ゲーム依存、WHOが疾患として定義

精神障害

はじめに
 アルコールや薬物への依存症というものをご存知の方も多いでしょう。依存症は意思の弱さなどの問題ではなく、疾病、つまり病気として国際的にも認識されているものです。この依存症に、「ゲーム」が加わることになりました。

 ここではゲームへの依存である「Gaming Disorder = ゲーム障害」について、ネット依存との関係やその問題点などについて、障害のある方への影響も踏まえながらまとめています。



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1. ゲームへの依存をゲーム障害としてWHOが定義
(1) ゲームへの依存は疾病

インターネットゲームなどのやり過ぎで日常生活に支障をきたす症状について、世界保健機関(WHO)が2018年6月、疾病の世界的な統一基準である国際疾病分類(ICD)の最新版であるICD―11に、「Gaming Disorder = ゲーム障害」として、初めて盛り込みました。この同じ項目には、「ギャンブル障害」もあり、両者には共通点も多く存在します。

「ゲーム障害」は、ゲームをしたい衝動が抑えられなくなり、日常生活よりゲームを優先し健康を損なうなどの問題が起きても続けてしまう特徴があると定義され、ゲームを最優先する、問題が起きてもゲームを続ける、個人や家族・社会・学習・仕事などに重大な問題が生じるとされています。またこの症状が12カ月以上続いている場合に疾病とするとされています。

WHO当局は、「ゲームをしている人の2~3%がゲーム障害とみられる」とも語っています。

(2) ゲーム依存が疾病として定義される背景

これ以前にもゲーム依存は世界的に問題視されていました。ゲームを含むネット依存の人は酒や薬物への依存症のある方のように脳の働きが大きく低下し、感情をうまくコントロールできなくなるとの研究論文が国際的な医学誌に多数報告されているからです。

この背景には、スマートフォンやタブレット端末の急速な普及があげられています。この結果、いつでもどこでも、インターネットを通じてゲームができる状態になったためにゲーム依存が広がったと考えられています。つまりゲーム依存はより広い意味ではネット依存に含まれる面があると言えるのです。

実際、ICDと並んで使用される国際的な診断基準であるDSM-Ⅴにおいて、「インターネットゲーム障害」が今後研究されるべき障害として提示されています。

「各国で診断例が増え研究が進み、治療法の確立へ寄与することを期待する」とのWHO当局の話を持ち出すまでもなく、ゲーム依存を含むネット依存は非常に大きな社会問題であり、解決が望まれる疾病であると言えるのです。

参考:
独立行政法人国民生活センター
インターネット依存症(1)~(3)
http://www.kokusen.go.jp/
ロイター ホームページ
「ゲーム障害」を新疾病に認定
https://jp.reuters.com/article/idJP2018061801002255

2. 近年のゲームの特徴

「図-近年のゲームの特徴」
近年のゲームの特徴

(1) 近年のゲームの特徴は、ゲーム性以上にコミュニティ

ゲームと聞くと広く思い浮かぶものに家庭用ゲームがあります。しかし、現在その中心となっているのは、オンラインゲームと呼ばれるインターネット経由でのゲームです。

専用のゲームソフトをダウンロードしなくても、ユーザーIDを登録するだけでプレイできるのが特徴で、インターネット環境さえあれば、世界中のどこでもプレイすることができますし、世界中のゲームプレイヤーと対戦型などの形でコミュニケーションをはかれたり、あるいは世界中のゲームプレイ仲間との関係という、新しい形のコミュニティが生まれることにつながったりしているなど、その世界は急速に発展しています。

(2) 昨今のゲームには有用性もあるが・・・

実はこのことは、ゲームにマイナス面だけでなく、プラス面があることを証明してもいます。総務省の2010年の調査によれば、インターネットやゲームにより「毎日が楽しくなった(79.9%)」、「人にやさしくなれるようになった(38.1%)」等のポジティブな面があることがわかっています。

また、ネットいじめについては、実際の加害経験、被害経験ともに学校でのいじめよりも低い結果にもなっています。他にも、世界中の人たちと友だちになれるというような、これまでは一部の方だけに限られていた世界の広がりを、誰もが持てるようになっているという面もあります。

つまり、ゲームを含むインターネットの利用は、適切に使えば多くの効果が見込めるものでもあるのです。「なくす」のではなく、「うまく使う」ことが非常に重要になるということです。

参考:
総務省
第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト ネット依存傾向の国際比較
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc143110.html

イッカツ ホームページ
【業界研究】ゲーム業界の現状・動向・課題について
https://media.1katsu.jp/archives/908

3. ゲームを含むネット依存の現状
(1) ネット依存の問題点

① 依存症とは?

 依存症とは、ある特定の「事」を、ご本人は「やめたい」と思っているのに、自分の意思では「やめられない」状態になってしまっていることを言います。またそのことが原因で、社会生活をおくる上で大きな支障が出てくることになります。また依存症は、依存している「事」の量や頻度がだんだんと増えていく「進行性であること」が特徴で、適切な治療が必要であることがわかっています。

② 依存症の2つの特徴 ~ 「否認の病気」・「孤独の病気」と言われる理由

依存症は「否認の病気」と言われています。ご本人が「自らの問題を認めない」ケースが多く、病気と認識できない場合が多いのです。その一方で、その方が巻き起こしたトラブルへの対応にご家族の方々などが奔走することになり、ご本人以上に疲弊してしまうことが多いと言われています。

また依存症は「孤独の病気」とも言われています。たとえば「学校や職場、地域のコミュニティなどにうまくなじめない」といったことから生じる孤独感や、日々の強いプレッシャーや自分に自信が持てないといった焦りや不安から、ゲームやインターネットの他、アルコールや薬物などに頼るようになってしまい、発症するケースもあるのです。

【関連記事】
依存症は誰もがなり得る ~ネット依存や定年性依存症などの最新動向
https://jlsa-net.jp/sei/izonsyo/

③ ネット依存に潜む二次障害の可能性という問題

 既に障害があることがわかっている方が、ネット依存になる可能性も否定できません。むしろ、障害のある方のネット依存の発症リスクは高い可能性もあるかもしれません。

 その一つの理由は、たとえば精神障害の場合、その多くが脳機能に何らかの極端な傾向がある可能性が指摘されているからです。つまりこのような脳機能の傾向が、ゲームを含むネット依存へのなりやすさと結びつく可能性があるのではないかということです。他にも、障害により物理的に社会での活動が制限されている場合、外部とのコミュニケーションがインターネット経由になる機会が相対的に多くなる可能性がある点も考えられます。

 もちろんこれらはすべて仮説です。しかし、適度な利用の範囲であれば有用な面があるものだからこそ、その利用には十分な注意を払う必要があるとも言えるでしょう。

(2) ネット依存の現状

インターネットと依存との関係について、総務省が2010年に実施した調査によれば、調査対象者の依存傾向を評価したところ、緩やかな基準だと11.0%が、厳し目の基準でも3.8%がネット依存の状態にあるとのこと。また、依存による影響については、「生活が夜型になった(62.1%)」、「視力が低下した(51.9%)」などの問題があったとされています。

グーグルのウェブトレンド解析ツールであるグーグルトレンドによると、「スマホ依存症」の検索件数はここ5年間で着実に増加していることがわかっている他、アメリカで2015年に行われた研究によれば、スマートフォンの使用を一時的に中止させられた若者たちに、薬物依存に見られるような「離脱症状」があらわれ、知的作業に支障が出たことが確認されたほか、心拍数の増加や血圧の上昇といった生理的な変化が見られ、また、スマートフォンが手元にないための喪失感が見られたことも報告されています。

生活環境面を考えた場合、日本でも同様のことが起きている可能性は大いにあると言えるでしょう。

参考:
政府広報オンライン
暮らしに役立つ情報
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201803/2.html

厚労省ホームページ
依存症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html

総務省
第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト ネット依存傾向の国際比較
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc143110.html

公益財団法人 東京都人権啓発センター
意志や倫理の問題ではなく、依存症はこころの病気です
https://www.tokyo-jinken.or.jp/publication/tj_48_feature2.html

4. あてはまったらゲームを含むネット依存症の可能性

世界的によく使われている「ネット依存症の疑いがあるかないか」を判別するスクリーニングテストに、アメリカのヤング博士によって開発された20項目の質問からなるインターネット依存度テスト(Internet Addiction Test、 IAT)と、IT先進国でもある韓国の政府が開発したインターネット依存自己評価スケール(K-スケール)の2種類があります。ここでは前者を紹介します。

(1) インターネット依存度テスト

次の20の質問に、「まったくあてはまらない~とてもあてはまる(1点~5点)」の5段階で回答し、その得点を計算してください。

インターネット依存度テスト

(2) 判定基準

判定基準は次のとおりです。ただし、アメリカで開発されたものを翻訳しているだけのものであるため、この基準そのものが日本人にもあてはまるかは明確になっていないという点で注意が必要です。

<20~39点> 平均的なネットユーザーです。
<40~69点> インターネット利用について問題があります。インターネットがご自身の生活に与えている影響について、よく考える必要があります。
<70~100点>インターネットの利用がご自身の生活に重大な問題をもたらしています。すぐに治療の必要があるでしょう。

(3) 誰にでも一定程度はあてはまる

 ゲームのみに範囲を絞って検討するのであれば、質問にある「インターネット」を「ゲーム」に置き換えれば、ある程度の状況を把握することができると思われますが、それ以前に、実際にテストを確認いただいて、どのような感想をお持ちになったでしょうか? 

多くの方が、一定程度はあてはまるのではないでしょうか? つまり、程度の問題が、あるレベルを越えてしまったときに依存の状態になってしまうと考えられます。生活に密着しているものであることを踏まえると、これがゲームを含むネット依存症の怖さと言えるかもしれません。

参考:
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
ネット依存のスクリーニングテスト
http://www.kurihama-med.jp/tiar/tiar_07.html

5. ゲームを含むネット依存症にならないために

「図-ゲーム含むネット依存症予防のポイント」
ゲーム含むネット依存症予防のポイント

 ゲームを含むネット依存症にならないためには、どうしたらいいのでしょうか? ネット依存を防ぐには、次のような点が重要だとされています。

(1) 貸し出す形

 スマートフォンやパソコン、タブレットなどの端末は、家が一人ひとりに貸している物とすることが大切とされています。つまり対象が子どもの場合は、保護者の方名義で購入し、子どもに貸し出すのが賢明だということです。各端末で動作するソフトやアプリケーションの導入やそのためにかかるお金などの管理権も同様です。

(2) ルールは購入前に、いっしょに決める

 一度使い始めてしまうと、後からルールを決めることは難しいと考えられます。購入前に、みんなでいっしょに決めることが大切です。違反があったとき、平日休日の違いなど、多少細かいものでも決めておくことが大切でしょう。また、何かあったときの相談のルールも大切です。相談ができないとなると、隠れて何かを始めることになりかねないからです。

(3) 使う場所を決める

(4) 使う時間帯を決める

(5) ルールは見える形で

 教育における構造化の考え方をご存知でしょうか? それをやる場所・時間を決めること、あるいは、やること自体を見える形で示すことは、「何をやれば良いか」が明確になるため、安心して活動ができるという考え方です。これと同じことをゲームを含むインターネット利用についても行えば、効果が高まると考えられます。

(6) みんなでルールを守る

 誰か一人がルールを守らなくなると、「自分だけ守るのはおかしい」と誰もが思うもの。ルールはみんなで守ることが大切です。

(7) 現実の世界を大切にする

 ゲームを含むインターネットの世界は、これまでは限られた人だけができた「世界中の多くの人とつながる、友だちになれる」ことを実現します。それは素晴らしいことです。一方で、現実の世界をまるで知らなくては多様な価値観を持つ人が実際に集まる場での生活がままならなくなる可能性があります。

自然に触れ、ひとりで、あるいは仲間と一緒に何かを成し遂げるような体験を数多くすることが非常に重要で、インターネットやゲームを利用する時間の制限にもつながります。

(8) 最新のネット事情やゲーム事情を知る

 「そのことに多く触れている人の方が、より多くの情報を持つこと」は、ゲームやインターネットの世界でも同じです。特にゲームやインターネットの世界はその発展が著しく、また、情報のスピードも速い面があります。最新の情報をよく知ることは、非常に重要な対策でもあると言えます。

参考:
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
PC、スマホ使用ルール作りのポイント
http://www.kurihama-med.jp/tiar/tiar_14.html

独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf
自閉症教育のキーポイントとなる指導内容
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/395/a-34_1.pdf

最後に

 ゲームへの依存を含むネット依存は、近年のスマートフォンやタブレット端末などの普及に伴うインターネット利用の拡大を背景に、世界的に大きな問題となっています。その問題点は多くの研究でも指摘されており、日本でも2010年の総務省の調査時点で、利用者の少なくとも3.8%程度がネット依存の疑いがあるとされています。

インターネットは世界の人々とつながれるツールでもあることから、その有用性は明らかでもありますが、大きな問題もはらんでいるということです。

インターネットは、今では誰もが利用しているもの。つまり、誰もがなり得るのがゲームを含むネット依存だからこそ、適度な利用に向けた対策が重要になると言えるでしょう。

 なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
政府広報オンライン
暮らしに役立つ情報
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201803/2.html

厚労省ホームページ
依存症対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000070789.html

総務省
第1部 特集 ICTがもたらす世界規模でのパラダイムシフト ネット依存傾向の国際比較
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc143110.html

公益財団法人 東京都人権啓発センター
意志や倫理の問題ではなく、依存症はこころの病気です
https://www.tokyo-jinken.or.jp/publication/tj_48_feature2.html

文科省ホームページ
5 章 国内外の依存症予防教育の事例
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/08/18/1387966_002.pdf
「依存症予防教育に関する調査研究」報告書
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/08/22/1387966_001.pdf
スマホ時代の君たちへ
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/14/1369617_1_1.pdf

独立行政法人国民生活センター
インターネット依存症(1)~(3)
http://www.kokusen.go.jp/

独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
ネット依存のスクリーニングテスト
http://www.kurihama-med.jp/tiar/tiar_07.html
PC、スマホ使用ルール作りのポイント
http://www.kurihama-med.jp/tiar/tiar_14.html

独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 ホームページ
自閉症教育における指導のポイント
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_a/a-34/a-34_2.pdf
自閉症教育のキーポイントとなる指導内容
https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/395/a-34_1.pdf

ロイター 
「ゲーム障害」を新疾病に認定
https://jp.reuters.com/article/idJP2018061801002255

イッカツ ホームページ
【業界研究】ゲーム業界の現状・動向・課題について
https://media.1katsu.jp/archives/908

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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