自閉症教育における「構造化」というキーワードとTEACCHプログラム

自閉症教育
自閉症

はじめに
「構造化」とは、特に自閉症教育で重視されてきた教育方法で、アメリカ発祥のTEACCHプログラムが日本で紹介されたことをきっかけに、その導入と実践が学校現場で積極的に行われるようになったと言われています。

ここでは、そのような「構造化」について、構造化とは何か、構造化の考え方が広く取り入れられる土台となったTEACCHプログラムの基本的な考え方、実際の構造化の方法などについてまとめています。



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1. 「構造化」は教育のキーワード
(1) 構造化とは?

① 構造化とは?

構造化は、生活や学習のさまざまな場面で、その意味を理解し、自分に何が期待されているのかをわかりやすく伝えたり設定したりするための方法で、特に「自閉症教育」の中では、従来から重視されてきた教育方法です。

ここで言う「自閉症教育」における「自閉症」は、「自閉症スペクトラム障害」を意味しており、「知的障害の有無を問わないもの」として用いられています。

【関連記事】
自閉症とは? ~その特徴ととらえ方の広がり、支援のあり方
https://jlsa-net.jp/zhi/ziheisyou/

自閉症スペクトラム障害とは?
https://jlsa-net.jp/zhi/z-spectrum/

文章で示されたことを図で示してもらったらよくわかった、というような経験は、多くの方がお持ちではないでしょうか? 構造化は、「環境」や「活動」を「視覚的に」を示すもの、あるいは実際に設定するものでもあります。

たとえば自閉症教育を「構造化」の考え方を用いると次の図のように表現できると考えられます。

「図-自閉症教育の基本構造」
自閉症教育の基本構造

この図を文章で表現すると、「必要な教育により成長を促すための一番の土台は、学校・教育環境であり、その土台の上に特性に応じた工夫が、またその上に学習を支える学びがあり、この土台の上に学習内容が位置づくのだ」というものになります。

同じことを文章と図で表現しているだけではありますが、わかりやすさが大きく異なることがわかるのではないでしょうか。

このように、「視覚的に表現する」ことの効果は、わかりやすさにあるということでもあります。

ただし、視覚化は細かな情報を付加するのには不向きな部分があるという面もあり、何でもかんでも単純に視覚化すればよいというわけではないことには、注意が必要と言えるでしょう。

なお、「自閉症教育の基本構造」で示した構造は、ご確認いただくとわかるとおり、自閉症教育にだけあてはまるものではなく、「教育の基本構造」と考えても良いと言えるのではないでしょうか。
 
② 構造化のメリット

 このような教育における構造化のメリットは、次のように整理することができますが、このメリットは構造化の目的自体ととらえることもできると言えます。

1) 教育を受ける側の方々が、理解しやすい、不必要な混乱をしなくてすむ
2) 効率的に学習するのを助ける
3) 安心して自信を持って学習、生活できる
4) 必要な情報に注意を集中しやすくする
5) 地域でできるだけ自立して生活する
6) 行動をマネジメントする

特に3)~6)で示していることからも確認いただけるとおり、構造化は学校のような教育の場だけで利用できるわけではありません。その考え方自体は、家庭や地域社会、職場といった場でも利用できる考え方と言えます。

(2) 構造化の基本 ~ 視覚化の要素

「図-構造化の基本 ~ 視覚化の要素」
構造化の基本 ~ 視覚化の要素

これまで見てきているとおり、構造化には多くのメリットがあると考えられます。では、具体的には、何を「視覚化」すればよいのでしょう?

ごく単純に言えば、以下が視覚化の基本的な要素です。この要素を含む形で表現したり、実際の活動が自然と促されるように設定したりすることだということです。

① いつ
② どこで
③ 何を
④ どのようなやり方でやるのか
⑤ どうなったら「終わり」なのか
⑥ 終わった後、その次に何があるのか

(3) 一人ひとりが基本

ここでは注意が必要なことは、「構造化」は、自閉症教育の中では、自閉症スペクトラム障害のある方々の生活の質(QOL)向上のために行うものだという点です。

つまり「構造化」は、対象となる方々が学習活動や日常生活に見通しを持ち、安定した状況の中で、自ら主体的に学習活動に取り組むことや、生活するための「方法・手段」にすぎないということであり、その十分な理解が必要です。

また、教師を含む周囲の方が、教育を受ける側の方々の行動を管理するためのものではありませんし、対象となる方々の環境を画一化するためのものではありません。

参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf
自閉症教育のキーポイントとなる指導内容
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/395/a-34_1.pdf

北海道札幌養護学校 ホームページ
第2章 教育環境
http://www.sapporoyougo.hokkaido-c.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=85

2. TEACCHで広がる実践
(1) TEACCHプログラムとは? ~ TEACCHがもたらしたもの

TEACCHプログラムは、アメリカ・ノースカロライナ州で1972年に開発された自閉症教育プログラムです。このプログラムにより具体的な「構造化」の理論やその方法論が日本に紹介され、教育現場における実践的な活動が増えたと言われています。

日本における教育の「構造化」の推進の役割を果たしたプログラムだと言い換えられるでしょう。

(2) TEACCHの特徴 ~ TEACCHの基本原理

TEACCHには以下の9つの基本原理があります。日本では、この基本原理を応用しつつ、自閉症スペクトラム障害のある方への具体的な対応方法が考えられていると言えます。

もちろん中には、環境整備などで「全体で行えること」はあると考えられますが、その場合であっても、「一人ひとり」が基本であり、「結果的に共通な部分」があるという考え方をするということの理解が重要と言えるでしょう。

① 自閉症の特性を、理論よりも実際の子どもの観察から理解する

自閉症スペクトラム障害の一般的な特性自体は文献などを見れば提示されてはいます。ただ、そこで表現される文字の情報では実感レベルを伴わないケースが多いと言えます。また、同じ自閉症スペクトラム障害と言っても症状の出方は人それぞれです。

だからこそ、実際に子どもを観察することが重要だ、ということです。

② 親と専門家の協力

TEACCHプログラムは、専門家による支援と同等以上に、保護者の方の療育への関与を求めるプログラムです。教育の場が学校だけではないことを考えれば、ある意味では当然のことと言えるかもしれません。

③ 子どもに新たなスキルを教えることと、子どもの弱点を補うように環境を変えることで子どもの適応能力を向上させる

一人ひとりの発達段階、成長の度合い、できることの変化に合わせて、指導内容や指導方法を変えていき、社会での生活に必要となる力を身につけることが大切であり、また、できないことを補完する方法を具体的に考えていくことが大切だということでしょう。

たとえば後者については、「右半身にまひがあっても、補装具をつけることで歩ける」というように、「一人ひとりの状況に合わせて具体的な補完方法を探し、できるようにしていく」といったようなイメージと言えるでしょう。

④ 個別の教育プログラムを作成するために正確に評価する

一人ひとりの状況がわからなければ、その方にあった支援はできません。つまり正確な評価が教育の出発点であると言えるのです。

⑤ 構造化された教育を行う

教育における構造化の視点としては、後ほど取り上げる物理的構造化などが提示されています。

⑥ 認知理論と行動理論を重視する

認知とは、物事のとらえ方や見方のこと。自閉症のある方の物事のとらえ方には一定程度の共通点があると考えられています。

そのような一定程度の共通点に注目しながらも、その程度については一人ひとりの状況が異なることに着目し、それぞれ対応していくことが重要だと考えられていると言い換えられるでしょう。

行動理論は、ここでは目標とする行動について、その行動を促すための支援の仕方のことととらえればわかりやすいでしょう。

たとえば、その行動をしたことを褒める、強調して取り上げるといったようなことを継続することで、望ましい行動を増やせるよう支援することです。

⑦ 現在のスキルを強調するとともに弱点を認める

より適切な支援のためにも、できること、できないことを正しく把握することが大切になります。これができれば、できることに着目した弱点の補強方法などを考えていけるだけでなく、「その方なりのやり方」を身につけていくことにつながると考えられます。
 
⑧ ジェネラリストとしての専門家

TEACCHプログラムにおける専門家には、一人ひとりに合わせた対応が求められます。

その意味で、何かに特化したスキルを持っているというよりは、生活上のさまざまな工夫に対応できるようなスキルを身につけられるような支援をできる専門家であることが重要になるということだと言えるでしょう。

⑨ 生涯にわたるコミュニティに基盤を置いた援助

TEACCHプログラムは、幼児期から成人になり、社会で生活していくという一生を通じて提供されるプログラムです。

よって、学校という限られた場だけではなく、地域における生活者として成長することを目的にしているプログラムであると言い換えることができるでしょう。

参考:
UNC SCHOOL OF MEDICNE TEEACH Autism Prgram
https://teacch.com/
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf

立命館大学人間科学研究所 ホームページ
TEACCHの今日的課題
http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publications/102/14_3.pdf

3. 自閉症教育における「構造化」の実際
(1) 主な構造化の種類

「図-主な構造化の種類」
主な構造化の種類

自閉症教育における「構造化」には、主に次のようなものがあります。

① 物理的構造化 ~ 活動する場の視覚化

物理的構造化とは、家具、ついたて、カーペットなどを使い、各空間を物理的に区切ることで、各空間や場面で何をすればよいかを視覚的にわかりやすくすることを言います。自閉症教育の場で一人ひとりに必要となる「活動」には、大きくは次の4つがあります

1) 勉強や作業をする
2) 遊ぶ
3) その日や「この後」何をすればよいのか、個別のスケジュールを確認する
4) 感情的になったときなどに冷静になる

つまり、上記の4つの活動を行う場をそれぞれ用意し、その活動を行う場が視覚的にわかるようにするということです。

ただし、それぞれの場を作ればそれで良いというわけではありません。「3)のスケジュールの確認」をあらゆる活動の「中継点」ととらえ導線を考えれば、日々の活動の流れがスムーズになる「各活動の場」を配置しやすくなるでしょう。

この考え方は学校の教室の中だけでなく、家庭でも応用できるものと言えるでしょう。

② 時間の構造化 ~ 活動の時系列での視覚化

時間の構造化とは、その日のスケジュールなどの可視化と言い換えてもよいでしょう。このとき重視すべきは、本人が落ち着いて、主体的に活動できるようにすること。

よって、内容や順番を視覚的に示す、 「始め」と「終わり」を明確に示すなど、一人ひとりの理解度に合わせて、活動予定について見通しを持てるようにしていくことが重要になります。

学習内容を視覚的に示していくことで、見通しを持たせるように工夫していくことになりますが、このような工夫が、不安に思うことなく、安心して学習や作業に取り組むことにつながるのです。

③ 活動の構造化 ~ 活動そのものの視覚化

活動の構造化は、時間の構造化の一部と考えても良いかもしれません。

あえて分ける場合、時間の構造化が1日の活動全体の流れであるのに対し、活動の構造化は、1日の各活動一つひとつを要素に分解し、何をするのか、どうするのか、どうなると終わりになるのかといったことをより具体的に示すことととらえれば、わかりやすいでしょう。

たとえば、カバンと財布を示すことで外出活動を行うことを示したり、学習に必要となる道具を机の上に並べる順に示したりといった方法です。つまり、ある活動と必要となる行動とを紐づけ、主体的な行動を促すということです。

その際課題や活動の手順書などが多すぎるとわかりにくかったり、混乱したりする場合もあると考えられます。

指で指し示す、実物を提示する、写真や絵で示す、文字のカードで示す、文章で示すなど、一人ひとりの状況に合わせて「しくみとして工夫すること」が重要と言えるでしょう。

④ 言語環境の構造化

言語による指示に統一感を持たせることです。「表現手法」という幅広いとらえ方の中で、ある意味では「言葉の視覚化」と言える部分があります。

言語環境の構造化で大切なことは、一人ひとりの状況に合わせて「一度でわかる伝え方」にすること。というのも、同じ指示でも言い方が異なることで、何が同じで何が異なるのかなど混乱しやすくなることが想定されるからです。

言語環境の視覚化においては他にも以下のような注意点があります。

1) その方にとって、わかりやすくシンプルな表現で統一
2) 具体的に伝える(代名詞や抽象的な表現、あいまいな伝え方をしない)
3) 否定的な言葉を避け、肯定的な表現に言い換える
 例)「廊下を走らない」 → 「廊下は歩く」

(2) 評価と再構造化の重要性

教育を通じて一人ひとりは成長します。そのスピードにバラツキがあるだけと、言い換えることもできるでしょう。つまり指導効果が高まるほど、一人ひとりができることは変化していくということです。

よって、成長の度合いや理解の度合いに合わせて、構造化自体も変化させることが重要になるのです。これを再構造化と言います。

ただむやみに再構造化することは混乱を招き、不安を助長するリスクもあります。よって「その時点で何ができるのか」を正しく評価することが非常に重要になると言えます。

また、指導内容や方法自体も評価することが必要です。たとえば、文章による指示では主体的な行動に結びつかないといったような場合、指導内容もさることながら、指示の方法、指導方法に課題がある可能性を検討する必要があります。

このように、正しい評価を通して一人ひとりに合わせた「再構造化」をすることが、特に自閉症教育では重要と言えるのです。

【関連記事】
自閉症療育のポイント AutismとESDMから学ぶ
https://jlsa-net.jp/zhi/autism-esdm/

参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf
自閉症教育のキーポイントとなる指導内容
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/395/a-34_1.pdf

北海道札幌養護学校 ホームページ
第2章 教育環境
http://www.sapporoyougo.hokkaido-c.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=85

静岡県ホームページ
静岡県特別支援教育体制推進事業 「自閉症の指導」研究実践事例集
https://www.pref.shizuoka.jp/kyouiku/kk-070/documents/jiheisyoujireisyuu.pdf

最後に

「構造化」は、自閉症教育の実践の場で広く取り入れられている教育方法で、自閉症スペクトラム障害のある方々の生活の質(QOL)向上のための「方法・手段」です。

構造化の基本は、「いつ、どこで、何を、どのようなやり方でやるのか、どうなったら「終わり」なのか、終わった後その次に何があるのか」を、「視覚的にわかるように」環境を整えたり、情報を整理したりすることと言えるでしょう。

学校教育の現場だけでなく、ご家庭でもできることも多く含まれているので、その基本を押さえつつ、専門家とも相談をしながら取り入れていけば、大きな効果が期待できると考えられます。

一方この「構造化」の考え方は、自閉症教育にだけ適用できるものではないと考えられます。その意味で、自閉症教育のキーワードというよりは、むしろ「教育のキーワード」と言ってもよいものと言えるのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf
自閉症教育のキーポイントとなる指導内容
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/395/a-34_1.pdf

立命館大学人間科学研究所 ホームページ
TEACCHの今日的課題
http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publications/102/14_3.pdf

北海道札幌養護学校 ホームページ
第2章 教育環境
http://www.sapporoyougo.hokkaido-c.ed.jp/?action=common_download_main&upload_id=85

静岡県ホームページ
静岡県特別支援教育体制推進事業 「自閉症の指導」研究実践事例集
https://www.pref.shizuoka.jp/kyouiku/kk-070/documents/jiheisyoujireisyuu.pdf

UNC SCHOOL OF MEDICNE TEEACH Autism Prgram https://teacch.com/

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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