就労移行支援とは? 事業所選びのポイント

障害者就労

はじめに
障害のある方を就労面で支援するサービスに就労移行支援があります。就労移行支援は、基本的には「2年間という限られた時間の中で、必要な知識やスキルを身につけながら一般就労を目指すための支援」と「就業後に発生する課題の解決などの支援」とを受けられるサービスです。

ここでは就労移行支援について、受けられる支援の具体的な内容や利用する際のサービスを提供する事業所選びのポイントなどをまとめています。



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1. 就労移行支援とは?

「図-就労移行支援で受けられるサービス」
就労移行支援で受けられるサービス

(1) 就労移行支援とは?

就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づくサービスです。

この法律の中の訓練給付に位置づくサービスで、主に一般企業への就労を希望する65歳未満の障害のある方に対して、生産活動や職場体験などの機会の提供を通じて、就労に必要となる知識や能力の向上のための訓練や就労に関する相談などの支援を行うものを言います。

(2) 就労移行支援で受けられるサービス

就労移行支援で受けられるサービスは、大まかには次の3点です。

① 職業訓練
② 適性に合った職場探し
③ 職場定着のためのサポート

(3) サービスを提供する事業所数

就労移行支援をサービスとして提供する事業所は、平成28年時点で3,323事業所あり、平成25年に比べて700事業所程度増加しています。

障害のある方の一般企業への就労ニーズの高まり、障害者雇用促進法の改正などを受けた障害のある方の一般企業側の雇用に関する関心の高まりなど、社会的なニーズの高まりを受け、年々増加傾向にあると言えます。

(4) 利用対象となる方

就労移行支援サービスを利用できるのは、次の3つの条件を満たしている方になります。

① 原則18歳以上から65歳未満の方
② 身体障害・知的障害・精神障害や難病の方
③ 企業等での就労または開業を希望する方で、それが可能であると見込まれる方

障害者総合支援法に基づくサービスであるため、障害者手帳を持っていない方でも、障害福祉サービス受給資格および医師の意見書等があれば、自治体の判断により利用できるサービスです。

ただし、実際の運用は各自治体で行われていることから、サービスを受けられるかの具体的な基準は市区町村によって異なる場合があります。

よって、就労移行支援サービスを受けることを希望される場合には、その詳細をお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に問い合わせていただく必要があります。

(5) 利用期間

就労移行支援の利用期間は原則2年間以内となっています。つまり、就労移行支援のサービスを受ける2年の間に職業訓練を受けつつ、職場探しを行い、就労を目指していくことになります。ただし、何らかの必要性が認められた場合には、最大12カ月の延長利用が可能となっています。

参考:
厚労省
サービスの体系
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html
平成 28 年 社会福祉施設等調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/16/dl/gaikyo.pdf

2. 就労移行支援で受けられる具体的なサービス内容
(1) 職業訓練

就労移行支援を受けられるようになると、サービスを提供する事業所に定期的に通所し、就労に必要な知識やスキル、職場マナーなどを身につけるためのプログラムに参加することになります。

それまでの就労経験や障害の特性、その程度などによって、困りごとや課題が一人ひとり異なるため、個別支援計画を作成し、その方に合った目標を立てて取り組むことになります。

作業や講義といった事業所内で取り組むもののほか、企業に数日~数週間程度の職場実習に行くものなど、事業所によってそれぞれ独自のプログラムを実施しています。

① 職業訓練を通じた支援、知識やスキルの獲得等以外の目的

 就労移行支援には、職業訓練を通じた知識やスキルを身につけるだけでなく、以下のような視点での生活スキルを伸ばす意味合いもあると言えます。

1)週5日、1日あたり5時間など、決まった時間に決まった場所に通いプログラムに参加することで、継続就労が可能な体力をつける
2)決められた作業を、継続して、あるいは、集中して取り組む習慣をつける
3)自分がどんな作業に向いているか、どんなことでつまずきやすいかを知る
4)職場で行うことを知り、一連の業務の流れに慣れる
5)あいさつや言葉づかい、服装など、職場にふさわしいマナーを身につける

② 就労移行支援でおこなわれる具体的なプログラムの例

就労移行支援では、さまざまなプログラムが提供されています。具体的な例として、以下のようなものがあります。

1)ビジネスマナー(あいさつのしかた、言葉づかい、身なりなど)
2)コミュニケーショントレーニング
3)パソコントレーニング(ソフトの活用スキルの向上、基本的なデータ処理など)
4)基礎学習(読み・書き・計算など)
5)一人ひとりの適性に合わせた能力開発訓練
6)職場見学・実習 など

(2) 適性に合った職場探し

職業訓練や体験実習を通じて、自分の働き方のイメージができるようになると就職活動を行っていくことになります。就労条件を考えたり、就職試験を受けたりといった、就職活動の計画を事業所スタッフと相談しながら作成し、実際の就職活動を進めていきます。

就職活動講座を行っている事業所や独自に職場開拓を行って求人紹介をしている事業所もあります。面接などの場に事業所スタッフが同行してサポートする場合もあります。

ただし、就労移行支援事業所の主な役割は、ハローワークや障害者就業・生活支援センター、障害者職業センター等と連携し、ご本人にとって最適な職場を見つけるサポートを行うことです。

このため、就労移行支援事業所が直接職業紹介を行うことは制度上できないという点には注意が必要です。

① 主な支援の内容

 以上のようなサポートの内容から、職場探しにおいては、次の4点で支援が受けられると言えるでしょう。

1)自分のペースに合わせて就職活動を進める支援
2)自分の特性や希望条件に合った職場を探す支援
3)企業への自己PRの方法、ご自身の障害の特性や支援してもらいたい点などの伝え方を学ぶ支援
4)実際の就職試験・面談を受ける際のサポート支援

(3) 職場定着のためのサポート

就労移行支援は、就労されたご本人が自立して働き続けられるよう、ご本人と雇用した企業をサポートすることを最終的な目的としています。よって、企業から内定をもらい受諾したら就労移行支援のサービスが終わるということではありません。

入社後6ヶ月間は、就労された方の業務や職場環境への適応状況など、事業所のスタッフが直接職場に訪問して確認することになります。その後も、何か困ったことがあれば事業所に相談できます。

たとえば、就職先に直接言いにくいようなことを事業所スタッフがご本人代わって連携するなど、ご本人が長期間継続して就労するための支援が受けられるということです。

【関連記事】
障害者の方の職場定着支援と就労定着支援事業について
https://jlsa-net.jp/syuurou/teityakushien/

① 主な支援内容

 以上のようなサポートの内容から、職場定着においては、次の3点で支援が受けられると言えます。

1)入社後の慣れない環境での困りごとなどを解決する支援
2)長期間継続して働くための、業務や生活のペース配分とそのサポートに関する支援

独立行政法人 福祉医療機構 WAMNET ホームページ
就労移行支援
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-20.html

3. 就労移行支援を利用されている方
(1) 障害の種別

国民健康保険団体連合会のデータから厚労省が算出した結果によると、就労移行支援の利用者数は、平成25年の時点で26,000人あまり。そのうち半数が知的障害のある方、4割弱が精神障害のある方、2割が身体障害のある方となっています。

特に精神障害のある方の利用が増加しており、5年間で3倍以上となっています。

(2) 年齢

利用者の年齢層は、平成27年12月現在で30歳未満の方がおよそ半数を占めています。30代の方が4分の1程度、40代の方が2割弱で、50代以上の方は1割弱となっています。

参考:
厚労省ホームページ
第6回 精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会 資料5
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000026672.pdf
就労移行支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/3b.pdf
平成 28 年 社会福祉施設等調査の概況 – 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/16/dl/gaikyo.pdf

4. 就労移行支援、利用のステップ

就労移行支援を受けるには、実際の支援を受ける事業所選びと利用申請・手続きの大きく2つを行う必要があります。

(1) 事業所選びのポイント

「図-就労移行支援、事業所選びのポイント」
就労移行支援、事業所選びのポイント

先にお示しした通り、就労移行支援事業所は、平成28年時点で全国に3,323ヶ所設置されています。また、事業所ごとに実施されているプログラムなどの支援内容や施設の雰囲気などが異なります。

このように数も多く、提供されるプログラムなどの質という面でも幅広いため、ご本人に合った事業所を選ぶのは大変な面もあります。

そこで、次のような視点で重視したいポイントを整理した上で、市区町村の窓口へ相談し、事業所への見学・体験を行うと良いのではないでしょうか。

① ご自身が求めるプログラム内容と、事業所が提供するプログラム内容とが合っているか

ご本人が伸ばしていきたいスキルや知識などと、事業所が実施しているプログラムの内容が合っているかは、事業所選びのもっとも重要な視点の一つです。

職業訓練や定着支援のプログラムの内容を確認するだけでなく、見学・体験し、必要な知識やスキルなどを身につけることができそうか実際に確認することをおすすめします。

② 事業所の環境や雰囲気

実際に就労移行支援サービスを受けることになると、サービスを受ける事業所は、多くの時間を過ごす生活の場にもなります。このため事業所の環境や雰囲気といったものがご本人に合っているかは、事業所選びの非常に大切な視点と言えます。

就労に向けた訓練を受けるという意味で集中できる環境にあるか、人間関係が良好に築けるかなどを見学や体験を通して確認することも大切だということです。

③ これまでの就労実績

就労移行支援は、実際に就職し、その後就職した企業で長く働くことを目的とした支援です。居心地の良さなどだけでなく、ご本人が希望する職種への就職実績があるかなどを加味して選択する必要もあると言えるでしょう。

なお、平成25年のデータによれば、就労移行支援事業所から一般就労への移行率は24.9%で、年々上昇しています。

また、一般就労への移行率が20%以上の就労移行支援事業所の割合も4割以上にまで上昇しています。一方で、一般就労への移行率が0%の事業所が3割強存在しているというのも事実です。

(2) 利用申請・手続きの流れ

「図-就労移行支援、利用申請・手続きの流れ」
就労移行支援、利用申請・手続きの流れ

就労移行支援の利用にあたっては、市区町村の窓口に利用申請を行い、その利用が認められた場合に利用が可能となります。実際の申請の流れは図に示すとおりです。

参考:
厚労省
平成 28 年 社会福祉施設等調査の概況 – 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/16/dl/gaikyo.pdf
サービスの利用手続き
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/riyou.html

5. 就労移行支援を利用するメリットと注意点

就労移行支援は、一般就労を目指すときに必ず利用しなければならないというようなサービスではありません。ただし、このサービスを利用することでさまざまなメリットも考えられます。

一方で、サービスを利用すれば必ず一般就労ができるというものではなく、利用にあたっては注意したい点もあります。

(1) メリットとして考えられること

障害の有無を問わず、就労に向けた活動を一人で行うのは非常に大変なことであり、孤独なことでもあると言えます。就労移行支援サービスは職業訓練から職場探し、職場への定着までの一連のプロセスが支援の対象となっているサービスです。

ここから考えると、その利用には以下のようなメリットがあると考えられます。

① 職業訓練で就労に必要な知識・能力を身につけることができる
② マナーなど、社会性を身につけることができる
③ 障害に対する適切な配慮を受けながら就職活動ができる
④ 自分のスキルや障害の特性に合った職業を紹介してもらえる
⑤ 事業所での活動の様子など、企業側に伝わりやすい
⑥ 就職後も、必要に応じて相談ができるなど、必要な支援が受けやすい

(2) 利用上注意が必要と考えられる点

就労移行支援サービスは、サービスを提供する事業所ごとにそのプログラムなどサービスの内容が異なるため、どの事業所でもご自身に合ったサービスが受けられるというわけではありません。よって、まずは事業所の特徴を十分見極めることが必要なサービスだと言えます。

また、就労移行支援サービスを受けられるのは、一般就労を目指す障害や難病のある方です。支援を受けるということは、ご自身が障害のあることを明かすことでもあります。この「障害のあることを明かすこと」に抵抗を感じられる方はいらっしゃるでしょう。

障害のある方が就労する場合、一般雇用枠での就労と障害者雇用枠での就労との大きくは2つの道がありますが、障害者雇用枠での就労の場合、求人条件がご自身の知識・スキルや目標と合わないケースも考えられます。

よって、就労移行支援を使って就職活動を行う場合には、一般雇用枠で応募するのか、障害者雇用枠で応募するのか、つまり、ご自身の障害をオープンにするのかしないのかなど、ご本人の希望を明確にし、事業所のスタッフの方とも話し合いながら進めることが大切になると言えます。

参考:
厚労省ホームページ
就労移行支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/3b.pdf

最後に

障害のある方が、一般就労を目指すときに利用できるサービスが就労移行支援です。就労移行支援は、障害のある方が長い期間に渡って安定的に就労できることを目的としたサービスで、職業訓練、適性に合った職場探し、職場定着のためのサポートといった支援を受けられます。

社会的なニーズの高まりを受け、実際のサービスを提供する事業所は増えていますが、提供されるサポートプログラムが事業所ごとに異なるなどその特徴がそれぞれ異なります。 

また、一般就労とひと言で言っても、一般雇用枠で就職するか、障害者雇用枠で就職するかなども含め、その後の就業環境や条件なども異なります。

ご自身がどのような支援を必要としているのかはもちろん、どのような形で就業したいのかも含めて、よく検討したうえで実際にサービスを提供する事業所を選択するとともに、事業所のスタッフともよくコミュニケーションを取りながら利用することが大切になると言えるでしょう。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省ホームページ
サービスの体系
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/taikei.html
平成 28 年 社会福祉施設等調査の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/fukushi/16/dl/gaikyo.pdf
第6回 精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会 資料5
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000026672.pdf
就労移行支援について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/3b.pdf
サービスの利用手続き
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/riyou.html

独立行政法人 福祉医療機構 WAMNET ホームページ
就労移行支援
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/c078-p02-02-Shogai-20.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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