知的障害とは?

知的障害とは?のイメージ
知的障害

はじめに
 「知的障害」について、必ずしも誰もが同じように理解しているわけではありません。そのことが、実は知的障害のある方や保護者をはじめ、支援される方の頭を悩ます原因になっている場合があります。ここでは、「知的障害とは何か?」中心に、その症状や支援の概要をまとめています。



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1. 知的障害とは?

「知的障害」には、実は法律上明確な定義というものが存在しないという現実があります。まずは、この点について見ていきます。

(1) 知的障害とは?(1) ~医学的な視点から

① 医学的に見た知的障害

「図-「知的障害」の診断」
「知的障害」の診断
医学の分野における「知的障害」は、「精神遅滞」とほぼ同じ意味で用いられています。
精神遅滞とは、
1) 知的機能の全般で、同年齢の人と比べて遅れや成長の停滞が明らかであること
2) 意思伝達、自己管理、家庭生活、社会・対人技能、地域社会資源の利用、自律性、学習能力、仕事、余暇、健康、安全などの面での「適応機能」に明らかな制限があること
3) 成長期(概ね18歳未満)の時点から見られること
とされており、精神薄弱に代わって用いられるようになりました。

参考:
厚労省 eヘルスネット ホームページ
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html

② 知的障害は広い意味での精神障害の一つ

「図-「知的障害」と「広い意味の精神障害」との関係」
「知的障害」と「広い意味の精神障害」との関係
また、精神遅滞は、「精神」という文字がついていることからもわかるとおり、広い意味での精神障害の一つ。つまり、知的障害は、精神障害の一つということができます。なお、「精神障害」という言葉は、いわゆる「精神疾患」を表す狭い意味で使われる場合もあります。このことが情報を入手する際の混乱の原因となることがあるので、頭の片隅に置いておくとよいでしょう。

③ 知的障害の原因 ~医学的視点で

知的障害の原因は多岐に渡っています。このため、その原因が特定されないことの方がむしろ多いようですが、主な原因としては、以下のようなものがあります。

1) 出生前の病因
・遺伝子の病気(例:遺伝子の配列変異またはコピー数多型、染色体疾患)
・先天性代謝異常
・脳形成異常
・母胎疾患(胎盤疾患を含む)
・環境の影響(例:アルコール、薬物、毒物、催奇性物質) など

2) 出生後の要因
・低酸素性虚血性傷害
・外傷性脳損傷
・感染
・脱髄性疾患
・けいれん性疾患
・深刻で慢性的な社会的窮乏
・中毒性代謝症候群や中毒(例:鉛、水銀) など

参考:
厚労省 eヘルスネット ホームページ
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html

ハートクリニック ホームページ
http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/f70/f70_mild_mental_retardation.html

内閣府 ユースアドバイザー養成プログラム(改訂版)
精神遅滞児の臨床 原因・脳・心理・療育、大堂庄三

(2) 知的障害とは?(2) ~社会福祉の視点から

① 社会福祉の視点では、「知的障害」の明確な定義がない?

1) 社会福祉とは?
社会福祉とは、個人や家族の所得を一定水準まで上げ、医療・住宅・教育・レクリエーションなどの面で、幸せや幸福を増大させようとする活動や制度のことを指します。日本国憲法には「個人の尊厳(≒個々の人間の幸福)」の達成が、目的として制定されています。

つまり、社会福祉とは、この目的の達成のための制度と言い換えることもできます。その理念に基づき、実際の運用にあたってのさまざまな法律が制定されるという関係になっています。

2) 知的障害のある方を支える法律と社会福祉面での知的障害の対象化における課題
知的障害のある方を支えるメインとなる法律には、後ほどでも触れる「知的障害者福祉法」と「障害者総合福祉法」があります。この2つの法律で示されたことを中心に、知的障害のある方の社会福祉、つまり具体的な支援が実施されています。

さらに言うと、これらの法律上で「知的障害」の範囲にいる方を対象に、社会福祉上の支援がされるということです。ただ、これらの法律の中では、「知的障害とは何か?」が定義されていないという現実があります。

3) 社会福祉面での知的障害の対象
このような現実を反映してか、「社会福祉面での知的障害の対象となるか」は、医学面から見た知的障害の診断と共通の視点である、「知的機能」と「適応機能(介護面の必要性を含む)」との大きく2つの面から総合的に判定、認定されるのが一般的です。

そしてこの判定は、各都道府県が「療育手帳制度の運用上で実施している」形になっているというのが実態です。

療育手帳とは、知的障害のある方が一貫した社会福祉サービスを受けやすくすることを目的に作られた制度で、各都道府県知事(政令指定都市の長)が知的障害と判定した方に発行するもので、自治体により以下のような違いがあります。

・療育手帳の名称の違い
 例)
多くの県:療育手帳
東京都:愛の手帳
青森県:愛護手帳 など

・障害の程度の分類の仕方の違い
例)
 東京都:障害の程度によって、1度(最重度)から4度(軽度)の4段階に区分
 青森県:障害の程度によって、A(重度)・B(軽度)の2段階に区分 など

・支援内容の違い
 自治体ごとに設定

このように、知的障害について、対象かどうかを判断する方法、知的障害の程度を示す区分、また、それに紐づく支援内容などは、各自治体に任され運用されているというわけです。

【関連記事】
知的障害のある方を支える福祉サービス ~ 療育手帳制度とは?
https://jlsa-net.jp/ti/chi-fservice/

参考:
東京都福祉保健局ホームページ
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/nichijo/a_techou.html

青森県庁ホームページ 愛護手帳について
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/ssodan/about_aigot.html

東京大学 READホームページ
療育手帳について
http://www.rease.e.u-tokyo.ac.jp/read/jp/archive/statistics/statistics_criterion.html

② 知的障害のある方の数

知的障害のある方は、10年前と比較すると20万人程度増加し、全国で108.2万人と推計されています。このうち、8割以上にあたる96.2万人が在宅の方で、年齢別に見ると、18歳未満の方が22.1万人、18歳~65歳の方が58.0万人、65歳以上の方が14.9万人、男女比は1.3:1となっています。

つまり、全人口の0.8%程度にあたる方が知的障害があり、その数は近年徐々に増えてきているということです。

参考:
内閣府 平成30年版障害者白書
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h30hakusho/zenbun/siryo_02.html

2. 知的障害の程度と主な症状、発症時期とその後
(1) 知的障害の程度と主な症状

知的障害の程度を、知的機能面から4つの区分に分けたときに見られる主な症状は、以下のようになります。その比率から、軽~中程度の知的障害のある方が9割程度であることがわかります。

ただし、実際の障害程度は、知的機能面のみで判定されるものではないこと、知的機能面だけをとっても測定値に誤差が含まれることなどから、固定されるものではないことにも注意が必要です。

「図-知的障害の区分例」
知的障害の区分例
① 最重度:

IQ測定(知的機能の測定)自体が困難な状態です。知的障害のある方の1~2%程度と推計されています。

<主な症状>
・快・不快を表現することはできます
・要求されていることや指示されていることを理解したり、それに従って行動することができません
・また、運動能力が制限されているため、たとえば、衣服の着脱ができない、食事に支援や介助が必要になるなどが発生します

② 重度:

IQが20~35程度の知的障害です。知的障害のある方の3~4%程度と推計されています。

<主な症状>
・小児の場合は会話がほとんど不可能な状態ですが、年を重ねるにつれ、単純な会話であればできます
・衣食住を中心とした生活における行動面は、部分的にできることがある状況です
・一部の運動機能に問題があり、行動に制約を受ける部分がある状態です

③ 中度:

IQが35~50程度の知的障害です。知的障害のある方の10%程度と推計されています。

<主な症状>
・話し言葉の遅れが見られる状態で、特に対人コミュニケーションでの遅れが顕著に見られます
・衣食住を中心とした生活における行動面で、一部支援が必要な状態です
・運動能力の面では、発達の遅れが起こる場合もあれば、まったく遅れがない場合もあります

④ 軽度:

IQが50~70程度の知的障害です。知的障害のある方の85%程度と推計されています。

<主な症状>
・話し言葉に遅れが見られ、特に抽象的な事柄の理解が難しい状態です
・小学校の教科学習程度になると、学習困難が見られるようになる場合が多くなります
・衣食住を中心とした生活における行動面では自立できています
・将来、高度な熟練技術を必要とするような業務でなければ、働くことが可能です

【関連記事】
知能指数(IQ)とは?
https://jlsa-net.jp/hattatsu/iq/

(2) 知的障害が判明する時期

 4つの区分で分けた場合、中度以上の知的障害は、3歳児健診までに発見されることが多いと言われています。一方、軽度知的障害は、小学校入学時期にわかる場合や、さらに学習内容が高度化していく中で判明する場合もあるようです。

(3) 知的障害とその経過

診断でも利用される視点でもある、「知的機能」と「適応機能」の2つの側面からとらえる必要があります。少なくとも今の医学では、ほとんどのケースで知的機能面が改善されることはないとされています。一方で、適応機能面は、環境次第で向上する可能性が十分あり、特に早期に発見され適切な療育が施された場合、医学的にも長期的予後は改善するとされています。

(4) 知的障害とその治療など

 知的機能面での改善が難しいという理由から、知的障害そのものに対する治療は行われないのが一般的です。ただし、知的障害の原因となっている疾患、あるいは、知的障害によって引き起こされる疾患に対する治療は行われます。

【関連記事】
知的障害のある方を支える医療制度
https://jlsa-net.jp/ti/chiteki-iryou/

参考:
厚労省 eヘルスネット ホームページ
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html

精神遅滞児の臨床 原因・脳・心理・療育、大堂庄三

3. 知的障害のある方を支えるしくみ

「図-知的障害のある方の生活を支援するしくみ」
知的障害のある方の生活を支援するしくみ
個人としての尊厳を保てるだけの日常生活又は社会生活をおくれることを目的に、知的障害のある方を保護・支援するしくみが整理されてきています。

(1) 知的障害のある方の生活を保護する法律

知的障害のある方の生活を守ることは、法律で定められています。主な法律として、以下があります。

① 障害者基本法
② 障害者総合支援法
③ 知的障害者福祉法
④ 児童福祉法

【関連記事】
知的障害のある方を支える法律 ~2つの大きな法律
https://jlsa-net.jp/ti/chiteki-law/

(2) 福祉サービスを利用する(1) ~ 障害者総合支援法に下での福祉サービス

 障害者総合支援法は、知的障害を含む障害のある方の「自立のため・地域社会での生活のため」に、どんな福祉サービスを誰に行うかを定めた法律です。

① 受けられる社会福祉サービス

1) 自立支援給付:
介護や訓練などの面からのサービスが受けられます。

2) 地域生活支援事業:
地域で生活するために、相談や活動支援するもので、社会福祉施設の利用などが含まれます。

② サービスを受けるには

各市町村にサービスを受けたい旨を相談・申し込みをし、「支援区分」という認定を受けると、その支援区分に対応したサービスが受けられるというしくみになっています。

【関連記事】
知的障害のある方を支える社会福祉施設等
https://jlsa-net.jp/ti/chiteki-sisetsu/

(3) 福祉サービスを利用する(2) ~ 知的障害者福祉法の下での福祉サービス・療育手帳

知的障害者福祉法の下で制度化されている福祉制度に療育手帳があります。先にも示した通り、各都道府県知事(政令指定都市の長)が、自治体ごとの基準で知的障害と判定した方に発行する手帳です。

① 受けられる社会福祉サービス

障害の等級や地域により違いはありますが、取得すると以下のようなサービスを受けることができます。

1)公共料金等の割引:NHK受信料減免、交通機関の運賃割引、携帯電話や上下水道の割引など
2)税金の控除・減免:所得税・住民税の控除、相続税の控除、自動車関連税の軽減など
3)手当の支給など:福祉手当など
4)その他:障害者雇用での就職、公営住宅への優先入居など

② 交付してもらうには

療育手帳を交付してもらうには、各都道府県の判定を受ける必要があります。判定基準となる「区分」は、各都道府県(政令指定都市)により異なります。よって、まずはお住まいの地域の市町村役場に問い合わせし、必要なステップを確認するのが最も早い方法でもあります。

(4) 各法律や制度の下のサービスは、それぞれで申請・認定される必要がある

 上記の大きく2つの福祉サービスは、それぞれが異なる制度です。このため、「それぞれで、それぞれの窓口に申請、それぞれで認定・判定されて、はじめてそれぞれのサービスが使える」というしくみになっている点において注意が必要です(実際には、同じ窓口で一括して対応方法などの相談にのっていただける場合もあります)。

(5) 知的障害のある方を支える教育

 知的障害のある方を支える教育は、学校基本法の中で、「特別支援教育」として明示されています。「特別支援教育」は、目的として、「障害のある方の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するため、一人ひとりに必要となる教育的ニーズを把握し、力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な指導や必要な支援を行うこと」と明示されています。

この特別支援教育の下、通常級・通級(通級指導教室)・特別支援学級・特別支援学校といった学びの場が設置され、選択できるようになっています。

【関連記事】
知的障害のある方を支える教育のしくみ(全体像)
https://jlsa-net.jp/ti/chi-kyouikuzentai/

知的障害特別支援学校における教育 ~その特徴的な指導と魅力

知的障害特別支援学校における実際の指導例とそのポイント
https://jlsa-net.jp/ti/ti-tkbsg-sp/

参考:
厚労省 ホームページ 障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html

東京都福祉保健局 愛の手帳
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/nichijo/a_techou.html

内閣府 ホームページ 図表67 障害者に関する割引・減免制度及び福祉措置一覧
http://www8.cao.go.jp/shougai/data/data_h27/zuhyo67.html

文科省 ホームページ 特別支援教育について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

4. 知的障害のある方の支援にあたって
(1) 知的障害のある方を支援にあたって大切なこと

もしかしたら、と思ったら、何よりも早く専門機関へ相談することをおすすめします。一つの理由は情報面、対応面など、様々な面での支援を、早く、多く、得られる可能性が高まるからです。

また、仮に知的障害をお持ちだとしても、実際に支援を受けるには、各種の申請が制度ごとに必要なため、多くの事務的な負担がかかる点も見逃せません。知的障害のある方ご本人や保護者を含むご家族の方のみの努力だけでできることには限界があります。必要な支援は積極的に受けるという姿勢も非常に重要です。

(2) 知的障害の方を支える支援機関など

知的障害のある方ご本人や、保護者の方などを支援する機関に以下のようなものがあります。

保健センター
子育て支援センター
児童相談所
発達障害者支援センター
障害者就業・生活支援センター
相談支援事業所 など
 

参考:
厚労省 ホームページ
障害者の範囲
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1031-10e_0001.pdf

東京都福祉保健局ホームページ
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/nichijo/a_techou.html

青森県庁ホームページ 愛護手帳について
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/ssodan/about_aigot.html

最後に

知的障害という言葉は、それぞれの人がそれぞれ様々なイメージを持ってしまっている面があります。その結果、知的障害のある方が、本当に必要な支援を受けにくいという面もあるのではないでしょうか? その意味でも、知的障害に対して正しい理解をしていくことがまずは大切と言えそうです。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省 eヘルスネット ホームページ

知的障害(精神遅滞)

ハートクリニック ホームページ
http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/f70/f70_mild_mental_retardation.html

東京都福祉保健局ホームページ
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/nichijo/a_techou.html

青森県庁ホームページ 愛護手帳について
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/ssodan/about_aigot.html

内閣府 平成28年版障害者白書
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/zenbun/index-w.html

内閣府 ユースアドバイザー養成プログラム(改訂版)

精神遅滞児の臨床 原因・脳・心理・療育、大堂庄三

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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