障害者雇用の新たな取り組み 社会保険労務士など外部との連携

精神障害

はじめに
障害者雇用の新たな取り組みについて。障害者雇用は、医療や福祉の分野で話題になることが多いが、実は社会保険労務士の専門分野である労務においても話題になることは多い。

特に精神障害の方は、疾病と障害の併存の状態があることから、「業務上の配慮が決まった形での配慮」というよりは、変動する中で、必要な配慮が求められることから、安全配慮義務と相まって企業は非常に慎重に考えることが多い。

障害者雇用の法定雇用率は5年ごとに見直しになるが、徐々に上昇しており、2018年に2.2%(3年以内の経過措置的位置づけ)だったが、2023年にはさらに上昇することが予想されている(表1)1)。

障害者雇用者数も13年連続で過去最高を更新しており、現在も人口における手帳所持者数は増えている状況にあることから、今後も一層重要なテーマである。このような現状から、会社や日本の仕組みそのものから考えていくことは、とても重要である。

そこで今回は、障害者雇用における社会保険労務士の関わりや、当事務所が取り組む障害者雇用についてもご紹介したい。

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(表1)障害者雇用の現状.厚生労働省

参考:
1)厚生労働省.障害者雇用の現状.2017. https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000178930.pdf  (2019年1月19日アクセス)

1.社会保険労務士の障害者雇用への関与

社会保険労務士は、労働・社会保険の問題の専門家として、
(1)書類等の作成代行
(2)書類等の提出代行
(3)個別労働関係紛争の解決手続(調整、あっせん等)の代理
(4)労務管理や労働保険・社会保険に関する相談
等を行う。2)

参考:
2) 厚生労働省.社会保険労務士法. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84020000&dataType=0&pageNo=1 (2019年1月19日アクセス)

(1)(2)は独占業務のため、報酬をもらって行うことができるのは社会保険労務士となっており、(3)は、社会保険労務士の中でも、紛争解決手続代理業務試験に合格し付記を受けたものが「特定社会保険労務士」という資格のものと行うことができる。障害者雇用に関する関与は(1)から(4)の様々な範囲での関わりとなる。

社会保険労務士と企業との障害者雇用での関わりは、がんや糖尿病、脳卒中などの両立支援の流れも相まって、会社の就業規則や規程作成を含めた制度づくりが中心となっている。そして、それに付随した形での助成金の書類作成および提出代行業務、または障害者に関する相談を受けることなども多い。

社員個人からの相談であれば、労務トラブルなどが発生した場合の相談や障害年金の受給に関する相談が考えられる。社会保険労務士としてはどちらか一方を中心に行う者もいれば、両方支援する者もおり、関わり方は様々である。

これらの関わり方の差は、各社会保険労務士の考え方によるものが大きく、過去の経験や現在置かれている状況から「会社向け・個人向け」といった、支援の方向性(コンセプト)になっていると考えられる。

社会保険労務士全体の流れとしては、全国社会保険労務士会連合会が「障害者就労におけるディーセントワーク実現の課題」という報告書を発行している。

当報告書は有識者の調査研究をまとめたものであるが、その中に社会保険労務士として必要な視点が明記されていた。『事業者側にとっての障害者就労支援の意義』というところで以下のように明記されている。

「障害者の雇用に積極的に関わることは、社会的義務である。(中略)また、もう一つの点は、(中略)障害者の働きやすい職場は、障害の無い人間にとっても働きやすい職場であり、障害者の就労支援の促進は実は職場環境の改善や労働者側のQOL促進にもつながる事が多い」3)

参考:
3) 全国社会保険労務士会 社会保険労務士総合研究機構.障害者就労におけるディーセントワーク実現の課題.2014

まさにその通りだと、筆者は考えている。障害があるかどうかは個人の状況を表している情報に過ぎないため、本来会社がそこまで過剰に意識する必要はないと思うが、障害のある方の雇用機会の確保や維持という観点からすると、「障害者雇用」ということを取り上げる必要がある。しかし、それを言えば言うほど逆に「障害のある人のための措置」と限定される恐れがあると相談を受けてて思う。

しかし、これが当該報告書にあるように考えていくことができれば、恐らくもっとシンプルに、会社内に「障害者雇用」が浸透しやすいのではないかと考える。

ただ、社会保険労務士は、障害者に関する支援や制度づくりそのものの専門性を有しているかというと、個人差が大きいと思われる。

そこで外部との連携が必要なのであるが、社会保険労務士の6割ほどが労働安全衛生に関する相談を受けた経験があり、その4割はメンタルヘルスに関連する事柄であった。また、産業保健スタッフとの連携を希望する75%のうち、実際の支援を得られたのは、そのうち2割に留まるという調査結果がある4)。

参考:
4) 武藤孝司、武藤繁貴、内野明日香他.中小企業の産業保健活動活性化をめざした産業医等産業保健スタッフと社会保険労務士との連携に関する課題.産業医学ジャーナル.2012:72-77

このことからも、実は外部連携が十分にできていない可能性がある。以下当事務所の実践をお伝えしたい。

2.当事務所の外部連携の実践例

当事務所では個人と企業であれば企業からの相談が比較的割合は多くなっている。

(1)「障害者雇用で雇用している方の労務上の問題」
(2)「障害者雇用の仕組みがうまくいかない」
(3)「障害者を雇用できない」などが主である。
障害者雇用の場合、離職してしまうと法定雇用率を下回ってしまうため、企業としては、数値を確保するのがとても苦慮することになる。

数値のために雇用しているわけではないが、企業の声を聴くと、障害者雇用に関する意識は様々である。障害種別によっても、雇用に関して積極性のばらつきが大きいのが現状である。

(表2)「障害者雇用の方針」平成25年度障害者雇用実態調査結果.厚生労働省

そのような中で、当事務所は障害種別問わず、個人の持っている能力発揮ができれば企業にとってもメリットがあったり、意義を感じられるものだと思い、以下の機関との連携を強めてきた。

まずは、障害者本人にアクセスする方法での関わりである。ハッピーテラス株式会社が行っているディーキャリアという事業をご紹介する。

ハッピーテラス株式会社は、発達障害の方をメインとしたサポートを行っており、学生や社会人など幅広い層の方を対象にしている。ディ―キャリア事業では、休職中の方や離職した方に支援を提供している。

当事務所は、この事業に対して二つの関わりがあり、一つは支援者に対する支援、もう一つは利用者に対する支援を行っている。

支援者に対しては、労務問題の解決の糸口としてアサーションがある。そのアサーションというものを「どのように考え、トレーニングとして、どう展開していくか」という勉強会を実施したり、利用者が就職後に直面することが多い「配慮と自立のバランス」にどのように向き合うかということを、裁判例を使ったワークとともに考えるものである。

利用者に対しては、アサーションを学びながら、
・働くことを考える
・自身の人生の方向性と企業の約束事をどう折り合うか
など、全人生的な視点を持ちつつ、就労と働きがいを統合する関わりをしている。

これらは、それぞれの専門の会社の事業に共感して関与しただけであり、決して社会保険労務士が中心になっているものではない。

当事務所の考え方としては、「労使双方の想いが共感できて、同じ方向を向くことを支援する」のが社会保険労務士であるとしている。それを、外部の専門機関と連携していくことが将来的には重要だと考えるが、こと障害者雇用に関しては、やはり社会保険労務士は、「専門の中心より少しずれる」感覚が無きにしもあらずというところである。

しかし、社会保険労務士がもっと中心になって、もっと良い仕組みを展開できないだろうかと考え、当事務所では『長屋プロジェクト』(以下「長屋」という)というものを開始した。以下にその仕組みを紹介したい。

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3.新しい取り組み~『長屋プロジェクト』について~

障害者雇用の成功の鍵は「いかに個人を尊重して能力を活用できるか」だと思っている。そのためには選択肢が必要であり、その選択肢の一つが先ほどご紹介した株式会社エスプールプラスの行っている事業である。

ただ、多くの企業は、各企業があの手この手と支援の仕方や体制づくりをしているのが現状であるため、長屋では「多くの社員が働いている会社内における支援体制を強化する」ことを目的としている。それがこれまでもよりも、より支援体制や雇用環境整備には役立つと考えている。

長屋は、ジョブコーチという専門職が起業した株式会社ジェーシープラス(代表取締役 小池梨沙氏)との連携事業として展開している。小池氏は特例子会社の立ち上げや地域障害者職業センターでのジョブコーチなど、深いレベルで障害者の支援を行ってきた方である。

長屋の仕組みは、障害者雇用の困りごとを抱えている企業やもっと障害者雇用を積極的に行いたいという前向きな企業が加入し、会員間の相互協力と個別支援の両方を活用して体制強化をするものである。(図1、2)

特徴は以下の2点である。
(1)労務の専門家の社会保険労務士と支援の専門家であるジョブコーチの連携による支援
(2)会員間の相互協力を促進させ、日本の未来に向けた持続可能な連携体制をつくる

まず(1)についてであるが、これは単純に「餅は餅屋だ」ということである。支援の仕方は難易度が高く、相談に対して適切な回答を提示するのは社会保険労務士では難しい面もある。それに実際に支援の現場に赴いて対応するとなると、一層知識と経験が求められる。  

一方、具体的な支援だけでは、企業にとって持続可能な仕組みにはなりづらく、労務上必要な視点を落としてはいけない。近時の裁判を見ても、必要な関わりをしないで解雇した事件は、会社が負けている。

特にO公立大学法人事件(京都地裁 平成29年3月9日判決)では、必要な支援の一つにジョブコーチの活用という例も明言されたことで、制度上の対応だけではなく、具体的に支援の専門家を活用することが重要だと思われる。

そして(2)については、「持続可能な仕組みづくり」と「イメージづくり」のためには重要だと考える。支援者とは支援を開始するときにはどこかで終結することをプランニングしてから開始するわけであるが、長屋もそれを想定している。

イメージとしては、依存症などの治療の過程で医療には関わるが、徐々にピアグループの参加の比重が大きくなり、次第に医療は終了していくという流れに近い。長屋でも年1回のフォーラムなどで成果を発表してくれるくらいで良く、あとは会員間でサポートし合ったり、新しく入った会員企業の支援として存在してくれることで良いと考えている。

それと「イメージづくり」という観点が非常に重要である。当事務所に寄せられる相談でも「他の会社ってどうやっていますか?」という質問は非常に多い。

支援者が他の会社でインターンなどの経験を経て、それから現場に戻り、株式会社ジェーシープラスや当事務所の個別支援を受けることで、支援を受ける会社の中に、具体的なイメージがあるため、平面的な教科書的な支援よりも、もっと奥行がある形がつくれると思う。ここが大きなポイントである。

(図1)「長屋プロジェクトの全体イメージ」

(図2)「個別サポートイメージ」

終わりに

社会保険労務士は、労務の専門ではあるが障害者雇用の専門とイコールではないと考える。

しかし、社会保険労務士が外部機関と連携することでかなり有効な仕組みをつくることができると考えている。長屋の取り組みはまだまだ産声を上げた段階であり実践が全くないものであるためただの寝言とも取られるかもしれないが、私たち支援者は未来の日本に「何を残すのか?」が求められている。障害者雇用の分野においては当方は「人と文化を残す」ことが重要だと考える。

時代が変わっても持続可能な仕組みをつくるには、熱心に取り組む人たちの存在と、そこに脈々と続く文化が必要であり、そのためにはもっと連携という視点が重要になってくると思われる。

脊尾大雅

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脊尾大雅(セオタイガ) 秋葉原社会保険労務士事務所の代表。精神保健福祉士でもあり、メンタルヘルスに精通した社会保険労務士。メンタルヘルスやコミュニケーション...

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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