不安障害とは?

精神障害

はじめに
不安障害とは、狭い意味での精神障害(≒精神疾患)の一つですが、実はかなり身近な障害でもあります。その原因は明らかにはなっていませんが、最近の研究から脳の機能面が主要因だとする説が有力になっている障害です。

ここでは、そんな不安障害について、その概要をまとめています。



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1. 不安障害とは?
(1) 不安障害とは?

「不安障害」とは、狭い意味での精神障害(≒精神疾患)のうち、「不安」を主な症状とする障害の総称です。

① 「不安」とは?

そもそも「不安」とは、一体どんなものなのでしょう? 改めて問われると、さまざまな解釈ができるのではないでしょうか? 

ブリタニカ国際大百科事典によれば、不安とは、「恐ろしいものに脅かされているという感情。現実に恐れる対象がはっきりしている恐れとは異なり、その原因は本人にも明瞭でない。また、不快な刺激に基づいて獲得され、回避反応の学習にあずかる2次的動因となる。」とあります。

たとえば、ナイフを突きつけられているときに感じる感情である「恐れ・恐怖」とは異なる「感情」だということです。また、「不安」に感じる原因は、ご本人にもわかりません。そして、感じている「不安」を失くそうと、何らかの行動を意識的に、あるいは無意識のうちに取ろうとするのです。

② 不安障害とは?

このように「不安」について改めて見直すと、不安障害とは何か? の輪郭が見えてきます。

つまり、「不安を感じる原因が、一般的には不安を感じさせるようなものではなかったり、その不安を取り除こうとする反応が身体に起きたり、また、その不安が続くこと自体が、この先自分がどうなるのかわからないという不安を生むというように循環していったり・・・」というものではないか? と考えていくことができるということです。

「不安」に対する正しい理解が、「不安障害」を理解するにあたっての最初の一歩になるということでもあるのです。なお、不安障害には複数のものが含まれていますが、中でもパニック障害は、「不安が典型的な形で現れる=表に症状が見えやすい」という点で、代表的な不安障害と言うことができます。

(2) 原因

「図-不安障害の原因」
不安障害の原因

不安障害は、以前は心理的な要因が主な原因であると考えられてきました。しかし、脳科学の発展に伴い、脳内の神経伝達物資系が関係する脳機能異常が主な原因だとする説が有力になってきています。

いずれにしても、その原因は十分に解明されているとは言えず、脳機能などの身体的な要因、心理的な要因、さらに社会的な要因が複雑に絡み合って起きていると考えられています。

① 身体的な要因(≒脳機能異常)

不安障害の原因は、「大脳辺縁系にある扁桃体を中心とした『恐怖神経回路』の過活動にある」という有力な仮説があります。

恐怖神経回路は主にセロトニン神経によって制御されていますが、このセロトニンの働きをコントロールする薬としてSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)があります。

SSRIが不安障害の一つであるパニック障害に有効な治療薬となっていることが、この仮説が有力とされている理由にもなっているのです。

② 心理的要因(心因)

不安障害の発症には、心理的要因も関わっているとされています。たとえばパニック障害では何の理由もなく突然パニック発作というものに襲われますが、実はこれも、
・過去に何らかのきっかけがあった
・発症前1年間のストレスが多い
・小児期に親との別離体験をもつ
などの心理的要因があるケースが多いと見られています。

③ 社会的要因

社会的要因とは、時代や住んでいる国・地域の文化や価値観などを含む環境のことを言います。時代や環境により、ものごとの受け止め方や考え方は変化します。

つまり、社会的要因は、人間が作り出しているものと言い換えることもできるわけですが、それが不安障害の原因となっている面があると考えられているのです。

(3) 患者数

平成14~18年度に厚労省が行った調査によれば、生涯のうちに何らかの不安障害を患う方の数は9.2%でした。その内訳は、特定の恐怖症が最も多く3.4%、全般性不安障害1.8%、PTSD1.4%、パニック障害0.8%でした。

米国での調査では、不安障害の有病率はさらに高く、1980~83年の調査で14.6%、1990~92年の調査(2001~02年に再調査)では31.2%となっています。つまり、不安障害を患う方は年々増えていて、日本でも同じことが言えるのではないか? 

そして、日本でもより多くの方が不安障害があるのではないかとも推察されているのです。また、不安障害のある方は、一定期間に二つ以上の障害を発症することが多いとも言われています。

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html

国立研究開発法人 科学技術振興機構 ホームページ
不安障害研究
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/adr/-char/ja/

せせらぎメンタルクリニック ホームページ
不安障害一覧
http://seseragi-mentalclinic.com/category/anxiety-disorder/
http://seseragi-mentalclinic.com/anxiety-disorder/

公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=43

2. こんな症状が見られたら
(1) 主な症状

① 不安障害の症状

不安障害の主症状は不安です。不安は誰もが経験する感情ですが、それが非常に強かったり、くり返されたり、いつまでも続いたりといったことが、「病的な」レベルで起きている状態です。不安の現れ方はさまざまで、その現れ方それによって不安障害の細かな分類がされます。

② 不安が典型的な形で現れる障害~パニック障害の症状

「図-不安障害の1つ、パニック障害の3つの症状」
不安障害の1つ、パニック障害の3つの症状

パニック障害は、パニック発作・予期不安・広場恐怖の3つの症状が見られる不安障害の1つです。中でも予期せず起きるパニック発作がパニック障害の特徴的な症状で、予期不安・広場恐怖は、パニック発作を起こすことによって生じた二次的な不安症状と考えられています。

1) パニック発作
「パニック発作」は、突然の激しい動悸・胸苦しさ・息苦しさ・めまいなどの身体症状を伴った強い不安症状です。

「心臓発作ではないか」「死んでしまうのではないか」と感じられるほどの強い発作ですが、仮に救急車で病院へ運ばれたとしても、その症状は病院に着いたころにはほとんどおさまっており、検査などでも特に異常は見られません。ただ、数日を置かず、同様の発作が起こります。

このような発作は、他の不安障害・うつ病・統合失調症などにも見られる症状ですが、パニック障害によるパニック発作は、原因やきっかけなし、また、いつどこで起こるかわからない「予期しない発作であること」が特徴です。

2) 予期不安、という症状
パニック障害では、パニック発作がない時でも、「また発作が起こるのではないか」という不安があり、それが1ヶ月以上続くような症状を伴います。このような不安を「予期不安」と言います。

また、「心臓発作ではないか」などのように、発作のことをあれこれ心配し続けたり、仮に口には出さなくても発作を心配して「仕事をやめる」などの行動上の変化がみられたりといったことも、「予期不安」に含まれます。

3) 広場恐怖
「広場恐怖」とは、パニック発作が起きた時、そこから逃れられなかったり、助けが得られなかったりするような場所や状況を恐れ、避ける症状をいいます。

一人での外出・乗り物に乗る・人混み・行列・橋の上・高速道路・美容院・病院・劇場・会議など、広場というより、行動の自由が制限されて、発作が起きたときすぐに逃げられない場所や状況だと考えればわかりやすいと言えます。

パニック障害のある方は、このような「広場恐怖」を伴うことが多いとされていますが、伴わない場合もあります。広場恐怖を伴うと、日常生活や仕事に支障を来す場合が多くなります。

4) 発症時期
パニック障害は、25歳ぐらいから40歳ぐらいまでの成人期と呼ばれる時期のうちでも早い時期に発症するケースが多いと言われています。

【関連記事】
パニック障害 激しい動悸などが特徴的 ~ その原因は脳機能の異常?
https://jlsa-net.jp/sei/panic-syogai/

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html
公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=43

3. 不安障害と診断されたら
(1) 不安障害の治療方法 ~パニック障害を例に

「図-不安障害の治療方法」
不安障害の治療方法
不安障害の治療は、薬物療法と認知行動療法の2つの治療を平行して行うことで、最も効果が高まると考えられています。これはパニック障害でも同じです。

① 薬物療法

パニック障害ではパニック発作をなくすことが治療の一番の目標になりますが、これには薬物療法が有効で、主に抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と抗不安薬のベンゾジアゼピン誘導体(BZD)が用いられます。

SSRIとBZDには、それぞれに長所と短所があるため、それを補完し合いながら行う併用療法を行うのが一般的です。

症状が良くなったとしても、投薬治療は継続、半年から1年程度経過してから、徐々に薬の量を減らしていくのが一般的な投薬治療方法です。症状が良くなったからと言って、自己判断で服薬を中止するのは、再発を助長する可能性すらあるようです。

② 認知行動療法

以下のような認知行動療法も、パニック障害をはじめとする不安障害の治療として有効です。効果が出ると、薬物療法よりも再発リスクが少ないと考えられています。

1) 暴露療法
広場恐怖の対象を、その不安の度合いによって段階づけし、容易なものから段階を追って挑戦していくという方法です。広場恐怖に最も効果のある治療法と考えられています。少しずつ成功体験を積み重ねることによって、不安をコントロールしていく治療法だと言い換えることもできるでしょう。

2) 認知療法
認知の歪みを矯正する方法です。認知の歪みとは、周囲で起きたことをネガティブな方向に解釈してしまうクセのことです。不安障害は、不安の予兆に対して最悪の事態を予測してしまうクセがついてしまっている状況と言い換えることができます。

このように予測してしまうクセを、「これはいつもの不安のために起きている。だから、時間がたてば自然に治まる」などのように、言葉にして自分に言い聞かせることによって、認知の修正(=クセの修正)をしていく方法です。

(2) 経過(予後・治りやすさ)

不安障害は、回復までに時間がかかりやすい、あるいは、慢性化しやすいという特徴を持ちます。それにはいくつかの理由が考えられます。その一つに、発症から治療までにすでに長い時間が経ってしまっている場合が多いことがあげられます。

パニック障害には、パニック発作という目立った症状が見られますが、そのような目立った症状が見られない不安障害が多いため、発症していることに気づきにくいのです。

他にも、病気に対する知識やその理解の低さから周囲のサポートを受けにくいことなども、慢性化しやすい理由の一つとして考えられます。また、特にうつ病やアルコール・薬物依存などを併発している場合、症状が悪化、経過が長引くこともがわかっています。

このように、不安障害は慢性化しやすい病気と言えるわけですが、問題は不安障害の症状そのものだけではなく、能力障害や機能障害が仕事や日常生活へ与える影響が大きい面にもあります。

このため、症状をなくすことを目指すだけでなく、症状をコントロールしながら仕事や日常生活を送れるようになることを目指すことも大切だとも言えます。

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html

公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=43

4. 不安障害のある方を支援するにあたって大切なこと
(1) 不安障害を理解する

不安障害の多くは、その症状が誰でも経験するもので、また、内科的な検査を受けても異常が見つからないという特徴があります。

このため「気のせい」「気にしすぎ」「性格的なもの」などのように見なされやすく、ご本人も、周囲の方も、病気だと気づかない場合が多くあります。不安障害は精神障害の一つであるということの理解がまずは必要でしょう。

(2) 正しい診断と適切な治療を受けさせる

もしかしたら・・・と思ったら、可能な限り早く、精神科や心療内科医を受診させることです。精神障害に対する誤った見方もあり、ご本人が、専門医の診察を受けること自体に抵抗し、それを拒む場合も少なくありません。

しかし、不安障害は、その原因で見たように、単に「心の弱さ」というような言葉で片付けられるようなものが原因ではありません。脳機能の問題や環境などの要因が、複雑に絡み合って発症するのです。

そして、原因が複雑な病気だからこそ、正しい診断と適切な治療を受けることが大切とも言えます。ご本人を診察に向かわせるような働きかけが必要になるという意味でも、不安障害の正しい理解は重要と言えます。

(3) 自分で不安をマネジメントする方法を身につける

一般的な不安マネジメントはご本人でもできるものが多くあります。具体的には、腹式呼吸、筋のこわばりを緩めるリラクゼーション法、ヨガ、音楽や香りなどを用いたリラックス法などがあります。支援される方が、一緒に行うなどしても良いのではないでしょうか。

ただ中には効果が疑われるようなものもあるようですので、主治医に相談してから行うとより良いと言えるでしょう。

(4) 規則正しい生活と適度な運動

規則正しい生活は、体内リズム、自律神経系の働きを整え、免疫力を向上させます。規則正しい生活の基本は、食事・睡眠・運動。つまり、バランスの取れた食事、十分で質の高い睡眠、適度な運動は、不安障害をコントロールするうえでも有効な方法なのです。

(5) 嗜好品について

アルコールには、不安を一時的に軽減する効果があります。その一方で、耐性や依存を起こしやすい面があります。また、一部の抗不安薬と併用すると副作用が増強し、危険な場合もあります。コーヒーは、過剰摂取で不安を増強させる場合があると言われています。

いずれも、適量、ほどほどを大前提とすることが大切ということになります。ご本人がなかなかコントロールできないような場合、買い置きしないなどの工夫やサポートが必要とも言えるでしょう。

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html

公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=43

最後に

不安障害は、想像以上に身近な病気です。そして、発症すると慢性化しやすく、その症状自体だけでなく、その症状が引き起こす生活や仕事への影響が大きくなり、生活に支障を来しやすいという特徴があります。

一方で、生活をおくる上でのコントロールは十分可能な障害とも言えます。その一つは、規則正しい生活ですし、自分なりの不安マネジメントの方法を身につけることでもあります。生活する以上、不安や不安をもたらすストレスは、誰もが避けて通ることできません。

その意味では、不安や不安の症状を受けとめ乗り越えるという意識を持つことも大切。

認知療法における「成功体験の積み重ね」は、不安に対して「やれば出来る」という感覚を身につけるためのものですが、これを応用するような感覚を持つことが、不安やストレスを乗り越えるということであり、不安障害と向き合うということだということもできるかもしれません。

なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。参考までご確認ください。

参考:
厚労省 みんなのメンタルヘルス ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html

国立研究開発法人 科学技術振興機構 ホームページ
不安障害研究
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/adr/-char/ja/

せせらぎメンタルクリニック ホームページ
不安障害一覧
http://seseragi-mentalclinic.com/category/anxiety-disorder/

不安障害とはどのような疾患なのか

公益社団法人 日本精神神経学会 ホームページ
塩入俊樹先生に「パニック障害/パニック症」を訊く
https://www.jspn.or.jp/modules/forpublic/index.php?content_id=43

金森 保智

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全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

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