成年後見制度 精神障害や知的障害、認知症など判断能力が不十分な方を保護・支援する
はじめに
精神障害や知的障害、認知症等があるなど、何らかの理由により判断能力が不十分な方々を法律面や生活面で保護したり支援したりする制度に、成年後見制度があります。ここでは、成年後見制度について、その制度の役割と制度の2つの種類である任意後見制度・法定後見制度について概要をまとめています。
1. 成年後見制度とは? 成年後見制度の役割
成年後見制度とは、精神障害や知的障害、認知症等があることによって判断能力が不十分な方々を保護し、支援する制度です。
私たちは契約を前提とする社会で暮らしています。契約というと、契約書のような形で書面化されたものを想像するかもしれません。実は契約は、二人以上の合意 によって成立する法津行為をいい、通常は、申し込みと承諾によって成立するとされています。
つまり、たとえば買い物をするといったようなことも、買う物に対してお金を支払うという売り手と買い手のお互いの意思が合致し、売り買いが行われるということなので、契約(と、契約に基づく行為)なのです。
精神障害や知的障害、認知症等があることによって、判断能力が不十分な方々の場合、たとえば、物の売り買いを含むご自身の財産管理であったり、介護などのサービス利用や施設利用に関する契約を結んだりといった、日々必要となる契約をご自身で行うことが難しい場合があります。
また、ご自身にとって不利益な内容であっても、よく判断できずに契約を結んでしまったり、いわゆる悪徳商法の被害に遭うなどの恐れがあったりもします。このようなことが起きないよう、保護・支援するしくみが成年後見制度なのです。「後見」という言葉が示すように、「成年になった方々のうち、判断能力が不十分な方とその方が行う必要がある契約行為を、うしろに立って支える制度」ととらえるとわかりやすいかもしれません。
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制度を支える理念として、以下の3つが求められています
ノーマライゼーションとは、障害の有無や年齢に関わらず、等しく生きる社会・福祉環境の整備、実現を目指す考え方のことです。つまり、過度に保護・隔離するような形ではなく、一般社会、つまり契約社会においても、精神障害や知的障害、認知症等があることが有利・不利にならないようなしくみが必要だという考え方の下、制度化されたしくみだということです。
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制度の利用については、保護・支援の対象となるご本人の自己決定を尊重するという考え方です。つまり、ご本人の意思に反した制度利用となっていないかが重要視されているしくみで、ご本人がその契約の判断をすることが原則だということです。
ご本人の自己決定を尊重するとはいえ、必ずしも判断能力が十分あるとは言えない場合もあるでしょう。そこで、制度として、ご本人の状況を把握したうえで、適切な配慮ができるようにしくみ化されているということです。
法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3
公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support
2. 成年後見制度の2つの種類 ~判断能力の有無と程度による2つの種類
「図-成年後見制度、2つの種類」
成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の大きくは2つの種類があります。制度の利用開始時点で、保護・支援の対象となる方が、どの程度判断能力があるかによって利用できる制度が異なると考えるとわかりやすくなります。
このように大きく2つの制度に分かれる理由は、後見制度の利用について、契約によって依頼が可能かどうかという点が問題になるからです。「後見をする人」は、保護・支援が必要な方が選択・依頼し、依頼された方がそれを受ける、という契約によって成立するのが原則です。これが任意後見制度の基本です。
一方で、すでに判断能力が不十分な場合、的確な判断ができないと判断されることから、契約による依頼ができません。そこで、法律が後見をする役割を担う人を決めるものとして、法定後見制度がしくみ化されているのです。つまり、精神障害や知的障害、認知症等がある方の場合、判断能力の有無とその程度によって利用できる制度が異なるということです。なお、この判断能力の有無や程度については家庭裁判所が判断することになっています。
参考:
法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3
公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support
3. 任意後見制度とは?
ひと言で精神障害や知的障害等があるといっても、その症状や程度などは人によってさまざまですし、支援が必要な範囲もさまざまです。よって、たとえば精神障害があっても、今の段階ではご本人に十分な判断能力がある場合も多いでしょう。
一方で、人は加齢に伴い、障害の有無にかかわらず、判断能力を失っていく可能性もあります。たとえば、認知症を患うといったことは、誰しもがその可能性があるものです。
任意後見人制度は、今の段階ではご本人に十分な判断能力はあるものの、将来判断能力が不十分になったときのために、ご本人と支援者の間で将来の約束をし、支援内容を決めるといった、ご本人の意思による契約をあらかじめ行う制度ということができます。
任意後見契約とは、ご本人が、将来のある時点で判断能力が不十分になった後に、支援を依頼した方に、自分の後見人である任意後見人になってもらうことをお願いするという契約のことです。
ご本人が、判断能力があるうちに信頼できる方を見つけ、その方との間で、もし自分の判断能力が衰えてきた場合等には、自分に代わって、財産管理や必要な契約締結等をしてもらえるようお願いし、その方にそれを引き受けてもらう契約だと言い換えることができます。
任意後見契約は、誰に任意後見人になってもらうか、そして、どのような範囲のことをお願いするか、つまり、どのようなことを後見事務として委任するかを話し合いで自由に決めることができます。これを代理権を与えるといいます。
ただし、任意後見人がいる場合でも、保護・支援の対象となっているご本人が、自分の不利益になるような契約を締結した場合は、その契約が詐欺にあたるような契約自体に問題があるときでないと取り消すことができません。これを、同意権・取消権が認められていないといいます。
「図-任意後見制度、利用までの流れ」
任意後見制度の実際の利用の流れは次のとおりです。必要書類等詳細を確認する意味でも、実際に利用される場合には、まずはお住まいの地域の家庭裁判所に問い合わせされることをおすすめします。
誰に任意後見人になってもらうか、どんな内容についてお願いするか検討します。
検討した内容を書面の形にします。
まとめた文書を、お住まいの地域の公正役場に持参します。申請時には、依頼主であるご本人の戸籍謄本(抄本)及び住民票と任意後見人になる方の住民票が必要になります。その他、双方のご本人の確認資料が必要です。また、1万円~程度の公正証書作成手数料がかかります。
申請時に提出した文書を元に、公正証書原案が公正役場にて作成されます。依頼主であるご本人と任意後見人になる方とが、そろって確認し、署名捺印すると公正証書が完成し、ご本人と任意後見人になる方との間で契約が結べたということになります。こうして作成された公正証書の原本は、公証役場で登記という形で管理・保管され、双方に謄本が渡されます。
ご本人の判断能力低下の兆候を受けて、任意後見監督人の選定申し立てという形で家庭裁判所に申し立てます。家庭裁判所が任意後見人による支援が必要と判断されると、任意後見人の活動をチェックする任意後見監督人が選定されます。任意後見監督人とは、任意後見人の仕事をチェックする人のことです。
なお申し立てに必要となるのは、申立書、任意後見契約公正証書の写し、ご本人の戸籍謄本、成年後見等に関する登記事項証明書、ご本人の診断書、任意後見監督人候補者の住民票などです。このとき数千円~程度の申立費用がかかることになります。
以上の手続きを経ると、任意後見人となった方が契約で定められた範囲について、ご本人に代わって行っていくことになります。また、ここから後見人には契約に基づいた額の、任意後見監督人に対しては家庭裁判所が決定した額の、それぞれの支払いが発生することになります。
参考:
法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3
公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support
日本公証人連合会 ホームペ―ジ
任意後見契約
http://www.koshonin.gr.jp/business/b02/
4. 法定後見制度とは?
法定後見制度は、制度を利用しようとする精神障害や知的障害、認知症等がある方ご本人が成年後見制度を利用しようとする段階で、すでに判断能力が不十分な場合に利用できる制度です。ご本人を支援されているご家族の方などが申立人となり、家庭裁判所に申し立て、ご本人の判断能力の程度が一定以上を越えて不十分とされると、ご本人の保護・支援が行われるようになります。
なお、法定後見制度は、「後見」「保佐」「補助」の3つの制度に分かれており、判断能力の程度など、ご本人の事情に応じて選べるようになっています。
保護・支援の内容は、ご本人への利益が最大限守れることを前提に、以下のようなものがあげられます。
① ご本人を代理して契約などの法律行為をする
② ご本人が自分で法律行為をするときの同意を与える
③ 本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりする
なお、実際にご本人を保護・支援できる範囲は、「後見」「保佐」「補助」それぞれで異なり、「後見」が最も保護・支援の範囲が広く、最も狭いのが「補助」となっています。
「図-法定後見制度、利用までの流れ」
法定後見制度の実際の利用の流れは次のとおりです。必要書類等詳細を確認する意味でも、実際に利用される場合には、まずはお住まいの地域の家庭裁判所に問い合わせされることをおすすめします。
精神障害のある方ご本人の判断能力の状況を保護者の方を中心に見極め、法定後見制度の利用を検討します。
法定後見制度を利用したい旨の申請をするということです。申立人となれるのは、ご本人・配偶者・4親等内の親族等が原則です。また、このとき、申立書、保護・支援を受けるご本人の戸籍謄本、住民票、成年後見制度(法定後見制度・任意後見制度)をその時点では利用していないことを証明する「登記されていないことの証明書」などが必要になります。
この申し立てを受けて、法定後見制度の利用が必要かなどの調査が始まります。実際に行われるのは、申立人や後見候補者との面接、医師の鑑定、親族への照会などです。
後見人による支援が必要と判断されると、後見・保佐・補助のいずれかを行う法定後見人等が選任されるとともに、必要があれば後見監督人が選任されることになります。法定後見人等とは実際にご本人の財産管理や身上監護等を行う方、後見監督人とは法定後見人等の活動をチェックする方です。いずれも、後見登記という形で管理されることになります。
法定後見制度を利用し始めると、成年後見人等と、選定されている場合には後見等監督人とに、それぞれ業務内容とご本人の資産内容に応じて家庭裁判所が審判した額の支払いが発生することになります。
【関連記事】
法定後見人制度とは? 判断能力が不十分な方を保護・支援する
https://jlsa-net.jp/sks/houteikouken/
参考:
法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3
公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support
最後に
精神障害や知的障害、認知症など、何らかの理由により判断能力が不十分な方々を法律面や生活面で保護したり支援したりする制度に成年後見制度があります。成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の大きくは2つの種類があります。前者は利用開始時点では判断能力が十分ある方が利用できる制度で、ご本人が誰に、どんな範囲の支援をしてもらうかを決め、それを公証役場に登記する方法です。
一方、後者は既に判断能力が不十分な方のための制度といえ、保護・支援の対象となる方を支援されているご家族の方などが、制度の利用を家庭裁判所に申し立て、成年後見人等を選定してもらう制度です。保護・支援を行う成年後見人等の方は、ご本人の利益が最大化するよう行動すること原則ですが、利用している制度ごとに、それぞれやれないこともあるということを理解しておく必要があると言えるでしょう。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。
参考:
法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3
公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support
日本公証人連合会 ホームペ―ジ
任意後見契約
http://www.koshonin.gr.jp/business/b02/
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