70代の認知症を1割削減! 国が認知症施策の新たな大綱案発表

高齢者・認知症

はじめに
 70代の認知症を1割削減! 国が認知症施策の新たな大綱案発表。

2019年5月、国が認知症施策の新たな大綱案を発表しました。これまでの認知症施策の国家戦略であった「新オレンジプラン」を引き継ぐ、「2020年からの国家戦略」が立案されようとしています。

この「2020年からの国家戦略」で、大いに注目されているのが、「数値目標」が設定されようとしている点です。実は、そこには懸念もあるとされています。

ここでは、これまでの認知症施策の国家戦略であった「新オレンジプラン」の成果を振り返りつつ、新たな認知症施策の国家戦略の大綱案のポイントと、その課題などを見ていきます。

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1. これまでの認知症施策
(1) 認知症施策の歴史

認知症は、国際的に見ても大きな社会問題となっています。日本のように、認知症施策を国家戦略として策定済、もしくは、策定中となっているのは50カ国程度にまで達していますが、日本も国家戦略として初めて策定したのは2012年で、まだまだ最近の出来事と言えます。

それ以前は「ボケ」「痴呆」などと呼ばれていた認知症は、「年をとれば仕方がないもの」ととらえられていた時期がありました。病気や症状が理解されず、適切なケアがされないどころか、虐待の対象となることさえあったのです。

このような中、国の対策としては、「痴呆」から「認知症」へ呼び方の変更に始まり、介護保険制度の導入などを通じた介護サービスの整備や地域ケア体制の構築、そして、認知症対策を一層効果的に推進し、たとえ認知症になっても安心して生活できる社会を早期に構築するというところまで変化していきました。

そして、それまでの施策の検証を踏まえ、今後目指すべき基本目標や、その実現のための認知症施策の方向性が検討された上で、「今後の認知症施策の方向性について」という形でとりまとめられ、「オレンジプラン」として公表されました。

その後、それを発展させる形で「新オレンジプラン」が、2015年に5カ年計画として策定されるに至ったのです。

(2) 新オレンジプランの成果

① 新オレンジプランとは何だったのか?

「新オレンジプラン」では、高齢者の 4人に 1人が認知症またはその予備軍とされ、今後その増加も見込まれる中で、「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指すこと」が目的とされました。

また新オレンジプランでは、以下が「7つの柱」として掲げられました。

1) 認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
2) 認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
3) 若年性認知症施策の強化
4) 認知症の人の介護者への支援
5) 認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進
6) 認知症の予防法、診断法、治療法、リハビテーションモデル、介護等の研究開発及びその成果の普及の進
7) 認知症の人やその家族の重視

② 新オレンジプランの成果

「図-新オレンジプランの成果」

このプランの推進により、「認知症サポーターの養成 :1110万人」、「認知症サポート医の養成 :8000人」、「認知症初期集中支援チームの設置 :1736市町村」、「認知症カフェ等の設置市町村:1265市町村」など、数字としての具体的な成果の他、新たな取組を開始した自治体の増加、認知症の方とその家族を支援する地域資源の着実な増加といった成果が認められているとされています。

新オレンジプランを契機に、「具体的な認知症施策の動きにつながった」、ということです。

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参考:
内閣府
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/

厚労省
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nop_1/

独立行政法人福祉医療機構
Wamnet ホームページ
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)制定までの経緯と概要について
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/appContents/wamnet_orangeplan_explain.html

2. 「70代の認知症を1割削減!」 認知症施策の新たな大綱案
(1) 国の新たな認知症施策の必要性

このように、新オレンジプランの推進により、少しずつ課題解決が進んできてはいると、とらえられるわけですが、とはいえ、認知症の方にとって、暮らしやすい環境が十分に整っているとは言えない状況であるのは事実でしょう。それは、金融機関や交通機関の利用、買物など、生活の基本的な部分であってさえ、と言わざるを得ない状況です。

一方で、まだまだ「解明」とまではいかないものの、認知症が運動や適切な食事、人と交流などによって、その発症を遅らせることができることが示されてきてもいます。

つまり、認知症施策は、ある程度の成果は見えつつも、まだまだ残された多くの課題があり、それは、研究や具体的な商品・サービスの開発、社会インフラの整備、認知症の理解など、多岐に及んでいるということになるわけです。

しかし、新オレンジプランは、先に見たように、2015年からの5年間の国家戦略。この計画の最終年が2019年にあたることから、「新たな国家戦略が必要」なのです。

(2) 大綱案における最重要指標に、「70代の認知症の1割削減」という数値目標

「図-2020年からの新しい認知症施策大綱案の特徴」

 そんな中、2019年5月、新しい国の認知症施策大綱案が公表されました。

その大きな特徴は、新オレンジプランでも掲げられてきた、認知症の方が暮らしやすい社会を目指すとする「共生」に加え、認知症の「予防」が重要な柱として設定されたことです。つまり、「共生」と「予防」とが、認知症施策の2本柱として、明確に示されたのです。

ただそれ以上に大きなインパクトを与えたのは、認知症の人数を抑制する初の数値目標が導入された点です。その数値目標とは、「70代の発症を10年間で1歳遅らせる」というもの。実現すれば、70代の認知症の方の割合が、今後10年間で約1割減少することになるとされています。

この数値目標は、認知症の方の実際の人数ではなく、「割合」であることがポイント。70代人口が増えることが予想されていることから、認知症の方の人数が増えるのは仕方がないとしても、その割合は減らしていくとする目標だということです。

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参考:
内閣府
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/

日本経済新聞
認知症、70代を10年で1割減 政府が初の目標
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44890080W9A510C1CR8000

3. 認知症を取り巻く環境 ~ 「予防」が1つの大きな柱とされた背景
(1) 認知症の方の将来予測

認知症の方の人数は、2025年には700万人、あるいは、730万人になるとも推計されています。さらに2050年には、1000万人を超えるとの推計もあります。この通りとなった場合、2050年の日本の総人口は9515万人になると推計されていることから、国民の9.5人に1人が認知症の方になるということになります。

つまり、今回公表された新しい国の認知症施策大綱案では、この人数を可能な限り少なくできるよう、具体的な数字目標が設定されたと言い換えることができるわけです。

(2) 認知症のリスク因子に関する研究の進展 ~ 認知症はある程度予防できる ~

「図-予防可能とされる認知症の危険因子」

 このような具体的な数字目標が設定できた背景の一つに、認知症は「予防」により、「ある程度その発症を遅らせることができる」とする、これまでの研究成果があります。

 実は、認知症の発症には、さまざまな「因子」が影響するとされています。その因子には、「加齢」や「遺伝」といった、個人の努力ではどうにもならないものがある一方で、「予防可能」とされる「因子」も存在している、とされているのです。

 その主な因子とは、教育の他、生活習慣病にも当てはまる高血圧・肥満・糖尿病・喫煙・運動不足、うつや社会的孤立といった精神に影響与える面、そして難聴などが上げられています。これらの因子は、人のライフサイクルごとの適切な時期に、適切な「予防措置」を取れば、認知症の発症リスクを低減させるとされています。

 逆に言えば、今回公表された新しい国の認知症施策大綱案では、人の一生の中で、適切な時期に適切な対応ができるようになっていくような施策を検討していくことが、予防の観点から盛り込まれることになると言えるわけです。

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参考:
内閣府
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/

総務省
我が国における総人口の長期的推移
https://www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf

4. 認知症のある方が暮らしやすい社会とは? ~ 共生の視点 ~

 では、もう1つの柱として掲げられる「共生」については、どのようにとらえていくことができるのでしょうか?

(1) 日本認知症本人ワーキンググループが掲げるキーワード

実は、新しい国の認知症施策大綱案を発表する前、厚労大臣・厚労省がヒアリングをした対象に「日本認知症本人ワーキンググループ」という一般社団法人があります。同団体は、認知症の当事者の方々が設立された団体で、「認知症とともに生きる方の立場」として、以下のような「宣言」を表明されています。

この宣言は、「共生とは何か?」を考えるにあたって、「認知症の方、当事者の意見」として参考になるものだと考えられます。

「認知症とともに生きる希望宣言 一足先に認知症になった私たちからすべての人たちへ」

1. 自分自身がとらわれている常識の殻を破り、前を向いて生きていきます。
2. 自分の力を活かして、大切にしたい暮らしを続け、社会の一員として、楽しみながらチャレンジしていきます。
3. 私たち本人同士が、出会い、つながり、生きる力をわき立たせ、元気に暮らしていきます。
4. 自分の思いや希望を伝えながら、味方になってくれる人たちを、身近なまちで見つけ、一緒に歩んでいきます。
5. 認知症とともに生きている体験や工夫を活かし、暮らしやすいわがまちを、一緒につくっていきます。

いかがでしょうか? 「自分がやれることはやる」「やれることの範囲で、社会に貢献する」など、決して「受け身ではない姿勢」が、この宣言からは感じ取れるのではないでしょうか? 

(2) 認知症のある方が暮らしやすい社会とは?

どんなに予防に努めたとしても、加齢など、ご本人の努力ではどうにもならないことが原因で、認知症を発症することは、誰の身にも起こり得ます。そう考えると、認知症の当事者の方々が、主体となって活動できる場を増やしていける社会であることが、目指すべき社会であると考えられます。

また、そのような社会であれば、「認知症になったら人生終わり」とするような考えを、限りなく少なくしていける可能性もあるでしょう。言い換えれば、そのような社会になることが、本当の意味で、認知症の方と「共生」する社会と言えるのかもしれません。

だとすると、認知症発症後の進行を遅らせることも大切になりますし、物理的にも精神的にも、認知症の当事者の方が暮らしやすい、いわゆるバリアフリーの地域づくりも重要になるはず。また、そのような「整備がされた社会」は、認知症の有無に関わらず誰にとっても暮らしやすい社会なのではないかとも考えられます。

(3) 認知症の方がいるご家族が、一方的に責められないことも重要

もう一つ、忘れてはならないのは、認知症の方がいるご家族が、一方的に責められるようなことがないようにすることです。

新しい認知症施策大綱案は、「予防」と「共生」が2本柱とされ、また、認知症を発症する方の抑制において、数値目標が掲げられたことが注目されているわけですが、その数値目標の達成は見通せないとの指摘もあります。

認知症の根本的な治療方法が確立されているわけでもなく、また、予防施策は、「それに取り組んだら、認知症にはならない」というものではないからです。

そのような中で、数値目標だけが独り歩きしてしまうと、認知症の当事者の方やそのご家族が「認知症になったのは、その当事者の方やご家族の方々の努力が足りなかったからだ」との非難の対象とされる懸念もあります。

設定されようとしている数値目標は、あくまでも目標に過ぎませんし、これまでに「わかってきたこと」に基づき定められたもの。と言うよりはむしろ、膨大化する「社会保障費の抑制」という視点から、設定されている面があることも否定できません。

そのような事情も組んだ上で、認知症施策大綱案をとらえていくことも重要になると考えられるのです。それをひと言でまとめるなら、「自分や、自分のご家族がその立場だったなら」を考えるということになるのではないでしょうか。

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参考:
内閣府
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/

一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ
http://www.jdwg.org/

最後に

 2019年5月、国の認知症施策大綱案が発表されました。この大綱案は、それまでの国家戦略であった新オレンジプランを引き継ぐ国家戦略として、検討が進められている案です。

 ここで特に注目されているのは、「数値目標が設定された点」で、それは「70代の発症を10年間で1歳遅らせる」というもの。実現すれば、70代の認知症の方の割合が、今後10年間で約1割減少することになるとされています。

しかし、この数値目標は、少子高齢社会の到来により社会保障費が増大する中、その抑制の視点から設定されている面がある点を忘れてはならないでしょう。

むしろきちんと押さえるべきは、新オレンジプランでも掲げられてきた、認知症のある方が暮らしやすい社会を実現するとする「共生」に加え、認知症の「予防」が重要な柱として設定されたこと。つまり、「共生」と「予防」とが、認知症施策の2本柱として、明確に示された点です。

本来的な意味での共生社会を実現するには、認知症の当事者の方々が、主体となって活動できる場を増やしていく社会であることが必要です。

その意味で、日本認知症本人ワーキンググループが掲げる「認知症とともに生きる希望宣言 一足先に認知症になった私たちからすべての人たちへ」は、「そもそも共生社会とは何なのか?」を考えるにあたって、非常に重要な指摘であるとも考えられるのではないでしょうか。

またそれは、「予防」という視点でも同様にとらえることができそうです。

いずれにしても、「自分たちが当事者となって、主体的に関わることが重要」との考え方が提示されている、ととらえるのが、この認知症施策大綱案のポイントと考えられるということです。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
内閣府
認知症施策推進関係閣僚会議
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ninchisho_kaigi/

厚労省ホームページ
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン) http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nop_1/

総務省
我が国における総人口の長期的推移
www.soumu.go.jp/main_content/000273900.pdf

独立行政法人福祉医療機構
Wamnet ホームページ
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)制定までの経緯と概要について
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/appContents/wamnet_orangeplan_explain.html

一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ http://www.jdwg.org/

日本経済新聞
認知症、70代を10年で1割減 政府が初の目標
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO44890080W9A510C1CR8000/

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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