障害のある方の指導・育成 「ホメて育てる」にまつわる誤解

発達障害

はじめに
 障害のある方の養育や部下の育成などの場面で最近よく取り上げられる手法に「ホメて育てる」というものがあります。しかし、この「ホメて育てる」という手法について、いくつかの誤解が見られ、かえって問題になっているケースも多く見られるようになっています。

 ここでは、障害のある方の育成に関して、そもそもナゼ、指導・育成が必要なのか、「ホメて育てる」にまつわる誤解などを見つつ、本当に必要な指導・育成の在り方について、その理論的な背景となるオペラントの条件付けにも触れながら、検討していきます。

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1. 障害のある方の育成の必要性
(1) 障害のある方の社会での活躍の場の広がり

① 共生社会の実現に向けて

共生社会は、高齢者とそうでない人とが共に生きる社会、あるいは、健常者と障害のある方が共に生きる社会、また、外国籍の方と日本国籍の方とが共に生きる社会というような文脈で使われることが多い言葉であり、考え方です。この考え方は、日本が目指す姿として、そして方針としても示されているもの。

「共生社会の実現」という目標を受けて、さまざまな施策が打たれています。たとえば、障害のある方の一定程度以上の雇用を義務づける「障害者雇用促進法」などは、その一例です。

② 共生社会で求められること ~ ルールを守るということ

ただ多くの人が共に生活する場には、一定程度のルールが存在します。

社会的なルールとして真っ先に浮かぶものに法律がありますが、法を遵守していれば、それで良いとはいかないのも事実でしょう。その典型的なものは、マナーや配慮といった、暗黙のルールに相当するものです。「そんなものがあるから生きにくい」というような声もあるようです。

しかし、想像してみてください。仮にマナーやルールすら法律として定めたとしたら、「これをしなければならない」「あれをやってはいけない」というもので溢れてしまうはずです。それこそ「がんじがらめ」の生きにくい社会になってしまい、街中を歩くことさえ、おいそれとはできないことになってしまうのではないでしょうか?

このように考えると、多くの人々が、そして、多様な人々が共に生活するには、一人ひとりが周囲の方々に対し、一定程度の配慮をすることが求められると言えるわけです。その配慮が不足した場合、それが些細なことであってもトラブルに発展しがちであり、誰もがトラブルに巻き込まれたり、トラブルの原因になったりする可能性が高まると言えるでしょう。

(2) 障害のある方の指導・育成に向けて ~ その指導法を学ぶ

 共生社会の実現に向けては、社会に参加する個人の側にも、それを実現する社会の側にも、それぞれ「学び」が必要です。「学び」には自己学習の手法もあるものの、指導を通じた「学び」が、特にルールにまつわるものについては重要になります。その指導の役割は、家庭と、学校や社会などの各活動の場とで、それぞれが、それぞれの役割を担うことが必要でしょうし、その手法を学ぶことが必要になると言えます。

参考:
J-STAGE
学びの場が生まれるとは
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/54/0/54_153/_pdf

労働安全衛生総合研究所
行動分析学との遭遇
http://www.jniosh.go.jp/publication/mail_mag/2011/36-3.html

2. 「育てる」のキーワード「ホメる」の効果と課題 ~ ただ「ホメれば良い」という勘違い
(1) 「ホメて育てる」にまつわる勘違い

① ホメて育てる、とは?

指導・育成の方法として、「ホメて育てる」ことの重要性が指摘されていますが、その要点は次のようになります。

「(他人である)人は、(本人である)人の悪い点に着目して、それを修正しようとしがち。そうではなく、より(本人の)良い点に着目し、それをホメることを通じて育てることで、(本人である)人は成長するだけでなく、持てる能力を発揮できるようになる」

 このような育て方によって、下図のような回路がまわりはじめると考えられています。「強みを伸ばす」というようなものもありますが、言っていることは「ホメて育てる」と基本的には同じです。

「図-ホメて育てることの効果」

② 「ホメて育てる」における勘違い

 「ホメて育てる」ことは、それが正しい理解の上で実践される場合、非常に効果の高いものになると考えられます。一方でその「キーワードの強力さ」からか、本来の意味から外れた理解をされるケースが散見される状況にもあります。「ホメる」という部分だけが強調されすぎ、誤った理解が広がってしまっている部分があるのです。

その誤った理解とは、
「人を育てるときには、ただホメさえすればよい」という誤解のことです。

(2) ただ「ホメるだけ」の問題点

① ホメることが強調される理由

 ホメることが強調されるのは、人が「悪い点」「欠点」に目が行きがちであるという前提に立っているからです。また、ホメるのは「良い点」であって、「悪い点や悪い行い」ではありません。

② 悪いことすら「ホメる」とどうなるか?

 たとえば、約束した勉強をまったくしない子どもに対し、「ただホメる」を実践しようとして、「あなたは、やればできる子なのだ」という声がけをし続けると一体どうなるのでしょう? 実は「やればできる」と言われ続けることで、「いつかやればいい」と、何でも先延ばしにするようになると言われています。

またそればかりでなく、やったこともないのに「やればできる」という根拠のない自信だけが巨大化し、できない場合は「自分に問題があるのではなく、他人やそのものに問題がある」ととらえるようになるとも言われているのです。

③ 社会を共に生きる上での能力の不足

すでに見てきているとおり、人が社会で生きようとすると、さまざまなルールを守ることが必要です。しかし「ただホメるだけでは」最低限のルールを守るという能力が磨かれないのです。

これでは、せっかく共生社会の実現を目指そうとしているのにもかかわらず、また、障害の有無によらず広く社会で活動できるようにしていこうとしているのにもかかわらず、自らその社会への参加を拒むようなことになりかねません。

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参考:
J-STAGE
学びの場が生まれるとは
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/54/0/54_153/_pdf

労働安全衛生総合研究所
行動分析学との遭遇
http://www.jniosh.go.jp/publication/mail_mag/2011/36-3.html

立命館大学人間科学研究所
「障害」と行動分析学
http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publication/ningen_02/02_011-019.pdf

3. オペラントの条件付けと指導・育成のあり方
(1) オペラントの条件付けとは?

① オペラントの条件付けとは?

オペラント条件付けとは、行動主義心理学の基本的な理論です。
実はある一つの行動というものは、

1)「刺激:どのような条件や状況のとき」
2)「反応:どのような行動が見られ
3)「反応の結果:どのようなことが起きたのか」

の3つに分解することができます。

オペラントの条件付けでは、報酬や罰といった「反応の結果」、つまり、「行動の結果として得られるものや与えられるものに適応して、自発的に行動を行うようになること、つまり、<反応>できるようになること」を、「学習すること」として理論づけています。

現在では、動作や運転などの技能訓練、嗜癖や不適応行動の改善、障害児の療育プログラム、身体的・社会的リハビリテーション、e-ラーニングなど、幅広い領域で応用されています。

② オペラントの条件付けの全体像

「図-オペラントの条件付け、その全体像」

 オペラントの条件付けにおける学習のパターンには、大きくは次の4つのものがあるとされています。それぞれの学習の方法についてはこの後見ていきますが、まずは、少なくとも4つの学習方法を組み合わせて、指導・育成をすることが必要になるのだ、という点を押さえてください。

1) 正の強化
2) 負の強化
3) 正の弱化
4) 負の弱化

なおここで言う「強化」とは、行動に対して積極的になることを言います。一方「弱化」とはその逆に行動に対して消極的になることを言います。

③ 反応を促す刺激

 先に、行動は、「刺激」「反応」「反応の結果」の3つの要素に分解できることを確認しました。実はあるときの「反応の結果」は、次に似たような場面で「反応」する際の「刺激」というとらえ方ができます。
オペラントの条件付けでは、この「刺激」を2つに分類しています。

1) 強化刺激(好子・強化子とも言います)
「お小遣いをもらった」「反響があった」など、いわゆるご褒美のことを言います。「ホメられる」ことも、この強化刺激にあたります。

2) 嫌悪刺激(嫌子・罰子とも言います)
「叱られた」「無視された」「好きなことをさせてもらえなくなった」「悪い印象を持った」など、罰や、行動を消極的にした要因のことを言います。

④ オペラントの条件付けにおける4つの学習パターン

 ここまで見てきたことを用いて、オペラントの条件付けにおける4つの学習パターンを確認していきましょう。

1) 正の強化
ホメられることやご褒美といった強化刺激を与えられることにより、行動が強化されることを言います。たとえば、

お手伝いをした → ホメられた → お手伝いを率先して行うようになった

という場合、「ホメられる」という強化刺激が与えられたことで、「お手伝い」という行動が強化されています。

2) 負の強化
「叱られる」などの嫌悪刺激を取り除くことにより、行動が強化されることを言います。たとえば、

 手伝いをしないと叱るというルールを作った → 叱られたくない → 手伝いをする

という場合、「叱られるというルール」が実行されることをなくすこと、叱られるという嫌悪刺激を回避することを目的に手伝いをするという行動が強化されています。

3) 正の弱化
「叱られる」などの嫌悪刺激を与えられることにより、行動が弱化されることを言います。たとえば、

 ルールを破る → 叱られる → ルールを守る

という場合、「叱られる」という嫌悪刺激を与えられたことにより、「ルールを破る」という行動が強化されています。

4) 負の弱化
ご褒美などの強化刺激を取り除くことにより、行動が弱化されることを言います。たとえば、

何かを欲しいとごねた → 無視された → ごねるのをやめた

という場合、「希望を聞いてもらう」という強化刺激が与えられず、無視されたことにより「ごねる」という行動が弱化されています。

(2) オペラントの条件付けを指導・育成に生かす

 オペラントの条件付けにおける学習の4パターンを見ると、指導・育成におけるポイントが明確になるのではないでしょうか? それは、

① 少なくとも「ホメる」だけでは、好ましくない行動を抑制したり、修正したりすることはできない
② 指導・育成される側、つまり、障害のある方にとっての「嫌悪刺激」は、一定程度行われる必要がある
③ 不適切な場面でも「ホメる」というような「強化刺激」を与えてしまうと、不適切な行動を助長することになる

つまり、「ホメる」「叱る」のバランスと、適切な使い方が重要になるのです。

(3) オペラントの条件付けとペアレント・トレーニング

 オペラントの条件付けを上手く利用したものの例としては、ペアレント・トレーニングがあります。

① ペアレント・トレーニングとは?

 ペアレント・トレーニングは、保護者の方を対象に、子どもの適切な養育技法を指導するプログラムの総称です。そもそもは子育てに悩み、ストレスを感じ、また不安を抱える保護者の方に、子どもとの適切な関わり方を教えるものとしてアメリカで開発されたものです。つまり保護者の方に子どもの養育技法を身につけてもらうことが主眼となっているプログラムだということです。

② ペアレント・トレーニングに見られるオペラントの条件付けの適用 ~ ペアレント・トレーニングに見られるホメ方、計画的な無視の仕方、指示の出し方

ペアレント・トレーニングでは、子どもの行動を、「増やしたい行動」「減らしたい行動」「止めさせたい行動」の3つに分け、それぞれの対応方法を学んでいきます。

1) 増やしたい行動の場合
基本的にはホメる、ことになります。ホメられることによって、「どのような行動をとればホメられるのか」を理解させるということです。このとき、くり返すこと、が重要。何が好ましい行動なのかということを理解していくことにつながるということです。オペラントの条件付けに当てはめれば、「正の強化」に当たります。

2) 減らしたい行動の場合
「計画的な無視」、「次にすべき行動の指示」、「その子どもが好むことを与えない」といった対応をします。計画的な無視とは、事前に明確に位置づけた「減らしたい行動」について、その行動をとった場合は無視をするということです。これは、オペラントの条件付けに当てはめれば、「負の弱化」に当たるものです。

3) 止めさせたい危険な行動の場合
まずは、子どもの視線に入るよう近づき、視線を合わせ、冷静に落ち着いた声で、その行動は止めなければならない危険な行動であることを伝えます。さらにその行動をやめるまでの時間的な猶予とその行動をやめなかった場合に子どもが失うもの、たとえば、好きなことがやれなくなるといったことを提示します。

それでもやめなかった場合、実際に提示した「失うもの」を実際に行います。これは、オペラントの条件付けに当てはめれば、「負の弱化」と「正の弱化」の組み合わせに当たるものです。

(4) 指導・育成の場面でのポイント ~ くり返す、一貫性、CCQの態度

「図-指導育成の場面での接し方のポイント」

ペアレント・トレーニングで学ぶ子どもとの接し方は、保護者の方の養育の場面だけでなく、企業等の働く場における指導・育成でも応用が可能でしょう。つまり、各行動について、「増やしたい行動」「減らしたい行動」「止めさせたい危険な行動」に分類し、計画的な対応を取るということです。このとき重要になるのは次の3点です。

① くり返す

一つ目は、「くり返すこと」です。一度でできるようになることを期待するのではなく、くり返される中で学んでいくことを期待するということです。

② 一貫性

くり返す際に注意すべきことが、ポイントの二つ目になります。それは、減らしたい行動や止めさせたい行動について指導する場合、指導したりしなかったりというようなことが起こらないよう、一貫性を持った対応をすることです。「これをやるといつもは指導されるのに、今回は指導されなかった」というようなことがあると、「やっても良い行動」としてとらえられ、「負の強化」の回路に陥ってしまう可能性があるからです。

③ CCQの態度

最後のポイントは、特に止めさせたい行動の際には、CCQの態度で接するという点です。CCQとは、C=close(近づき)、C=calm(穏やかに)、Q=quiet(冷静に)ということ。つまり、感情的になって指導しないことが重要だということです。

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参考:
Kumano’s Information Base
オペラント学習と行動療法
http://hikumano.umin.ac.jp/hosei/CBT4.pdf

J-STAGE
学びの場が生まれるとは
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/54/0/54_153/_pdf

労働安全衛生総合研究所
行動分析学との遭遇
http://www.jniosh.go.jp/publication/mail_mag/2011/36-3.html

立命館大学人間科学研究所
「障害」と行動分析学
http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publication/ningen_02/02_011-019.pdf

最後に

 「ホメて育てる」の誤った理解により、本当に必要な指導・育成がなされないケースが多く見られるようになっています。「ホメて育てる」とは、少なくともただホメればよいといったものではありません。「好ましい行動」を積極的にホメることは大切ですが、「減らしたい行動」「止めさせたい危険な行動」をあたかもホメるように対応することは推奨されていないばかりか誤った対応なのです。

 その理論的な背景の一つに、動作や運転などの技能訓練、嗜癖や不適応行動の改善、障害児の療育プログラム、身体的・社会的リハビリテーション、e-ラーニングなど、幅広い領域で応用されているオペラントの条件付けがあります。

 この理論に従えば、増やしたい行動については「正の強化」を、減らしたい行動や止めさせたい危険な行動については「正の弱化」や「負の弱化」といった手法をそれぞれ中心に据えながら指導・育成していくことがポイントになると言えます。

 ただ、いずれも一度で身につくようなものではないのも事実です。くり返し、一貫性をもって、また、減らしたい行動や止めさせたい行動の場合はCCQの態度で指導することが重要になるということです。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
Kumano’s Information Base
オペラント学習と行動療法
http://hikumano.umin.ac.jp/hosei/CBT4.pdf

J-STAGE
学びの場が生まれるとは
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/54/0/54_153/_pdf

労働安全衛生総合研究所
行動分析学との遭遇
http://www.jniosh.go.jp/publication/mail_mag/2011/36-3.html

立命館大学人間科学研究所
「障害」と行動分析学
http://www.ritsumeihuman.com/uploads/publication/ningen_02/02_011-019.pdf

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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