障害のある方にとってのスポーツ ~スポーツの効果と選択時の留意点
はじめに
スポーツをすることは、障害の有無を問わず充実した人生を送るための一助となる素晴らしいものだと考えられますし、実際にさまざまな形で楽しまれている方もいらっしゃることでしょう。ここでは、障害のある方にとって、スポーツすることの意義や効果、障害のある方とスポーツとの関係、更に、障害のある方がスポーツを選択する際に留意しておきたいポイントなどを中心にまとめています。
1. スポーツのとらえ方 ~スポーツとその効果
「図-障害のある方にとってのスポーツの意義 ~スポーツの効果」
スポーツを、あえて障害のある方にとっての効果という点から見ると次のような4つの側面があることがわかります。
障害のある方にとってのスポーツの意義は、従来はこの医療的な側面に注目が集まっていました。つまり、リハビリテーション効果を期待する側面が強かったということです。もちろん、現在でも、その側面がなくなったというわけではありません。
その一方で、2003年度に日本障害者スポーツ協会が実施した調査によれば、スポーツの意義の医療的な側面としてとらえられる医療機関への依存度の低減、通院回数の減少といった効果は、社会への参加・精神的な側面・身体的な側面よりも低くなっていることがわかっています。
つまり、障害のある方にとってのスポーツの役割を考えるとき、医療的な側面のみから考えるのは誤りだと言うことができるということです。
スポーツには、社会に参加する、交流するという側面があります。つまり、仲間づくりや生活圏の拡大といった効果が期待できるということです。
また、多くの仲間や指導者の方、活動を支援される方などとの実際の交流を通じて、自己責任や努力をすることに対する態度、コミュニケーション能力を育むといった効果もあると考えられますし、活動を通じて、他者を思いやる気持ちを理解することにもつながるとも言えるでしょう。
このことは、団体競技はもちろん、個人競技であっても同様です。
精神的な側面とは、生活に対する充実感やストレスの解消といった効果が期待できるという側面のことを言います。
既にご紹介した2003年度に日本障害者スポーツ協会が実施した調査によれば、この精神的な面での効果はプラスに作用していると回答された方が7割を超えており、他の側面よりも大きな効果が得られているとされています。
身体的な側面とは、運動不足の解消や健康維持・健康増進といったことです。都市化の進行や生活の利便化などの影響を受けて、運動不足に陥りやすい生活環境となっていることが指摘されていますが、これは障害の有無を問わず社会全体の課題ととらえるべきだと考えられます。
そもそもスポーツは、さまざまな目的で行われる身体を動かす活動のことです。
人が楽しみを求め、また、よりよく生きるために自発的に行なう身体活動で、定められたルールの中で、持てる能力を発揮し、挑戦を試み、最善を尽くして、フェアプレーの下で行うことが目標とされています。
スポーツは、プロスポーツに代表される競争を中心とするもの、いわゆる「草野球」と呼ばれるような仲間とあるいは純粋にその活動自体を楽しむことを中心とするもの、大相撲のように民族的なアイデンティティや儀礼を中心とするとするもの、ヨーガなどのように癒しやリラックス効果を得ることを中心とするもの、呼吸体操やダンスのように健康な心身状態を保つことを求めるもの、ハイキングなどの自然との接点を求めるものなど、多くの種類に分類できたり、あるいは、同じ競技でも多くの見方ができたりするものでもあります。
このようにスポーツとは、障害の有無を問わず、誰もが目的に応じて行えるものであるととらえることができ、また、さまざまな面で大きな効果も期待できると考えられるのです。
【関連記事】
障害者スポーツとは? ~障害のある方のスポーツへの参加
参考:
世界大百科事典
スポーツ
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84-84860
公益財団法人 日本体育協会 ホームページ
障害者とスポーツ
http://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/publish/pdf/h24_seigo2_25.pdf
2. 障害のある方とスポーツ
「図-障害者スポーツとは? ~とらえ方とそのポイント」
ここまで見てきたスポーツの目的やその意義を考えた時、「障害者スポーツ」という言葉に違和感がある方は多いことでしょう。実際、日本障害者スポーツ協会が指摘する通り、「障害者スポーツ」という特殊なスポーツがあるわけではないのです。
いわゆる「障害者スポーツ」とは、障害があってもスポーツ活動ができるよう、障害に応じて競技規則や実施方法を変更したり、用具等を用いて障害を補ったりする工夫・適合・開発がされたスポーツのことを指します。
つまり、ルール面や安全面での配慮を行っているだけだということです。
むしろ、「障害者スポーツ」の英語表現でもあり別名でもある「アダプテッド・スポーツ=Adapted Sports(参加・競技できるようにルールや用具などを適合させたスポーツ)」の方が、その意味を的確に表していると言えるかもしれません。
既に見てきたとおり、障害者スポーツは、当初は、医学的なリハビリテーションを目的として発展した側面があります。
その代表的な国際競技会でもパラリンピックは、1948年第2次世界大戦で主に脊髄を損傷した兵士たちのリハビリの一環として行われたアーチェリーの競技会がその起源で、それが1952年に国際大会になったという歴史があります。
一方、現在では、障害のある方のみで行うのではなく、障害のない方も一緒に同じスポーツを楽しむ場面も見られます。つまり、障害のある方に適合させたルールの下で、障害の有無に関わらずスポーツに参加することは可能だということです。
文科省の調査によれば、障害のある方のうち、週に1日以上何らかのスポーツをされている方は、成人の方で18.2%、未成年の方で30.7%となっています。
障害のある方の総人口が850万人あまりという点から推計すると、かなり乱暴なデータの扱い方ではありますが、160万人のあまりの障害のある方が週1日以上スポーツを楽しまれているということになります。
とはいえ、成人一般の方で週1日以上スポーツをされている方は、同じ文科省の調査によれば47.5%。スポーツが、「障害の有無によらない、すべての方のもの」とは言えない部分があるということです。
スポーツの効果に着目しながら、各種の整備が必要だと言えるでしょうし、それを求めていくことも大切だと考えられます。
一方で、いわゆる「障害者スポーツ」に位置づけられるものには非常に多くの種目があり、個人競技も団体競技もあります。
またその中には、大会としては同一ながら障害別にクラスが分かれている競技、障害の度合いでハンディがつけられている競技、元は障害のある方が参加できるものとして開発された後、一般の方も参加できるようになった競技など、さまざまなものがあり、その数も数えきれないほどです。
つまり、障害があってもやれるスポーツ種目の開発は一定程度進んできているととらえることができるということです。
実際に多くの競技大会も開催されています。障害のある方のスポーツの国際競技会には、以下のようなものがあります。
1) パラリンピック競技大会
2) デフリンピック競技大会
3) アジアパラ競技大会
障害のある方のスポーツの国内競技会には、以下のようなものがあります
1) 全国障害者スポーツ大会
2) スペシャルオリンピックス日本
3) ジャパンパラリンピック競技大会
4) その他の競技種目別の大会
参考:
公益財団法人 日本体育協会 ホームページ
障害者とスポーツ
http://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/publish/pdf/h24_seigo2_25.pdf
文科省ホームページ
障害者スポーツに関する基礎データ集
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/027/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/06/15/1358884_09.pdf
公益財団法人 日本障害者スポーツ協会 ホームページ
障害者スポーツ競技団体協議会
http://www.jsad.or.jp/about/pdf/team_conference_170221.pdf
厚労省ホームページ
障害者スポーツ
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2011/01/01.html
3. 障害のある方がスポーツを選択するときの留意点
「図-スポーツを選択するときの留意点」
スポーツは楽しみを求め、よりよく生きるために自発的に行なうもので、また、さまざまな目的で行うものでもあります。人の数だけその目的は異なると考えられますので、目的にあったスポーツを選択することが大切と言えるでしょう。
たとえば、地域コミュニティへの参加を中心にスポーツを楽しもうとしたとき、アスリート志向の強い競技スポーツを選んだり、強いアスリート志向の下で活動しているサークルなどを選んだりすると目的が達成できなかったり、スポーツに対するマイナスのイメージを持ったりしかねません。
やってみたい、やったら楽しそうというものを選択することと同時に、実際に一度やってみるというような「お試し」もしてみて、実際に目的とあったスポーツなのか検討してみることも必要でしょう。
指導者の力量や指導者との関係にも注意が必要です。日本障害者スポーツ協会公認指導者は、2018年2月時点で24,707人。
もちろん、資格がなければ指導者として問題があるというわけではありませんが、指導者には障害に関する医学的・精神的・社会的な知識とスポーツ指導に関する知識と技能が必要でもあります。
その意味でも、160万人いらっしゃる障害のある方のスポーツ人口に比較して、指導者の数は非常に少ないと言わざるを得ないでしょう。
このような実態を踏まえ、安全への留意、医師との連携、施設や用具などへの配慮等を踏まえて、体制が整備されているサークルを選択したり、安全性の高いスポーツを選択したりといったことも必要ではないかと考えられます。
障害のある方が参加できるスポーツは、ルール面や安全面での配慮がされているとはいえ、それでも競技によっては身体接触や器具の利用などにより、ケガなどを負ってしまう可能性もあります。万が一の場合に備えて、保険などの利用を事前に検討することも必要と考えられます。
参考:
公益財団法人 日本体育協会 ホームページ
障害者とスポーツ
http://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/publish/pdf/h24_seigo2_25.pdf
公益財団法人 日本障害者スポーツ協会 ホームページ
①各都道府県・指定都市別、ブロック別日本障害者スポーツ協会公認指導者登録者数
http://www.jsad.or.jp/training/pdf/trainer-registrant_180228.pdf
最後に
「障害のある方にとっての意義」という視点であえて整理すると、スポーツには、医療的な側面・社会への参加という側面・精神的な側面・身体的な側面という4つの側面があると言えます。
過去にはリハビリテーション効果を期待するという医療的な側面が強調されていた面がありますが、近年ではむしろその他の効果への期待が大きくなっている面があり、より多くの方に、その方なりの目的に応じて楽しんでもらえるものになりつつあると言えるのではないでしょうか。
障害に対してルール面や安全面の配慮がされた上で行われる「障害者スポーツ」には、多くの競技が存在していますし、また、障害の有無に寄らず、すべての方が同じ競技を楽しむ様子が多く見られるようにもなってきています。
とはいえ、障害のある方のうち、定期的にスポーツを楽しまれている割合は2割に満たず、障害のない方が半数近くであることと比較すると、その数は非常に少ない状況と言えます。
その理由としてはさまざまなものが考えられますが、一つには、ケガへの不安などがあげられるでしょう。
目的に応じた選択、専門性を持った指導者がいるかなど視点で参加するスポーツを選択することが、実際にスポーツを楽しむためには必要ですし、万が一に備えた保険等への加入など、事前の準備も必要と言えるでしょう。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
文科省ホームページ
障害者スポーツに関する基礎データ集
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/027/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/06/15/1358884_09.pdf
厚労省ホームページ
障害者スポーツ
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2011/01/01.html
公益財団法人 日本体育協会 ホームページ
障害者とスポーツ
http://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/publish/pdf/h24_seigo2_25.pdf
公益財団法人 日本障害者スポーツ協会 ホームページ
障害者スポーツ競技団体協議会
http://www.jsad.or.jp/about/pdf/team_conference_170221.pdf
①各都道府県・指定都市別、ブロック別日本障害者スポーツ協会公認指導者登録者数
http://www.jsad.or.jp/training/pdf/trainer-registrant_180228.pdf
世界大百科事典
スポーツ
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84-84860
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