障害のある方への虐待という問題

発達障害

はじめに
 障害のある方を支援するしくみや制度は、国際的に見ても日本国内を見ても広がりを見せています。障害者虐待防止法もその一つに位置づけられますが、その裏を返せば、そのような法律を定めなければならないという実態が、残念ながら隠れていると言えるでしょう。ここでは、障害のある方に対する虐待について、その最新の状況や、私たち一人ひとりにできることなどを中心にまとめています。

1. 障害者虐待とは?

障害のある方への虐待は、虐待をしている人、虐待を受けている人に、その自覚があるとは限りません。たとえば、虐待をしている人の場合では、「しつけ・指導・教育」という名で、不適切な行為に及んでいる場合があります。また、虐待を受けている方が、ご自身の障害の特性などから、受けている行為を虐待だとは認識していなかったり、長期間にわたる虐待を受けた結果、無力感から諦めてしまったりしていることもあると考えられます。

このような障害のある方への虐待の対策として、障害者虐待防止法が2012年に施行されました。

(1) 障害者虐待とは? その定義

「障害者虐待」は、「障害のある方に対する不適切な言動や心を傷つけるものから傷害罪等の犯罪となるものまで幅広いもの」ととらえることができ、障害者虐待防止法の中では、「擁護者」によるもの、「障害者福祉施設従事者等」によるもの、「使用者」によるもの、の大きく3つがあるとされています。

なお、ここで言う、「擁護者」とは、障害のある方の身辺の世話や金銭の管理などを行う主にご家族の方、「障害者福祉施設従事者等」とは、障害者福祉施設や障害福祉サービス事業などにかかわる業務に従事する方、「使用者」とは、障害のある方を雇用する事業主やその従業員などです。

(2) 虐待の種類

 虐待の種類は、次のように整理することができます。なお、障害者虐待防止法の中では、身体的虐待と身体拘束は一括りにまとめられています。

参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=423AC1000000079&openerCode=1

東京都福祉保健局 ホームページ
障害者虐待とは
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/gyakutai_kenriyougo/gyakutai_teigi.html

2. 障害者虐待防止法で規定された3つのポイント

「図-障害者虐待防止法で規定された3つのポイント」

障害者虐待防止法で規定されたのは、大きくは次の3点です。

(1) 「何人も障害者に対し、虐待をしてはならない」

障害者虐待防止法は、障害のある方の当然の権利を守り、自立した生活を送れるような社会をつくることが大きな目的です。当然ながら、障害のある方が虐待を受けているような社会であってはならないでしょう。

(2) 通報・相談の義務づけ

一方で、障害のある方に対して虐待がない社会ではないというのも事実です。虐待をしている方を責める・罰するというよりはむしろ、障害のある方を守るために、障害のある方への虐待を発見した場合、あるいは、その可能性があると考えられた場合、お住まいの地域への通報・相談が、直接的な関係者だけでなく、地域にお住まいの方々にも広く義務づけられています。

(3) 虐待防止対策策定の学校長や施設管理者等への義務づけ

人が多く集まる場、集団生活を営む場では、その分多くの方が関わるということ、また、衆人環視の行き届かない面があることなどから、虐待が発生する可能性やそれに気づきにくいという可能性があります。虐待防止対策は、このような事情から設けられた義務であるととらえることができるでしょう。

参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=423AC1000000079&openerCode=1

厚労省ホームページ
障害者虐待防止法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/gyakutaiboushi/index.html

3. 障害のある方への虐待の実際

 障害のある方への虐待の実態について、量的な面と質的な面との2面からとらえてみます。

(1) 虐待の数

厚労省が発表したデータによると、2016年度に虐待を受けた障害のある方の数は3,198人です。前年度と比較すると、若干減少していますが、養護者によるものが1,554人、障害者福祉施設従事者等によるものが672人、使用者によるものが972人となっています。

これに対して、通報の件数は、養護者による虐待が疑われたものが4,606件、障害者福祉施設従事者等による虐待が疑われたものが2,115件、使用者による虐待が疑われたものものが745件でした。
一方で、自治体により把握状況が大きく異なるという実態もあるようです。

毎日新聞の報道によれば、相談・通報がゼロの市区町村の割合は、保護者の方など養護者による虐待では3割、施設職員の虐待では5割超に上るとのこと。虐待の内容については、身体的な虐待が6割、心理的虐待が3~4割。養護者による虐待では、経済的虐待、放置・放棄がそれに続いていますが、障害者福祉施設従事者等による虐待では、その他の虐待がそれぞれ1割前後となっています。

以上のことから、次のことが考察できるのではないでしょうか?

① 通報したら、即虐待とされるわけではない

厳密な数字の見方ではありませんが、通報数に対して虐待を受けたと認定された方の割合は、養護者の場合・障害者福祉施設従事者等の場合でともに3割強程度になっています。通報を受けて事実確認を行うという、しくみ上の良い面・悪い面も合わせての結果であると、とらえることができるでしょう。

② 虐待は表面化しやすくなってはいるが・・・

障害者虐待防止法により、虐待は表面化しやすくなってきてはいると言えるでしょう。ただ、地域差などが大きいという点を考えると、十分機能している状態ではないとも言えます。つまり、私たちの障害のある方への虐待に対する認識が不十分であるという可能性を否定できないということです。

さらに、性的虐待や放置・放棄など、表面化しにくい虐待の割合が少ないことを考えればなおさらであるというとらえ方もできるかもしれません。

(2) 各「場」や「場面」での虐待の特徴

① 施設内での虐待

障害のある方に対する施設内での虐待は、閉ざされた環境で、大規模に行われる危険性があります。他者の目が届かないため、実態を把握することが難しいという点が大きな問題です。また、利用したいサービスを提供する施設が少なく選択の余地がないといった場合には、ご本人やご家族の方が虐待を感じたり、発見した場合でも、通報することをためらったりする場合もあるようです。

先に上げた障害の種類で言えば、すべての種類の虐待が行われる可能性があると言えます。なお、施設内での介護や介助は、体に触る場合があります。特に異性による介護の場合、虐待とは言えないものの、ハラスメントつながる可能性があるという点でも注意が求められます。

② 使用者の虐待

障害のある方が働いている場合、職場での虐待が行われる危険性があります。力関係において、使用者よりも障害のある方が強い力を持つことはないため、虐待があっても通報をためらうようなケースは多いと考えられます。

③ 家庭内虐待

 障害のある方のいらっしゃるご家庭では、しくみや制度の不十分さもあり、実際のところ相当の努力を求められていることでしょう。結果、相当の介護・療育ストレスも存在し、それを原因とする虐待が起きているとも考えられます。家庭内での虐待防止に向けては、障害のあるご本人への支援はもちろん、養護者である保護者を中心としたご家族の方の支援の充実が重要と言えるでしょう。

④ 経済的虐待

 ご家族の方や施設等が障害基礎年金などを勝手に消費しているというケースは、権利擁護センターなどにも相談として多く寄せられています。もちろん、日常生活や利用料などの他、特別な機会などで必要な支出はありえます。このような場合に備えて、信頼できる方に金銭管理を任せることができ、また、その記録を残すことができる成人後見人制度の利用や、場合によっては信託の利用などを検討することも必要かもしれません。

⑤ 人格的虐待

人格的虐待にあてはまる代表的なものに、正当な理由のない身体拘束があります。身体拘束が虐待とされるのは、じょくそうなどの身体的被害が起きるからではなく、他者の利益のために、ご本人の人格を否定するところに禁止根拠があると考えられています。

人格的虐待は、その定義が非常に難しい面があります。心理的虐待や性的虐待に、人格的虐待と重なる部分が多くあり、また、身体的虐待やネグレクトも、突き詰めれば人格的虐待と言える部分があるという考え方もできるからです。とはいえ、障害のある方への権利の侵害を予防するという視点から考えると、身体拘束だけでなく、プライバシーや肖像権の侵害など、人格的虐待の一つとしてとらえていくことも必要と言えるかもしれません。

参考:
厚労省ホームページ
平成28年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)
http://mobile.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000189859.html

毎日新聞 ニュースサイト
障害者虐待3198人 施設職員は最多
https://mainichi.jp/articles/20171228/k00/00m/040/060000c

社会福祉法人全国社会福祉協議会ホームページ
障害者虐待防止の手引き(チェックリスト)
http://www.shakyo.or.jp/research/2012_pdf/12check_01.pdf

4. 障害のある方への虐待の防止に向けて

障害のある方への虐待をなくすために、私たちにできることは何でしょう? 大きくは以下の視点で考えていくことができるでしょう。

「図-障害のある方への虐待防止に向けてできること」

(1) 何が虐待なのか、障害とはどういうものかを理解すること、理解しようと努めること

まずは、何が虐待なのか? 障害とはどんなものか? を理解すること、理解しようと努めることでしょう。人権を守るということの基本は、自分が苦痛に感じることは、他の人も苦痛なことだと言い換えることができるかもしれません。これは当たり前のことのようですが、その理解には配慮が必要な点があります。

先にも触れた通り、たとえば、体に触れるといったことは介護する側からすれば必要な行為です。しかし、異性による介護などは、虐待とまでは言えなくても、ハラスメントとしてとらえられる可能性もあります。また、障害による感覚過敏などで、触られること自体がひどい苦痛を伴う場合もあります。

つまり、何が虐待に当たるのかという基本を押さえつつ、何が苦痛であるかは人によって異なる面があるということを理解する必要があるということです。また、しつけや教育というものも、それが本当にしつけや教育にあたるものなのか、問い続けることも必要と言えるでしょう。

(2) 改善のために前向きに義務を果たす ~ もしかしたらと思ったら通報・相談

虐待を受けたと思われる障害のある方を発見した場合、市町村に通報、相談することが大切です。虐待を受けたと思われる障害のある方や、通報した方が不利益な扱いを受けることがないよう、法令にも定められていますし、法令に則った対応がはかられることにもなっています。
 
市町村は相談・通報を受けると、事実確認を行い、虐待の事実があればその解消に向け、虐待を受けたご本人の意向を汲みながら、ご本人やご家族の方の生活の安定に向けたチーム支援を行うことになります。先に見た通り、通報件数に対して実際に虐待を受けたと判断された方の数は3割強。通報時点で虐待を認定するものではないのだという点は、十分理解しておくことが大切と言えるでしょう。

(3) みんなで障害のある方を虐待から守る、そして、ご家族を中心とした周囲の方も支援する

虐待を受けている障害のある方を守ることはもちろん重要です。しかし、特に家族の方による虐待の場合、そのご家族の方自身が支援を必要とされている場合が少なくありません。介護や養育による著しい疲労、経済状況、周囲の無理解などが、虐待の原因となっている可能性があるということです。

虐待を見かけたら通報するということになると、告げ口をするように思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際には、障害のある方を虐待から守るだけでなく、そのご家族の方を守ることにつながる可能性もあるということです。

(4) ご家族の方は必要な支援を求める制度を利用する

 保護者の方など、障害のある方を支援される方は、福祉サービスを積極的に利用することも大切と言えるかもしれません。放課後デイサービスや、ショートステイなどを利用し、保護者の方などがご自身のための時間を作ることも介護・療育ストレスの対策になりえると考えられます。

参考:
東京都福祉保健局 ホームページ
障害者虐待への具体的な対応
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/gyakutai_kenriyougo/gyakutai_taiou.html

社会福祉法人全国社会福祉協議会ホームページ
障害者虐待防止の手引き(チェックリスト)
http://www.shakyo.or.jp/research/2012_pdf/12check_01.pdf

大阪市ホームページ
障害者虐待の理解と防止
http://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/cmsfiles/contents/0000344/344490/syougaisyagyakutaimanyuarugaiyouban1.pdf

最後に

 障害のある方に対する障害の防止を目的として、障害者虐待防止法が施行されています。障害のある方の人権を守るため、また、障害のある方が社会で安心して自立した生活をおくれるようにするため、障害のある方に対する虐待のない社会であることを求めるのは当然のこととも言えるでしょう。

しかし、法の施行から5年経つ2016年度の1年間で、虐待を受けた障害のある方の数は3,000人以上で、しかもこれは認定された人数。表面上比較的わかりやすい身体的虐待以外に、身体拘束・性的虐待・ネグレクト(放棄・放置)・心理的虐待・経済的虐待があることもあり、氷山の一角に過ぎないという見方もあります。

障害のある方への虐待防止には、何が虐待なのか、障害とはどういうものなのかという基本的な理解の上に、法律上の義務でもある「虐待の疑いがあったら、お住まいの地域の市町村に通報・相談する」ことを、積極的に行うことが第一歩になるでしょう。

特にご家族の方による虐待が疑われる場合は、そのご家族の方自身が支援を必要とされている可能性もあります。また、ご家族の方は、必要な支援を求める支援サービスを利用することも、非常に重要なことだと考えられます。いずれにしても実態を踏まえた責任ある行動が求められていると言えるのではないでしょうか。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
電子政府の総合窓口 e-Govホームページ
障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=423AC1000000079&openerCode=1

厚労省ホームページ
障害者虐待防止法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/gyakutaiboushi/index.html
平成28年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)
http://mobile.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000189859.html

東京都福祉保健局 ホームページ
障害者虐待とは
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/gyakutai_kenriyougo/gyakutai_teigi.html
障害者虐待への具体的な対応
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/gyakutai_kenriyougo/gyakutai_taiou.html

大阪市ホームページ
障害者虐待の理解と防止
http://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/cmsfiles/contents/0000344/344490/syougaisyagyakutaimanyuarugaiyouban1.pdf

社会福祉法人全国社会福祉協議会ホームページ
障害者虐待防止の手引き(チェックリスト)
http://www.shakyo.or.jp/research/2012_pdf/12check_01.pdf

毎日新聞 ニュースサイト
障害者虐待3198人 施設職員は最多
https://mainichi.jp/articles/20171228/k00/00m/040/060000c

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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