親なき後、という問題 ~そのときの備えとして何ができるか?

発達障害

はじめに
 保護者である親にとって、障害のある方の介護を含めた支援ができなくなることを考えることは決して簡単なことではないのではないでしょうか? とはいえ冷静になれば、それを考える必要があることも十分ご理解いただけることでしょう。ここでは、「そのとき」を「親なき後」ととらえ、そのときに向けてどのような準備をしておくべきか、できるかという視点でまとめています。

1. 親なき後とは?
(1) 親なき後とは?

この世に生を受けた者は、いつか必ず死が訪れます。生き物には残念ながら寿命というものがあり、先に生まれた者ほど、先に亡くなる確率が高いことは紛れもない事実ですし、加齢による衰えは、誰にも避けて通ることができません。つまり、障害のある方をその保護者の方である親が支援できなくなる時は必ずやって来るということです。

一方でこの問題は、親が亡くなられた後のこととして考えれば良いわけではないでしょう。「親なき後」は必ずしも「親亡き後」ではなく、親や兄弟姉妹などのご家族の方などを含め、障害のある方への献身的支えが突然なくなること、ととらえるべきだとも言われています。たとえば、障害のある方を支えていた親が認知症になったとしたら、障害のある方を支えることはできないでしょう。

つまり、「親なき後」は、障害のある方をその保護者の方である親が支えることができなくなった時以降の障害のある方に関する問題だと、とらえることができるのです。

(2) 障害のある方の保護者の方の不安

 実際、障害のある方の老後について、その保護者である親は大いに不安を持たれていると考えられます。2004年から2006年の間に実施された大学研究グループによる、知的障害のある方の親に対する調査結果では、障害のある方の老後について、その親の9割以上が不安をお持ちで、その理由として、親自身が高齢となり障害のある方の世話をすることが困難になることが4割、また、知的障害のある方のための老人ホームがないことが3割となっています。

参考:
国立情報学研究所 NII学術情報ナビゲータホームページ
知的障害者の老後に対する親達の不安に関する調査
https://ci.nii.ac.jp/els/contents110006486444.pdf?id=ART0008512670

2. 障害のある方の生活実態

 親なき後問題を理解するにあたっては、障害のある方の暮らしぶりを把握することが必要になるでしょう。

(1) 収入の少なさ ~多くの障害のある方が相対的貧困以下の生活であるということ

「図-障害のある方の収入」

 きょうされんが2016年に実施した主に障害福祉サービスを利用されている1万5千人近くの障害のある方に対する調査結果によれば、障害のある方の収入は、相対的貧困とされる「貧困線」を下回る方が8割以上となっています。なお、厚労省のH25年の国民生活基礎調査では、年収122万円が「貧困線」となりますが、これを世帯収入で下回る日本の世帯は、障害のある方がいらっしゃる世帯を含む総世帯のうちの16%程度となっています。

また、ワーキングプアと呼ばれる年収200 万円以下の方は、就労所得の調査の結果である国税庁の平成26 年民間給与実態統計調査では24.0%となっていますが、その一方できょうされんの調査では、このワーキングプア以下に相当する障害のある方が98.1%となっています。

きょうされんの報告書でも指摘されているとおり、障害福祉サービスを利用されている方を対象に、その所得を把握したきょうされんの調査結果と、世帯年収を把握している国民生活基礎調査の結果や国税庁の民間給与の実態に関する調査結果とを単純に比較することはできません。しかし、少なくとも障害のある方の多くが、年金や手当を含めた実収入が少ないことは間違いのない事実でしょう。

(2) 親との同居が基本 ~50 代前半まで「親依存の生活」

また同じきょうされんの調査では、調査対象となった障害のある方の半数以上が、親と同居していることが明らかになっています。年代別に見ても、40 代前半まで親との同居が50%を超えており、50 代前半でも3人に1人以上が親との同居となっています。つまり、障害のある多くの方が、その生活を親に依存している状況を見て取ることができます。

一方で、グループホームや入所施設等で共同生活をされる障害のある方や、一人暮らしをされる障害のある方は、年齢が上がるにつれて増加しています。つまり、親が高齢になるにつれ同居が難しくなり、グループホーム・入所施設での生活や一人暮らしへと、生活スタイルが変化していったのではないかと推測されています。

(3) 就労状況

内閣府が公表している障害者白書の平成25年版によれば、従業員5人以上の規模の事業所に雇用されて働いている障害のある方は、身体障害のある方で34.6万人、知的障害のある方は7.3万人、精神障害のある方は2.9万人となっています。

この人数は、くり返しになりますが従業員5人以上の事業所への就業人数に限られています。また、同調査報告のコメントとして付されている「精神障害のある方は、障害のあるであることを申し出ずに働いているのでは?」との推測も、ある程度はあてはまるでしょう。だとしても、障害のある方の一般企業への就業率が高いとは言えない状況にあるのは間違いないでしょう。

実際、同じ調査結果資料で年齢層別就業率を見ると、身体障害のある方の就業率は、障害のない方の就業率を示す一般就業率と比べて全体的に20~30%ほど低い分布ですし、知的障害のある方の就業率も、20歳代では一般とほぼ同水準の60%台ながら、30~40歳代では20~30%ほど低くなり、 50歳代後半からは急速に低下しています。

一般就労以外としては、障害のある方の就労の場であり、日中の居場所の役割も果たしていると言われる就労移行支援事業・就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業があります。それぞれの利用者数は、平成27年のデータで2.8万人、4.6万人、19.3万人となっています。一方、同資料によれば、障害のある方のうち、18~64歳までの方の人数は324万人とされています。

これらの結果から判断すると、障害のある多くの方が社会での活躍の場を得られていないとも考えられるのです。

参考:
きょうされん ホームページ
障害のある人の地域生活実態調査報告書
http://www.kyosaren.or.jp/investigation/260/

内閣府ホームページ
平成25年版 障害者白書(概要)
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/gaiyou/h1_01.html

厚労省ホームページ
障害者の就労支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000091254.pdf

3. 親なき後への備えとして① ~生活費

「図-親なき後への生活費の備え」

親なき後への備えとして、まず確認しておきたいことに生活費の問題があるでしょう。

(1) 収入を得るために、お持ちの能力を磨いていくということ

障害のある方の就労支援策である就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業について言えば、その平均賃金・平均工賃は、それぞれ月額69,458円、14,437円となっており、生活していくのに十分な収入にはならないという現実があります。

ここまで見てきているとおり、障害のある方の就労環境は決して恵まれたものではありませんが、障害のあるご本人の能力を最大限発揮できるよう、その力を磨いていくことは非常に重要なことと言えるでしょう。

(2) 金銭面での支給や減免が受けられるものなど

 このような現実を受けて、親なき後の経済面での備えとして、どのような支援制度があり、それを利用するためにはどのような準備をしておくとよいのか、確認しておくことが大切でしょう。なお、主な経済的な支援制度には、以下のようなものがありますが、これら以外にも地域によってはさまざまな支援策が用意されています。

① 障害年金

障害年金とは、病気やケガなどの障害により生活や仕事が制限されている方が受け取れる年金のことで、日本年金機構により運営されています。障害年金を受けるには、基本的にはその障害の原因となった病気やけがについて初めて医師の診療を受けた日である初診日に、国民年金あるいは厚生年金に加入していることが必要で、初診日に国民年金に加入していた方は障害基礎年金を、厚生年金に加入していた方は障害厚生年金をそれぞれ受給することができます。

初診日が年金加入前の20歳未満の場合は、成人後に障害基礎年金を受け取ることができます。この場合、障害年金の申請や受給は成人してから可能になります。申請書類として、どの病院でどのような治療を受けたかなどの病状の経過を記載したものや、幼少期からの成育歴を踏まえた診断書が必要になりますので、相応の準備が必要であるということを留意しておく必要があります。

② 自立支援医療

 自立支援医療とは、障害者総合支援法に定められている制度です。自立支援医療には、知的障害、発達障害を含む精神障害のある方を対象とする精神通院医療、身体障害のある方を対象とする更生医療、身体障害のある児童を対象にした育成医療の3種類があります。いずれも対象となる医療費負担が原則1割に減免される制度です。

障害者手帳制度

 障害者手帳は、障害を認定された場合に発行される手帳で、いわば障害のあることを証明するものです。障害の種類や年齢別に、療育手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳があります。手帳を交付されると、税金の控除、公営住宅の優先入居、公共施設利用料の減免などが受けられますが、実際の支援内容は自治体によって異なります。お住まいの地域でどのような支援が受けられるのか確認しておくことも大切でしょう。
 
(3) お金の残し方

生活していくために必要な金銭ののこし方も、その管理の方法と合わせて知っておきたいことにあげられるでしょう。

その一つの方法として、信託という制度があります。信託とは、財産を人や機関に託し、管理・運用してもらうしくみを言いますが、この一つに、障害のある方の親なき後の経済面・生活面での支援に利用できる特定贈与信託というものがあります。

特定贈与信託を利用すると、最大6,000万円までの贈与税が非課税となり、また、信託を受けた人や機関が信託契約に基づいて定期的に障害のある方に金銭を交付することができるため、金銭的な管理がしてもらえるというメリットがあります。

参考:
厚労省ホームページ
障害者の就労支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000091254.pdf
自立支援医療
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html
資料10(各障害者手帳概要)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vota.pdf

日本年金機構ホームページ 
障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html

一般社団法人 信託協会 ホームページ
特定贈与信託
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/trust01_08_12.html

4. 親なき後への備えとして② ~生活拠点の確保

「図-親なき後への生活拠点の備え」

(1) 住む場所

親なき後の障害のある方の生活の拠点としては、一人暮らしや親族・兄弟姉妹との同居の他にも、入所施設やグループホームの利用といった方法が考えられます。障害者総合支援法の下では、療養介護、施設入所支援、共同生活援助、福祉ホームなどのサービス名となっているものです。

(2) 日中の活動の場 ~働く場、支援を受ける場

日中の活動の場としては、働く場である一般企業や就労移行支援事業・就労継続支援A型事業・就労継続支援B型事業といった就労支援を行う場があります。また、その他の障害者総合支援法の下でのサービスとして、生活介護や自立訓練、地域活動支援センターなどを利用することもできます。

参考:
厚労省ホームページ
サービスの体系
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html

5. 親なき後への備えとして③ ~支援体制の確保に向けた取り組み

「図-親なき後の支援体制の確保の視点」

障害のある方を支援する体制を整えることも必要と言えるでしょう。その視点としては、相談体制の確保、身上看護、財産管理の大きく3つが考えられます。

(1) 身近な相談先、関係者・支援者づくり

兄弟姉妹などのご家族の方や親戚の方が、障害のある方にとっての身近な相談相手であることは間違いないでしょう。その一方で、そのような方がいらっしゃらない、いらしてもお住まいの地域が異なるなどのさまざまな理由で、十分な支援ができない場合もあると考えられます。そのような場合も含め、地域移行支援・地域定着支援といった障害者総合支援法の相談支援事業の下でのサービスを利用することができます。

他にも、家族会や障害のある方を支援するNPO法人などが相談先として考えられますが、これら組織はそれほど多いわけでもありません。法律、医療、介護の面などで、信頼できる専門家とのネットワークづくりや、信頼できる病院・施設を確保することが必要とも言えるでしょう。

(2) 成年後見人制度を知る、利用の準備をする

医療サービスや介護福祉サービスを利用するには、介護プランの作成、介護サービス契約・入院契約・施設入所契約等の締結など、さまざまな手続きなどが必要になります。また、就労に伴う賃金や障害年金などの収入と、生活費や医療費などの支出の管理も必要です。また、何よりも障害のある方の安全を確保することが大切でしょう。

このような支援を受けるために利用を検討したいのが、成年後見人制度です。この制度を利用すると、後見人が障害のあるご本人への利益が最大限守れることを前提に、以下の保護・支援を行うことができるようになります。

① ご本人を代理して契約などの法律行為をする
② ご本人が自分で法律行為をするときの同意を与える
③ ご本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消す など

親が元気なうちは、障害のある方の身上看護の点からも財産管理の点からも、成年後見制度を利用しなくても支障がない場合が多いと考えられます。一方で、親が倒れてしまったり、亡くなってしまったりすることがないとは言えません。何も準備ができていないところでそのような事態が発生した場合、障害のある方を守る環境が突然なくなってしまうということも考えられるということです。

このような場合に備え、親が元気なうちからあえて成年後見制度を利用するということも考えられるでしょうし、少なくともその時に備えて、制度を知ること、制度の利用に必要な準備をしておくことが必要だとは言えるのではないでしょうか。

参考:
厚労省ホームページ
サービスの体系
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html

法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3
公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support

最後に

「親なき後」は必ずしも「親亡き後」ではなく、親や兄弟姉妹などのご家族の方などを含め、障害のある方を支える方がいらっしゃらなくなった時以降のことであり、障害のある方の人生に関わる問題だと言えます。冷静になって考えれば、その時はいつか、そして、ある時突然やってくる場合もあると言え、その時に備えた準備を進めることは非常に大切だと言えます。

障害のある方ご自身がその持てる能力を磨いていくことを支援することはもちろん、その時の備えとして、経済的な面、生活の場、身上監護や財産管理、相談先も含めた支援体制の確保といった、少なくとも大きくは3点について、情報を収集し、検討・準備を進めておく必要があると言えるでしょう。それが、障害のある方が、その人生を豊かなものにするためにも必要なことになるとも考えられます。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
内閣府ホームページ
平成25年版 障害者白書(概要)
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h25hakusho/gaiyou/h1_01.html

厚労省ホームページ
障害者の就労支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000091254.pdf
自立支援医療
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html
資料10(各障害者手帳概要)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001vnm9-att/2r9852000001vota.pdf
サービスの体系
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html

法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support

日本年金機構ホームページ 
障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html

一般社団法人 信託協会 ホームページ
特定贈与信託
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/trust01_08_12.html

国立情報学研究所 NII学術情報ナビゲータホームページ
知的障害者の老後に対する親達の不安に関する調査
https://ci.nii.ac.jp/els/contents110006486444.pdf?id=ART0008512670

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障害のある人の地域生活実態調査報告書

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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