自律神経失調症とは?
はじめに
自律神経失調症とは? コロナ禍の中、新たな生活様式が始まっています。また、これから長いお休みの前後などで、体調を崩される方も多いことでしょう。中には、自律神経失調症と診断される方もおられると思います。そこでここでは、自律神経失調症とは何か? について、自律神経系の役割に注目しながら、その原因、対処法などについてまとめました。
1. 自律神経失調症とは?
まず初めに、自律神経失調症は病名ではありません。
「では何なのか?」と言えば、「頭痛がする」「だるくてつらい」「動悸が激しい」などさまざまな症状があるのに、病院で検査をしても何も異常が見つからない場合につけられる「診断名」であり、その症状ととらえることができます。
ナゼ病名ではないことにこだわるのか、と言えば、それは治療に関わるからです。「異常が見つからない」ということは、「その異常に対して直接治療を行うことができない」ことになるわけです。これが、自律神経失調症の難しさでもあるということです。
「図-自律神経失調症とは?」
自律神経失調症は、自律神経がストレスなどにより正常に機能しないことによって起こるとされています。「自律神経」が、「調子を整える機能」を、「失っている」状態だから、自律神経失調症と表現されると言えるでしょう。
自律神経失調症の主な症状は以下のとおりですが、その症状のあらわれ方やその強さ、期間などには個人差があると考えられています。
「体がだるい」「疲れがとれない」「眠れない」「食欲がない」など
「頭痛」「頭が重い」「動悸」「胸が苦しい」「めまい」「立ちくらみ」「のぼせ」「冷え」「しびれ」「吐き気」「胃もたれ」「便秘」「下痢」など
参考:
厚労省 e-ヘルスネット
自律神経失調症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-082.html
一般社団法人日本臨床内科医会
自律神経失調症
http://www.japha.jp/doc/byoki/019.pdf
日本医師会
知って得する病気の知識
https://www.med.or.jp/chishiki/ziritsushinkei/003.html
2. 自律神経系の役割
自律神経失調症について考える場合、自律神経系の役割・機能などを正しく理解することが重要です。
自律神経は全身に分布していて、血管、胃、腸管、肝臓、腎臓、膀胱、性器、肺、瞳孔、心臓、汗腺、唾液腺、消化腺など、体の内部器官を支配しています。意識的な努力を必要とせず、自動的に機能するのが特徴で、「自動的に働く=自律的に働く」ことから、自律神経と呼ばれています。
たとえば、暑いときには汗をかいて体温の上昇を抑える、運動するときには心臓の鼓動を早くして筋肉に大量の血液を送る、食後には胃腸の働きを活発にするといったことは、人が自分の意思で行っているものではないでしょう。
つまり、「自然と」「意識しないでも」行われる身体反応です。このような「意識しないでも行われる身体反応」があらわれるのは、自律神経系が正常にはたらいてくれているからなのです。
なお、ここで使われる「系」とは、「一つのつながりやまとまりになっていること」をあらわす言葉。つまり、自律神経の働き全体のことをあらわしていると考えるとわかりやすいかもしれません。
自律神経系が制御する体内プロセスとしては以下が上げられます。
血圧、心拍数と脈拍数、体温、消化、代謝(そのため体重に影響を与えます)、水分とナトリウムやカルシウムなどの電解質のバランス、唾液・汗・涙などの体液の分泌、排尿・排便、 性的反応など。
つまり、これらに体内プロセスで何らかの異常と思われる症状が見られるのに、体の部位そのものには異常が見つからないという場合、自律神経系に問題がある可能性が考えられるということです。
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自律神経は、交感神経と副交感神経の2つの神経で構成されています。自律神経が制御する体内プロセス、体の各器官の機能は、この2つのバランスで制御されています。それぞれの役割は、次のとおりです。
ストレスの多い状況や、緊急事態の時というのは、言い換えると「緊張すること、集中すること」が必要になります。これは、何かと戦おうとするとき、あるいは、非常の場から逃れようとするときなどを想像するとわかりやすいかもしれません。
このような時、交感神経が副交感神経に対して優位に働くのです。
そのため交感神経は、心拍数を増やし、心臓の収縮力を高め、呼吸がしやすくなるように気道を拡張します。このように働くことで、体内で蓄えられていたエネルギーを放出できるようになります。つまり、筋肉に大きな力が入るようになるのです。
まさに、「敵と戦おうとするとき」あるいは、非常の場から走って逃れようとするときに必要な力を与える役割を果たすということです。
また、交感神経は、手のひらの発汗、瞳孔の散大、体毛の逆立ちなども引き起こします。その一方で、緊急時にはあまり重要でない消化や排尿といった機能などは鈍らせるように働きます。
闘う時、あるいは、非常時に、エネルギーを放出するには、エネルギーを蓄える必要があります。
たとえば、プロのスポーツ選手がどれだけ優れた能力を持っていたとしても、何十キロも何百キロも走らされ、さらに、何百回も何千回も腕立て伏せやスクワットなどをさせられた状態だったとしたら、その能力を発揮することはほぼ不可能です。「エネルギー消耗状態」だからです。
しかし、ある程度の休養をとり、エネルギーが蓄えられれば、再び優れた能力を発揮できるようになります。
副交感神経は、この「休養・エネルギーを蓄える」働きをするのです。エネルギーを温存し、体を回復させる役割です。そのため副交感神経は、心拍数を減らし、血圧を低下させます。
また、消化管を刺激して、消化や排泄を促します。なお、食べ物から吸収されたエネルギーは、体の組織の修復や形成に利用されます。
交感神経と副交感神経の働きは、以下のように整理することができます。
<交感神経と副交感神経の作用の比較>
上記のように整理された交感神経と副交感神経の働きを見ると、気づくことがあるのではないでしょうか? それは、交感神経と副交感神経は、「逆の作用を促す」という点です。実は、この2つの神経系は、シーソーのような関係にあるのです。
このためいずれかの働きが活発になると、つまり、いずれかの働きが優位になると、もう一方の働きは抑制される、つまり、劣位になるのです。
「図-自律神経の1日のリズム」
また自律神経は、1日24時間の中でも、交感神経が優位になる、あるいはなりやすい時間帯と、副交感神経が優位になる、あるいは、なりやすい時間帯とがあります。
交感神経が優位になる時間帯は、当然ながら日中です。主な活動時間帯が日中であることを考えるとわかりやすいでしょう。逆に副交感神経が優位になる時間帯は夜間ということになります。
参考:
宮崎大学医学部
自分の意志で思うようにならない大事な仕組みが人間にあります。
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/community-medicine/child/jiritsu/jiritsu_2.htm
J-Stage
24時間の自律神経活動リズム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmbe/46/2/46_2_154/_pdf
呼吸の極意、永田 晟、講談社ブルーバックス
3. 自律神経失調症にナゼなるのか?
社会で生きるということは、常にストレスと向き合う生活だと言えます。ここで言うストレスとは、決して悪いストレスだけではなく、良いストレスもあります。良いストレスは、たとえば自分をやる気にさせてくれたり、元気づけてくれたり、奮い立たせてくれるような刺激のことです。
一方で、悪いストレスは、自律神経失調症の間接的な原因の一つになっていると考えられています。悪いストレスとは、やる気をなくさせたり、気持ちを不安定にさせたりするものの他、身体面に悪影響を及ぼすような刺激です。
たとえば、極端な疲労、人間関係の不和、不安などは、悪いストレスの代表例と言えます。
もう一つ、自律神経失調症の間接的な原因となっているものに、生活習慣の乱れが指摘されています。たとえば、バランスの悪い食事、過度な飲酒、タバコなどの嗜好品の他、深夜型の生活、PC・スマートフォンやゲーム機の過度な使用などです。
「図-自律神経の作用と自律神経失調症」
自律神経は、交感神経と副交感神経がシーソーのように作用していること、そして、24時間という時間の中でいずれかが優位になりやすい時間帯があることを確認しました。
一方、ストレスや生活習慣の乱れは、交感神経優位の時間を増やすものであること、あるいは、本来副交感神経が優位である時間帯であるのに、その機能を抑制するものになることが、おわかりになるでしょうか?
たとえば、ストレスを受ければ緊張します。緊張するということは、交感神経優位になっているということです。また深夜型の生活などは、副交感神経が優位に働くはずの時間帯に、わざわざ交感神経を優位にさせる生活にしていることになるわけです。
そのような状態が長引くと、体が耐えられる限界を超えてしまい、自律神経失調症になってしまうと考えられるのです。
「あまりに長い時間、交感神経優位の時間を過ごしてしまったがために、シーソーの軸が錆びついて動かなくなってしまった状態」
あるいは、
「本来副交感神経側に多くの重みが加わる時間に、無理矢理交感神経側に重みが加わえ続けたがために、自律神経という名のシーソーそのものが壊れてしまった状態」
これが、自律神経失調症のイメージなのかもしれません。
【関連記事】
過度なストレスのサインに気づくには? ~現代社会のストレス事情
https://jlsa-net.jp/sei/stressfull/
参考:
一般社団法人日本臨床内科医会
自律神経失調症
http://www.japha.jp/doc/byoki/019.pdf
日本医師会
知って得する病気の知識
https://www.med.or.jp/chishiki/ziritsushinkei/003.html
4. 自律神経失調症と診断されたら
このように整理してくると、自律神経失調症は、体の異常と言うよりはむしろ、正常な反応の結果ともとらえられることがわかります。つまり、自律神経の正常な機能を攻撃してしまった結果起きているとする見方ができるのです。するとまた、「自律神経失調症は治療できる」とされる理由がわかるのではないでしょうか。
自律神経失調症による治療には、いくつかのアプローチが考えられます。
自律神経失調症が重度の場合、薬物療法が検討されますが、そこには、大きく2つの意味があります。
一つは、症状を抑えるための対症療法です。ここでは、頭痛・腹痛・吐き気などなど、その症状に合わせた薬が処方されることになります。対症療法で自律神経失調症に伴う症状が軽くなれば、身体症状によるストレスがなくなります。
よって、治療効果が上がりやすくなると考えられるわけです。
ただし、これはあくまで症状に対する治療。自律神経失調症を治しているのではありません。
もう一つは、ストレスや心理面に働きかけるものです。この場合には、抗うつ薬や、不安の症状が強いときに抗不安薬が処方されることになります。また、薬物療法とともに、物事のとらえ方や考え方に焦点を当てた行動療法である自律訓練法や精神療法が併用される場合もあります。
薬物療法以前に検討されるのは、自律神経が本来持つ機能が働くようになるにはどうすればよいのか? という点に着目した治療です。悪いストレスや、生活習慣の乱れが自律神経の不調を引き起こしているのですから、「これを正せば」、自律神経はその能力を取り戻せると考えられます。
よって、規則正しい健康的な生活、適度な運動が、一つの治療アプローチになりますし、過去の出来事がストレスになっているような場合には、認知行動療法などの利用も、治療法として考えられるわけです。
これらは、一人で続けるのは難しい反面、ご家族など「サポートされる方」が、一緒にやるなどするだけで、格段に続けやすくなる面もあります。それだけ、周囲の方の理解とサポートが重要だということでもあります。
とはいえ、現代社会を生きる上では、ストレスや多少の生活習慣の乱れはやむを得ない面もあるでしょう。そのような時、意識的に副交感神経を働かせることも必要になります。
自律神経の性質上、実際には意識的に働かせることはできないのですが、それでも、「間接的に働きかけることは可能」と考えられています。その具体的な方法としては、適度な運動、ストレッチング、入浴、アロマ、そして、吐く息に重点を置いた深呼吸などが考えられます。
特に呼吸は、緊張状態のとき短く、浅くなりがち。ゆっくり時間をかけて「吐く」ことで、呼吸が深くなるだけでなく、リラックス効果が期待でき、また、結果として副交感神経がはたらきやすくもなります。実際深呼吸をするだけで、血圧が大幅に下降することも確認されています。
参考:
一般社団法人日本臨床内科医会
自律神経失調症
http://www.japha.jp/doc/byoki/019.pdf
日本医師会
知って得する病気の知識
https://www.med.or.jp/chishiki/ziritsushinkei/003.html
最後に
自律神経は、体の各内部器官を意識せずともコントロールする機能を持っています。交感神経と副交感神経とが、その時の状況に合わせて「まるでシーソーのように」、自然とバランスをとるのが、自律神経の特徴です。
そして、このバランスをとる能力が機能不全に陥っている状態のことを自律神経失調症と、とらえることができます。
自律神経失調症の根本原因はわかっていませんが、長期に渡るストレスや生活習慣の乱れが影響を及ぼしていると考えられます。交感神経優位の時間が長くなりすぎたり、本来副交感神経が優位になりやすい時間帯に無理矢理交感神経を働かせることにつながったりするからです。
よって、自律神経失調症の治療には、規則正しい生活習慣づくり、と、ストレスの軽減、あるいは、その対処法を取り入れることが有効とされています。ただし、それが重度の場合、元の状態に戻るようになるまで、つまり、自律神経が正常に働く状態になるまでには、時間を要する面もあります。
そのため、自律神経失調症の治療においては、薬物療法が取られる場合もあります。この薬物療法は、たとえて言うなら、錆びついたシーソーの軸に油をさすようなもの。
その錆を実際に取り除き、実際に機能するようにするには、やはり、生活習慣の見直しとストレスへの対処法を取り入れる必要もあると考えられるのです。
ストレスが多いとされ、また、生活習慣が乱れやすい現代社会において、自律神経失調症は誰もがなりうるもの。たとえば、適度な運動やストレッチング、リラックス効果の高いアロマテラピー、吐く息に着目した深い深呼吸など、副交感神経をより多く、そして、より長く働かせる工夫も、生活の中で取り入れたいところです。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
厚労省 e-ヘルスネット
自律神経失調症
一般社団法人日本臨床内科医会
自律神経失調症
http://www.japha.jp/doc/byoki/019.pdf
日本医師会
知って得する病気の知識
https://www.med.or.jp/chishiki/ziritsushinkei/003.html
宮崎大学医学部
自分の意志で思うようにならない大事な仕組みが人間にあります。
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/community-medicine/child/jiritsu/jiritsu_2.htm
J-Stage
24時間の自律神経活動リズム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmbe/46/2/46_2_154/_pdf
呼吸の極意、永田 晟、講談社ブルーバックス
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