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障害のある子どもたちが望むあたたかみ ~「子どもの本当の気持ち」を「子どもの本当の気持ちになって」考えるということ~

発達障害

はじめに
英語のEmpathyとSympathyは共に「共感」を意味する言葉です。しかし、Empathyは「実際に他人の立場になって理解をする」のに対して、Sympathyは「可哀想などと同情をする」というニュアンスを持つ言葉。つまり、一口に「共感」といっても、「共感の仕方」には違いがあるということです。では、みなさんはどちらの「共感」で子どもたちと接してらっしゃるでしょう?

特別支援教育を大学で専攻していた筆者は子どもたちを「みて、知って、受け止め、彼らの気持ちを出来る限り理解すること」を常に意識していましたが、一連の学びの中で見えてきたもののひとつに、「子どもたちが望むあたたかみ」があります。

ここでは、筆者が大学時代に関わった子どもたちとのエピソードをもとに、「子どもたちが望むあたたかみ」について、「共感のあり方」にも注目しながら、筆者が感じたことをまとめています。



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1. 「あたたかい」の意味から「あたたかみ」を考える

「図-筆者が考える「あたたかみ」とは?」
「あたたかみ」とは?

みなさんは「あたたかい」という言葉にどのようなイメージをお持ちでしょうか?

「あたたかい」には「暖かい」と「温かい」の漢字が使われます。辞書を調べると、「暖かい」という言葉は、「寒すぎもせず、暑すぎもせず、程よい気温である。色感がやわらかく、冷たい感じがしない」という意味を持ちます。また、「温かい」という言葉は、「物が冷たくなく、また熱すぎもせず、程よい状態である。思いやりがある。いたわりの心がある」です。

つまり、「あたたかい」とは「程よく、やわらかく、思いやりやいたわりの心があるということだ」と言えるでしょう。それでは、学校以外の子どもたちが望むあたたかみとは何でしょうか?

筆者は、「家庭だ」と考えます。つまり、「あたたかみ」とは、子どもたちにとって包み込まれるような思いやりにあふれた家族とその場所であることだ、ということです。

2. 中学生Bくんのエピソード
(1) 出会ったころのBくんとお母様

中学校1年生だったBくんと出会ったのは、筆者が大学1年生のころです。希有な巡り合わせで、発達障害のBくんの学習支援をさせて頂くことになりました。Bくんはとても優秀で、中学校に入るまでは、学習に関して、特に問題はありませんでした。

しかし、中学校から出される課題や提出物に追われるようになり、学校で勉強し、家に帰ったら「勉強をしなければならない」環境に置かれるようになりました。そして、Bくんは疲弊のあまり、嘘をついてその場をごまかしたり、宿題をしなくなったりしました。

一方お母様は、Bくんが学校の勉強をしないことで成績が下がることを心配していました。また、これまで嘘をついたりごまかしたりしたことがなかったBくんの変化に戸惑っていました。

(2) Bくんとご両親の疲弊の回路

「図-子どもの態度のメカニズムの一例1」
子どもの態度のメカニズムの一例1

教科ごとに担当教員が異なり、定期考査も始まる中学校に進学すると、小学校の時にはあまり言われなかったであろう「勉強をしなさい」という言葉を聞かなくてはならない子どもたちも増えてくるという現実があります。学年が上がり、高校受験を乗り越えても、今度は単位を落とせば留年が待っている高校生活が待っていることも、保護者の方を含め周囲の方が「勉強をしなさい」という言葉をかける大きな理由の一つでしょう。

子どもの今と将来のことが心配のあまり、「宿題は終わった?」「提出物はした?」「テレビよりも勉強をした方がいいんじゃない?」と子どもに問う。保護者の方にとって、子どもは宝であり、大切な存在ですので、心配する気持ちも本当によくわかります。

しかし、会話の中心が勉強のことばかりで、それが度を超すような状態になってしまうと、子どもも保護者の方もお互いに疲弊してしまいます。子どもにしてみれば、学校でも家庭でも勉強のことばかり、勉強に追い立てられるような状態になってしまい、また保護者の方にとってみれば、仕事・子どもの勉強などなど心配事だらけで、気が休まることがない状態になってしまうと考えられるからです。

(3) Bくんの本当の悩み

発達障害者支援法において、「発達障害」は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」(発達障害者支援法における定義 第二条より)と定義されています。しかし、障害の程度は一人ひとりさまざまであるので、「その人自身」に目を向け、何が好きで何に困難を抱えているのかを考えることが大切です。

Bくんの場合、「お母様の勉強をしてほしいという想いを理解して勉強を頑張ろうとしているけれども、何をどうしていいかわからない」と悩んでいました。つまりBくんは「勉強をしなければならない」けれども、「何をどうしていいのかわからない」という葛藤に苦しんでいたのです。その結果、「嘘やごまかし」をすることによって、その苦しみから逃れようともがいていた、と考えられます。

(4) お互いの気持ちの理解とあたたかみ

Bくんがお母様の想いに応えようとする一方で、それが出来なくて苦しんでいることを理解したお母様と筆者は、Bくんも交えて話し合いを何度も行い、最終的に構造化支援をしていくことを決めました。

構造化支援とは、個々の特性や状況に合わせて、その方が理解しやすい環境をつくる工夫・方法のことで、たとえばスケジュールを書きだすといった「時間の構造化」、学習の場と食事の場との切り分けを行うといった物理的な「構造化」、やるべき作業について、その手順を示すなどの工夫を行う「活動の構造化」などがあります。

お母様はBくんの気持ちを、実際にBくんの気持ちに寄り添いながら親身に考えていました。つまり、Empathyという意味の共感がそこにはありました。そして、構造化支援を通じて、「Bくんの苦しみ」と「お母様の心配」を、関係者全員で受け止め、共有し、支援の具体的な内容を考え、行動していくことで、家庭での「あたたかみ」が、本当の意味で感じられるようになっていきました。

家庭がBくんにとって、「あたたかみを感じられる場」になったことで、Bくんの嘘やごまかしはなくなり、勉強もBくんのペースで進めていくことが出来るようになりました。さらに、お母様の心配は「今と将来への不安」から「一緒にがんばろう」というあたたかいもの変わっていったように感じます。

参考:
発達障害情報・支援センターホームページ
http://www.rehab.go.jp/ddis/
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所ホームページ
第二節 指導方法・教育環境  第三項目 構造化の実際
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_d/d-210/d-210_02_02_03.pdf

3. 小学生のCさんのエピソード
(1) 出会ったころのCさん

小学校3年生であったCさんと出会ったのは、筆者が大学1年生のころです。特別支援教育講座の先輩からの紹介で、Cさんの心のケア・サポートをさせていただける御縁に巡り合うことが出来ました。

そのころのCさんは、大人に気を遣うことが染みついていました。小学校3年生であるにも関わらず、大人に対して適切な敬語を使い、大人の気持ちを読み取りながら接するような子どもだったのです。そのような接し方ができることは「すごい」「しっかり者」「礼儀正しい」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そのような学齢相応以上の態度の裏には、深刻な問題をはらんでいる場合があります。

(2) 子どもをその一面から定義してしまうことのリスク

「図-子どもの態度のメカニズムの一例2」
子どもの態度のメカニズムの一例2

実際、Cさんは複雑な家庭の事情を抱えていました。つまり、本当の自分を「大人に対する、適切と考えられる態度、というベール」で包み隠し込んでいたのです。このように、子どものある態度を一側面からだけでとらえ、その子自身を「こういう子」と定義づけてしまうことはとても危険なことなのです。

Cさんが小学校3年生にして敬語を使いこなすことに長けているのは、それだけ大人同士が敬語で話をする姿を見てきたから。大人の気持ちを読み取りながら、それに応じで気を遣うことが体に染みついているのは、大人の感情の流れや起伏に応じて接してきていたから。

実際出会ったころのCさんは、筆者に対しても非常に気を遣っていました。そのころの筆者はCさんに、程よいやわらかみのある「あたたかみ」の中で、他者との関係を構築していけるような人になってほしいと思っていました。

(3) 「あたたかみ」の中でこそ「ありのまま」で居られる ~キラキラとした目が語る「ありのまま」

「ありのままの自分で居ていいんだ」と思ってもらえるように、筆者は自身の心を開き、ありのままの自分で、Cさんと関わりを続けました。Empathyの姿勢で接し続けたということです。それと同時に、Cさんを「みて、知り」、彼女の成長をあたたかく見守り、あたたかく受け止めることに努めました。すると一か月を過ぎたあたりから、徐々にCさんは筆者に対して「ありのままの姿」で接するようになっていました。

「ありのまま」のCさんは、「先生! ○○したい!」「先生! みてみて!」「先生! 今日学校でこんなことがあって・・・」など、伝えたいこと、共有したいことがたくさんある子でした。そして、話をしているときのCさんは、目をとてもキラキラとさせていました。話をすることだけではなく、お誕生日会、女子会、たこ焼きパーティー、クリスマス会、お花見、あておに、風船バレー、水風船、ドッジボール、おにごっこなど、Cさんとは本当に色々なことをしました。

(4) 子どもはいつだって親に甘えたく、親の「あたたかみ」を欲している

Cさんとお互いに心を開いて接するうちに気づいたことがあります。それは、「ご両親のことを話してくれる時に最も喜怒哀楽の感情が表れる」ということです。

「お母さんが○○買ってくれたんよ~」というときには、本当に嬉しそうな顔で、その詳細について話してくれました。一方、「今日お母さんと喧嘩した」というときには、本当に悲しそうで、寂しそうでした。そのころ、Cさんは筆者に対してとても甘えてきていました。

筆者は極力、出来る限りの要望は受け入れていました。あるとき、「○○したいとか○○してほしいとか、先生だけにしか頼めんもん。家で言っても、やってくれんもん」と、Cさんが悲しそうな表情でぼそっと呟いた一言がとても心に残っています。そのときに初めて、Cさんが本当に甘えたい相手はご両親で、それが叶わないから筆者に甘えているのだと気づきました。やはり、子どもたちが一番望んでいるのは「家庭のあたたかみなのだ」と改めて感じました。

4. 心に灯がともる「あたたかみ」

子どもには年齢や発達に応じた発達段階があり、その段階に応じた学びは必要です。

乳幼児期には、愛着の形成・基本的な生活習慣の形成などが重視すべき課題として、また学童期においては、善悪の判断・規範意識の基礎の形成・自己肯定感の育成・自他の尊重の意識や他者への思いやりなどの涵養などが、重視すべき課題として提示されています。(出典:文部科学省ホームページhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題 

ただ、ここで注意していただきたいと筆者が心から思うのは、段階が変わっても、子どもを「あたたかみ」の溢れる愛情で包み込むことが何より大切なのだという点です。つまり、「あたたかみ」という土台があった上で、各発達段階で重視すべき課題があるのだということです。

筆者の母親は、筆者が中学生だったある時、ぎゅっと抱きしめてくれました。それまで、意見のぶつかり合いが多く、家が嫌だと思っていました。ですが、その時は母親の大きな愛を感じ、とても幸せな気持ちになったことを今でも覚えています。家に帰ると、「あったかいな」と思えるような家庭を子どもたちは望んでいるように思います。

参考:
文部科学省ホームページ
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

最後に

 ここでは、筆者の関わった子どもたちのエピソードをもとに、子どもたちが望む「あたたかみ」について、「子どもの本当の気持ち」を「子どもの本当の気持ちになって」考えるということをテーマに紹介させて頂きました。

子どもたちと接する上で大切にしてほしいことは、実際に子どもたちの気持ちになって理解をしようとすること。つまり、Empathyという意味での共感です。筆者は、子どもたちが純粋に「あたたかみを欲している心」を、これからも大切にしていきたいと思っています。

この記事を読んでくださった方の中に、子どもと接するときに「子どもの気持ちを子どもの気持ちになって考える」ことを少しでも意識してみようと思ってもらえた方がいらっしゃったならば、大変うれしく思います。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
発達障害情報・支援センターホームページ
http://www.rehab.go.jp/ddis/

独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所ホームページ
第二節 指導方法・教育環境  第三項目 構造化の実際
https://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_d/d-210/d-210_02_02_03.pdf

文科省ホームページ
3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/shiryo/attach/1282789.htm

向井美沙希

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岡山大学教育学部卒,特別支援教育専攻

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金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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