身体障害のある方を支える医療制度

身体障害

はじめに
身体障害のある方にとって、医療分野におけるさまざまな面でのご負担は決して小さなものとは言えないでしょう。身体障害のある方を支える医療制度として、日本の国民全員が受けられる医療制度に加え、「自立支援医療」があります。

ここでは、その負担のうち、経済的な面での負担を軽減する制度を中心にご紹介します。



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1. 日本の医療制度

「図-身体障害のある方を支える医療制度」
身体障害のある方を支える医療制度

日本の医療制度は、「国民皆保険」を前提にしています。国民皆保険とは、日本の国民全員が「公的医療保険」の制度の下で、必要な医療サービスを受けられることを保障する制度です。

一定の保険料を支払うことが必要ではありつつ、公的資金が投入されることで、自己負担を抑えながらも高度な医療を受けられるよう整備されています。

また、医療機関を自由に選択することもできます。この国民皆保険を前提に、それに加える形で身体障害のある方を支える医療制度も設計されています。

【関連記事】
身体障害とは?
https://jlsa-net.jp/sin/shintaisyougai/

参考:
厚労省ホームページ 我が国の医療保険について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html

2. 障害者総合福祉法の下に位置づけられた医療制度 ~自立支援医療

「図-支援の範囲と制度」
支援の範囲と制度
日本の国民全員が受けられる医療制度に加え、身体障害のある方を支える医療制度として「自立支援医療」があります。この制度は、障害者総合福祉法の下で体系化されている制度です。

(1) 障害者総合支援法とは

障害者総合支援法は、前身となる障害者自立支援法を改訂・発展させた法律で、以下のように身体障害を含む障害のある方を支える福祉サービスを体系化しています。

① 自立支援給付

次の大きく4つのサービス・事業で構成されています。
1) 障害福祉サービス
・介護給付:居住介護、重度訪問介護、生活介護、短期入所、重度障害者等包括支援、施設入所介護
・訓練給付:自立訓練支援(生活訓練)、宿泊型自立訓練、就労移行支援、就労継続支援(A型)、就労継続支援
2) 自立支援医療
3) 相談支援事業
4) 補装具
・計画相談支援給付
・地域相談支援給付

② 地域生活支援事業

1) 市町村事業
・相談支援、コミュニケーション支援、移動支援、など
2) 都道府県事業
・広域支援、人材育成、など

【関連記事】
身体障害のある方を支える法律 ~2つの大きな法律
https://jlsa-net.jp/sin/shintai-law/

参考:厚労省ホームページ
障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html

3. 自立支援医療とは?

自立支援医療制度は、身体障害を含む障害のある方が、その障害を取り除いたり軽減したりするために必要な治療を受けることで発生する医療費について、自己負担額を軽減することを目的とした公費負担医療制度です。

身体障害のある方に対しては、更生医療と育成医療と呼ばれるものがあります。

(1) 自立支援医療の更生医療・育成医療対象

「図-自立支援医療制度 自己負担が軽減されるもの、されないもの

「障害を除去・軽減する手術等の治療によって、確実に効果が期待できるもの」について、自己負担を軽減することが、この自立支援医療制度の自体の目的です。

よって、お持ちの身体障害そのものの治療や身体障害のあることで生じる症状に対する治療だけが、自己負担額軽減の対象となります。

つまり、その他の病気などの治療については、自己負担額の軽減対象ではありません。なお、厚労省は、対象となる障害と標準的な治療の具体的な例として、以下のようなものを上げています。

① 視覚障害:

白内障の場合:水晶体摘出手術
網膜剥離の場合:網膜剥離手術

② 聴覚障害:

鼓膜穿孔の場合:穿孔閉鎖術
外耳性難聴:形成術

③ 言語障害:

外傷性又は手術後に生じる発音構語障害:形成術
唇顎口蓋裂に起因した音声・言語機能障害を伴う者であって鼻咽腔閉鎖機能不全に対する手術以外に歯科矯正が必要な方:歯科矯正

④ 肢体不自由:

関節拘縮・関節硬直:形成術、人工関節置換術など

⑤ 内部障害:

1) 心臓
先天性疾患:弁口、心室心房中隔に対する手術
後天性心疾患:ペースメーカー埋込み手術
2) 腎臓
腎臓機能障害:人工透析療法・腎臓移植術(抗免疫療法を含む)
3) 肝臓
肝臓機能障害:肝臓移植術(抗免疫療法を含む)
4) 小腸
小腸機能障害:中心静脈栄養法
5) 免疫
HIVによる免疫機能障害:抗HIV療法・免疫調節療法・その他HIV感染症に対する治療

(2) 自立支援医療制度における自己負担額

「図-自立支援医療制度における自己負担額」
自立支援医療制度における自己負担額
治療にかかる費用の負担感は、障害の程度や治療を必要とする期間、世帯での所得などによって大きく変わる面があるでしょう。

このため、以下のようなしくみで身体障害のある方の治療にかかる経済面の負担が軽減されています。所得が多い方などは、制度の対象にならない場合もあります(その場合は、一般医療と同様、自己負担比率は3割です)。

① 自己負担比率の低減

対象となる身体障害の治療における医療費の自己負担比率が1割に軽減されます。例えば、1万円の治療を受けた場合、自己負担は1千円です。なお対象以外の病気などの治療の場合、自己負担比率は3割です。

② 自己負担の上限月額の設定

障害の程度や治療を必要とする期間、世帯の所得額によって、月の自己負担額に上限が設定されています。

1)まず、生活保護世帯だと自己負担は0円、市町村民税非課税世帯だと2,500円または5,000円です。住民税のうち、市町村民税が235,000円未満の場合は公的医療保険で設定されている自己負担限度額が上限となります。なお、 市町村民税が235,000円以上の場合は軽減措置がありません。

2)市町村民税の納税世帯で、自立支援医療制度の中で「重度かつ継続」と呼ばれる以下の状態に当てはまる方については、その額が33,000円未満の場合5,000円、33,000~235,000円未満の場合10,000円、235,000円以上の場合は20,000円です。

(3) 自立支援医療制度を利用するには

「図-自立支援医療制度を利用する 自立支援医療受給者証を取得し利用するまでの流れ」
自立支援医療制度を利用する 自立支援医療受給者証を取得し利用するまでの流れ
自立支援医療制度を利用するには各市区町村への申請が必要です。申請に必要なものは、概ね以下のようなものです。

① 申請書(申請窓口に設置されている場合が多いようですが、インターネットなどでダウンロードすることができる市区町村も多いようです)
② 医師の診断書
③ 世帯所得を確認できる資料(課税証明書、非課税証明書、生活保護受給証明書など)
④ 健康保険証(世帯全員の名前が記載されている医療保険の加入関係を示しているもの)

各市区町村によって、申請先となる課の名称が異なったり、他の資料等を求められたりする場合もあるようですので、まずは電話等で各市区町村に担当窓口や手続き方法等確認した方が安心できるでしょう。

自立支援医療制度の有効期間は1年のため、毎年申請が必要です。(窓口で申請書が受理された日から1年後の前月末日が有効期間になります。)

窓口での受理後、各都道府県などにより支給が決定されてから、「自立支援医療受給者証」が交付されます。交付されるまでに概ね1ヶ月程度、3ヶ月近くかかる場合もあるようですので、早めに申請・更新手続きを行う方が無難でしょう。

仮に「自立支援医療受給者証」の交付前に治療を受けるなどした場合、各医療機関へ一旦は自己負担3割分を支払い、「自立支援医療受給者証」を入手した後、それぞれから2割分を返金してもらうことになります。領収書の管理などしっかりとしておきましょう。

なお、この制度を利用して医療費の軽減が受けられるのは、「指定自立支援医療機関」として各都道府県又は指定都市が指定した病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションに限られています。

利用されている医療機関等が対象かどうかは、精神保健福祉センターや都道府県・指定都市等の担当窓口にあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

参考:
厚労省ホームページ
自立支援医療
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html
みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html

4. 障害の有無に関わらず利用できるしくみ

障害の有無に関わらず利用できる医療にかかわるしくみについて、一部ご紹介します。特に、医療費負担が大きくなりがちな身体障害のある方を支えるものとして、ぜひ確認いただきたいしくみです

(1)高額療養費制度

医療費が高額になった場合、所得の状況に応じて設定されている自己負担限度額を上回った分について、高額療養費として、加入している会社等の健康保険や国民健康保険などから後日支払ってもらうことができる制度です。

① 対象となる方

障害の有無に関わらず、医療費が高額になった方全員が対象です。

所得による自己負担上限額の違い

医療費の自己負担額の上限は、所得により異なります。上限額の算出方法は以下のとおりです。
所得による自己負担上限額の違い

③ 高額療養費制度を利用するには

加入している会社等の健康保険や国民健康保険などにより、申請方法や必要な書類が異なります。まずは加入されている保険組合(保険証に記載してある保険者)に問い合わせてみるのが良いでしょう。

ただ、病院や薬局で支払った際の領収証は必要になりますので、しっかりと管理しておく必要があります。申請を行ってから3ヶ月程度で、自己負担上限額を上回った金額について支払われます。

その他、医療費があらかじめ高額になることがわかっている場合に、保険組合に事前に申請し「限度額適用認定証」の交付を受けておくと、医療機関への支払い時点で、自己負担限度額までとすることができます。

また、高額療養費の払い戻しを受けるまでの期間、その費用の8割から9割にあたる金額について無利子で借りることができる高額療養費貸付制度もあります。必要に応じて、加入している保険組合に確認しましょう。

(2) 医療費控除

1月から12月の1年間で10万円を超える場合、確定申告を行うと、所得税の控除を受けることができます。

① 対象となる方

生計を一にする家族の医療費が10万円を超える方全員が対象です。

② 医療費控除を受けるには

確定申告を行う必要があります。その際、所定の申告書書類と領収書または支払った医療費を所定の様式で一覧にした明細書(ご自身で一覧化したもの、加入している保険組合が発行する「医療のお知らせ」等)を添付し、税務署に提出します。

なお、明細書で提出する場合は、領収書を5年間保管しておく必要がありますので注意しましょう。 

参考:
厚労省ホームページ
高額療養費制度を利用される皆さまへ
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html

国税庁ホームページ
医療費を支払ったとき(医療費控除)
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1120.htm

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/josei/marusyo.html

厚労省 ホームページ
みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html

6. 身体障害の原因次第では支援される場合のある制度 ~労災補償(労災保険制度)

労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災された方の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。

この制度の補償の対象となる疾病は「職業病リスト」として定められています。たとえば、重激な業務による筋肉・腱・骨・関節の疾患、といったものが含まれています。つまり、業務上の理由で身体障害になったと認定された場合に対象となるということです。

労災補償には、療養給付、休業給付、障害給付、介護給付、遺族給付がありますが、給付されるかどうか、給付額はそれぞれの状況によって算定されます。

参考:
厚労省ホームページ
労災補償
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/index.html

7. その他の医療制度 ~ 民間の保険について

これまで見てきたように、身体障害のある方を支える医療制度は複数あることがわかります。

一方で、その範囲は、それぞれの身体障害の一時的な治療のための支援制度であったり(自立支援医療制度)、医療費が高額になった場合の補助制度であったり(高額療養費制度)、重度障害の場合の地域ごとの支援制度であったり(心身障害者医療費助成制度)と、医療について必要な範囲をカバーしきれているわけではありません。

そこで検討が必要になるのは、民間の保険でしょう。

身体障害がある場合、その障害の種類やその程度によっては加入しにくいものもあります。加入の要件が指定されているから、です。一方で、「引受基準緩和型」といわれる保険など、加入要件が緩和されている民間保険もあります。

また、共済の中に告知の範囲(=既往症の申告範囲等)が比較的緩和されているものもあるようです。

いずれも保険料は、何も病気や障害を持たない方と比較すると割高になると思われますが、その程度は保険会社次第。

民間の保険の加入を検討する場合は、どの程度の補償が、何の目的で必要なのか考えたうえで、ショッピングモールなどにある無料の保険相談窓口に相談してみるのも1つの方法でしょう。

また、一般社団法人全国地域生活支援機構のように、個人会員となった方に、わたしのお守り総合補償制度という団体保険制度を運営しているケースもあります。

参考:保険市場
https://www.hokende.com/life-insurance/medical/usr_medical

最後に

身体障害のある方を支える医療制度について、経済的な面での負担を軽減する制度を中心に見てきました。公的な制度を利用する場合には、それぞれで申請が必要です。

申請に必要な書類もそれぞれ窓口も異なります。また、一度申請、認定されても、更新申請が必要です。まずはそれぞれの障害の状態を整理し、相談先の問い合わせから始めるつもりでいると良いのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。

ご参考までご確認ください。

厚労省ホームページ 
我が国の医療保険について
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html
自立支援医療制度の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/gaiyo.html
障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html
みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/index.html
労災補償
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/index.html

国税庁ホームページ 医療費を支払ったとき(医療費控除)
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1120.htm

東京都福祉保健局 ホームページ 心身障害者医療費助成制度(マル障)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/josei/marusyo.html

保険市場
https://www.hokende.com/life-insurance/medical/usr_medical

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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