障害のある方やその保護者の方のお金やご自宅などの財産を守る「信託の基本」

相続/信託/遺言

はじめに
信託の基本について。「財産は、自分のため、あるいは、障害のある子どもやその他兄弟姉妹のために使いたい」、誰もがそんな思いをお持ちでしょう。

ご自身が生涯をかけて築き、また、守ってきた大切な財産を有効に、かつ、有意義に活用したいと思うのは当然のことですし、当然の権利とも言えます。一方で、それが自由にできないケースが年々増えてきているという事実をご存知でしょうか?

 ここでは、ご自身の万が一の備えとしての財産管理の一つの方法である信託について、その基本的なところをまとめています。



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1.財産をいかに有効に利用「できる」状態にするか?

「図-信託の利用を検討したい理由」
信託の利用を検討したい理由

(1) 私たちが暮らす社会で問題になるのは「契約ができる程度十分な判断能力があるか?」

私たちは契約を前提とする社会で暮らしています。契約というと契約書のような形で書面化されたものを想像するかもしれません。実は契約は、二人以上の合意 によって成立する法津行為をいい、通常は、申し込みと承諾によって成立するとされています。

つまり、たとえば買い物をするといったようなことも、買う物に対してお金を支払うという売り手と買い手のお互いの意思が合致し、売り買いが行われるということなので、契約(と、契約に基づく行為)なのです。このとき問題になるのが、「契約ができる程度十分な判断能力をお持ちであるか」という点です。

(2) 判断能力が不十分になったときの問題点 ~契約の自由と、保護という問題

契約は、当事者となる方、つまり、契約を結ぶ方の自由な意思によって成立するとされています。ここで問題になるのは2つの視点です。

「契約ができる程度十分な判断能力がない方」、たとえば重度の知的障害のある方や、重度の認知症を患っていらっしゃる方が、たとえば悪質な業者に必要のないリフォームなどを持ちかけられ契約した場合、それは自由な意思での契約だったと言えるか? という問題です。

当然これは自由意思によるものではないとされるべきでしょう。

このような問題を回避するため、十分な判断能力がない方の契約は無効であるとされています。つまり、判断能力が不十分であることを何らかの形で証明できれば、その契約を無効にすることができるということです。

一方で、この「判断能力がない方の契約は無効である」ということは、さまざまな問題を生むことになります。

たとえば、判断能力がない方の財産を使って、その方の生活資金にしたい、施設入所費用にしたいと言ったケースです。この場合、「十分な判断能力がない」ことにより、「それがご本人の意思か、証明することができない」ということになってしまいます。

つまり、ご本人が自身の銀行口座から預金を引き出せないような状態になってしまった場合、たとえ親族であっても、ご本人に代わって銀行口座からお金を引き出したり、口座を解約したりといったことができなくなってしまうということなのです。

あちらを立てれば、こちらが立たず・・・とは、こういった状況のことを言うのかもしれません。

(3) 問題点を解決するための一つの方法 ~信託という方法

 これまで見てきたような問題点を解決する方法は複数考えられるのですが、その一つの方法として「財産管理の方法を見直す」という方法があり、利用できるものに「信託」というしくみが考えられます。

信託には、万が一ご自身が認知症などを患った場合でも、ご自身の財産を有効、かつ、有意義に活用できるようにできるものや、障害のある方へ財産を贈与する場合に税金面で優遇されるものなど、さまざまな種類のものがあります。

財産を持つご自身の判断能力が不十分になることへの備えとして、あるいは、障害のある方の親亡き後へ備えとしてなど、さまざまな用途で利用できる可能性のあるしくみが信託であると言い換えることができます。

参考:
法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support

京都産業大学ホームページ
京都産業大学2007年度民法Ⅰ(吉永担当)講義資料
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~kazyoshi/teaching/2007/min1/resume/04.pdf

一般社団法人 信託協会 ホームページ
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/index.html

2.信託とは?

「図-信託の基本的なしくみ」
信託の基本的なしくみ
(1) 信託とは?

信託とは、信託法の中では「特定の者が一定の目的に従い財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきもの」とされています。

つまり自身の財産を自分や家族などの人たちのために管理・処分してもらうよう、家族や知人・銀行などの機関に頼んで任せるためのしくみということです。

(2) 信託の基本的なしくみ ~信託に共通する基本的な考え方と登場人物

 信託は、委託者・受託者・受益者という3人の人や機関が、対象となる財産である信託財産を、どのような目的で、どのように扱うかという契約の中で成り立っています。そして、「委託者と受託者が話し合って信託契約を結び、受託者がその契約に基づいて、信託財産を管理し、また、受益者に定期的に金銭を交付する」というのが信託の基本的なしくみです。

① 委託者

委託者とは、対象となる財産である信託財産の元々の所有者で、信託によって信託財産を受託者に託す人のことを言います。このとき、信託財産の名義だけが受託者に移ることになります。

なお、信託法では、委託者に対して、受託者が行う信託に関わる事務的な処理の状況などに関する報告請求権や受託者の辞任に対する同意権などが認められています。また、あわせて違法な強制執行などに対して異議申立できる権利や受託者に対して損失が発生した場合の補てんを求める権利などが認められています。

② 受託者

委託者から財産を託され、信託財産の名義を移された人のことを言います。信託財産の名義を移されることを受けて、信託の目的に従い、信託財産の管理・処分をすることになります。

なお、未成年の方や知的障害や精神障害・認知症などにより判断能力が十分ないと家庭裁判所から判断されている成年被後見人や被保佐人の方は、受託者となることはできません。

1) 受託者の義務
信託は受託者が信託財産の名義人となって管理・処分などを行うことになるため、受託者に対する信頼が前提となっている制度です。そのため、受託者には信託法上でさまざまな義務が課されています。受託者の義務のうち最も基本的なものは以下の3つです。

・善管注意義務:
受託者は、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理しなければならないとされています。
・忠実義務:
受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理をしなければならないとされています。
・分別管理義務:
受託者は、信託財産に属する財産と、受託者の個人財産である固有財産や他の信託財産に属する財産とを、それぞれ分別して管理しなければならないとされています。

2) その他の義務
受託者にはその他にも以下のような義務があります。
・信託事務の処理の委託における第三者の選任・監督義務
・公平義務
・帳簿などの作成といった報告・保存の義務
・損失てん補責任 など

3) 受託者になれる機関 ~信託業の担い手
受託者として信託業を行える者は、内閣総理大臣の免許を受けた「信託会社」でなければならないと信託法で定められています。

ただし、この規定は「業として(営業として)」受託者となる場合に限り適用されるので、信託のすべてで信託会社に受託者になってもらわなければならないというものではありません。

③ 受益者

受益者とは、信託財産から発生する利益を受ける権利を持つ人のことを言います。受益者と委託者とは別人の場合もありますが、同じ人の場合もあります。

また、受益者は、たとえば将来生まれる子どもや孫など、実際に存在していない人であっても構わないとされており、この場合の受益者の利益の保護を目的に、信託管理人という受益者の権利を行使できる権限を持つ人を選任することも可能です。

なお、信託期間中は原則としては受益者を変更することができないとされており、変更にあたっては、信託行為の範囲などを規定することなどが必要になる点、注意が必要です。

1) 受益者の権利
受益者には、信託財産から発生する利益を受ける権利がありますが、受託者が義務をきちんと果たしていないがために、その権利が受けられないといった場合もあり得ます。このため受益者は、その権利の確保のため、さらに以下のような権利が認められています。

・受託者に対して
受託者の権限違反行為の取消権
受託者の利益相反行為に関する取消権
信託事務の処理の状況について報告を求める権利
帳簿などの閲覧または謄写の請求権
損失のてん補または原状の回復の請求権
受託者の法令・信託違反行為の差止請求権

・その他について
信託財産への強制執行などに対する異議申立権
裁判所に対する受託者解任の申立権
裁判所に対する新受託者選任の申立権

④ 信託財産

信託財産とは、信託の中で管理・処分などの対象とする財産です。信託財産とされたものの名義は委託者から受託者へ移ります。なお、委託者が受託者に信託できる財産の種類には制限がないとされていますが、信託の目的により、範囲が決まる場合もあります。

信託財産にできるものには、例えば次のような財産があります。

1)金銭
2)有価証券(株式・国債など)
3)金銭債権(貸付債権・リース・クレジット債権など)
4)動産
5)土地・建物といった不動産
6)知的財産権(特許権・著作権など)

(3) 信託の機能

信託の主な機能には、財産管理機能・転換機能・倒産隔離機能の3つがあると言われています。これらの機能があることが、さまざまな種類の信託がある理由でもあります。

① 財産管理機能

委託者が、専門家などの受託者に、信託財産として財産の管理・処分を委ねるという機能です。受託者は、信託目的の範囲内で信託財産の管理・処分をする義務が発生することになります。

② 転換機能

信託財産は、投資しやすくするために小口化したり、逆に他数の方が信託した金銭をまとめて何かに投資したりといったことが可能です。これを転換機能と言います。

③ 倒産隔離機能

信託された財産は、委託者の名義から受託者の名義に移るため、委託者の倒産の影響を受けません。また信託財産は、受託者の財産とは切り離されることが定められているため、受託者の倒産の影響も受けません。

つまり、委託者・受託者のいずれの倒産の影響も受けることがないということになります。これを倒産隔離機能と言います。

(4) 信託の2つの種類 ~ 受託者の性質から見る2つの種類

信託は、実はさまざまな視点から分類することができるのですが、誰が受託者になるかという視点で見たとき、次のような分類をすることができます。

① 商事信託

商事信託とはビジネスとして信託を行うことで信託業の資格を持っている人や機関が受託者となる信託のことです。商事信託は、受託者に対する報酬が発生するしくみと言い換えるとわかりやすいかもしれません。

② 民事信託

民事信託とは報酬を発生させることを前提としない人と、人あるいは機関との間の信頼関係に基づき行う信託のことで、信託業の免許を持たない人でも受託者になれる信託のことです。

(5) 信託の使い方例 ~信託が検討できる2つのケース

信託は、さまざまな種類のものがあるため、一つひとつを覚えるのはなかなか厄介です。実際、信託の可能性は幅広く、商事信託として既に商品化されているものの他、商品にはなっていないもの、あるいは、民事信託が利用できるものなどがあるからです。

そこで、信託が利用できる可能性があるのはどんなときか? という視点で、信託の使い方を確認してみます。

① 委託者が、ご自身を受益者にするケース

 財産を持つ方が、その財産の全部または一部を信託財産とし、ご自身が認知症などにより判断能力が不十分になった場合に、その財産を生活資金や施設などへの入所費用などの形で使えるようにしようとするケースです。このとき、信託を利用することが可能と言えます。

② 障害のある方を受益者にするケース

 たとえば保護者の方がお持ちの財産が生む利益を、保護者の方が亡くなった場合、あるいは、保護者の方の判断能力が不十分となった場合でも障害のあるご家族の方に利用できるようにしようとするケースです。この場合も、信託を利用することが可能と言えます。

参考:
一般社団法人 信託協会 ホームページ
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/index.html

電子政府 e-Gov
信託法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=418AC0000000108&openerCode=1

東京弁護士会ホームページ 
信託法を考える
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2008_02/p02p11.pdf

3.障害のあるご家族がいらっしゃる場合に検討してみたい主な信託

「図-障害のある方がご家族がいらっしゃる場合に検討してみたい主な信託」
障害のある方がご家族がいらっしゃる場合に検討してみたい主な信託

障害のある方がご家族にいらっしゃる場合に検討してみたい信託として、以下のようなものがあります。他にも、信託業を営む信託銀行などの機関がさまざまな信託商品を開発しています。信託の目的を明確にし、どんな商品があるか問い合わせてみるのもよいのではないでしょうか。

(1) 特定贈与信託

一定程度以上の障害のある方の生活の安定を図ることを目的とした信託です。ご家族の方などが金銭などの財産を信託銀行などに信託、信託銀行などが、信託された財産を管理・運用し、障害のある方に生活費や医療費として定期的に金銭を交付するしくみです。

この信託を利用すると、重度の心身障害のある方については6,000 万円、その他一定程度以上の障害のある方については3,000 万円を限度として、贈与税が非課税となります。

【関連記事】
特定贈与信託とは? ~障害のある方の将来の経済的な安定を図るための制度
https://jlsa-net.jp/szk/tokuteizouyoshintaku/

(2) 後見制度支援信託

後見制度による支援を受けている方が、ご本人の財産のうち、日常的な支払をするために必要となる金銭を預貯金などの形で後見人が管理し、普段は使わない金銭を信託銀行などが管理できるようにする信託のことです。

【関連記事】
後見制度支援信託とは? ~障害のある方の将来の経済的な安定を図るための制度
https://jlsa-net.jp/sks/kouken-shintaku/

(3) 家族信託

財産を持つ方が、「ご自身の老後の生活や介護など必要な資金の管理と給付」「障害のあるご家族の生活に必要な資金の管理と給付」といった目的に対して、財産の一部の管理や処分を信頼できるご家族の方に託すことを言います。遺言信託、遺言代用信託、後継ぎ遺贈型受益者連続信託といったものが家族信託には含まれると考えることができます。

【関連記事】
家族信託 万が一の備えと手続きの方法
https://jlsa-net.jp/szk/kzk-shintaku/

参考:
一般社団法人 信託協会 ホームページ
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/index.html

最後に

 ご自身が生涯をかけて築き、また、守ってきた大切な財産を有効に、かつ、有意義に活用するためには、ご自身が十分な判断能力がなくなった場合や亡くなった場合のことを考えておくことも必要になります。その際の有力な財産管理手法の一つに信託があります。

信託は、委託者と受託者が話し合って信託契約を結び、受託者がその契約に基づいて信託財産を管理し、また、受益者に定期的に金銭を交付するというしくみです。

信託銀行などが受託者となる商事信託として、さまざまな商品がある他、信頼できる家族に受託者になってもらう家族信託、障害があるご家族の方への贈与税を非課税対象とできる特定贈与信託といった、さまざまな信託があり、今後も多くの信託が生まれる可能性もあります。

信託の基本的なしくみを押さえておくことで、よりご自身とご家族の方々の状況にあった信託を探すことができる可能性があると言えるでしょう。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。
 

参考:
一般社団法人 信託協会 ホームページ
http://www.shintaku-kyokai.or.jp/index.html

電子政府 e-Gov
信託法
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=418AC0000000108&openerCode=1

東京弁護士会ホームページ 
信託法を考える
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2008_02/p02p11.pdf

法務省 ホームページ
成年後見制度 ~成年後見登記制度~
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji17.html#a3

公益財団法人 成年後見センター・リーガルサポート ホームページ
https://www.legal-support.or.jp/support

京都産業大学ホームページ
京都産業大学2007年度民法Ⅰ(吉永担当)講義資料
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~kazyoshi/teaching/2007/min1/resume/04.pdf

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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