精神障害に対する誤解を解消する

精神障害の誤解を解く
精神障害

はじめに
精神障害は、その言葉の様々な使われ方もあり、多くの誤解を招いている面があります。精神障害のある方の見える世界・感じる世界や精神障害のある方のつらさ、また、人手不足の昨今における精神障害のある方の強みなど、精神障害に対する誤解を少しでも解消することを目的に、小規模調査に基づく個人の意見や、意見を踏まえたアイデアなど、一つの見方としてまとめました。



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1. 誰にでも起こり得る精神障害

精神障害と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか? 実際に聞いてみると、以下のような答えが返ってきました。

・怖い
・変わっている
・何を考えているか分からない
・話が通じない
・暗い
  
このようなイメージを持つ理由に、精神障害のある(とヒアリング対象者が思った)方々の、以下のような行動を上げる方も多くいらっしゃいました。

・ある種の独特な動きを繰り返す
・ソワソワするようなせわしない行動をする
・時に急に大きな声を出す
  
また、「精神障害のある(とヒアリング対象者が思った)一部の方に対する幼少期のイメージが、大人になるまでそのまま定着しているケースがあります。実際に精神障害のある方と接する経験をすると、極端なイメージが解消されるなどの効果がある」、という研究結果もあるようです。

つまり、
精神障害とは何か? を、よくはわからないままに、(一部の方の、場合によっては精神障害のある方ではない方の)ある種の特殊な行動のみから、精神障害のある方に対するイメージを作り上げてしまっている。

そして、
実際に精神障害のある方とコミュニケーションをとった経験が少ない、あるいは、精神障害のある方とコミュニケーションを日々とっているのに、その意識がない。というのが実情ということになります。

また、
精神障害は誰にでも起こる可能性があることは、多くの方が理解しきれていないことのようです。これまで気づかれなかっただけで、既に症状が出ているにも関わらず、社会生活を何とか営んでいらっしゃる方が相当数いるだろうとも推測されています。

【関連記事】
精神障害・精神疾患とは何か? こころの病気
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-syogai/

参考:
内閣府:ホームページ 障害者の状況(基本的統計より)
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/zenbun/siryo_02.html

2017年実施 ヒアリング調査

看護学生の精神障害者に対するイメージの変化、田 邊 要 補・藤 田 勇・田沼佳代子、2015
www.osaka-shinai.ac.jp/library/kiyo/44/nakajima.pdf

厚労省:厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html

2. 精神障害とは?
(1) 精神障害とは?

精神障害は、ひと言で言うと、「脳の障害」です。何らかの原因で、脳の一部がうまく機能しないことによって引き起こされると考えられています。例えば「うつ病」などは、こころの病気・メンタルヘルスというような言い方もされますが、必ずしも心の問題だけで引き起こされるわけではありません。

遺伝的な影響、外部環境の影響など、複数の要因が組み合わさって、脳の一部の機能がうまく働かなくなるために起こるのです。このような理由から、誰にでも起こりえる障害だと言えるのです。

しかし一般的には、「症状が表に見える人・状況」を基準に、自分の精神障害に対するイメージを固めてしまうようです。言い換えると、例えば、「読み、書き、計算など、ある特定の能力を発揮するのが極めて困難な学習障害のあるような方」などは、精神障害のある方とは認識されない場合も多いということです。

(2) 「精神障害」という言葉の大きく2つの使われ方

「精神障害」という言葉には、「広い意味」での精神障害と、「狭い意味」での発達障害との大きく2つの使われ方があります。

「図:広い意味での「精神障害」と狭い意味での「精神障害」」
広い意味での「精神障害」と狭い意味での「精神障害」
参考:
内閣府 ユースアドバイザー養成プログラム(改訂版)

①使われ方1:「広い意味」での精神障害

知的障害と発達障害、「狭い意味」での精神障害をすべて含めた多彩な障害として扱われるケース。医療の視点で書かれている情報を中心に使われることが多い。

②使われ方2:「狭い意味」での精神障害

発達障害、知的障害、精神障害、その他の障害とは別のものとして扱われるケース。このとき精神障害は、これまで使われてきた「精神疾患」に近い障害をさし、主に行政や福祉サービスの提供上、対象を区別するために使われることが多い。

※「広い意味」で精神障害を扱う場合でも、知的障害を含むケース・含まないケースがあるなど、使われる場面で扱い方が異なります。

以上のように、その場、その場で「精神障害」という言葉は異なる意味で使われることもあります。そのことが、精神障害に対する理解が進まない原因の1つなのかもしれません。

【関連記事】
精神障害・精神疾患とは何か? こころの病気
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-syogai/

3. 精神障害のあるということ、その3つの視点

精神障害があるという事は、一体どういうことなのでしょう? 持っている方にしか本当のところはわからないかもしれません。それでも、理解しようとすること、そして自分なりに考えることは、とても重要なことと言えます。

(1) 精神障害のある方の見える世界・感じる世界 ~ひとつの例

「脳ミソをドリルでこじ開けられ、そこに言葉がボンボン釘みたいに刺される。。。」このような表現について、どのような印象を持つでしょうか? 例えば、このようなことが、一部の精神障害のある方の頭の中で起こっているのだそうです。

また、どんな妄想体験や幻聴体験があっても「幻聴(の主)との約束で、自分の頭の中で起きていることを言ってはいけない」と約束させられていて、そのために人には何も言えないということもあるのだそうです。

もちろん、すべての精神障害のある方が、同様の状況にあるわけではありません。中にはこういう方もいらっしゃるということです。ただ、
・モノが歪んで見える
・あるものを見ていると、自然と違うものに焦点が当たっていく
・ある範囲しか文字を識別できない
・ぼわーんとした音の中で声が聞こえる
・ある特定の音がとりわけ大きく聞こえる
・蛍光灯のような光が非常に眩しい
・指を使わないと計算ができない
・暗黙知化しているような「普通」や「常識」の程度の理解ができない
など、生活上の困難を抱えていらっしゃるのが精神障害のある方だということです。

参考:
日本でいちばん大切にしたい会社3、坂本光司、あさ出版
2017年実施 ヒアリング調査結果

(2) 精神障害のある方のつらさ ~ひとつの例

ある精神障害のある方に、ものの見え方をたずねてみました。

「例えば、度の合わないメガネをかけて、それでも必死に焦点を調整しながら見るようなものか?」
答えは、「たぶん違うと思う」とのこと。

なぜ「たぶん」「違う」「と思う」という回答なのかと言えば、「度の合わないメガネをかけることで、あなたにどう見えているのかは、わからないから(=私が度の合わないメガネをかけたときの見え方とは違うのではないか?)」とのこと。

私たちが「赤」と言っている色。恐らく多くの人にとってほぼ同じように「赤」という色に見えているのでしょう。

「赤」と表現しさえすれば、どんなものかを多くの方が同じように想像できます。ただ、AさんとBさんがいたとして、Aさんにとっての赤の「見え方」と、Bさんにとっての赤の「見え方」は同じなのかもしれませんし、違うのかもしれません。AさんはBさんではないので、実際にそれを経験することはできないからです。

「赤」という概念であれば、リンゴの色、イチゴの色、信号の止まれの色・・・など、「これが赤だ」と共通で学べる方法があります。AさんとBさんとが共通で知っている何か別のものを通して(基準にして)学ぶという方法です。

一方で、「見え方」や「感じ方」というものは、共通で学べる基準がありません。となると、「自分にとっての見え方で見えている」としか表現のしようがないわけです。

もちろん、多数派である一般の方はそれで苦労することがありません。しかし、精神障害のある方は、それで苦労されている場合があるということなのです。

このような具体的な事例を元に考えると、「普通」や「常識」というものが、つらい、という精神障害のある方の言葉には、強烈な重みがあります。

なぜなら、多数派の人々が共通で持つ「普通」の感覚について、精神障害のある方は、自分の「見え方」や「感じ方」の基準に照らし合わせ、変換するなどのステップを踏んで、ようやく理解している(理解しようとしている)と、言い換えることができるからです。

そして、このようなステップを踏んだ「普通」や「常識」の理解は、新たな場面が来る度に必要なことでもあるのです。これでは「疲れる」「ツライ」というのももっともだと感じられるのではないでしょうか。

このような精神障害のある方の症状のつらさ、困難さは、実際のところはご本人にしかわからないかもしれません。それでも、そんなつらさについて想像することが、精神障害の理解への第一歩とも言えるのではないでしょうか。

参考:
2017年実施 ヒアリング調査結果

(3) 精神障害のある方の強み

精神障害があると、全ての分野や領域などで何か問題があるように思われる方がいらっしゃるようです。しかし実際には、

・チェックするのは得意
・常識にとらわれないアイデアを出すのは得意
・一つのことを集中してずっとやり続けるのは得意
・リスクを恐れず前に進んでいくのは得意

など、人それぞれ多岐に渡る得意分野をお持ちです。得意があるばかりか、その得意のレベルは目を見張るほど飛び抜けた能力であることも少なくありません。

こんな話を聞いたことはありませんか? 
聴覚を失って嗅覚が発達した、視覚を失って聴覚が発達した・・・。

脳科学の分野での研究から、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚のいわゆる五感や、その他未発見の感覚も含め、人間はそれを組み合わせて使っていることがわかってきているそうです。だから、ある感覚を失うと、他の感覚が鋭くなり、それを補おうとする・・・

これと同様のことが、精神障害がある事で起きていると予想することは、不自然なことではないでしょう。精神障害は、脳の特定機能の不具合が原因なのですから。

参考:
2013年 日経サイエンス9月号 五感を超える? 人間の持つ「超越感覚」の正体 
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO57602810S3A720C1000000/

4. 人手不足と精神障害 ~強みを活かす

企業の人手不足が深刻です。2017年7月時点の有効求人倍率は1.52倍。正社員の求人倍率も1.01倍と、1倍を上回っている状況。まさに、猫の手も借りたい状況と言えるでしょう。一方で、大学新卒の3割以上の方が3年以内に離職しているという現実があります。仕事と個人の能力や強みのミスマッチが原因の一つと考えられます。

このような現実に対応するとき、既存の仕事の枠に当てはまる人材を募集するという発想ではなく、「個々の強みに合わせて仕事を区切る、組み合わせる、組み替える」という発想を持てば、精神障害のある方の得意や強みに着目して採用するという手を打つことも可能ではないかと考えられます。

たとえばアメリカ・マイクロソフト社は、プログラムの最終チェックという緻密さが求められる工程で、広い意味での精神障害である発達障害の方を大量採用しているとのこと。まさに「強みに着目した採用」を行っているのです。

日本では、障害者雇用促進法で、「雇用する企業は、雇用する労働者の2.0%に相当する障害者を雇用すること」を義務づけています。義務づける一方で、障害者雇用に関する教育制度、障害者を雇い入れた場合などの助成金の支給、障害者を雇用することでの税制面での優遇なども受けられるようなしくみも導入されています。

つまり、たとえ精神障害があっても、その方の強みを活かせる仕事であれば、強力な戦力になる上、国からの援助も受けられるということです。

【関連記事】
精神障害のあるの方の就労 ~社会での自立と活躍への道
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-ziritsu/

参考:
厚労省 ホームページ  
一般職業紹介状況(平成29年7月分)について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000175101.html

新規学卒者の離職状況
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html

障害者雇用対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html

NHKスペシャル 発達障害 解明される未知の世界
https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20170630/index.html

5. 精神障害のある方から学ぶ姿勢

「この人のようになりたい」「あの人のようになりたい」という憧れは、多くの方が一度は持ったことのある感情です。社会に出てからも、あの上司のようになりたい、あの人と話をしてみたい、という感情を持つ方も多いでしょう。そして、「自分の強みを活かせる人になりたい」という想いを持つ方もいらっしゃるでしょう。

また、「困難を乗り切ったあの人のようになりたい」というものもあるように思います。このように考えると、精神障害のある方は、一方的に支援する対象ではないこともわかります。たとえば、強みを活かして活躍できる方として、あるいは、困難を乗り越え(困難と闘い、あるいは、うまく付き合いながら)活躍できる方として、ロールモデルになっていただけるということです。

終わりに

いかがでしたか? ここでご紹介したことは、その性格上、意見や見方に偏りがあるなど、必ずしも正しい理解に基づくものとは言い切れません。

ただ一方で、「こういうことではないか」「ああいうことではないか」と想像したり、案を出したり、その検討をすることは、精神障害というものを理解するための一つのアプローチと言えるのではないでしょうか。

ステレオタイプ的に精神障害を受け入れてしまうより、試行錯誤しながらでも、共通の理解ができるようすり合わせていく。そんな小さなことを積み重ねていくこと。これは、精神障害のある方の理解だけでなく、いわゆる健常者と呼ばれる方々の強みを理解し伸ばすためにも必要なことではないでしょうか。

枠にはめて効率よく仕事をすることより、個人の強みを活かすことで仕事のアウトプットを拡大することを考える。今後の世界で求められるのは、そんな発想かもしれません。

この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

内閣府:ホームページ 障害者の状況(基本的統計より)
http://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h28hakusho/zenbun/siryo_02.html

看護学生の精神障害者に対するイメージの変化、田 邊 要 補・藤 田 勇・田沼佳代子、2015
www.osaka-shinai.ac.jp/library/kiyo/44/nakajima.pdf

厚労省:厚労省 みんなのメンタルヘルス
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html

厚労省 ホームページ  
一般職業紹介状況(平成29年7月分)について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000175101.html

新規学卒者の離職状況
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html

障害者雇用対策
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html

2013年 日経サイエンス9月号 五感を超える? 人間の持つ「超越感覚」の正体 
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO57602810S3A720C1000000/

NHKスペシャル 発達障害 解明される未知の世界
https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20170630/index.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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