障害者雇用の失敗事例と成功事例

社会的課題

はじめに
 障害者雇用促進法の改正に伴い、障害のある方の雇用義務のある企業等が増えています。そのため、中には「障害のある方を雇用するのが初めて」という場合も多いのではないでしょうか。

そこでここでは、障害のある方の雇用で失敗しないための視点として、学びの対象としての成功事例の見方、失敗事例に学ぶポイントの他、アイデアとしての就労支援事業所との連携などについてまとめています。



【障害のある方・ご家族向け】
日常生活のトラブルからお守りします!
詳しくは下記の無料動画で 


JLSA個人会員「わたしお守り総合補償制度」
 無料資料請求はこちらから




1. 障害のある方の雇用の成功事例を見る際のポイント
(1) 障害のある方の雇用の現状

① 45.5人以上の民間企業には、障害のある方を雇用する義務がある

障害のある方の雇用が拡大しています。この背景に障害者雇用促進法の存在が大きいと言えるでしょう。障害者雇用促進法は、一定規模以上の民間企業等の組織の事業主に対し、別途算出・定められる法定雇用率に相当する人数の障害のある方の雇用を義務づけています。

2018年4月の改正により、法定雇用率は民間企業の場合2.2%となりました。また、2021年4月までに2.3%となることが決まっています。この法定雇用率を元に計算すると、現在、組織規模が45.5人以上の民間企業には、障害のある方を雇用する義務が発生していることになります。

【関連記事】
障害者雇用促進法の改正と障害のある方の一般企業への就労への道
https://jlsa-net.jp/syuurou/koyousokushinhou2018/

② 新たに採用する場合、精神障害のある方が中心に

これまで障害のある方を雇用する義務のある民間企業等は、身体障害、あるいは知的障害のある方を中心に雇用してきた状況にあります。これは、これまで障害者雇用促進法が、身体障害のある方、知的障害のある方の雇用を義務づけてきたという経緯が大きく影響しています。この結果、身体障害または知的障害のある方のうち、就労可能な方の多くはすでに雇用されている状況にあると言われています。

このような事情から、これから新たに障害のある方を雇用しようとする場合、発達障害を含む精神障害のある方を中心に雇用していくことになると予想されています。

(2) 障害のある方の雇用に成功している企業・組織の共通点

「図-障害のある方の雇用に成功している企業・組織の共通点」
障害のある方の雇用に成功している企業・組織の共通点

何か新しいことを実行しようとするときには、先行事例に学ぶという手法がよく取られます。先行事例には多くの知恵が凝縮されているからです。とすれば、障害のある方の雇用についても、やはり先行事例に学ぶべきでしょう。その学び方の一つとして、成功事例から学ぶというものがあります。

成功事例には、成功のための秘訣がたくさん詰まっていると考えられるからです。実際、障害のある方の雇用に成功している企業には、次の9つの共通点があるとされています。

① 障害のある方の雇用について、明確な理念がある
② 全社でその理念を共有化できるだけの組織風土がある
③ 経営陣の、障害のある方の雇用に対する理解と支援がある
④ 障害のある方の雇用を「戦力の確保」ととらえている
⑤ 障害のある方を含む「職域の開発」を、全社プロジェクトで展開している
⑥ 共に働く従業員に対して、障害や障害のある方の理解に関する教育が実施されている
⑦ 共に働く従業員の、障害のある方やその仕事への関与が推奨され、実際に積極的に行われている
⑧ 組織内に優れたモデル事例が多く存在する
⑨ 他社での優良事例の収集に熱心である
 
(3) 障害者雇用の成功事例を参考にする際のポイント

 実際に障害のある方の雇用に成功している企業・組織の共通点を見ていただいて、どのような感想を持たれたでしょうか? もちろん、こうあるべき、こうありたいという姿は描けるのではないでしょうか。一方で、それを「どうやって実現するか」ということについて、イメージを持つことができるでしょうか? 

実践の場で具体的にどうするかは、やはり事例を細かく見ていくことが必要になるのではないかと考えられます。さらに、その手法が自組織に適合するのかどうかという点も問題でしょうし、障害の種別によってもあてはまること、あてはまらないことがあるでしょう。

特にこれまでに成功している企業は、先に見た障害のある方の雇用状況から、身体障害のある方や、知的障害のある方の雇用で成功したケースの場合もあると考えられます。このようなことから、成功事例を参考にする際のポイントは、「自組織の状況と雇用する方の障害の内容などが最も近いものから順に学んでいくこと」と言えるのではないでしょうか。

参考:
厚労省
好事例集
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jirei/index.html
障害者雇用の「はじめて」のために
https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/000249546.pdf

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用の事例集
http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/ca_ls/ca_ls.html

大阪府ホームページ
精神・発達障がい者雇用で成功するために
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/attach/hodo-28432_5.pdf

公益財団法人東京しごと財団
いんくるNO.30
http://www.shigotozaidan.or.jp/shkn/documents/incle30.pdf

2. 障害のある方の雇用における失敗事例からの学び
(1) 回避可能な失敗をしない

一方で障害のある方の雇用を考えていく際には、「失敗しないこと」に着目するというアプローチもあります。つまり、失敗から学ぶというアプローチです。「失敗しない」ためには、そもそも「失敗とは何か?」を考える必要があります。「失敗学」で有名な畑村氏は、失敗には次の3つがあると指摘しています。

① 織り込み済みの失敗
② 果敢なトライアルとしての失敗
③ 回避可能であった失敗

前者2つの失敗については、失敗とは言うものの、実際には成功に近づくための失敗とも言えるものでしょう。問題は、③の回避可能であった失敗です。つまり、この回避可能であった失敗をしないことが、「障害のある方の雇用で成功する」ための、最初のステップだと考えられるのです。

(2) 回避可能であったと考えられる失敗事例

 では、「回避可能だったのではないか?」と考えられるような障害のある方の雇用における失敗には、どのようなものがあるのでしょうか? ここでは精神障害のある方を雇用された企業で起きた失敗・トラブルの事例を見ていきます。

① 初めの数カ月は問題なく出勤していたのに・・・

 入社当初はテキパキと業務をこなし、他の社員とのコミュニケーションもスムーズに取れていた。数カ月後、遅刻や他の社員への不満が見られるようになった。そして、体調が悪く出社ができないという日が発生。その後、出勤できない日が頻発するようになる。次第に出社できない日が続くようになり、そのまま退職することになってしまった。

② ある日突然職場で発作

 てんかんのある方が入社。とはいえ、そもそもその発作が起きるのは年に1、2度程度。入社してからは、発作が発生することもなく、業務も順調にこなしていた。ところが入社して1年が経ったころ、昼食を終えた午後に発作が発生。

 翌日状況を聞いたところ、朝からてんかん発作特有の嫌な感覚があったとのこと。さらに発作の数日前から、医師による提案で、薬の量を減らして状況を見始めていたタイミングであったことが判明。

③ 障害のある方だけで常に一緒にいるようになり・・・

 長期の就労を期待して、同じ障害のある方2名を同時採用。同性で年齢も近かったこともあり、二人は仲良くなった。ところが職場での休憩時間なども含めて二人で一緒に過ごす時間が増え、次第に常に二人一緒にいる状況に。その後、通常の指導と同程度であるにも関わらず、「教え方が厳しい」などの不満の声が二人から出るようになり、指導者との関係が悪化。

さらに、二人ともが一般社員へのあいさつすらしなくなり、二人同時に退職。

④ 指導担当者が退職

 入社した障害のある方が、指導担当者に恋愛感情を抱くようになった。業務自体は問題なくこなすものの、指導担当者にアプローチをくり返すようになった。結果、その担当者が配置転換を希望するまでに発展。配置転換後もアプローチが継続されたことで、指導担当者が退職。

ご本人も、代わりの指導者や会社に対する不満の声を頻繁に上げるようになり、周囲とのトラブルも頻発。その後退職に至った。

(3) 失敗の裏返しで見る、障害のある方の雇用の成功のポイント

「図-失敗の裏返しで見る、障害のある方の雇用の成功のポイント」
失敗の裏返しで見る、障害のある方の雇用の成功のポイント

上記で見たような失敗、トラブルを回避する視点は複数あります。以下にいくつか取り上げてみます。

① 障害特性の把握

まずは、障害というものの特性を十分理解することが必要でしょう。もちろん、個々の障害について知識を持つことがベストではありますが、なかなかそういうわけにもいきません。よって、次のような基本的な特徴を知ることが、まずは大切になると言えるのではないでしょうか。

1) 障害に伴う症状には波がある
 障害に伴う症状には波があり、その波は障害のない方が想像する以上に大きい場合があります。また一般的に入社当初は、症状が最も安定しているタイミングとも言われています。このことを知っていれば、声かけの継続や、場合によっては早めに早退や休暇の取得を促すなどの対策に活かせるのではないでしょうか。

2) 不得意なことをやるのは、消耗が激しい
 障害のある方は、「不得意なことをやろうとすると、非常に疲れやすい」という面があります。これは、不得意なことが持つ「刺激」、つまり、その「ストレス」が、障害のある方にとっては、非常に強い、大きな「ストレス」である場合が多いからです。

このストレスの大きさを仮に表現するなら、「喫茶店のBGMが、ライブ会場の大音量の音のように聴こえる」というもの。的確な表現かは別として、それぐらい一般的に受ける以上のストレスを受けると考えられるのです。

特に精神障害のある方は、一般的に真面目で責任感の強い方が多く、得意なことに関しては高いパフォーマンスを発揮する一方で、特に新しいことに対しては緊張しやすかったり、複数のことを同時に理解することがニガテだったりといった傾向があると言われています。

このことが原因で、ニガテなことに対応するという「ストレス」は非常に大きなものになりがちで、それに対応することは、それだけ激しく消耗しやすいと考えられるのです。このような傾向はあくまで一般的に言われる傾向であるため、最後はその人自身を見て、個別に配慮することが必要です。

しかし、各障害の一般的な特性を押さえつつ、不得意なものに対応することが大きなストレスになる場合があることを知っていれば、「得意なことに注力してもらう」ことがどれだけ重要なことか、理解しやすいのではないでしょうか。

3) 変化はストレスになり、障害による症状を悪化させる場合がある
 ニガテへの対応がご本人を激しく消耗させる可能性があるのと同様、「変化」もご本人を激しく消耗させる可能性があります。仕事である以上、変化は必要です。しかし、変化が大きなストレスであることを理解していれば、少しずつ段階を踏むといった工夫を検討できるのではないでしょうか。

② 治療の状況把握

治療を継続する中で、薬の量を調整している場合などは、障害の状況が大きく変化する場合があります。業務の状況を把握することはもちろん重要ですが、このような治療の状況についても、管理・指導される方が把握しておくことは、無用なトラブルを避けるために重要と言えるでしょう。

③ 他者を排他するようなコミュニティをつくらせない

 他者と関わる中で親しくなることは、非常に重要です。友だちがいることで、さまざまな悩みなどを解決しやすくなる面もあります。しかし、それが障害のある方同士のものだけ、さらに、それが強固なものとなりすぎて他者を排除するようなものになってしまうと、負の問題が発生しやすくなります。

このようなコミュニティにしないようにするには、多くの方が障害のある方と関係性を持つことが重要になることが理解できるでしょう。

④ みんなで障害のある方の就労を支援

 障害のある方を指導する担当の方に、障害のある方とのコミュニケーションを丸投げするような形になるのは明らかに問題です。指導担当者はあくまで業務上の特定範囲についての責任を負うもの。その組織で生活していく上で必要となる指導・育成は、業務範囲に限られたものではありません。

みんなで障害のある方を支援しつつ、みんなで互いの能力を高め合っていくような関係づくりが重要になると言えるのです。

【関連記事】
障害者雇用で早期退職を防ぐ職場マッチング
https://jlsa-net.jp/syuurou/syokuba-matching/

参考:
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用の事例集
http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/ca_ls/ca_ls.html

大阪府ホームページ
精神・発達障がい者雇用で成功するために
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/attach/hodo-28432_5.pdf

公益財団法人東京しごと財団
いんくるNO.30
http://www.shigotozaidan.or.jp/shkn/documents/incle30.pdf

3. 特に初めての障害のある方の雇用で失敗しないための具体的な方法
(1) 面談だけでは難しい、ご本人の把握

 障害のある方の雇用を成功させるには、障害のある方への一般的な対応方法を知ることも重要ですが、最後はそれぞれ個別の対応が必要になるでしょう。障害がない方に個性があるように、当然ながら障害のある方にも個性はありますし、そこに、障害による症状の個別性が加わるわけですから、より個別であると言ってもよいかもしれません。

その意味で、障害のある方を雇用する際、面談を通じた情報収集は非常に重要な役割を果たすと考えられます。何が得意で何がニガテなのか、症状が悪化したときにはどのような問題が発生するのか、どうすれば症状の発生を予防できるのかといったことは、把握しておくべき最低限のポイントと言えます。

また、ある環境が症状を悪化させるケースも考えられるため、「症状を悪化させるきっかけ」にあたるものを把握しておくことも重要です。

(2) ハローワークに求人を出すよりも・・・障害者就労支援事業所との連携

「図-障害者就労支援事業所との連携方法例」
障害者就労支援事業所との連携方法例

面談は、ご本人を知るための重要な方法です。しかし、面談だけで障害のあるご本人を把握するのは難しい場合もあります。仮に難しいとするなら、ハローワークなどを通じて求人を出す形だけでは、ご本人を把握するのは難しいかもしれません。

そこで考えられるのは、障害のある方の就労支援を行う、就労支援事業所とさまざまな形で連携するという方法です。

就労支援事業所には、「就労移行支援事業所」や「就労継続支援事業所(A型・B型)」があります。前者は障害のある方の訓練、後者は障害のある方の訓練と働く場の提供という、それぞれの役割があります。共に障害者福祉サービスとしてサービスを提供している立場ですが、一般就労に向けた訓練サービスを障害のある方に提供するという役割も担っています。

つまり、就労支援事業所で一定程度訓練を受けた方を採用するという方法が検討できるということです。

このとき一般的には、各事業所と障害のある方一人ひとりに関する情報と、自組織で実際に行う業務に関する情報を連携することになるでしょう。この連携を通じて、各事業所が提供するサービスを利用している方の中から、自組織の業務を担える障害のある方の雇用につなげるということです。

しかし、この方法には限界もあるでしょう。各事業所で障害のある方が発揮されてきた能力を、新たな場でもある自組織でも発揮できるのかという問題があるからです。

たとえば、実際に事業所に行き仕事ぶりを確認する、自組織の業務の一部を連携する事業所に外注し実際にやってみてもらう、インターンシップのように自組織内で業務をしてみてもらう、といったような方法で、自組織での就労が可能な方を探すといった方法を検討してもよいのではないでしょうか。

(3) 指導・育成方法を学ぶ ~ 仕事の指導だけでなく・・・

 また障害者就労支援事業所との連携においては、その指導法を学ぶという視点も検討できるでしょう。どのような指示の出し方が良いのかなど、多くのノウハウを障害者就労支援事業所は持たれていると考えられるからです。また、仕事の面だけでなく、生活上の支援の在り方についても学べる面があるでしょう。

(4) 共生をキーワードに

 活動を通じて、指導する側・される側というような考え方をなくしていくことも重要でしょう。組織で働く同じ仲間として、同じ組織の中で共に生きる仲間として、障害のある方を見ていくということです。そうでないと、障害のある方も「支援をされる側」という意識を持ってしまうことになるのではないでしょうか。

一般就労と就労支援事業所で働くことの違いを自然と認識できるような組織であることが求められていると言い換えられるかもしれません。

【関連記事】
障害者の方の職場定着支援と就労定着支援事業について
https://jlsa-net.jp/syuurou/teityakushien/

参考:
厚労省
好事例集
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jirei/index.html
障害者雇用の「はじめて」のために
https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/000249546.pdf

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用の事例集
http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/ca_ls/ca_ls.html

大阪府ホームページ
精神・発達障がい者雇用で成功するために
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/attach/hodo-28432_5.pdf

最後に

 障害者雇用促進法の改正に伴い、障害のある方を初めて雇用する、あるいは、雇用する人数を増やす必要があるところも多いでしょう。少なくとも障害のある方の雇用で失敗しないためには、障害というものの特性を理解し、必要な体制を整備していくことがまずは大切です。

 一方実際の雇用においては、ハローワークなどを通じて募集するという方法の他、就労支援事業所と連携するという方法も考えられます。自組織の業務に見合う人財を発掘し、長く働いていただくことを考えれば場合、後者を積極的に取り入れることが、関係者すべてにとって、もっともメリットの大きなものになると言えるのではないでしょうか。

 なお、この記事に関連するおススメのサイトは下記の通りとなります。ご参考までご確認ください。

参考:
厚労省
好事例集
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/jirei/index.html
障害者雇用の「はじめて」のために
https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/000249546.pdf

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
障害者雇用の事例集
http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/ca_ls/ca_ls.html

大阪府ホームページ
精神・発達障がい者雇用で成功するために
http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/attach/hodo-28432_5.pdf

公益財団法人東京しごと財団
いんくるNO.30
http://www.shigotozaidan.or.jp/shkn/documents/incle30.pdf

金森 保智

3,580,721 views

全国地域生活支援機構が発行する電子福祉マガジンの記者として活動。 知的読書サロンを運営。https://chitekidokusalo.jimdo.com/

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。