆者自身が初めて障害のある方々と濃密な時間を過ごすことになった時のことを思い出します。その当時は、障害のある方々への偏見というか、壁のようなものを筆者自身も持っていたのではないかと感じるのです。

(1) 筆者が初めて障害のある方々と深く関わった日

筆者が初めて障害のある方々と深く関わったのは、思い出す限りでは、中学校の時の職場体験で福祉作業所に行った時だったと思います。中学生だった当時の筆者が、なぜ数ある職場体験の選択肢の中から福祉作業所を選んだのかについては、明確には思い出せません。ただ、その当時は福祉関係の仕事に漠然とした興味があり、だから選んだのではないかと思います。その時まで筆者には、障害のある方々と関わる経験はなかったはずだからです。

(2) その当時の筆者の戸惑い

職場体験開始前に初めて福祉作業所にあいさつに行き、そこにいる方々とお会いした時には、「戸惑い」がありました。一言も話さず、体を揺すりながら作業をしている方や、話し方が独特の方など、中学生の筆者にとっては、「異質」だと感じる場面があり、わずか3日間の体験ですら、「やっていけるだろうか」と不安に思った記憶があります。

(3) 少しずつ取り除かれた「戸惑い」

福祉作業所では、障害のある方々と一緒に、自動車の部品のバリ取りや農作物の水やりをしました。朝の朝礼から始まり、その後は皆で机を囲み、バリ取りをしました。初めは、独り言を言いながら作業をしている方、口がうまく閉じられず、よだれが垂れそうな方などを見ながら、「恐る恐る」、その場で一緒に作業をした記憶があります。

基本的には、みんな黙々と手を動かしながら作業をし、何か気をつける点や不十分な点があると、職員の方が一声アドバイスをする、という形で進められていきました。そのような中で時折、手を動かしながらも、前夜見たテレビ番組や好きなものについて雑談することがありました。

その中で、話のできる利用者の方が「昨日の9時からの映画おもしろかったわあ〜」とか、「この食べ物がおいしい」などと、話をしてくれることがありました。その様子を見て、「あ、私とは違って見えるけれど、この人も映画とかも見るのか」と思ったのです。また、言葉を話せない利用者の方にも、職員の方が食事中に「○○さんは、これが好きなんよな!」と話しかけ、互いに笑いあっている様子を見ることもありました。

このようにして、自分の中にあった心の壁のようなものが少しずつ薄くなっていくのを感じたのです。また、障害のある利用者さんの中で比較的若い女性の方が、筆者が作業の方法がわからなかった時に、優しく「これはこうするんよ」と教えてくださったことが心に残っています。

3. 多様な他者との関わりの中で形成される価値観

「図-現状の教育環境の問題点とインクルーシブ教育」

(1) 意外に少ない? 障害のある方といわゆる健常者との関わり

筆者の場合は実際に障害のある方々と関わりの中で、障害のある方々のポジティブな面や、筆者自身と共通する点を感じ、より知っていきたいという気持ちになりました。一方、私たちが生活する中で、障害のある方々と関わる機会は意外と少ないのではないかと思います。

特に、学校では学校内での交流(通常学級と特別支援学級との交流)や学外での交流(小・中学校と特別支援学校との交流)は行われてはいるものの、まだまだ壁があるのも現実でしょう。ただ、日常的に多様な他者と関わりあうという経験が、障害理解にとどまらず、他者理解には大切になるのではないかと思います。

(2) インクルーシブ教育に求められること

前述したように、インクルーシブ教育とは、障害の有無や能力にかかわらず、すべての子どもが教育の場において「包み込まれること」を意味します。よって、インクルーシブ教育に求められることは、多様な他者を受け入れることから、障害の有無にかかわらず多様な人間のあり方・考え方を学ぶことができる機会になることなのではないかと筆者考えています。

また他者のネガティブな面だけでなく、ポジティブな面に気づく機会を得ることによって、未来を築く子どもたちが多様な他者を受け入れ、共生していくための素地を養うことができる可能性もあるのではないかと感じています。

4. インクルーシブ教育、考えていくべき課題の一例

「図-インクルーシブ教育がより良いものになるための課題例」

インクルーシブ教育は、ただ同じ場で、障害のある子どもも、そうでない子どもも関係なく、同じことを提供すれば良いというほど単純なものではありません。インクルーシブ教育を実践する中で、考えていかなければいけないことや葛藤も当然出てくると思います。

(1) 集団活動における課題

例えば、多様な子どもがいる中で、どうしても集団に関わりにくい子どもが出てくる場合も出てくるでしょう。その際、どうしてもその子に対して特別な支援をすることになったり、その日は他の子どもと違うスケジュールや要求度で活動したり、ということも十分考えられます。そのような時、先生方は子どもの気持ちを尊重することと、集団と一緒に活動してほしいという自分の願いとの間で葛藤することもあるのではないかと思います。

(2) 子どもの気持ちを尊重するという点での課題

「子どもの気持ちを尊重する」ということは、子どもと関わる上でとても大切なことだと思います。しかし、それだけではいけない場面も、子どもたちと関わっていく中では出てくるでしょう。例えば、音の鳴るおもちゃの感覚刺激が楽しくて、ずっと一人でそのおもちゃで遊んでいる子どもがいたとします。

その行動が本人にとっては価値があり、楽しいものであっても、その一人遊びの時間がその子の生活の大半を占めていたり、他の有意義な活動をすることの妨げとなってしまったりしている場合、子どもの気持ちを尊重するというはたらきかけ、ここでは、子どもが一人遊びを続けたいという思いを尊重することだけでは、不十分であると思います。子どもの周りにいる私たちは、その子が新しい世界を広げるための何らかの手立てを講じる必要があるでしょう。

(3) 支援者の願いと、本人の願いとの間で ~ 「提案すること」が支援者の役割

子どもを育てることに関わる支援者たちは、子どもたちに「このような姿になってほしい」という何かしらの願いや目標を込めて子どもと関わることでしょう。一方で、子ども自身も「自分はこのようにしたい、このようにありたい」という思いを持っています。この子どもの思いと支援者の願いを、子どもとの関わりの中で擦り合わせていくことが大切なのではないかと思います。

その際、本人にとっての価値のあるものを無理やり取り上げたり、強制的に何か別のことをするように押しつけたりするのではなく、「こういう選択肢もあるけど、やってみない?」と、子どもに新たな世界を提案し促すということが、支援をしていくうえで大切であり、子どもを育てる支援者の役割であるのかなと思います。

(4) 土台となるのはたくさんの支援の引き出し、と、それ以前の信頼関係づくり

そのためにはたくさんの支援の引き出しが必要であるでしょうし、子どもを引きつけるテクニックが必要になってくると思います。同時に、支援者自身が子どもとの良好な関係性を築いていることがとても大切でしょう。

筆者自身は、子どもとたくさんの楽しい体験を共有して、子どもにとって安心できる存在・信頼できる存在になっていくことが必要だと感じていますし、と同時に、子どもが「楽しい」と思えることをたくさん増やせるようなはたらきかけをしていきたいと思っています。

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最後に

一人ひとりに応じたきめ細かい対応をすると同時に重要になってくるのは、多様性を受け入れ、助け合える集団を形成することであると思います。そして、一人ひとりの学びのペースやスタイルが違うことを受け入れ、助け合える集団を作っていくことは、障害の有無に関わらずとても大切なことであると感じています。

同じ環境の中で、多様な他者と接することによって醸成される豊かな価値観を大切にしながら、子どもたちが障害有無に関わらず豊かに育つことができるような環境を築きたいと、心から思っています。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
文科省ホームページ
共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/houkoku/1321667.htm

独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
インクルーシブ教育システムに関する基本的な考え方
http://inclusive.nise.go.jp/index.php?page_id=40
ノーマライゼーションと障害のある子どもの教育
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_c/c-44_0/c-44_0_03_12.pdf

takaya

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特別支援教育専攻・某大学院生

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金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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