精神障害のある方と犯罪との関わり

精神障害

はじめに
 誰もが巻き込まれたくはない犯罪。「日本は安全、治安がいい」とは言われていても、それでも毎日のように何らかの犯罪が起きているのも事実です。ここでは、精神障害のある方を取り巻く犯罪について、被害者になる可能性、加害者になる可能性という2つの面からまとめています。

1. 誰もが犯罪に巻き込まれる可能性がある
(1) 日本国内における犯罪の現状

警察庁の調査によると、日本における犯罪件数は99万件(2016年)。犯罪とまではならなかったものも多数あることも考慮すれば、さらに多くの方が犯罪やそれに類することが起きていることになります。犯罪被害に遭う方は特別な方というわけではありません。精神障害のある方や支援される保護者などの方々も、同じように被害に遭う可能性があるのです。

(2) 社会福祉施設等での犯罪

2016年神奈川県相模原市の社会福祉施設で残忍な殺傷事件が起きました。部外者が施設に侵入して起こした事件です。こうした社会福祉施設に限らず、多くの人が集まり、共同生活を過ごす場は、大きな犯罪が起きやすいという側面を持ちます。施設職員による犯罪などが繰り返し起こっているのも、人が集まる場だからと見ることもできます。
また、残念ながら、社会的弱者とも呼ばれる精神障害を含む障害のある方に対する偏見も、犯罪を助長している面があるでしょう。

参考
警察庁 ホームページ
犯罪情勢
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jousei.html

2. 犯罪被害に遭わないために
(1) 必要な教育

「図-犯罪被害に遭わないために必要な教育の視点」

精神障害を含む障害のある方が犯罪被害に遭わないためにはどうしたら良いのでしょう? やはり重要なのは教育ではないでしょうか? 犯罪から身を守るための教育のポイントとして、たとえば次のようなことが考えられます。

① 何が(どういったことが)犯罪なのか? を知る

「何が犯罪なのか? を知る」ための教育方法としては、社会のルールとして、こういうことはしてはいけないことである、ということを具体的に示すという方法が考えられます。

② 犯罪の前兆にあたることにどんなことがあるのか? を知る

普段見かけない人を見かける、待ち伏せされるなどは、典型的な前兆と言えるでしょう。また、これは場合によっては難しいこととはいえ、声をかけられるといったことが親切の場合もあればそうでない場合もあることなども、何らかの方法で教育することが必要と言えます。

③ 犯罪に巻き込まれそうになったときどんな行動をすればいいのか? を知る

まずは逃げる、あるいは、保護者の方などに必ず連絡を入れるなどのルールを決めるという方法もあるでしょう。なるべく集団で行動することやGPS機能付きの防犯グッズなどを身につけておき、その使用方法を練習しておくことなども一つの対策と言えます。

④ 万が一犯罪に巻き込まれたらどうしたらいいのか?

一人で抱え込まないようにするために、「なんでも話せる環境づくり」が基本と言えるでしょう。

(2) ちょっとした変化に気づく、ということ

 犯罪に大小はない、とは言いたいのですが、実際には、「大きな犯罪に遭わないためにどうするか」という視点を持つことも重要です。つまり、より小さな犯罪のうちに、あるいは、より小さな犯罪を使って防ぐ教育をするということです。そのためにも、精神障害を含む障害のある方の「ちょっとした変化」に、保護者を含む支援される方々が気づくということが大切になると言えそうです。犯罪者は、親切をするフリをして近づく場合もあるそうですし、事前に様子をうかがうような行動をとることもあるそう。「良し悪し」の判断をする前に、何か普段と違うことがあったかなど、日頃から話を聞くことも大切なことと言えそうです。

3. 万が一犯罪被害に遭ってしまったら
(1) 最も大切なことは相談

万が一犯罪に巻き込まれてしまったら、事件そのものの身体面・精神面への被害だけでなく、間接的な被害も降りかかることが少なくないと言います。

① 精神的なショックやそれに伴う身体の不調
② 医療費の負担や犯罪の結果もたらされる医療費負担、失職や転職などによる経済的困窮
③ 周囲の人々による噂話やマスコミの取材・報道などによる追加的な精神的被害

まずは最寄りの警察に相談することが大切と言えます。

(2) 犯罪被害に遭われた方を支援するしくみ

「図-犯罪被害に遭われた方を支援するしくみ」

心身両面にさまざまな影響をもたらすのが犯罪です。そこで、犯罪被害に遭われた方を支援するしくみとして次のようなものがあります。もちろんこのような制度があったからと言って、犯罪被害に遭われた方のダメージがすべて回復するわけではありません。それでも、一定程度支援するしくみがあるということを理解しておくことは、犯罪被害に遭うことへの不安を多少なりとも和らげる部分はあるでしょう。

① 犯罪被害に遭われた方への配慮・情報提供のしくみ

相談専用の電話、「♯9110番」という相談窓口が設置されています。内閣府がまとめているパンフレット「被害者の手引き」は、犯罪被害に遭ってしまったときの対応方法などがまとめられていますので、教育目的で利用してみてもよいのではないでしょうか。他にも、性犯罪相談窓口には女性警察職員が配置されていたり、犯罪被害に遭われた方が求めれば捜査状況などを連絡してもらえたり、といった支援が実施されています。

② 犯罪被害に遭われた方とその保護者の方など支援される方の安全を確保するしくみ

犯罪被害に遭われた時、最も大きな不安の一つに再被害に遭うことがあげられるでしょう。このため、再被害防止措置として、防犯の具体的な方法を指導したり、場合によっては緊急通報装置を貸与したりといった支援が行われています。

③ 精神的な被害からの回復支援のしくみ

犯罪被害に遭われたときの精神的な負担は非常に大きなものでしょう。このため、カウンセリング技能を持った警察職員が警察組織には配置されており、状況によって、実際にカウンセリングを行うなどの支援が行われています。

④ 経済的な負担に関する支援制度

お金や物品の盗難に遭う以外でも、経済的な負担が発生することは珍しくありません。たとえば、犯罪によってケガを負うなどすると治療・療養費が必要になります。また、後遺症などの結果、働いている方などは休職や転職を余儀なくされる場合もあります。そんな時のための制度が「犯罪被害者等給付金」です。殺人等の故意の犯罪により亡くなられた犯罪被害者の方のご遺族や、重傷を負ったり、身体に障害が残ってしまったりした犯罪被害者の方に対して、精神的・経済的打撃を緩和しようという目的で創設された制度で、次の給付金があります。

1) 遺族給付金:
犯罪被害にあった方のご遺族に支払われる給付金です。生計を維持する関係にあるご遺族がいる場合には、2964万5千円~872万1千円、それ以外の場合には1210万円~320万円が支給されます。

2) 重傷給付金
犯罪被害による1年間の心身の治療に要した費用について、保険診療による医療費の自己負担分と休業損害を考慮した額の合計として、120万円を上限に支給されます。

3) 障害給付金
障害等級第1級~第3級の重度障害が残った場合に支払われる給付金です。3974万4千円~1056万円が支給されます。

⑤ 裁判や損害賠償に関する制度

裁判に関しては、犯罪被害に遭われた方などが、一定の要件の下で刑事裁判に直接参加することが可能となる刑事裁判に参加する制度(被害者参加制度)があります。また、被害に遭われた方が被告人に対する損害賠償命令に対する申し立てを行うと、刑事裁判で有罪が確定した後、損害賠償請求の審理・決定ができる制度(損害賠償命令制度)があります。

⑥ その他の支援制度

以上のような制度の他にも、犯罪被害に遭った方が、犯罪被害により住まいを変える必要が出てきた場合に公共住宅へ無抽選で入居できるなど、入居要件を緩和する地域や、上限30万円程度の見舞金や生活資金の貸付制度などを設けている地域もあります。

参考
政府広報オンライン 
防犯
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201406/1.html
警察庁
犯罪被害者等施策
http://www.npa.go.jp/hanzaihigai/

4. 犯罪加害者になる、という可能性
(1) 精神障害のある方の犯罪率とその見方の問題点

精神障害のある方が罪を犯し、加害者となる可能性もあります。精神障害のある方の犯罪率に関する資料として、「犯罪白書」があります。この資料によれば、犯罪加害者のうち、1.2%が、精神面で正常な状態にはなかった者、あるいは、事件後に精神面で異常を来した者、とのこと。ただし、これは犯罪で検挙された者の中での割合です。一方で、精神障害があるから犯罪加害者になる可能性が高いというような見方は正しいとは言い切れません。というのも、罪を犯した結果、精神に異常を来したのか、精神障害があったがために罪を犯すことになったのか、という因果関係は明らかになっていないからです。

とはいえ、精神障害のある方が加害者になることがあるのは事実。その意味で、加害者にならないことはもちろん、加害者と疑われることがないようにすることも、ある意味では必要かもしれません。たとえば、日記をつけるなどにより、日々の行動が振り返れるようにする、というような方法です。ただこれは、精神障害のある方だからやるべきだ、というようなことではないでしょう。誰もが犯罪加害者として疑われる可能性もあるわけですから、いざというときに身の潔白を証明できる方法を考えておくことも大切なのかもしれません。

資料:
法務省ホームページ
平成25年版犯罪白書のあらまし
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00070.html

(2) 犯罪加害者とその保護者など支援される方にのしかかる責任と対策

① 最も重要なのは再犯防止

 実際に罪を犯してしまった場合、何より重要なのは「罪を繰り返さないこと」ではないでしょうか? 犯罪は巧妙化していると言われていることは、ご存知の方も多いことでしょう。たとえば詐欺のような犯罪については、知らぬ間に犯罪に加担していた、というようなこともあります。他にも、正義感に付け入り、「悪い人を一緒に成敗してほしい」など、言葉巧みに犯罪に加担させるような手口もあります。このようなケースなどは、罪の意識がないままに罪を犯してしまった、ということですから、再び罪を犯さないための教育をすることは、特に重要なことと言えるのではないでしょうか。社会にはルールがあるということ、ルールを逸脱することは罪であること、そして、そのルールは理屈抜きで守らなければ社会で生活することができないことなど、正しく理解することも必要なことと言えます。もちろん、罪を犯す前の教育の方がより重要であることは言わずもがなです。

② 責任能力という問題と被害者の方への責任

1) 責任能力という問題
「責任能力」とは、「違法な行為についての法律上の責任を負担するための前提となる能力」と定義されています。民法上「幼児、小児、心神喪失者などの責任能力のない者は他人に加えた損害について賠償義務を負わない (712~713条)」とされています。また、刑法上も「精神の障害により自己の行為の是非につき弁別しえないか、またはその弁別に従って行動できない者は責任無能力者」とされ、刑法上の処罰の対象にもなりません(39条~)。つまり、精神障害のある方が犯罪加害者になった場合でも、「責任能力を持たない」と判断されれば、刑罰の対象にもならず、損害賠償を支払う責任も持たないということになります。とはいえ、保護者の方や後見人の方など支援者の方の責任と併せて責任能力の有無を判断されるというのが裁判における判断ですし、そもそも仮に重度の精神障害だったとしても、一切の責任が免除されるということでもないでしょう。つまり、一定程度の損害賠償を被害を受けた方から請求されることはあるということです。

2) 社会の目、という問題
それ以上に問題となるのは、「社会の目」という点です。罪を犯した方ご本人のみならず、保護者をはじめご兄弟などご家族の方も含め、相当な非難を浴びることは、事件に対する報道などを見ても明らかです。被害に遭われた方の損害賠償に対応できないというような場合は、それはさらに厳しいものになることと想像されます。場合によっては、支援されている方の心身に何らかの問題が発生したり、その結果、休職や転職をせざるをえなくなったり、転居などを余儀なくされたり、といったことも起こりえます。

3) 万が一に備えることも大切

「図-万が一に備える、そのための視点」

そんな万が一に備えることも、ある程度は必要でしょう。民間の保険に加入するというのも、一つの方法です。このときの視点として、一つは、精神障害のある方が犯罪加害者になってしまったときに対応する保険、もう一つは、精神障害のある方を支援されている保護者の方やご家族、後見人の方の生活を守るための保険、が考えられます。対応できる保険は限られている状況と思われますが、場合によっては保険会社等にニーズとして伝えることも必要になってくるのではないでしょうか。

一般社団法人 全国地域生活支援機構(JLSA)では、障害のある方、ご家族、その支援者の方をお守りする総合補償制度を用意しております。詳しくは、こちからから。→https://jlsa-net.jp/hc-member/

5. ハラスメント、という問題

犯罪という視点で言うと、「セクハラ」「パワハラ」などに代表される各種ハラスメントという問題も避けては通れません。ハラスメントは、「相手がどのように感じたか」が基準の迷惑行為。基準が「相手の受け取り方次第」であるため、「この人からのものは良いけれど、他の人からのものではダメ」「この場面では良いが、他の場面ではダメ」というようなことが起こります。相手の様子をうかがうことも必要で、なかなか理解しにくいものでもあります。とはいえ、大まかにいえば「他人が嫌がることはしない」ということ。「他人が嫌がることはしない」という社会的なルールがあるということ、と、その理解を促すような教育、そして、周囲の方々にも「はっきりと、嫌なことは嫌だと言ってもらう」といった支援をいただくことも必要になると言えるでしょう。

最後に

残念ながら今の世の中は、いわゆる軽犯罪・重犯罪に限らず、誰もが犯罪被害者になりえますし、逆に犯罪加害者にもなりえます。そして、そのいずれの場合でも、ご本人に、また、保護者をはじめとするご家族や支援者の方々に、心身両面で相当な負担がかかるのは間違いありません。そんな万が一に備え、民間の保険の利用を検討することなども、重要な対策と言えるのではないでしょうか。なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

一般社団法人 全国地域生活支援機構(JLSA)では、障害のある方、ご家族、その支援者の方をお守りする総合補償制度を用意しております。詳しくは、こちからから。→https://jlsa-net.jp/hc-member/

参考
警察庁 ホームページ
犯罪情勢
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jousei.html

犯罪被害者等施策
http://www.npa.go.jp/hanzaihigai/

政府広報オンライン 
防犯
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201406/1.html

法務省ホームページ
平成25年版犯罪白書のあらまし
http://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00070.html

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

加藤 雅士

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電子福祉マガジンの編集長。一般社団法人 全国地域生活支援機構にて広報委員を担当する。現在、株式会社グリットの代表取締役会長としても活動を行っている。

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