訪問医療マッサージ(保険適用可能)とダウン症の方へのケース

自閉症

はじめに
訪問医療マッサージというものをご存知でしょうか? 一般的に「マッサージ」と聞くと、多くの方は、肩こりを感じた時や、疲れた時などに行なうというイメージはありませんか。また、エステや駅前などにあるクイックマッサージなどを思い浮かべる方もいるかもしれません。

今回、お伝えする「訪問医療マッサージ」は、そんな「マッサージ」のイメージとは少し違うものです。「訪問医療マッサージ」は、保険を使って、ご利用者の自宅で行う「医療的」なマッサージです。

普段、なかなか聞き慣れない言葉だと思います。実際に、私が訪問しているご利用者様からは、「こんなサービスがあるなんて知らなかった」「もっと早くこのサービスを受けたかった」などのお言葉を多く頂いております。

今回は、ダウン症候群のご利用者様が、この訪問医療マッサージを活用しているケースも合わせてご紹介します。この記事をきっかけに、少しでも多くの方に、この訪問医療マッサージの存在を知っていただきたいと思います。


1.訪問医療マッサージとは
(1)訪問医療マッサージを利用できる対象となる方


「医療保険」を使って、訪問(在宅)でのマッサージが受けられるサービスが訪問医療マッサージです。病気や怪我、障害などが原因で、1人で通院することが困難な場合、このサービスを受けられる可能性があります。

しかし、誰でもこのサービスを受けられる訳ではありません。
・通院している病院やクリニックがあること
・怪我や病気、障害の種類に関わらず、麻痺や筋力低下、関節の拘縮などの理由で、1人で通院することが困難な方
が対象候補となります。

その中で最終的にサービスを受けることができるかどうかは、主治医の判断となります。

そのため、年齢や性別は一切関係ありません。老若男女全ての方にサービスを受けられる可能性があります。対象になるのか確認したい場合は、主治医にご確認ください。

(2)訪問医療マッサージの内容とその意味


冒頭にも述べたように、訪問医療マッサージでは「慰安・癒し」に対する施術は対象となりません。

訪問医療マッサージは、医療的な観点から介入していくため、「疲れや痛みを楽にする」ではなく、「日常生活を過ごすための動作能力の向上」ということを重視します。

例えば、麻痺や筋力低下、関節拘縮などにより単独で通院することが困難な方の場合、通院するためにどうするかを考えていきます。

転ばないように歩くためにはどこの筋肉を鍛えたらいいのか、伸びなくなっている筋肉や関節を柔らかくしたら安定して歩くことが出来るかなどを考慮したうえで対応していきます。
訪問医療マッサージ施術風景1
このように、日常生活自立度(ADL)や生活の質(QOL)の向上を目的とした機能訓練・リハビリテーションの一環として、マッサージが位置付けられています。

医療保険を使う以上、身体機能の回復を大前提としています。そのため、あん摩マッサージ指圧師の国家資格を有した者でなければ、ご利用者宅へ訪問してマッサージをすることはできません。

(3)訪問医療マッサージのサービスを受ける際の助成制度


訪問医療マッサージのサービスを受ける際は、お手持ちの保険証を確認してみてください。健康保険証や後期高齢者医療保険証の他に、いつも病院やクリニックの窓口に出している証明書やカードはありませんか?

私が活動している神奈川県鎌倉市では、「受診証」という名称の証書があります。これは、重度障害者医療費助成制度が使える方であることの証明書で、地域によっては、重度障害者医療証や障害者等医療証など名称が様々に異なります。

これを持っている方は、自己負担金なしで、訪問医療マッサージのサービスを受けることができます。

他にも、被爆者健康手帳やひとり親家庭等医療費助成制度や小児医療費助成制度などの制度があります。

これらも、自己負担金なしで、サービスを受けることができます。他にも地域によっては、その地域独自のサービスがあるかもしれません。ご自身が持っている証書が当てはまるものかどうか確認したい場合は、役所または近所の訪問医療マッサージの業者の方に確認してみてください。

2.ダウン症候群と訪問医療マッサージ
(1)ダウン症候群のご利用者の悩みと訪問医療マッサージ


 弊社では、毎年秋に行なわれる地元のお祭りに参加して、無料体験のクイックマッサージのブースを出しています。そこへたまたま来てくれたのが、今回、事例としてご紹介するダウン症候群のご利用者様です。

付き添いとして一緒に来ていたお母様から、「首・肩が固くなって夜間眠れないようで。どうにかならないでしょうか」という相談がありました。そこで、その場で15分程、首や肩、頭部のマッサージを行ないました。
訪問医療マッサージ施術風景2
マッサージをしながら、ご本人がぐっすり眠ってしまった様子を見たお母様から、ご本人の体調についての相談がありました。

実は、お話を聞いてみると、夜間眠れない苛立ちから自分の髪を引っ張ったり、自分の頭を叩くなどの自傷行為があったり、怒りっぽくなったりすることが増えていて困っているというお話でした。

また、徐々に歩けなくなっていて、通っている作業所にも自力で行くことが困難となり、行きつけの接骨院にも通院を断念せざるを得ず、本当に困っていたようでした。

後日、ご本人の身体状況の確認をするために、ご自宅へ訪問しました。

身体状況の確認とは、具体的に起き上がりや立ち上がり、歩行などのADLの状況確認や上肢や下肢の筋力の測定、各関節の可動域の測定、病的反射のテスト、表在感覚・深部感覚の検査、下肢周径や下肢長差などを見ていきます。

このように体の状態を調べることで、サービスの開始前後での身体状況の変化を数値で比較していく大事な資料となります。

この時、判明したことは、下肢長差が左右で1㎝以上あったこと。それが、歩く機会が徐々に減ってきている1つの要因と考えました。また、眠れなくなっている要因の1つとして、頚肩部の過緊張による痛みであることも明らかになりました。

その結果として、寝不足がストレスになり、自傷行為に繋がっていると考えました。

以上の所見と施術プログラムを書面にまとめ、主治医の先生から同意をいただき、早速対応をしていきました。

(2)ダウン症候群のご利用者様のお悩みへの対応と成果


 まず、試みたことは頚部や肩、肩甲骨周りの筋緊張の緩和を図るところから始めました。ダウン症候群の方の場合、初めての事象に対して、慎重になる傾向にあるため、声かけを多くしたり、お母さんとご本人と3人で好きな歌の話などをしながら、できる限りリラックスした環境つくりを心がけました。

また、精神的な緊張を和らげることを目的に頭部のマッサージを取り入れました。次第に、成果が出始めたのが睡眠不足の問題でした。

訪問を開始して1か月ほどで、夜中に起きることが少なくなったとのお話がご家族からありました。並行して、髪を引っ張る・頭を叩く自傷行為が見られなくなったとのことでした。私が訪問している時も終始笑顔で、施術中には寝てしまうことも見られる程でした。
訪問医療マッサージ施術風景3
もう一つの問題は、下肢長差による長時間の歩行が困難という問題でした。生まれつき下肢長差があったようですが、年齢を重ねて体重が増えてきたため、歩くとつらい・痛いという感覚が徐々に出てきてしまったようです。

市販の靴や中敷きでは問題が解決に繋がらないため、足のことを専門に見てくれる病院への受診を提案しました。そこで、足の型をとり、専門の中敷きを作成してもらうことができました。

また、並行して、歩行を促す目的として股関節周囲の関節拘縮を緩和させるためにストレッチや関節可動域訓練を実施しました。今では、歩いた時の痛みの訴えはなくなり、徐々に外を歩く時間が増えているとお母さんよりお話を聞いています。

今後は、歩く時間や距離を延ばしていくために、筋力強化エクササイズなども取り入れていく予定です。

(3)訪問医療マッサージの認知度と可能性


 ダウン症候群のご利用者宅へ訪問すると、ご家族から必ず「こんなサービスがあるなんて知らなかった」「もっとはやく知りたかった」というお話を伺います。実際に、今まで役所や障害者支援(作業)所などで訪問のマッサージの話や紹介はなかったとお話を聞きました。

別の行政の相談員の方とお話をさせていただいた時には、自宅まで訪問して、保険を使えることに非常に驚いた様子でした。訪問医療マッサージというサービスが周知されることで、困っている方に対してもっとできることがあるかもしれません。

3.最後に

今回は、ダウン症候群のご利用者のお話を中心にさせていただきましたが、ダウン症候群の他にも脳性麻痺や様々な病気を抱えるお子様も訪問医療マッサージのサービスを受けられる可能性があります。

是非、今回のこの記事を読んでいただいたことをきっかけに訪問医療マッサージという社会資源を活用していただけたら幸いです。

渡辺大芳

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鍼灸あん摩マッサージ指圧師、認定訪問マッサージ師として、株式会社アシスタンス 鍼灸マッサージ事業部に在籍。

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構 代表理事として広報を担当する。現在、株式会社目標管理トレーニングの代表取締役としても活動を行っ...

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