介護保険制度 認知症を含む高齢者の生活を支援するしくみ
はじめに
介護保険制度は、高齢者福祉の視点でつくられた制度です。一方、認知症に関して言えば高齢者の認知症だけでなく、若年性のものも含め支援の対象となっている制度でもあります。ここではそんな介護保険制度について、制度の基本的な内容などをまとめています。
1.介護保険制度とは?
2.介護保険制度の具体的なしくみ ~ 社会保険制度としての介護保険制度
3.介護保険サービスを受ける際の自己負担
4.介護保険制度の中で選択できるサービス
5.介護保険サービスを利用するには?
最後に
1.介護保険制度とは?
介護保険制度とは、人は年を重ねることによって生じる認知症などさまざまな病気に伴う困難や、あるいは加齢に伴う生活をする上での困難に対して必要な支援を受けられるようにすることを目的に、しくみ化された高齢者福祉制度です。
高齢者福祉のしくみは、当初、老人福祉と老人医療という2つの枠組みの中で制度化されていましたが、この枠組みの中で、それぞれ大きな課題を持つようになりました。老人福祉という面では、利用者がサービスを選択できない競争原理が働かずサービスが画一的だった中高所得層にとっての負担が重かったなどがあります。
また、医療面では、介護を理由とする一般病院への長期入院が頻発し、これにより本来あるべき「生活の場」としての支援がされないばかりか、国の医療費負担が著しく増加したなどがあります。
さらに、高齢化が進む中で、介護を必要とされる高齢の方々が増加することと、その期間の長期化などにより介護へのニーズが高まること、また、核家族化の進行・介護するご家族の方の高齢化など、介護を必要とされる方々を支えてきた家族をめぐる状況の変化も明らかになってきました。
このような課題の解決と状況の変化に対応するため、また、高齢の方の介護を社会全体で支え合えるようにするため、しくみとして作られたのが介護保険制度です。
「図-介護保険制度が目指すもの ~しくみ上の重要ポイント」
このような経緯でしくみ化された介護保険制度。作られた時点でのしくみ上の重要なポイントは以下の3点です。
単に介護を必要とされる高齢者の方々の身のまわりのお世話をするのではなく、高齢者の方々が自立した生活をおくれること、そのことで、お住いの地域社会で生活できよう支援することを理念としたこと
ご本人またはご家族の方を中心として介護支援をされる方が、多様な保健医療サービスや福祉サービスの中から選択することができ、また、総合的に受けられる制度としたこと
社会全体で支えあうということから、給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用したこと
2.介護保険制度の具体的なしくみ ~ 社会保険制度としての介護保険制度
「図-認知症を患う方の年齢別の支援のしくみ(概要)」
介護保険制度上のサービスである介護保険サービスを受けることができるのは、まずは65歳以上で、その原因を問わず要支援・要介護状態となった方です。この方々は、「第1号被保険者」とされます。
認知症は、若年性認知症と呼ばれるものがあることからもわかるとおり、決して高齢の方だけに見られるものではありません。実際、若年性認知症と呼ばれる、18~64歳までの認知症を患う方は、全国で4万人近くいらっしゃることが厚労省の調査で明らかになっています。つまり、若い世代でも無視できないものです。
一方で、認知症を患う方は、2025年には700万人に及ぶことが予測されており、圧倒的多数が高齢者であることもわかっています。このようなことを背景に、認知症対策、あるいは、認知症を患う方への支援は高齢者福祉の中に位置づけられているのです。
実際には、公的医療保険制度に加入されている40~64歳の方は「第2号被保険者」とされ、認知症により介護支援が必要と認定された場合、介護保険サービスを受けられます。
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若年性認知症とは?
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若年性認知症を患う方は4万人近くいらっしゃいますが、介護保険制度の対象となるのは40歳以上の方。つまり、40歳未満で認知症を患う方は対象外となっています。この場合は、「障害者福祉」の枠組みの中で必要な介護支援がされることになります。
基本的には精神障害のある方に対する支援のしくみが利用できることになり、たとえば、障害者総合支援法に基づく支援や精神障害者保健福祉手帳に基づく支援、自立支援医療、各種手当などの経済的な支援などが受けられます。
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3.介護保険サービスを受ける際の自己負担
介護保険は、社会保険制度の一つです。支援に必要となる費用は、サービスの対象となる年齢にあたる40歳以上の方と国とが1:1で負担し合うしくみになっています。40~64歳までの方は、公的医療保険と併せて徴収され、65歳以上の方は、公的年金からの天引き、または、各市区町村から個別に徴収されることになります。
実際に介護保険サービスを利用した場合は、自己負担1割が原則です。ただし、「どの程度の介護上の支援が必要か」を表す「要介護度」ごとに上限額が設定されており、その上限額を超える介護保険サービスを受けた場合、上限額を超える分は全額自己負担になります。
4.介護保険制度の中で選択できるサービス
介護保険制度の中で選択できる支援サービスは、複数の見方で分類することができます。ここでは大きく2つの見方について見ていきます。
「図-介護保険制度上の3つの事業」
介護保険制度は、大きくは3つの事業で構成されている制度です。その3つの事業とは、介護給付、予防給付、総合事業です。国や、介護支援サービスを実際に提供する事業所視点での分類法ととらえるとわかりやすいかもしれません。
介護給付とは、介護が必要と認定された方に対してサービスが実施された場合、そのサービスを実際に提供した事業者に、サービスを利用された方の自己負担分を除く額を支給するという事業です。
予防給付とは、介護までは必要ないが、生活上の何らかの支援が必要と認定された方に対してサービスが実施された場合、そのサービスを実際に提供した事業者に、サービスを利用された方の自己負担分を除く額を支給するという事業です。
総合事業とは、高齢の方が支援や介護を受けることにならないよう予防的なサービスを提供したり、認知症を患う方や高齢の方が向き合わざるを得ない困難に関する理解を深めたり、介護や支援に関する新たなサービスをつくったりといった事業のことです。
厚労省はその例として、支援や介護が必要な方に対する栄養改善を目的とした配食・定期的な安否確認・緊急時の対応サービス、支援や介護が必要な方を支援するご家族の方や支援や介護を受けていない方が参加できる住民運営の通いの場の充実などをあげています。
「図-介護保険で受けられるサービス」
介護保険サービスで設定されているサービスには、大きくは以下の5つがあります。この分類は、利用者側の視点で見た分類と言えるでしょう。
必要な介護や支援などのサービスをご自宅で受けるものです。訪問介護・訪問看護・訪問入浴介護・居宅介護支援などで、たとえば、ホームヘルパーが1時間、身体介護を行うといったものがあります。
必要な介護や支援などのサービスを、デイサービスなどのサービスを提供する通所施設で受けるものです。通所介護・通所リハビリテーションなどと呼ばれるもので、たとえば、デイサービスで、日中の時間を過ごし、食事を取ったり、リクリエーションをしたり、入浴したりといったものがあります。
普段は在宅で介護を受けている方が、短期間だけ介護施設に入所し、入浴や食事などの日常生活やリハビリテーションなどの機能訓練などのサービスを受けるものです。たとえば、普段ご支援されているご家族の方がご都合で自宅にいらっしゃらないときなど介護支援を受けながら宿泊するといったものがあります。
介護保険の指定を受けた介護付有料老人ホーム・養護老人ホーム・軽費老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅といった日常生活をおくる場で、入浴・排せつ・食事等の介護やその他必要な日常生活上の支援サービスを受けるものです。
寝たきりや認知症などで常に介護が必要で自宅での生活が難しい方が、入浴・排せつ・食事などの介護、機能訓練、健康管理、療養上の世話などの介護サービスを特別養護老人ホームなど、日頃の介護支援を受ける場で受けるものです。
5.介護保険サービスを利用するには?
介護保険サービスを利用するにあたっては、まず、要介護認定を受ける必要があります。
要介護認定とは、介護保険サービスの利用を希望する方に対して、「どのような介護支援が、どの程度必要か」を判定するためのしくみです。介護保険サービスは、65歳以上になれば誰でも受けられるというものではありません。冒頭示したとおり、介護保険制度とは、認知症を患うことによる困難や、加齢に伴う生活上の困難に対して、必要な支援を受けられるようしくみ化されたもの。
つまり、ご自身の力で日常生活をおくることができる場合は、サービスの対象外なのです。
よって、介護保険サービスの利用を考えるのであれば、まず要介護認定により、「要介護」または「要支援」と認定される必要があるのです。これは、40~64歳の若年性認知症の方も同じです。(40歳未満の方は、障害支援区分という別の認定のしくみにより、介護などの支援が必要であることの認定を受けることになります)。
要介護度の認定は、認定を受ける方の個別の状況に対して、必要な介護サービスを行うのにどの程度時間がかかるかという視点で時間を推計し、そこで推計された時間と、「要介護認定等基準時間」という基準とを比較し、「要介護度」として認定されることになります(実際には、主治医による意見書などでの、日常生活自立度などを加味し、最終判断されます)。
現在「要介護度」は、大きく2つ、さらに、その中がそれぞれ2つ、5つの合計7つに分かれています(対象外を含めると8段階)。
介護保険サービスが必要とは言えないとされた方です。
介護保険サービス上の介護までは必要ではないものの、日常生活に不便をきたしていると認定された方です。要支援認定を受けた方は、「介護予防」という視点から、既に見た「予防給付」の範囲や「総合事業」の範囲での支援が受けられます。「介護予防サービスを受けることを通じて、身体機能などの衰えを緩やかにすることを目指す」と言い換えることもできるでしょう。
なお、要支援は、「要支援1」「要支援2」に、さらに分類されます。「要支援1」と「要支援2」では、「要支援2」の方が、支援が必要となる時間が長い方になります。
介護保険サービス上の介護が必要と判定された方です。しくみ上で言えば、「介護給付」の範囲の支援が受けられることになります。
なお、要介護は、「要介護1~5」までの5段階にさらに分類されます。数字が大きくなるほど、介護が必要となる時間が長い方になります。
「要介護度」が決まると、介護保険サービス利用の上限額(「区分支給限度基準額」と言います)が決まります。その上限額に合わせて、どのサービスが必要かを検討していくことになります。
なお、平成26年時点での「区分支給限度基準額」の目安は次のとおりです。
※目安となる金額は、要介護度ごとに付与された単位に対し、1単位あたり10円として換算したものです
【関連記事】
要介護認定制度 認知症の方を支援する介護保険サービス
https://jlsa-net.jp/kn/ninchi-kaigohoken/
最後に
認知症を患う方の支援は、基本的には介護保険制度のしくみの中で実施されます。これは、若年性認知症の場合でも同じです(40歳未満の方は、障害者支援のしくみの中での支援となります)。介護保険制度は、高齢社会の日本で社会保障制度として作られた比較的新しいしくみですが、この制度の主旨から認知症と診断されたとしても必ず介護保険サービスが受けられるわけではありません。
認知症の症状の程度などから、支援の必要性を「要介護認定」というしくみで認定され、はじめてサービスを受けることが可能になります。この認定を受けると、さまざまな支援サービスの中から認知症を患うご本人や家族の方など支援される方々が必要とするサービスを選択、利用することができるようになるということです。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
厚労省ホームページ
介護保険制度の概要
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
要介護認定はどのように行われるか
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/nintei/gaiyo2.html
障害者福祉
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/index.html
区分支給限度基準額について
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000049257.pdf
みんなのメンタルヘルス総合サイト治療や生活に役立つ情報
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/3_06notebook.html
独立行政法人福祉医療機構WAMNETホームページ
サービス一覧/サービス紹介
http://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/syogai/handbook/service/
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