「親なき後」におけるお金と住まいの問題

成年後見制度

はじめに
「親なき後」におけるお金と住まいの問題は、お子さんが、知的障害、精神障害、ひきこもり状態にある方である場合、早いうちに、しっかりと対策を行って置くことはとても重要です。

ここでは、「親なき後」におけるお金と住まいの問題を各種事例をベースに、その概要をまとめました。



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1. 「生活状況に関する調査」

内閣府が先日発表した「生活状況に関する調査」で、はじめて40歳から64歳の中高齢層を対象としたひきこもりの実態が調査されました。この調査によると、自宅に半年以上ひきこもっている「ひきこもり」の方は、中高齢層において実に推計61万3千人いるとのこと。別時期に調査をした「15歳から39歳の推計54万1千人」を上回る結果となりました。

調査では、男性が全体の7割を占めるとのデータも示されていましたが、実際のところは、女性も3割程度ではおさまらないとの見解もあり、今回の調査で示された数値は、まだ氷山の一角ともいえるかもしれません。いずれにせよ、高齢化するひきこもり問題については待ったなしの状態であり、様々な対策が必要であることは間違いありません。

そんな中、今回、特に取り上げたいのは「親なき後」における「お金と住まい」の問題です。この問題については、ひきこもりのケースだけでなく、知的障害のお子さんをお持ちのご家庭についても、同様に考えていく必要がある問題でもあります。

参考:
内閣府「生活状況に関する調査(平成30年度)」
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/life/list.html

2. 親なき後の問題
(1) 親なき後とは

障害のあるお子さんや、何らかの理由でひきこもりの状態になっているお子さんは、その多くが親の支えのもと生活を送っています。そのため子がまだ小さいうち、つまり、親も若いうちはいいのですが、親がだんだん年老いてくることにより、親自身の老後や介護の問題も顕在化し、子の世話を思うようにはできなくる側面があります。

親なき後、というのは親が亡くなってしまった後はもちろんのこと、親が存命であっても、病気や介護状態になり、入院や入所をすることで、子のケアができなくなることも含めて考えなければならない問題です。

(2) 親なき後に顕在化する問題

親は年老いていき、いずれは、子を支えることができなくなることは避けて通ることのできない事実です。そのため多くの親御さんが心配されていることは、親なき後のお子さんの「お金」と「住まい」の問題です。子供が経済的にやっていけるのであろうか? 現在住んでいる持ち家や、その後の住まいをどうしたらよいのか・・・などなど。

知的障害をお持ちのお子様であれば、金銭管理をどうすればよいのかなどの不安も当然お持ちになられていると思います。これらの問題については不安には思っているものの、具体的な対策・準備については方法がわからず先延ばしにしているご家庭も多く見受けられます。

しかし、親の加齢は止めることができません。いずれ訪れる「その日」のために、子に対する日常の支えになりながら一方で将来的な準備についても考えていかなければいけないことを認識しなければなりません。

3. 親なき後を生き抜くために

親なき後のお金の問題に準備していく方法は、知的障害、精神障害、ひきこもり状態にある方についても基本的には同じ考え方です。簡単に見ていきましょう。

(1) まずは親自身が現状を知る

子の生活は親の支えによって成り立っています。つまり親の経済力が重要な要素です。多くの親が、いくら残せばよいのか?ということを考えますが、そのためには親自身が自分たちの経済力を把握していなければなりません。そこでまずは、親が自身の家計や資産の現状をしっかりと認識することから始めます。

① 家計の収支、貯蓄残高の推移の把握

まずは、家計の収支とそれによる貯蓄残高の推移を把握します。家計というのは、得た収入から必要となる支出があり、その差額によって貯蓄残高が増減します。家計の収支が黒字であれば貯蓄は増えますし、反対に赤字であれば貯蓄は減っていきます。

この家計の収支と貯蓄残高を将来に向けて連年で作成します。これをキャッシュフロー表といい、現在の家計の流れが将来に向け問題がないか分析をすることができるのです。日ごろから家計簿をしっかりとつけているご家庭であれば、このあたりの数字は把握しやすいでしょうが、そうでない方も是非作成されることをおすすめします。

家計の収支に目を向けることで、無駄な出費を抑えることもでき家計はグッと引き締まります。現状において、家計が赤字であれば早急に対策が必要となりますし、仮に黒字であっても将来的に問題がないかといえば、そうとは言い切れません。

キャッシュフロー表を作成し現状分析をする目的は、将来にわたり家計が破綻しないかどうかを確認するものなのです。将来、「子供が何歳まで暮らせるのか」という予測をするのに、現在の状況を把握することができなければ、「絵に描いた餅」になってしまいます。

まずは現状をしっかり数値化することが何よりも大切なことであることを認識しましょう。

② 資産・負債の把握

キャッシュフロー表による家計の流れを把握すると同時に、親が保有している資産および負債についても把握しておく必要があります。例えば、現在住んでいる家は持ち家なのか、それ以外に不動産などを所有しているか、生命保険などに加入はしているのかなど、借入についてなどその有無だけではなく内容や現在価値などを把握することが必要です。

預貯金や有価証券、不動産、生命保険などは、親なき後の子どもの生活費のベースになるもの、活用できるものでありますが、住宅ローンやそれ以外の借入については、親なき後には残すことがないよう早めに対処をしていく必要があります。

生命保険は保障内容も重要ですが、お金が必要となったときに解約返戻金がどれだけ出るのかという資産価値としての把握をする必要もありますし、不動産については売却する場合と相続の場合を想定し、売却価格と相続税評価額の両方を調べておくとよいでしょう(不動産の価格は1つではない)。

このあたりの話は少し難しいかもしれませんので専門家に相談しましょう。

参考:
日本FP協会
便利ツールで家計をチェック
https://www.jafp.or.jp/know/fp/sheet/

国税庁
相続税・土地家屋の評価
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602.htm

国税庁
相続税路線価
http://www.rosenka.nta.go.jp/

(2) 子が一人になった時の生活費を把握する

自分たちが子を支えることができなくなった後、子が残りの人生を暮らしていくためにいくら必要となるのか。次にこれを把握しなければなりません。必要となる金額ついてはもちろん画一的ではありませんし、知的障害のある子や、ひきこもり状態にある子などによっても、必要となる金額は異なってくることが考えられます。

特にひきこもり状態にある子については、パソコン関係や趣味の出費が少なくない場合も珍しくなく、支える親の負担は軽くはないケースが見受けられます。それぞれの状態などを踏まえたうえで、将来必要となる生活費を算定することがポイントです。

(3) 手当てできるお金を把握する

上記で必要になるお金のことを考えましたが、もちろんそれらすべての金額を用意しなければならないということではありません。子ども本人が就労できるのであれば、その就労による収入を考慮していきます。

就労による収入は、知的障害のある子でも、障害の程度によって一般就労が可能であったり、作業所で軽作業などをしながら社会性などの向上を図っていったりと就労収入の金額は異なりますし、ひきこもり状態にある子であれば、働くどころか、まったく外に出ることができない子もおり、この場合であれば就労による収入を見込むことは難しいかもしれません。

特にひきこもり状態にある40代50代といった中高齢者の場合は、現実問題として社会復帰は難しいという可能性は考慮しなければならないでしょう。それ以外にも、障害年金などの公的給付や支援制度なども考慮します。

参考:
日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html

(4) 生命保険や自宅資産を活用する

① 生命保険を活用する

子に確実にお金を残す方法として、生命保険を活用することは有効です。残す必要がある金額を算出し、現状において不足することが予測される場合は生命保険を活用することで確実に死亡保険金としてお金を残すことができます。

しかも生命保険による死亡保険金は本来の相続財産ではなく、死亡保険金受取人として指定した人の(つまり子)の「固有の財産」となり、相続の際の遺産分割協議の対象財産とはなりません。子に兄弟姉妹がいる場合などに相続トラブルを避け確実にお金を残すことができます。

多額の生命保険金が子に支払われるのは心配という場合は、「生命保険信託」というしくみを活用することができます。生命保険信託では、死亡保険金を信託会社に信託し(預け)、信託会社から信託契約の内容に従い定例交付されますので計画に基づいた生活費の確保をすることが可能になります。

例えば、毎年100万円を30年間にわたり、子に交付してほしい、というような契約を行うことができるのです。

ただし、現在この生命保険信託が可能な保険会社は限られており、プルデンシャル生命保険などがあります。プルデンシャル生命の場合は、プルデンシャル生命で契約した契約をもとにプルデンシャル信託との間で信託契約を締結するという流れになります。

参考:
プルデンシャル信託株式会社
生命保険信託とは
http://www.pru-trust.co.jp/trust/

② 自宅を活用する

現在持ち家であるという場合は、これを活用するという方法もあります。

例えば、リバースモーゲージ。これは、住んでいる持ち家を担保にして(実際担保になるのは家ではなく土地)、銀行などからお金を借入れるしくみです。借入れたお金は生活費などに充てることができ、将来所有者が死亡した際に担保となった不動産にて返済をすることになります。

このしくみを利用することで、手持ちの現金をなるべく残すことができます。他の相続人がいる場合はまた別ですが、知的障害のある子だけが相続人である場合などであれば、リバースモーゲージの活用などもひとつの選択肢であるといえるでしょう。

ただし、この制度はだれでも利用できるわけではありません。借入ができる金額は担保となった土地の一定範囲内、また金額においても制限を設けられているのが一般的で多くの金融機関ではマンションは対象外であるなど、扱っている金融機関により条件は様々です。また地域的な問題で利用できないということもあり、事前に利用可能かどうかを調べる必要があります。

また、ひきこもり状態にある子の場合は、親なき後の住まいの確保という点では知的障害のある子とはまた異なった観点での対策が必要となってきますが、今回は割愛します。

参考:
社会福祉協議会
不動産担保型生活資金貸付制度
https://www.shakyo.or.jp/guide/shikin/seikatsu/pdf/ichiran_20160128.pdf

東京スター銀行
リバースモーゲージ「充実人生」
https://www.tokyostarbank.co.jp/products/loan/homeloan_jyujitsu/

(5) 親自身の老後生活資金や介護費用も考慮する

知的障害のある子やひきこもり状態にある子を支えているのは親。その親自身の老後生活資金が足らなかったり、介護が必要となった際の介護費用などが準備できなければ、そもそも子の支えになることはできません。

そのために、今まで述べたようにキャッシュフロー表を作成し現状を認識し、将来に対する計画をしっかりとたてていくことが何よりも大切です。自分たちがもし介護が必要となったらどうするのか?そういったことも含めて早い段階から考えていかなければなりません。

(6) 子が元気に暮らしていくために

遺された子がその後の人生を生きていくためには、様々な支援が必要となるでしょう。果たして親が希望するとおりに子にお金が遺せるのか、お金だけ遺してもそれを計画通りに使ってくれるのか、浪費をしたり詐欺などのトラブルに巻き込まれないか。心配は尽きません。

① 遺言書

遺言書は被相続人(亡くなった人)の遺志を残すものです。自分の亡くなった後に財産の分け方などを指定することができる制度です。自筆証書遺言や公正証書遺言などの種類があります。

自筆証書遺言は、だれにも秘密に作成することができますが、作成において不備があると無効になってしまいますし、紛失改ざんの恐れもありますのでトラブルを防ぎたいということであれば、公正証書遺言をおすすめします。作成において手数料等がかかりますが、間違いがありません。

なお、子に兄弟姉妹がいる場合は、相続時に遺産分割でトラブルになることも可能性として考えられます。日ごろから、障害のある子やひきこもり状態にある子に支援が偏ってしまっていることなどを含め仮に遺産の配分に偏りが出るのであれば理解を得るための話をしていくことは重要です。

エンディングノートを活用し思いを記すことも有効ですが、まずは普段から話す機会のあるようにすることがトラブルを避けることにもつながります。

② 成年後見制度

成年後見制度は、判断能力が不十分とされる方を擁護するもので、財産管理(預貯金の管理、不動産収入の管理、不動産などの財産の処分など)や身上監護(入院・施設入所の手続き、介護保険の認定手続き等)などの支援を後見人などが行うしくみです。

「法定後見」と「任意後見」に大別され、現に判断能力が衰えている方は法定後見を(後見・保佐・補助)、将来的に判断能力が衰えた場合に備えたい方は任意後見制度を利用します。知的障害のある子やひきこもり状態にある子は自分で法律行為ができないことが想定されますので、成年後見制度の利用を検討する必要があります。

③ 福祉型信託

親が委託者となり、財産を託す人(受託者)と信託契約を取り交わし、子(受益者)に生活費などを定期的に交付してもらう制度です。上記で登場した生命保険信託も同じスキームを使っています。信託のメリットは、自分の意思を反映させることが容易であること。

例えば、子に資産を残した後に子が亡くなってしまった場合、残った財産は相続人にわたることになります。仮に、子が亡くなった後はお世話になった施設に寄付したいと考えたとしても、遺言では二次相続以降の資産承継先を指定することはできません。ところが信託の場合は可能となるのが大きな特徴です。

成年後見制度と組み合わせて活用すれば非常に効果的になります。

4. 終わりに

親なき後の問題は、様々な視点で考えなければいけない問題ですが、お金や住まいについては生きていくうえで必要なものであり、ここを避けて通ることはできません。「その時」がいつ訪れるか、将来のことはだれにもわかりません。

必要な場面に直面した段階で必要なお金が拠出できるとは限りませんし、その場になって対応できないということにはならないためにも、現状を把握し計画的な準備を進めていくことが大切だといえます。

【関連記事】
親なき後の障害者支援 ~そのときの備えとして何ができるか?
https://jlsa-net.jp/szk/oyanakiato/

横山延男

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ファイナンシャル・プランナー。 キャリアコンサルタント。一般社団法人全国地域生活支援機構理事。株式会社UFPF取締役。 FPとして、ひきこもりや知的障がいを...

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構 代表理事として広報を担当する。現在、株式会社目標管理トレーニングの代表取締役としても活動を行っ...

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