認知症を患う方を支援する福祉サービス

高齢者・認知症

はじめに
 認知症を患う方を支援する福祉サービスは多岐に渡っています。世代特有の事情を配慮したサービスはあるものの、申請すれば年齢に関わらず、ほぼ同程度のサービスが受けられます。一方で、年齢により支援の基となるしくみが異なる部分があり、場合によっては、それまで受けられていた支援が受けられなくなる可能性もあります。

そこでここでは、認知症を患う方が受けられる大まかな支援内容を押さえつつ、年齢による支援のしくみの違い、支援を受け続けられるようにするためのポイントなどについてまとめています。



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1. ナゼしくみの違いを知ることが重要なのか?
(1) 日本の福祉サービスを利用するには ~「申請」が必要

 認知症を患う方を支援する公的なサービス・福祉サービスは多数ありますが、これらのサービスを受けるには、ご自身または支援される方による代理での申請が必要です。

 会社や各団体などにお勤めされている場合、給与から天引きされる形式で国民の義務を果たしているものがあります。代表的なものに税金の納付の他、医療保険料や介護保険料などの社会保障費の納付があげられます。

また、年末調整などは意識せずともお勤め先でまとめて実施され、医療費や薬代などは支払い段階から負担分のみを支払うようなしくみが整備されています。

これらは必要な手続きを省略しているという意味で非常に効率的なしくみと言えますが、一方で、「自分が申請しない限り、必要とする公的サービスは受けられない」ということを忘れさせる面があります。

認知症を患う方の支援は、こうした「自動的なしくみの上で実施されるサービスではない」のです。「申請しない限り、必要なサービスは受けられない」ということを、まずは十分理解することが大切と言えます。

(2) 認知症を患う方を支援する範囲・領域は広い一方で ~申請は「それぞれ」が原則

「図-認知症を患う方を支援する主な福祉サービス領域」
認知症を患う方を支援する主な福祉サービス領域

 認知症を患う方に対する福祉サービスの領域は、日常生活を支援するものから社会生活を支援するものまで非常に幅広くあります。

日常生活を支援するものとして、食事や排せつなど必要な介助を受けられるもの、認知面などを含めた機能訓練、生活費の支援や税制面での優遇、医療費の控除や住宅ローン控除、公共交通機関の割引サービス等があげられます。

また、社会生活を支援するものとしては、教育や就労に関わる支援などが代表的なものです。

しかし、これらの支援は何か一つを申請すれば、自動的に受けられるものではありません。支援が必要な領域で実際に支援を受けるには、それぞれで申請が必要になるというのが原則なのです。

一つの理由として、それぞれの福祉サービスを管理している母体が違うことがあります。基本的には厚生労働省が国の主管機関となってはいるのですが、年金を日本年金保険機構が管理・運営するなど、一部は別団体で実施されていたり、運営主体が国ではなく地方公共団体、つまり、都道府県や市区町村となっているものなどがあるからです。

他にも、国全体のしくみの中での分類上の制限があるという面もあります。たとえば40歳以上に加入義務がある介護保険などのように年齢上の分類が土台となっているしくみがあるといったことがあげられます。

いずれにしても、「支援が必要な領域ごとにしくみがあり、それぞれで申請が必要になるのが原則」ということも押さえておきたい重要なポイントの一つでしょう。

(3) 福祉サービスを利用し続けるには ~認定制度は「更新」制が原則

 各福祉サービスは、認定を受け、はじめて利用できるしくみとなっています。つまり、それぞれに「認定制度」があるということです。たとえば、介護保険制度におけるサービスを受けるには、「要介護認定」を受ける必要が、障害者総合支援法に基づくサービスを受けるには「障害支援区分」の認定を受ける必要がそれぞれあるといった具合です。

また、各福祉サービスは、一度認定を受ければ、無期限で受けられるものばかりではありません。基本的には一定期間ごとに更新が必要となります。

面倒と思われるかもしれませんが、これは致し方ない部分があります。というのも、たとえば認知症の症状が進行しているのに、初めて認定された状態から変わらない程度にしか支援を得られないとしたなら、それは十分とは言えないでしょう。

認知症の症状が比較的軽微な段階と重症化しているような段階とでは、ご本人にとっても支援されるご家族の方にとっても、その負荷は大きく変わると考えられるからです。

更新手続きを行わないと当然認定取り消しとなり、必要なサービスが受けられなくなってしまいます。一度認定を受ければ更新の必要がないものもありますが、原則的には「それぞれで更新が必要」という点も押さえておきたい重要なポイントの一つです。

【関連記事】
認知症を患う方を支える手帳制度 ~精神障害者保健福祉手帳・身体障害者手帳
https://jlsa-net.jp/kn/ninchi-tetyo/

2. 認知症を患う方が受けられる福祉サービスの年齢による違い ~支援領域と実際のしくみ

「図-年齢に関わらずほぼ同一のサービスが受けられる」
年齢に関わらずほぼ同一のサービスが受けられる

(1) 認知症を患う方が受けられる主な福祉サービス

認知症を患う方受けられる福祉サービスの主なものは、以下の一覧にまとめるとおりです。生活介助や生活支援、医療面での支援、経済面での支援が中心となりますが、これらのサービスは、土台となるしくみや制度は異なるものの、「すべての制度を使えば」、年齢によらず、ほぼ同一のサービスが受けられるようになっています。

認知症を患う方が受けられる主な福祉サービス
※ ●:受けられるしくみと支援
※ ○・△:○か△のいずれかのしくみで支援が受けられるもの。主となるしくみは○

たとえば、生活介助や生活支援について見てみると、高齢者認知症を患う方は介護保険制度に基づくサービスを受けられることになっている一方で、若年性認知症を患う39歳までの方は障害者総合支援法に基づくサービスを受けられることになっています。どちらのしくみに基づくサービスでもほぼ同程度のサービスが受けられるようになっています。

また、経済面を支援する年金について、高齢者認知症を患う方は、老齢年金でまかなわれる一方、若年性認知症を患う方は障害年金でまかなわれることになります。自立支援医療制度は、若年性認知症を患う方が受けられる制度となっていますが高齢者認知症を患う方はその対象となっていません。

この理由は、高齢者認知症を患う方は、後期高齢者医療制度を受けられる対象となり、医療費の自己負担は原則1割負担となるからです。若年性認知症を患う方の医療費負担は現役世代の医療費負担になるので3割負担となるため、この負担の差を埋めるものとして自立支援医療制度があるととらえることができます。

このようにして、厳密には同じとは言えないものの、ほぼ同程度の支援が受けられるよう制度化されているのです。ただし、すべての支援を使うことが前提ですので、申請しないものがあれば受けられる支援に差が出ると言うこともできます。

(2) 若い世代には、「現役世代だからこそ必要な」支援領域がある

主な福祉サービスに加え、定年退職年齢に達していない方々、いわゆる「現役世代」の方々には、その世代ならではの役割に伴う問題が起きる可能性あります。具体的には、就労や子どもの養育・教育、住まいの問題などです。これらについても以下のような支援のしくみが用意されています。

① 就労・就業面

傷病手当金、雇用保険における失業給付 など

② 就学・教育面

世帯の子どもに対する手当 など

③ 住まいの面

住宅ローン減免 など

上記のようなしくみも、申請しない限りは利用できない点は、改めて確認しておく必要があると言えます。

3. 改めてしくみや制度の理解が必要なワケ ~ 制度の切り替えタイミングが問題

 これまで見てきているとおり、いずれの年齢であっても、しくみを使い切れれば広い範囲・領域での支援が受けられるということができます。ただ、ここでもう一つ重要なポイントがあります。それは、「支援の基となる制度の切り替えが発生するタイミングがあること」です。

たとえば、障害者総合支援法の下でサービスを受けていた場合、40歳になるタイミングで、介護保険制度に基づくサービスに切り替える必要が出てきます。しくみが違う以上、介護保険制度を利用するための申請をしないと障害者総合支援法の下で受けていたサービスと同様のサービスが受けられなくなる可能性が出てくるのです。

4. 相談ルートの確保は大切 ~申請・手続きの負荷の拡大とその対応
(1) 将来に備える、という視点 ~認知症の進行と申請・手続きの負荷の拡大

認知症は、認知機能の面で困難が伴うものです。症状が進行する可能性も多くあります。ではそうなってしまったとき、必要な申請・更新の手続きをきちんと行うことができるのか? これは非常に大きな問題と言えるでしょう。

(2) 相談ルートの確保が大切に

これまで見てきているように、認知症を患う方を支援するしくみや制度は幅広くありますが、一つひとつが独立してできているしくみとなっています。このことは、個別の事情にも対応しやすい面がある一方で、個別すぎる制度ということでもあります。

しくみや制度ごとに独自の申請書があり、手続き・申請上の書類が異なり、それぞれで申請する窓口が異なる場合があるといった、マイナス面があるというとらえ方もできるのです。

各しくみや制度を初めて利用しようしたり、更新しようとする場合、それを理解するだけでも非常に多くの労力が必要だとも言えるでしょう。さらに、同じような支援が受けられるといっても、基となるしくみや制度が切り替わるタイミングもあるのです。

このように考えると、重要なのは相談できる環境をつくることと言えるかもしれません。真っ先に考えたい相談相手は、お住まいの地域の市区町村の役所の窓口のご担当です。このご担当に相談できる環境があれば、必要な情報を入手したり、必要な手続きを教えてもらえるといった支援を受けられるようになると言えるでしょう。

また、場合によっては、後見人制度などを利用して、申請・手続きを含めた支援を検討してみることも必要かもしれません。

最後に

 認知症を患うと、認知機能に課題が生じ、日常生活や社会生活をおくる上で困難がつきまとうことになります。このため、日常生活介助面、機能回復面、経済面、税制面、医療面、住まいの面など、年齢に関わらず受けられるものの他、現役世代に対する子育て・教育、就労面など、さまざまな支援のしくみが用意されています。

一方で、そのしくみは複雑で各支援を受けるには、それぞれで申請・更新することが原則。また、ほぼ同程度の支援が受けられるものの、その年齢により、支援の基となるしくみが異なるという側面があります。だから、必要な支援を継続して受けるには、しくみの理解、しくみの違いの理解も大切になるということなのです。

認知症を患う方の増加が予想される中、日本国憲法が保障している「誰もが健康で文化的な最低限度の生活」を営める社会の実現のためには、一人ひとりの積極的な関与も必要だと言い換えることもできるかもしれません。

参考:
参考:
厚労省 ホームページ
障害者総合支援法が施行されました
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html
自立支援医療(精神通院医療)の概要
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jiritsu/seishin.html
高額医療・高額介護合算療養費制度について
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/tp0724-1.html
身体障害者手帳
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/shougaishatechou/
厚労省 みんなのメンタルヘルス総合サイト ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/3_06notebook.html

東京都保健局ホームページ
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/chusou/tetuzuki/techo.files/tetyou_hanteikijyun.pdf

日本年金機構ホームページ
障害年金
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html
老齢年金
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/index.html

国税庁ホームページ
医療費を支払ったとき(医療費控除)
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1120.htm

全国健康保険協会 ホームページ
医療費が高額になりそうなとき
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3020/r151

公益社団法人 全国有料老人ホーム協会ホームページ 
[厚生労働省]高額介護(予防)サービス費の負担上限額の見直しについて
http://www.yurokyo.or.jp/news/20170525_01.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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