強迫性障害とは?
はじめに
強迫性障害は、狭い意味での精神障害(≒精神疾患)の一つです。強迫性障害により生じる精神的葛藤や疲労などが、うつ病を引き起こす場合もあると考えられています。ここでは、そのような厄介な面も持つ強迫性障害について、その概要をまとめています。
1. 強迫性障害とは?
強迫性障害は、不安障害の一種で、強い「不安」や「こだわり」によって日常に支障が出る病気です。
「ドアに鍵をかけたかな?」「電気をつけっぱなしにしたかも」など、不安になって家に戻ったという経験は多くの人がしていることでしょう。また、ラッキーナンバーなどの縁起にこだわることもよくあることです。
このように、日常生活をおくる中で誰もがすることの延長線上にあるのが強迫性障害です。このため、特に初期の段階で判断するのは難しいと言われています。
強迫性障害は、「手が細菌で汚染された」という強い不安にかきたてられて何時間も手を洗い続けたり、肌荒れするほどアルコール消毒をくりかえしたりするなど、明らかに「やりすぎ」な行為を伴います。
世界保健機関の報告では、生活上の機能障害をひきおこす10大疾患のひとつにあげられています。
仮にご本人が「病気というほどひどくない」と感じていたとしても、ご家族の方やご友人など周囲の方々が困っている、あるいは、周囲の方々から見て、ご本人の日常生活、社会生活に影響が出ている、その結果、人間関係にも悪影響が出ていると感じるようなら念のためでも専門医による診察を受けることを考えてもよいかもしれません。
「図-強迫性障害、その原因」
強迫性障害の発症には、性格、生育歴、ストレスや感染症など、多様な要因が関係していると考えられていますが、その原因ははっきりとはわかっていません。
一方で、不安が増大しやすい今の社会では、自分自身や自分が大切にしているものを守ろうとする防衛反応が過度になることで誘発されやすいのではないかとも考えられています。
強迫性障害に「なりやすい要因」とされているものには、以下のようなものがあります。
「強迫性格」と「強迫性障害」とは、連続線上にあるものと考えられています。「強迫性格」とは、責任感や几帳面さ、倹約志向、頑固さ、などの性格・気質面での特徴のこと。これらが何らかのきっかけで度を超し、発症につながっていると考えられます。
完璧主義や細目へのこだわり、ため込みなどは、他の不安障害と比較しても、強迫性障害に顕著という報告があります。また、完璧主義をより突き詰めると、「ミスへの過度の恐れ」や「自身の行動への疑い」などがその裏に隠れている場合もあるようです。
遺伝も要因になっていると考えられています。特に若いうちに発症した場合、遺伝要因の比重が高まるとの調査結果もあるようです。ただ、強迫性障害の発症につながる何らか特異な遺伝子があるかはわかっていません。
強迫性障害は、感染症や他の精神障害(神経精神疾患)と関わりがあるとの研究結果もあります。一方で、他の疾患があれば強迫性障害を必ず引き起こすわけでないこともわかっています。
つまり、「何らかの影響があるだろう」という程度にしかわからないということです。
正確な数はわかっていません。日本の精神科外来では多くても4%前後との調査結果がありますが、その一方で、欧米では、同じ条件で9%が強迫性障害。
日本では強迫性障害を患う方が少ないと考えることもできますが、一方で、日本でも同じくらいの割合にはなるはずで、それがわかっていないだけではないか? と考えることもできます。
つまり、障害を性格などの問題と勘違いしてしまっている、あるいは、専門医の診察を受けることをためらい我慢している人がいるとも考えられるというわけです。
参考:
厚労省
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_compel.html
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_compel.html
e-ヘルスネット ホームページ
強迫性障害 / 強迫神経症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-014.html
公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
松永寿人先生に「強迫性障害」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=22
日本不安症学会
http://jpsad.jp/about_jpsad.php
2. こんな症状が見られたら
「図-強迫性障害の主な症状」
強迫性障害の症状には、大きくは「強迫観念」と「強迫行為」の2つの症状があります。
強迫観念とは、頭から離れない強い考えのことです。その内容が「不合理」だとわかっていても頭から追い払うことができない、非常に強い不安感や恐怖感があります。
対象物がない不安もありますが、ある特定の対象に対する不安感や恐怖感がある場合が多いようです。
これらは「強いこだわり」という言葉で表現されますが、そのこだわりには次のようなものがあります。
1) 「手が汚れているのではないかと気になって仕方がない」「運転中に誤って人を傷つけていないか」「きちんと左右対称にしないと不吉なことが起こるのでは」など、不吉感や気持ち悪さを伴った対象物へのこだわり
2) 物事が正確であることへのこだわり
3) 数字へのこだわり(例;4や9を避ける) など
強迫行為とは、強迫観念から生まれた不安にかきたてられて行う行為のことを言います。
たとえば「手を一日に何十回・何百回も洗う」「会社に行く途中に何度も自宅に戻って戸締りの確認をする」など、自分で「やりすぎ」「無意味」とわかっていてもやめられないのが特徴で、徐々に「自分はおかしい」「周囲から変だと思われてしまう」という恐怖も生じていきます。
その結果、行動範囲が非常に狭くなっていくなどの状況になってしまう場合があります。
強迫性障害を患う方には、以下にまとめるような強迫観念と強迫行為が見られます。複数あること、あるいは障害の進行・改善の中で変わることも少なくなく、出現頻度も含めて世界的にもほぼ共通と考えられています。
若い時から既に発症している、あるいは、発症しているのに気づいていないケースが多いのではないかと考えられています。
強迫性障害を患う方は、他の精神障害が併存する場合が多くなっており、また、これらの精神障害は、強迫性障害発症後二次的に出現することが一般的と考えられているからです。
併存する精神障害の中で最も多いのはうつ病で、初診時の約30%で併存しているとの報告があります。うつ病の多くが、強迫性障害により生じる精神的葛藤や疲労、日常や社会生活上の機能的問題などと関連し発症するものと考えられます。
うつ病は、どの世代にもみられる病気ですが若年層での発症が多いことがわかっています。
これらの状況から、強迫性障害は、うつ病を発症するよりも前の若い時から発症していると考えられる、ということなのです。
【関連記事】
うつ病とは?
https://jlsa-net.jp/sei/utsu/
参考:
厚労省
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_compel.html
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_compel.html
e-ヘルスネット ホームページ
強迫性障害 / 強迫神経症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-014.html
公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
松永寿人先生に「強迫性障害」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=22
日本不安症学会
http://jpsad.jp/about_jpsad.php
3. 強迫性障害と診断されたら
「図-強迫性障害、治療のポイント」
強迫性障害の治療には、次の2つの療法を組み合わせるのが効果的だとされています。
・薬物療法
・認知行動療法
薬物療法を先に行い、抑うつや不安を軽減し、治療にあたっての動機づけを行った後、認知行動療法を行っていくというのが一般的です。
強迫性障害を患う方の多くは、強迫症状や抑うつ、強い不安感があります。そのため、まず、SSRI・パロキセチン(パキシル)・クロミプラミン(アナフラニール)など、強力なセロトニン再取り込み阻害作用を持つ抗うつ薬で状態を安定させます。
いずれも副作用や効果を見ながら調整し、2~3カ月程度をかけて反応を見ていきます。うつ病よりも高用量で、長期間の服薬が必要とされています。
認知行動療法には複数の方法がありますが、再発予防効果が高い「曝露反応妨害法」が代表的な治療法です。強迫性障害を患う方が強迫観念による不安に立ち向かい、やらずにはいられなかった強迫行為をしないで我慢することを促すものです。
たとえば、汚いと思うものをさわって手を洗わないで我慢する、留守宅が心配でも鍵をかけて外出し、戸締りを確認するために戻らないで我慢するなどです。具体的な進め方は、以下のようになります。
曝露反応妨害法の進め方
1)強迫観念や強迫症状が現れる前に刺激となること、強迫観念・強迫症状の内容の分析
2)治療目標の明確化(治療の対象とする症状を決めること、など)
3)不安階層表を作成(症状を止めやすいと思うものの難易度順位づけ)
4)難易度の低い課題からの取り組み開始
5)強迫性障害を患う方ご本人によるホームワークとセルフ・モニタリング
6)課題が達成できれば、より難易度の高い課題に進むが、達成が難しい場合には、その原因を検討・やり方などを修正する
7)徐々に強迫性障害を患う方自身が課題を考え、実行・分析・修正の回路を作っていけるようにする
薬物療法、認知行動療法を行う場合、強迫性障害を患うご本人の「治そう」という意欲を高めることが重要と考えられています。
特に、強迫性障害の治療では、薬の服用量の多さに不安を感じがちで、また、認知行動療法は、ご本人にとってはつらくてイヤなものと感じられる場合が多くあるようです。
一方で、病気や治療のことを十分理解できれば、必要な治療であることの納得度も高まり、結果、治療の効果も高まると考えられます。
強迫性障害は、なぜ症状が続くのか、何が影響して症状が悪化するかなどの解明が進んでいる部分があり、積極的に治療に取り組めば、治すことができる病気と考えられています。
いずれ薬物を減量していく場面が来ても、認知行動療法を正しく学び、不安の対象や状況そのものと、その場面への対応方法を身につけ、維持できれば、再発予防にもつながるということです。
【関連記事】
日本で生まれた精神療法「森田療法」とは? ~ 欧米発祥の精神療法との違い
参考:
厚労省
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_compel.html
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_compel.html
e-ヘルスネット ホームページ
強迫性障害 / 強迫神経症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-014.html
公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
松永寿人先生に「強迫性障害」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=22
日本不安症学会
http://jpsad.jp/about_jpsad.php
4. 強迫性障害の方を支援するにあたって大切なこと
強迫性障害は病気であり、性格や意志の弱さなどが原因ではありません。重い状態にまで悪化している場合、むしろ、そこまで我慢できた、我慢強かったととらえることもできるかもしれません。
また、強迫性障害は、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら改善していくという特性があります。このため、治療が長期にわたる場合もありますので、一喜一憂しないことが大切と言えます。
もしかしたらと思ったら、できるだけ早く専門医の診察を受けることが大切です。病気が長引くほど不安に感じる対象が拡大していきがちで、それに対処するための行為が増えていくからです。
怖いと感じる対象を避けるようになり、生活に支障が出てくる範囲が広がっていってしまうため、心身ともに疲弊していってしまい、うつ病など、他の精神障害を引き起こすことにもなりかねません。
この悪循環に陥らない、あるいは、早く抜け出すためにも、早期受診と治療が重要になります。
自分のために自分で治そうという想いは非常に重要です。その上で、自分をきちんとマネジメントできるようサポートすることも大切と言えるでしょう。
医師の指示に従い、きちんと服薬する習慣づくりは、その第一歩とも言えます。治療は長期にわたる場合があるので、長期的な目標をもって治療にのぞむ、あるいは、それをサポートすることが重要と言えそうです。
強迫性障害は、生活リズムが乱れると悪化しやすくなるようです。また、病気と自由につき合える時間や空間、エネルギーを持ってしまうほど悪化しやすく、不眠はコントロールや判断力を低下させるといった悪影響があるようです。
できるだけ規則正しい生活、睡眠時間の確保、外出を心がけることが大切と言えるでしょう。
ご家族の方が強迫性障害を患う方の希望通りに振る舞うことを強いられ、不自由な生活に陥っている場合があるようです。この場合、ご本人の中では「他者を巻き込みコントロールしようとしても、結局自分の思うようにはならず、かえって不安が増長していく」ようです。
つまり、「ご本人の要求に従ったところで、何も解決しないばかりか、その要求はエスカレートしかねない」ということです。
要求に応えることは不合理であること、現実的でないことを、強迫性障害を患う方ご本人とご家族の方が、共に理解していけるようにすることが必要と言えるでしょう。
参考:
厚労省
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_compel.html
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_compel.html
e-ヘルスネット ホームページ
強迫性障害 / 強迫神経症
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-014.html
公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
松永寿人先生に「強迫性障害」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=22
日本不安症学会
http://jpsad.jp/about_jpsad.php
最後に
強迫性障害は、若い時に発症している可能性が高いと考えられます。またその症状が悪化すると、うつ病など、他の精神障害を引き起こす可能性があります。
その原因は複雑で、不明な部分も多くありますが、少なくともご本人の意志の弱さや保護者の方のしつけのせいというようなものではありません。
強迫性障害は、なぜその症状が続くのか、何が影響して症状が悪化するかなどの解明が進んでいる部分があり、治すことができる病気と考えられていますが、一方で、治療が長期にわたる場合もあります。
症状の短期的な変化ではなく、長い目で見ながら向き合っていくことが必要になると言えるでしょう。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。
参考:
厚労省
みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_compel.html
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_compel.html
e-ヘルスネット ホームページ
強迫性障害 / 強迫神経症
公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
松永寿人先生に「強迫性障害」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=22
日本不安症学会
http://jpsad.jp/about_jpsad.php
この記事へのコメントはありません。