外科手術で治る認知症 ~ 「正常圧水頭症=iNPH」とは?

高齢者・認知症

はじめに
 外科手術で治る認知症 ~ 「正常圧水頭症=iNPH」とは?

 認知症にはさまざまなタイプのものがあるのですが、その中に「外科手術で治る可能性が高く」、また、実はその患者数が「以前の推定よりも大幅に多いのではないか?」と言われている「認知症」があります。それが、「正常圧水頭症=iNPH」です。

 「正常圧水頭症=iNPH」には、他の認知症には見られない大きな特徴があります。そこでここでは、そもそも正常圧水頭症とは何なのか? その特徴はどのようなものか? などを中心に、治療における外科手術の内容やその後の支援のポイントなどについてまとめています。

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1. 認知症にはいくつかの種類がある
(1) 認知症の特徴

 認知症を患う方の人数は、2025年には700万人になるとも言われていますが、その中核症状は、次の4点とされています。後に確認する、正常圧水頭症との差を確認するためにも、しっかりと把握しておきたいポイントです。

① 記憶障害

自分が体験した過去の出来事に関する記憶が抜け落ちてしまう障害のことです。

② 理解・判断力障害

日常生活の些細なことでも判断することができなくなる障害です。

③ 実行機能障害

ある目標に向かって、計画を立てて順序よく物事をおこなうことができなくなる障害です。

④ 見当識障害

時間・場所・人物や周囲の状況を正しく認識できなくなる障害です。

(2) 認知症の種類

 認知症にはさまざまな種類のものがあります。このうち、「三大認知症」として、以下の3つのタイプの認知症があげられます。

① アルツハイマー型認知症
② 脳血管性認知症
③ レビー小体型認知症

アルツハイマー型が最も多く7割弱、脳血管性認知症が2割、レビー小体型認知症が5%程度と報告されていますが、ここで確認しておきたいのは、「正常圧水頭症は、三大認知症の中に含まれていない」という点です。そのような事情から、正常圧水頭症は、一般的にはあまり知られていないタイプの認知症と言われています。

参考
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/

2. 外科手術で治る可能性のある認知症 ~ 「正常圧水頭症=iNPH」とは?
(1) 「正常圧水頭症=iNPH」とは?

① 「正常圧水頭症=iNPH」とは?

「正常圧水頭症=iNPH」とは、脳脊髄液が脳の中で溜まることによって、脳の圧力が通常よりも上がりにくくなり、結果、後ほどみるような症状があらわれる病気のことを言います。

脳脊髄液は脳の中で毎日の作られているもので、脳と背骨の中にある神経の束である脊髄、そして、これらを包む硬膜と呼ばれる膜の間を流れています。その役割は明らかになってはいませんが、主に脳の水分含有量を調整し、脳の形を保つ役割をしていると考えられています。

一方脳脊髄液は、通常であれば頭の中を巡りやがて吸収されるのですが、この脳脊髄液が異常に頭に溜まってしまう場合があるのです。これが水頭症です。

水頭症になると、脳を圧迫することになります。脳は、人のさまざまな活動を制御していますが、圧迫されると正常に命令を出すことができなくなり、その結果、障害を起こしてしまうということです。

② 「正常圧水頭症=iNPH」の原因

正常圧水頭症には、大きく2つのタイプに分けられます。

その1つは、クモ膜下出血、頭部外傷や髄膜炎など、何かしらの病気に続いて起こるもの。このタイプを続発性正常圧水頭症と言います。

もう1つは、原因がわかりにくいもので、特発性正常圧水頭症と呼ばれており、正常圧水頭症の半数はこのタイプと言われています。高齢の方に多く見られるのは、後者の特発性正常圧水頭症とされています。

(2) 「正常圧水頭症=iNPH」の特徴

「図-正常圧水頭症と他の認知症との見られる症状の違い」

① 「正常圧水頭症=iNPH」は治る可能性がある

 正常圧水頭症が原因で起きる認知症は、外科手術で改善できる可能性があると言われています。ただ、正常圧水頭症でよく見られる症状は、その他の認知症とよく似た症状のため、くわしい検査などが行われていなければ、正しく診断されないを場合もあるようです。

② 「正常圧水頭症=iNPH」の3つの大きな症状の特徴

 正常圧水頭症の症状には、3つの大きな症状の特徴があるとされています。

1) 歩行障害
正常圧水頭症の早期の段階で出やすい症状は歩行障害で、正常圧水頭症の9割で見られるとされています。

足が開き、歩幅が狭く、すり足で歩くその姿は、「まるでチャップリンのよう」と表現されるほど特徴的とされており、この歩き方から早期発見が可能だとも言われているようです。

また歩行が不安定になりやすく、特に立ち上がったときや歩く方向を変えるときに、ふらついたり、転びやすくなったりすることも大きな特徴とされています。

実は歩行障害は、他の認知症では認められないとされています。つまり、「歩行障害の有無」が、正常圧水頭症を疑うポイントと言うことができるわけです。

2) 認知障害
正常圧水頭症では、集中力や注意力が散漫になるといった、認知障害が目立ちやすくなるといった特徴もあります。

また何もしないでボーっとしていたり、声かけに反応が遅かったりする意欲の低下などが起こることもあるとされています。たとえば、表情が乏しくなったり、大好きだった趣味などをしなくなったりと、時にうつ状態のように見える場合もあるようです。

このような認知障害は、正常圧水頭症の8割で見られるとされています。

3) 排尿障害
症状が進行すると、尿失禁が見られる場合があるとされています。このため、正常圧水頭症の方でもこの症状が見られるのは6割とされています。

尿意を感じ、また、トイレにも行こうとするのですが、我慢できる時間が短いがために、結果的に間に合わず、失禁してしまうというのが多く見られるタイプとされています。このほかにも、膀胱に尿を貯める力を弱まることで、失禁しやすくなる場合もあるようです。

(3) 「正常圧水頭症=iNPH」の患者数

2013 年度に実施された特発性正常圧水頭症全国疫学調査によれば、10万人あたり10.2人という推計結果になるとされています。2017年の総人口から換算すると、1万2千人程度ということになります。

一方で、 宮城県田尻町と山形県高畠町寒河江市の地域住民を対象とした疫学調査では 65 歳以上の全住民の約 1.5%が特発性正常圧水頭症と診断されていることもわかっています。

2017年の65歳以上の人口はおよそ3500万人であることから、50万人以上が正常圧水頭症であるという計算になるわけです。同じような推計は、2009年に私企業が、当時の65歳以上人口を元に推計しています。その時点では、約31万人が特発性正常圧水頭症の可能性があると発表しています。

ナゼこのような差が生まれるのでしょう? その原因の一つとしては、他の型の認知症と診断されてしまっている、あるいは、他の精神障害などと診断されてしまっているというものが考えられます。

だからこそ、先に示した特徴が見られるような場合は、専門機関の検査・診察を受けることが大切になるとも言えるわけです。

いずれにしても、「正常圧水頭症は、これまで考えられている以上に多いのではないか」と言われているということは、頭に入れておくとよいのではないでしょうか。

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参考
公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
特発性正常圧水頭症
http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/h26-1-052.pdf

千葉大学医学部脳神経外科
水頭症(すいとうしょう)
http://www.chiba-neurosurgery.jp/original28.html

東京女子医科大学 東医療センター脳神経外科
正常圧水頭症
http://twmu-mcens.jp/case05.html

3. 「正常圧水頭症=iNPH」の治療と予後

「図-正常圧水頭症の治療の流れ」

(1) 「正常圧水頭症=iNPH」の治療

 正常圧水頭症の治療では、シャント術と呼ばれる外科手術が用いられます。

シャント術とは、頭の中に溜まって吸収出来なくなった骨髄液を、シリコンの管を通して他の体の部位に流れるようにする手術です。シャント術により骨髄液を他の場所に流す方法として、

① 頭からお腹の中に流す方法
② 頭から心臓へ流す方法
③ 腰椎からお腹の中へ流す方法

の3つのタイプあり、その方に最適な方法が選ばれることになります。

最も多いとされているのは、頭からお腹の中に流す方法とされていますが、最近では、腰椎からお腹へ流す方法が増えてきているとされています。なお、シャント術が行われると、身体には骨髄液が流れる量を調整する装置も、同時に埋め込まれることになります。

このような外科手術を行うには、綿密な検査が必要になります。

検査で行われることの1つ目は、脳の脳室と呼ばれる部分が大きくなっているかを確認するCTやMRIなどです。ここで脳室が大きくなっていることが確認されると、腰椎から骨髄液を少し抜いて、症状が緩和するかをみる「髄液タップテスト」と呼ばれる検査が行われます。

「髄液タップテスト」が行われるのは、アルツハイマー型認知症でも脳室が大きくなることがわかっているからです。

このように、第1段階で脳室の大きさ、第2段階で骨髄液の影響を見るというステップで検査が行われるということになります。なおこの検査では、2~3日の入院が必要になる場合もあるようです。

(2) 外科手術の効果

 正常圧水頭症について、シャント術を用いた外科手術を行うと、歩行障害の9割、認知障害・排尿障害で8割が改善するとされています。その一方で、正常圧水頭症そのものの一般の方々への認知は進んでおらず、年間手術症例数は1200件程度とされています。

 先に正常圧水頭症の患者数について、50万人規模となる可能性があることを見ていますが、その数と比較すると、1200件という数字はかなり少ないと言わざるを得ないのではないでしょうか。つまり、本来であればより多くの方々の障害を、改善・軽減できると考えられるわけです。

(3) 外科手術以降の介護のポイント

「図-正常圧水頭症における外科手術後介護のポイント」

 とは言え、外科手術を行うだけでは効果が低くなる可能性も指摘されています。実際、外科手術後からすぐに効果が見られる場合だけではなく、「徐々に」効果が見え始めるケースも多いとされています。よって、「外科手術後」にどのような対応を取るべきかが、大切になると考えられるのです。

① リハビリの重要性

 外科手術後の介護のポイントの1つ目はリハビリです。

 正常圧水頭症は、初期の段階で治療を受ける方が効果が出やすいと考えられています。一方で、症状が進んでしまってからの治療でも、リハビリを行えば、徐々に改善されるケースがあることもわかっています。

治療を開始した時期によって改善度合いが異なる面はあるものの、無理強いをしない程度に、音楽を聴いたり、本を読んだり、会話をしたりといったことが、非常に大切なリハビリになると考えられます。

特に、人と関わることは非常に良いリハビリになるとされていますので、たとえご本人が何もしたがらず、じっとしているような場合でも、積極的な声がけが重要になると言えるでしょう。

また、歩行が出来るようになれば、散歩というリハビリが可能。「健康な方にとっても、その維持のためには、1日8000歩、歩くことが目標」とも言われるように、歩くことで、さまざまな身体的な機能が向上することが期待できます。

また脳への刺激にもなりますので、はじめは家の近くなどの散歩を促すことが良いリハビリになると言えます。ただし、歩行が安定したからといって、転倒の危険が全くなくなる訳ではありません。よって、特に外出時には付き添う方が安全と言えます。

また、家の中でも転倒しないような対策は必要。たとえば、転びそうになったときにすぐにつかまれる手すりを用意したり、そもそもつまずきやすい毛足の長い絨毯やカーペットを避けたりといったことも、重要な環境整備と言えます。

また、絨毯やカーペットの縁がめくれ上がらないようにするなどの工夫をすれば、つまずきにくくなると考えられます。
 
② 生活しやすい環境の整備

 歩行面からの環境整備の他、失禁の面からも住環境を整えることも必要な配慮です。尿失禁に関しては、治療前に比べると我慢出来る時間が長くなる場合が多いとされ、歩行障害の改善と合わせてトイレに間に合うようになる方が増えると言われています。

とはいえ、その回復度合い、その進捗は人それぞれ。よって、トイレに近い部屋を用意するといった対応も必要だということです。

③ 定期的な受診

 からだの状態やシャントの状態など、定期的な受診が必要です。

また、回復の度合いに応じて、介護保険の利用やその見直しを検討する必要も出てきます。お住いの地域の市区町村の福祉課などの窓口に相談することも大切な支援と言えます。

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参考
公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
特発性正常圧水頭症
http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/h26-1-052.pdf

千葉大学医学部脳神経外科
水頭症(すいとうしょう)
http://www.chiba-neurosurgery.jp/original28.html

東京女子医科大学 東医療センター脳神経外科
正常圧水頭症
http://twmu-mcens.jp/case05.html

4. もしかしたら? と思ったら

 認知症の症状が見られたり、あるいは、正常圧水頭症の症状が見られたりした場合には、なるべく早く検査設備がある脳神経外科や神経内科を受診することをおすすめします。

特に、歩行障害は、正常圧水頭症の初期からあらわれる症状。高齢の方でこの症状があらわれているようであれば、正常圧水頭症の可能性があることをまずは押さえておく必要があります。

また、正常圧水頭症は、早期に治療すれば治療するほど、その症状の軽減が早く、また、その度合いも大きくなると考えられます。「なんだか変」というようなことがあれば、勇気をもって行動をすることが大切と言えるでしょう。

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参考
公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
特発性正常圧水頭症
http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/h26-1-052.pdf

千葉大学医学部脳神経外科
水頭症(すいとうしょう)
http://www.chiba-neurosurgery.jp/original28.html

東京女子医科大学 東医療センター脳神経外科
正常圧水頭症
http://twmu-mcens.jp/case05.html

最後に

認知症にはさまざまなタイプのものがありますが、そのうち「正常圧水頭症=iNPH」は、「外科手術で治る可能性が高い認知症」です。

その症状の特徴は、歩行障害、認知障害、そして排尿障害です。他の認知症の中核症状が、記憶障害、理解・判断力障害、実行機能障害、見当識障害であることと比較すると、その違いが明確にできるのではないでしょうか。

正常圧水頭症の方の数は、50万人以上にのぼる可能性があるのではないかとも言われていますが、実際に手術を受けられている方は年1200人程度。それだけ、世間一般の認知度が低い病気で、他の認知症と混同されているケースも多いのではないかとも考えられます。

よって、正しい知識を持ち、その可能性を疑えるようになることが非常に重要と考えられます。

正常圧水頭症の治療は、シャント術という外科手術と、その後のリハビリが中心です。術後の症状の改善は、歩行障害で9割、認知障害・排尿障害で8割が改善するとされています。

よって、「もしかしたら」というようなことがあればなるべく早く、検査設備がある脳神経外科や神経内科を受診することが重要だと言えるでしょう。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。


参考
厚労省
認知症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html
厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/

公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
特発性正常圧水頭症
http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/h26-1-052.pdf

千葉大学医学部脳神経外科
水頭症(すいとうしょう)
http://www.chiba-neurosurgery.jp/original28.html

東京女子医科大学 東医療センター脳神経外科
正常圧水頭症
http://twmu-mcens.jp/case05.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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