精神障害がある方を経済面で支える障害年金制度
はじめに
精神障害がある方を経済面で支える制度に障害年金があります。障害年金とは、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合であっても、最低限の生活はできるよう、支給されるものです。よって、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。
ここでは、障害年金について、対象となる障害、認定手続き方法や受け取れる年金額など、制度の大枠を中心にまとめています。
1. 「年金」に対する誤解 ~公的年金は大きく3つある
2. 障害年金とは? ~初診時に加入していた年金制度による違い
3. 対象の等級となる精神障害の程度
4. 初診時に加入していた年金制度による年金の違い
5. 障害年金支給額
6、障害者年金の申請について
最後に
1. 「年金」に対する誤解 ~公的年金は大きく3つある
「図-3つの公的年金」
年金と言って真っ先に思い浮かぶのは原則65歳から受給できる「老齢年金」と 被保険者が亡くなった際に遺族(配偶者または子供)に支払われる「遺族年金」でしょう。
そもそも「年金」とは、「終身または一定期間にわたり、毎年定期的に一定の金額を給付する制度のもとで支給される金銭」で、「保険料を負担しているご本人やその遺族の方の生活保障を目的とする保険制度のこと」です。こんな「年金」のうち、一般的にはあまりなじみの薄いものがあります。
それは、精神障害がある方の生活を保障するための「年金」である「障害年金」です。
2. 障害年金とは? ~初診時に加入していた年金制度による違い
障害年金は、国民年金法という法律の下で制度化されているしくみです。この法律では、障害年金を含む公的年金の目的を以下のように定義しています。
「国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基づき、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
国民年金は、この目的を達成するため、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付を行うものとする。」
つまり、健康で文化的な最低限度の生活を営む国民の権利を保障するための社会福祉・社会保障制度の一つが公的年金であり、そんな公的年金の一つに障害年金は位置づけられているということなのです。
「障害年金」とは、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合であっても、最低限の生活はできるよう支給されるものであるため、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。
他の制度、たとえば精神障害者福祉手帳制度や各種の手当制度などとは全く異なる独立した制度のため、年金を受け取るには手続きが必要になります。
【関連記事】
精神障害者保健福祉手帳とは? ~精神障害のある方を支える福祉サービス
https://jlsa-net.jp/sei/seishjin-tetyou/
「図-障害年金の基本体系」
障害年金は、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」で構成されています。なお、障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害が残ったときは、障害手当金(一時金)を受け取ることができる制度があります。
障害年金において、年金給付の対象となる精神障害は、次のように5つに区分されています。
1) 統合失調症・統合失調症型障害、妄想性障害、気分(感情)障害
2) 症状性を含む器質性精神障害
3) てんかん
4) 知的障害
5) 発達障害
つまり、狭い意味での精神障害(≒精神疾患)だけでなく、広い意味での精神障害がほぼ含まれている、というように解釈することができるということです。
【関連記事】
精神障害・精神疾患とは何か? こころの病気
https://jlsa-net.jp/sei/seishin-syogai/
年金の支給額を決定するのは、「等級」という基準です。障害の程度やその生活に与える影響などの総合的な判断により「等級」が判定され、その等級に応じた年金が給付されることになります。各等級の目安としての障害の状況は次のとおりです。
身体の機能の障害、または、長期にわたって安静が必要なことにより、日常生活で必要となることを不可能な状態にする程度とされます。つまり、他人の介助を受けなければ、ほとんど自分の用事が済ませない程度ということです。
身のまわりのことはかろうじてできても、それ以上の活動はできなかったり、あるいはそれを禁止されていたりされる方などで、病院内の生活で言えば、活動の範囲がベッド周辺に限られる方、家庭内の生活で言えば、活動の範囲が寝室内に限られるような場合を指します。
身体の機能の障害、または、長期にわたって安静が必要なことにより、日常生活で著しく制限を受けるか、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とされます。つまり、必ずしも他人の助けを借りる必要がない場合もあるが、日常生活は極めて困難で労働により収入を得ることができない程度ということです。
家庭内で、軽食づくりや下着程度の洗濯などの簡単な活動はできても、それ以上の活動はできなかったり、あるいはそれを禁止されていたりされている方などで、たとえば、病院内の生活で言えば、活動の範囲が病棟内に限られる方、家庭内の生活で言えば活動の範囲が家屋内に限られるような場合を指します。
障害により、労働することに著しい制限を受けるか、または労働に著しい制限を加えることを必要とする程度とされます。
なお、障害の等級は、「日常生活能力の程度」の評価と「日常生活能力の判定」の評価の平均を組み合わせて、どの障害等級に相当するかが総合的に判定されることになります。このとき考慮される視点は、現在の病状又は状態像、療養状況、生活環境、就労状況、その他の5つとなります。
参考:
日本年金機構ホームページ 障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html
厚労省
障害年金について
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000010opz-att/2r98520000010v2g.pdf
精神の障害に係る等級判定ガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12512000-Nenkinkyoku-Jigyoukanrika/0000130045.pdf
障害基礎年金お手続きガイド
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/0000086263.pdf
一般社団法人障害支援センター 障害年金サポートサービス ホームページ
https://nenkin-support.jp/
3. 対象の等級となる精神障害の程度
精神障害(≒精神疾患)の場合、それぞれの等級別の状況は、以下のように規定されています。いずれの場合も、障害が原因で、
1級:生活する上で常時援助が必要、
2級:生活する上で援助が必要な場面がある、
3級:就労上の制約がある、
といったように分類するとわかりやすいかもしれません。
参考:
日本年金機構ホームページ 障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html
厚労省
障害年金について
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000010opz-att/2r98520000010v2g.pdf
精神の障害に係る等級判定ガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12512000-Nenkinkyoku-Jigyoukanrika/0000130045.pdf
4. 初診時に加入していた年金制度による年金の違い
「図-初診時に加入していた年金制度による年金の違い」
対象となる障害について、初めて医師の診療を受けたときに加入していた公的年金制度により、請求できる年金が変わります
(1) 国民年金に加入していた方、及び、初めて医師の診療を受けたときが20歳未満または60~65歳までの年金加入義務が発生していなかった方
障害基礎年金を請求できます。
(2) 厚生年金に加入していた方
障害厚生年金を請求できます。
(3) 保険料の納付要件 ~初診日まで年金保険料を納付していることが条件
いずれの「年金」も、初診日の前日において、次のいずれかの要件を満たしていることが必要です。
① 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
② 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと
ただし、障害基礎年金の場合は、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、納付要件はありません。
参考:
日本年金機構ホームページ 障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html
5. 障害年金支給額
各障害年金の支給額は、毎年支給額が変更されています。平成29年度の場合、以下のように整理することができます。
※上記は年間での年金額です。
※子の加算額:
第1子・第2子:各224,300円、第3子以降:各74,800円
※配偶者の加給年金額:
224,300円
なお、障害厚生年金における「報酬比例の年金額」の計算式は非常に複雑です。また、障害基礎年金についても、20歳前に障害が判明した方の場合、世帯の所得に応じた所得制限が設けられています。よって、実際の給付金額については、お住いの地域の年金保険事業所にご確認ください。
厚労省が発表している「平成26年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、各年金の平均受給月額は以下のようになっています。
障害基礎年金:月額平均71,995円(年額換算863,940円)
障害厚生年金:月額平均101,906円(年額換算1,222,872円)
参考:
日本年金機構ホームページ 障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html
厚労省
障害年金について
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000010opz-att/2r98520000010v2g.pdf
6、障害者年金の申請について
精神障害がある方を支援する他の制度(精神障害者手帳、各種手当など)と同様、申請しない限り給付されることがありません。厚生労働省が発表している年金制度基礎調査によると、現在、およそ200万人程度の方が障害年金を受給しています。
障害年金は、障害として認められる状態になってから、つまり、症状が固定した以降、申請することが可能です。「症状が固定」という状態の判断は、「初診から1年6カ月以上経過した時点」と、便宜的にみなされることになっています。つまり、初診から1年6カ月以上経過すれば申請できるということ。
申請し受付されてから、等級が判定され、実際に年金が支給されるまでに3カ月程度かかるようです。
障害基礎年金の場合は、お住いの地域の各市区町村の年金課などの窓口に申請することになります。障害厚生年金の場合は、お住いの地域の年金保険事業所、または、加入されている共済組合が窓口になります。
申請には、必要な書類等をそろえる必要があります。大きくは「必ず必要になるもの」と「子どもがいる場合」・「障害の原因が何らかの事故の場合」・「その他個別の事情」により必要になるものとに分けることができます。
申請時に必ず必要になるものは、以下のとおりです。
参考:
日本年金機構ホームページ 障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html
障害基礎年金お手続きガイド
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/0000086263.pdf
一般社団法人障害支援センター 障害年金サポートサービス ホームページ
https://nenkin-support.jp/
最後に
障害年金は、精神障害がある方が生活していく上で必要となる経済面での支援を直接行うものです。申請に必要な書類なども多く、また、記載する必要があることも多いのですが、支給を受けられれば、その分将来にわたって安心が得られやすい制度でもあります。
場合によっては、お住いの地域の窓口、あるいは、支援機関などのサポートを受けながら申請することを検討してみてもよいのではないでしょうか。
なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
参考:
日本年金機構ホームページ 障害年金
http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/index.html
国民年金法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=334AC0000000141&openerCode=1
厚労省
障害年金について
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000010opz-att/2r98520000010v2g.pdf
精神の障害に係る等級判定ガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12512000-Nenkinkyoku-Jigyoukanrika/0000130045.pdf
障害基礎年金お手続きガイド
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/0000086263.pdf
一般社団法人障害支援センター 障害年金サポートサービス ホームページ
https://nenkin-support.jp/
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